軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百七十九話 剣と盾を渡そう

◎交易都市ウーミン 領主の館中庭 風音コテージ屋上

「私は領主の仕事をした」

ドヤ顔の風音の前でマッカが崩れ落ちていた。

交易都市ウーミンの騒動を聞き、急ぎ駆けつけたおばちゃんには刺激の強い話が風音からされたようだった。

風音も頑張ったぜという姿勢を見せることで、何か言われることを回避しようとしていた。退いてはいけない。自分は頑張ったのだから問題ないと、己に対して自己暗示をかけることにより追求を回避し、すべてを押し付けようと風音は考えていた。それはさながら外敵を前に両腕を振り上げて威嚇しているカマキリのようであった。

「まあ、マッカにとってもチャンスだと思うし、ここはポジティブに考えてみてはどうかしら?」

うなだれるマッカを哀れに思ったルイーズがそう口にする。確かに破格と言っても良い話が転がり込んできている。ヒルコ化の治療のお金は管理するだけで手はつけられないものの、労働者の雇い入れに、交易における権利もアングレーとの交渉次第ではあるだろうが譲渡される。

元々交易都市のウーミンがリンドー王国領内にあることでミンシアナ王国のゼニス商会などは手が出し辛い部分はあったのだ。ウィンラードの街までの距離は若干あるために、中継の都市が出来るのであれば商会にとっても大きなニュースである。つまりはマッカが温泉街の商業ギルドを一手に担うどころか、ミンシアナとリンドーの交易の大動脈の一部を自らが担う可能性もある案件だ。

元々アングレーとその類の話がなかったわけではない。数十年後を目標にではあるが、或いはという青写真はあった。そしてアングレーとしても成り上がりの身であるために、古くからの流通ルートに食い込むのが難しい部分もあり、現在の流通網を一度動かす必要性を感じていたのである。

そもそもブラックポーションへのアングレーの動きも、義憤からではなく、ブラックポーションを密輸しているであろうユルング商会へ打撃を与えるためのものであった。

そして、このウーミンの件でリンドー王国内の情勢は大きく動くとアングレーは見ていた。故に今回、大鉈を振るうことをアングレーは決意し、そして今マッカにも、それが大きくのしかかっていた。

「デカすぎますわよ。今聞いた話だと指先一つでこのウーミンをどうにでも出来そうなのですけれども!?」

そして、マッカの方はと言えば自分の想像を超えた事態を把握するので精一杯であった。

「ともかく、この件はゼニス商会に一旦上げて指示を仰いだ方が……」

自分の裁量では判断不可能と考えたマッカがそう口にするが、だが風音は首を横に振る。

「んーそれは無理かなぁ。この件はミンシアナの女王様直々にゼニス商会の横やりは入れさせないっていってるし。だから、好きにやって良いよ」

「いつの間に……」

風音の言葉にマッカがそう呟いたが、ゆっこ姉に先に連絡をするようにとはメフィルスの入れ知恵である。

本来の筋から言えばここまでデカくなった商売の種はマッカひとりの手に余るし、その上のゼニス商会としても逃す手はないと考えるだろう。

だがゆっこ姉としては温泉街はゼニス商会ではなく、自分のコントロールのおける状況である方が好ましかった。またゆっこ姉は温泉街がコーラル神殿のあるアルゴ山脈直下であることも重要であると考えていたのである。

風音や弓花との日頃のやりとりから、アングレーと同様にプレイヤーによる通信網の利用を考え始めていたこともある。と、まあいろいろと思惑もあり、最終的に風音たちは良いように動けばいいとゆっこ姉からは返信をもらっていた。

「ま、まあ、苦労すればするだけリターンがあるというのは分かりました」

取り乱していたマッカは一息つくとクイッとメガネを持ち上げてシャンッと立ち上がった。そして、ブルルンと胸が震えた。おばちゃんなのに恐ろしくセクスィなバディである。そのボディラインの美しさはルイーズに匹敵する。誰得なのかは不明だが。

そして状況を冷静に考え直せば、チャンスなのだ。ただ与えられたものが大きすぎるだけでそこにビックリしてしまっただけ。そうマッカは自分を奮い立たせた。おっぱいも奮い立っていた。ブルンブルンである。

「不肖、マッカ・トーマック。今回の件、引き受けさせていただきましょう」

そしてやる気を見せたマッカは風音たちに見送られながら風音コテージを飛び出し、アングレーと今後の打ち合わせをしに行くのであった。また、その後は温泉街に移住する予定の住人についてもモーラントと協議し奔走することとなる。おばちゃんの長い戦いがここに始まったのだった。

