軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百六十三話 再会をしよう

◎リンドー王国 交易都市ウーミン 召喚院施設 裏庭

「ふんふーん」

風音の鼻歌が、夕日に染まった裏庭にわずかに響いている。

『にゃっにゃー』

その風音の鼻歌にあわせて、ユッコネエの思念が『情報連携』を通して伝わってくる。ユッコネエも肉体はともかく、その精神はちゃんと意識があるようだった。そして、風音の頭の上ではタツオもリズムに合わせて首を振っている。

「まっだかなーまっだかなー」

そして風音はクルリンッと、まるで巨大な光った卵のようなものの前でスキップをしていた。その踊る風音の真ん前にある光る卵のようなモノこそがユッコネエの繭である。

数時間前に風音がチャイルドストーンに魔生石を吸い込ませるのと同時にユッコネエの身体が輝きだし、この光の繭へと次第に変わっていったのである。この状態は『繭化』と呼ばれているそうで、魔物や召喚体などの進化や再生、誕生などの際に出現するものである。タツオも生まれる前はこの繭に包まれていた。

「まあ、もうそろそろであろうよ」

その風音に対して、その場に一緒にいるマグナがそう答えた。ユッコネエの精神状態を考えて、なるべく落ち着いた状態の方が良いだろうと研究員を帰らせて、万が一に備えて自分はここに居残っていたのである。

「相当に高濃度な魔生石のようだったが、見たところ上手く動いておるようだ」

風音のスキップを見て微笑みながらマグナがそう口にした。女児がウキウキ気分でスキップしているのだ。微笑まないわけにはいかんだろう。

「ユッコネエ、強くなるかなあ」

繭を見ながらのその風音の問いにマグナは強く頷いた。

「基本的に魔生石は属性や性質を変えるのではなく、持っていた資質を延ばす方向で進化を促すのだと聞いている。恐らくはお前に最適なパートナーとなれるように今も変わりつつある筈だ」

『楽しみですねー母上』

「ねー」

『にゃーー』

マグナの言葉に三者ともに声を上げる。そして風音はまた踊っていた。まあ、特に意味はないのだろう。単にウキウキして動かずにはいられないのだ。

そして、それを見ながらマグナが考え込む。

(変わった娘だ。召喚士でもあり、戦士でもあり、そして竜騎士の候補でもあるのだろうな、あの黒いドラゴンの親代わりとなると。まあ、どういった経緯なのかは分からないが)

まさか実子であるとはマグナも思ってはいなかったが、マグナから見た風音の特徴は多才というところだろうか。しかも、その持ち合わせた能力のすべてのレベルが高いというのもマグナを驚かせる要因だが、現在では知られていない、或いは失われた技術も保有しているというのだから、規格外にも程があるだろう。

(もっともこうしてみる限りは、中身は普通の少女のようだが)

風音もテンションが上がって浮き足立っているのでマグナも尚更そう思うのだろう。

そして、そんなことをマグナが考えていると、不意に裏庭の奥から人影がこちらに向かっているのに気付いた。それは本当にフラリと現れたのだ。

「ふむ?」

それを見てマグナは首を傾げる。この場にいるのはマグナたちだけ。召喚院には他にも何人かの研究員などがいるはずだが、その人影がきた方向は街の端である壁側だ。

「え、なんで?」

その人影に風音も気付いた。そして、それが誰なのかを把握して、その顔が強ばったようである。風音の様子に気付いたタツオも風音の視線の先を追ったが、だがタツオはこちらに向かってくる相手を知らなかった。とはいえ、分からないながらもその存在が危険なものであるのは、気配から理解は出来た。

『母上……?』

不安から出たその声に、風音はタツオの頭をひと撫でだけする。息子を安心させようと思ってのことだが、しかし視線は動かせない。今の今まで、こんな距離に接近されるまで、風音の『犬の嗅覚』でも『直感』でもソレを気付けなかったのだ。目を離すのは余りにも危険だと風音は理解している。

そして、その風音の表情をマグナも把握し、置いておいた自前の杖をとって立ち上がった。

「どなたかな?」

マグナは毅然として、そう尋ねた。

マグナは、この敷地の主である。目の前の相手は風音の知っている人物ではあるようだが、その反応を見る限りでは友好的な相手であるとは思いがたい。それにマグナは不法に自分のテリトリーに入ってきたモノに対して寛容であるつもりもなかった。

(なんだ、こやつは?)

だがそのマグナの気勢も近付いてくるソレにだんだんとそがれていく。自身でもそこそこの実力者ではあると自負しているマグナがソレを見て、気圧されていく。

それは鎧であった。右手に巨大な黒い剣、左手にホログラム上に紋様の浮かんでいる大盾を持った、漆黒の大きな 全身鎧(フルプレートメイル) だったのだ。

「リビングアーマー……か?」

マグナはそう口にする。鎧のわずかな隙間に本来存在しているはずの肉体がない。マグナの見る限り、中に誰かが入っていることはないようだった。だが鬼気迫るその威圧感は本物であり、それは鎧そのものから発せられているのだと分かる。

そして、風音たちの前までゆっくりと歩いてきた漆黒の鎧が静かに告げた。

『 某(それがし) は七つの大罪がひとり、 憤怒(イラ) のジルベール』

その言葉に風音がギリッと歯を食いしばる。それは、悪魔に竜の里を襲われたときに大竜御殿を覆う結界を守っていた鎧の悪魔だったのだ。

『母上?』

「タツオ、マグナさんのところに。絶対にメガビームは使っちゃダメだかんね」

風音がそう言ってタツオを自分の頭から離す。

そして、風音がタツオをマグナに預けるのをジルベールは止めようとはしなかった。風音の睨みが効いているとは思いがたかったが、だが待ってくれているのなら好都合である。

(せめてロクテンくんを出しておければ良かったなあ……)