なお、現在は領主たちとの会談から二日後である。

カザネ温泉街への元アウターと被災住人の移住の件はマッカに丸投げだが、移民後の住居の作成と、また人が増えると密集する魔力数が上昇するため魔物の出現率が上がるらしく、それらから身を守る壁も必要だった。魔物を追い払う『トルマーナ石』の確保はこのウーミンで出来るため、モーラントからは現物報酬として受け取って持って行くことになっている。

もっとも数が足りてるとは言い難く、追加分も送ってもらう予定だ。

そして風音たち白き一団としては魔物の討伐報酬に、守護者の称号とそれに伴う報酬を受け取っていた。

◎交易都市ウーミン 領主の館中庭 風音コテージ2階リビング

「それじゃあ、パーティ会議をしよう」

恒例のヤツである。白き一団勢ぞろいで風音コテージ二階のリビングに揃い踏み、ひと区切り後の今後の方針確認だ。

「なんというか豪華になったわよね」

そんな中で弓花が改めてリビングの中を見回してそうぼやいた。それは直樹がコーラル神殿から不思議な倉庫に詰めるだけ詰めて持ち出した不滅シリーズの家具やソファーや絨毯や、そのほか諸々が原因である。直樹は他にも馬車や像や猛獣の剥製などからガラクタに近いものまで不思議な倉庫の限界まで詰め込んで持ってきていた。また、持ってこれなかった分も、ある程度は外に持ち出して頂上近くに隠しているらしい。

その中で使えそうなモノをコテージ内に設置した結果、ひどくゴージャスな空間が出来上がったのである。

「まあ、そこは直樹の手柄だね。後で頭をナデナデして上げよう」

「よっしゃっ!!」

『叔父上、なんと羨ましい!?』

直樹がグッと拳を握って叫んだ。風音の頭の上のタツオがくわーっと鳴いた。その横では、姉の冗談に対してノリのいい弟を演じる直樹……という都合の良い推測をしながら見ているエミリィであったが、だが彼女の予想は半分は当たっていた。

「というのは冗談で、直樹にはこれを上げよう」

その風音の言葉にションボリとした直樹だったが風音の取り出したものを見て目を見開いた。

それはあの鎧の悪魔ジルベールの使用していた『夜王の剣』である。ロクテンくんの斬撃を前にその能力を発揮できなかった剣ではあるが、その力はジルベールが使うだけのことはある確かなものだ。

「魔剣だからね。まあ、直樹が使うのがよいでしょ」

そう言って風音は夜王の剣を差し出し、直樹はそれを受け取ってじっくりと眺めた。

「ああ、呪いにも似た感じの強力な力が込められてるな」

悪魔たちとの戦いでスキルを『魔剣の支配者』に進化させた直樹は、以前よりもより一層魔剣の力を見極め、引き出すことができるようになっている。故に能力の解析も以前よりも早く行えるようだった。

「元がリビングアーマーみたいなヤツのモノだからね。『犬の嗅覚』では一応問題はなさそうだったけど操られたりとかそういうのは大丈夫だよね?」

風音の若干の心配そうな顔に直樹は笑顔で頷いて見せた。

その直樹のスキルだが現在は『魔剣の操者』は『魔剣の支配者』という上位スキルになり、以前から使用出来ていた魔剣の全力使用は『 限界突破:魔剣(オーバーリミット) 』というスキルの形となって安定して使用可能となっていた。また新たに目覚めたスキル『狂戦士』は、知力が半分になる以外は各種ステータスが倍以上となる強スキルである。もっとも直樹としては事後の状態異常『筋肉痛』が辛いのであまり使用したくはないスキルでもあった。

「よっし。そんじゃあ、こいつも解析して使いこなしてみせるぜ」

「良きに計らえ」

そしてもらった魔剣に目を輝かせている直樹から風音は視線をティアラに移した。

「そんで天鏡の大盾はティアラ持ちになったんだよね」

その風音の言葉にはティアラが力強く頷いた。

すでに大盾を受け取っているティアラは、今もそれを不思議な袋に入れて持ち歩いている。さすがに持って振り回したり走ったりは無理だが、日頃の筋トレの成果によりなんとか構えることは出来るようである。それにティアラに求められているのは盾役ではなく、黒岩竜戦で英霊ジークが見せた『イージスフィールド』という高い強度を誇る防御フィールドの発生係であった。これにより後衛の防御力が大いに上昇することとなる。

「後は今回の件の報酬はエミリィから個別に渡して貰うんでよろしくね」

その風音の言葉に頷いたのは当然エミリィだ。ひとまずエミリィも会計係としては申し分はない働きを見せていた。マッカの負った使命とは別に、今回エミリィが振り分けた額は今まで通りの冒険者レベルでの高額であったため、なんとかなったようである。

「そんで、まあ次どうするかなんだけどさ」

そして本題である。風音は仲間たちを見渡しながらこう言った。

「今回はパーティをふたつに分けようと思うんだよ」