風音はそう悔やんだ。今ロクテンくんは『空間拡張』の大型格納スペースに、ホーリースカルレギオンとマッスルクレイミノタウロスと共に仕舞っている。しかし、それを出すのは隙を作りすぎるし、その間に守りを任せられる仲間が今はいない。

故に、出せる手数は限られている。

「それで、なんか用かな?」

言葉の途中で、弓花から緊急メールが届いたようだが、見ている余裕はない。風音はジルベールの一挙手一投足を伺いながら、ドラグホーントンファーを構えた。

『これより 某(それがし) らは、この街を壊滅させる』

ジルベールは両腕を広げて、そう告げた。

その言葉に風音もタツオもマグナも目を見開いた。

(か、壊滅?)

理解の追いつかぬ風音にジルベールは畳みかけるように言葉を続けた。

『故に、この街における最大の障害であるお前をここで封じさせてもらおう』

「狂い鬼ッ!出てッッ!!」

そのジルベールの宣言と共に、周囲が真っ黒な何かに包まれる。そして同時に風音は狂い鬼を呼び出した。

『ほうっ』

ガンッと唐突に空中から現れた狂い鬼の黒い巨大な棍棒がジルベールに降り注ぎ、そしてジルベールはそれを大盾で受ける。その狂い鬼の一撃を、ジルベール自身はほとんど何事もないかのように受けたが、しかしそれを支える地面まではそうではない。ジルベールの足が地面にめり込む。そして狂い鬼が再度攻撃を加えようとして、

『ヌォォオオオオオオ!!!』

ジルベールが己の叫びと共にそのまま一気に突進したのだ。その勢いに、狂い鬼は弾かれて転がり、そしてジルベールが走り出したその先にいるのは風音だった。

「カザネさんっ」

『母上!?』

ひとりと一匹の悲鳴に、だが風音は気にせず、構える。

「スキル・キリングレッグッ!!」

『ぬぅっ』

風音は正面から攻め込んできたジルベールの大盾に対して、アクティブスキルの『キリングレッグ』でたたき込む。

そして凄まじい金属音がその場に木霊した。

蹴りの威力は『竜喰らいし鬼軍の鎧(真)』によってさらなる向上を見せていた。そして何よりも体の硬かった風音はスキル『柔軟』を手に入れたことにより、ようやく蹴りが様になったのだ。そして脚部だけではない全身を使った蹴りの圧倒的なインパクトが盾を超えてジルベールに走り、それにはジルベールも動きが止まる。それどころか、地面にめり込んで、数歩分は下がることとなった。

(さすがに止められるか、ッと!?)

ジルベールの大剣が頭上から迫ってくる。風音はソレを直感で避けようとするが、

『温い』

「なっ!?」

ジルベールは剣の軌道を強引に曲げて、剣の平の部分を剣を避けた筈の風音にぶつけてきた。それには風音も避けきれない。

『母上ーーー!』

タツオの叫び声と共に風音の小さな身体が、まるでボールのように吹き飛び、地面をバウンドした後にさらにゴロゴロと転がっていった。

『どうやら、威力こそあるが、そこまでの相手ではないようだ』

ジルベールはそう言って、再度襲いかかってくる狂い鬼の方を向いた。

「ウガァアアアア!!」

『たかだが鬼が、 某(それがし) に挑んで勝てるとでも?』

ジルベールは、狂い鬼の突進を自ら一歩進んでシールドバッシュで崩し、そしてその大剣を一気に振り下ろす。そして狂い鬼の叫び声が響いた。

(クッ、ううぁ)

それを薄目で見ながらも風音は立ち上がる。ダメージは軽くない。『柔軟』と『身軽』のスキルによりダメージは軽減され、『リジェネレイト』のスキルによって常時回復が行われているが、だが芯に到達した痛みは早々に消えない。

(やっぱり、あのレベルの相手にひとりで挑むのは厳しいか。けど、こっちにはまだ切り札がある)

相手が何を考えて街を壊滅させようとしているのかは分からない。だが、風音にはソレを打ち破る力がある。英霊の指輪。ここでジークを呼んで倒せない相手ではないはずだ。現状でも手札は他にもあるが、出し惜しみをして良い相手ではない。今の風音の後ろにはタツオとユッコネエもいる。大事な存在を守らなければならない。

そして、この周囲の漆黒の結界の外にさらなる敵がいても、最悪セカンドキャラで圧倒すれば……と、風音が考えながら、不意にその指が軽いことに気付いた。

その、何もはまっていない自分の右手の人差し指を見た風音の横には、ひとりの少年が立っていた。それに風音は顔を強ばらせながら視線を向けた。

「あんたは……エイジ?」

風音の全身を悪寒が走る。かつてジンライの右腕を奪った子供の姿の悪魔。つい今までいなかったはずのソレの姿が目の前にあるのもそうだが、しかし風音はエイジの右手に持っているモノを見て何よりも驚愕していた。

「やあ、風音。お久しぶり」

そしてエイジはこともなげにそう言った。右手に持つ『英霊の指輪』を弄びながら。

「その指輪は?」

それはエイジのモノではないはずだ。以前にエイジはそれをはめていなかったし、それにその指輪は、恐らくは今の今まで風音が身に付けていたもののはずで……

「そういえば、風音には僕の職業を言ってなかったっけ?」

エイジは笑う。

「僕はね。 盗賊(シーフ) なんだ」

そして黒い雷が風音を襲った。