軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百六十二話 異変を感じよう

◎リンドー王国 交易都市ウーミン アングレーの屋敷 アングレーの部屋

『というわけで、あの娘は今日は召喚院でお泊まりするそうよ』

白猫エリザベートは屋敷に戻ると、主に召喚院でのことを報告していた。

今はもう夕暮れ時。街が赤く染められる時間帯だ。

「なるほど。魔生石を封印していて持ち歩いていたか。つくづく面白い娘だな」

エリザベートの言葉にアングレーがもたれた椅子をギシギシ揺らしながら笑う。

「そんなもの。私だって手に入らんぞ。一体、いくらになるんだろうな?」

アングレーが同席しているオウギにそう尋ねるが、オウギは肩をすくめた。何しろ市場に出回っていないし、出回るはずもないものだ。

「さて、商人のアングレー殿に分からぬのではワシにも分かりませぬな。けれど魔生石が水晶のようになっていたのならば『水晶化』というスキルの力かもしれませぬな」

「なるほど。異様な数の『スキル』を有する娘か。お前の『心眼の極み』と同じようなものがゴロゴロしているわけか」

アングレーの言葉にオウギが頷く。

「他のスキルがワシのユニークスキルと同等のものかは分かりませぬがね。しかし、もうひとりのプレイヤーである弓花さんは普通のプレイヤー並のスキルの数だったように『見え』ました」

『カザネちゃんは色々と秘密の多い子だったみたいよ。変な馬車も出してたし』

「やはり、是非ともメッシ商会に引き入れたいものだが」

『止めた方がいいわねえ。実質的な面で宿六の立場がパーになるかもしれないわ』

アングレーの言葉にはエリザベートがそう返す。そして、くあーとアクビをした。

「どういう意味だ?」

『あの娘が望もうと望むまいと、その存在価値が商会に収まる感じがしないわ。食い破られるか、もっと別の何かに引き上げられてしまうと思う。それこそ元の持ち主なんか放り出してね』

予言めいたエリザベートの言葉にアングレーはぐぬぬ顔になる。可愛くはない。ようするにお前では御せないと言われたのである。面白いはずもない。

「オウギ、お前からも……うん?」

しかし反論が出来ないアングレーが仲間を求めて、エリザベートから逃げるようにオウギに視線を向けたのだが、しかし瞼開かぬオウギの視線は、アングレーとエリザベートを完全に無視した形で窓の外に集中していた。その様子にアングレーとエリザベートの表情が真剣なモノに変わる。

「どうした?」

「外の気配がおかしい。何かが起きております」

アングレーの問いにオウギが、やはり顔の方角を変えずにそう口にした。

「なに?」

訝しげにアングレーはそう返すが、オウギの認識自体は疑ってはいない。例え現時点で何も起きていなくとも、オウギのスキル『心眼の極み』は、エントロピーの流れを見て事象をある程度読むことが出来る。

それが視力を失ったオウギに発現したユニークスキルだった。その能力は未来予測、能力鑑定に、実際に目で見るのと変わらない視力を与えてくれる等、多岐に渡る。もっとも擬似的に得ている視界は実際に目で見ているのと同じものなので、顔を向けないと見えないという欠点はあるのだが、それは普通に視力があるモノと同じと言うだけのことである。

つまりは、オウギは盲目ではあるのだが、スキルにより普通の人間と同じように目は見えているのだ。そして普通の視覚以上の情報も見えていて、それがステータスウィンドウとしても表示されている。

「エリザベート、アングレー殿から離れるなよ。何かが変だ」

『あいよ』

緊張した面もちの中、エリザベートだけはまだ余裕があるように見えるが、それは彼女の性格故だろう。

そして、オウギのスキル『心眼の極み』は現在起きている違和感の正体を捉えた。その正体は……

「屋敷の第二倉庫、ブラックポーションか!?」

その言葉と同時に屋敷の一角が爆発したのだ。

◎リンドー王国 交易都市ウーミン トランザホテル

「あれ、ルイーズさん。師匠は?」

ティアラと共に共同浴場から戻ってきた弓花はその部屋にジンライがいないことを確認してから、ひとり紅茶を飲んでいるルイーズに尋ねた。

「さっきまで随分と泣いてたから、疲れて眠っちゃったわよ」

『子供みたいな奴よのぉ』

ルイーズの言葉にソファでくつろいでいるメフィルスがそう答えた。

「あら、そういうところがかわいいのよ」

『ハッ、女どものその感性は未だに余には理解できぬ』

「妬いてるの?」

『バカをいえ』

ルイーズの言葉にメフィルスがプイッと横を向く。機嫌を損ねたらしい。しかし中身は元王様のお爺ちゃんだが、外見はグリフォンの子供である。愛らしいことこの上なかった。そして、そのメフィルスの頭を「あらあら、お爺ちゃん。へそ曲げちゃったのぉ?」と言いながら撫でるルイーズであった。

しばらくルイーズがメフィルスの頭を撫でて、メフィルスが「ふぉぉお」と言いながらナデポ状態になった辺りで、ふいにルイーズが思い出したように口にした。

「ところで、さっき、何か変な音しなかった?」

その言葉に弓花が首を傾げる。

「変な音? いや、浴場は結構防音になってたみたいだし」

「そう、気のせいだったのかしら」

ルイーズも確証があったわけではないようだ。メフィルスは「ふーふー」と深呼吸をしている。

「お爺さま、大丈夫ですの?」

『ふ、ティアラよ。大丈夫だ、問題ない』

そういうメフィルスではあるが、恍惚そうな表情でグッタリとしている。

そしてルイーズも「まあ、いいわ」と話題を変える。

「風音は今日は戻ってこないの?」

「ええ。ユッコネエの進化自体は、そんなにはかからないみたいなんですけど、今晩はその場で休ませて様子を見るって返信来てましたよ」

「そうなの。召喚院ね。明日はティアラと見に行ってみようかしら。何かしらの勉強にはなると思うし」

「はい。そうですね」

ルイーズの提案にティアラも笑顔で頷いた。今は頑張れば頑張るほど力が身に付く時期である。ティアラも己の成長に驚きつつも、常日頃、努力を怠らずにここまでやってきた。もちろん筋トレも。

カザネ魔法温泉では、そのティアラの成長っぷりにカザネも驚いていたようだった。ビックリしている風音の顔をティアラは忘れていない。故に頑張ろうとさらにティアラはやる気になっていたのだ。もちろん筋トレも。

そんな時だった。奥の部屋の扉が開いたのは。

「あれ、師匠?」

弓花が驚いて、奥の部屋から出てきた人物を見る。それは当然、ジンライその人であったが、しかし弓花が驚いたのはそこではない。

「なんで、戦闘用の装備なんですか?」

見ればジンライは、白と黒の竜牙槍に、浮遊島で手に入れた戦舞いの闘衣、そしていつもの不滅のマントを纏っていた。

「外を見てみろ。何かおかしい」

泣きはらした後の真っ赤な目のジンライに促されるままに、弓花たちは外を見ると夕暮れの空の下、街のあちらこちらで煙が上がっている。もっともこの夕食時の時間帯ならば、煙が上がること自体は不自然ではないのだが、街の、スラムに近い区画などからの煙がおかしい。見たところ、火事のような黒い煙がモクモクとあがっているようだった。そして歓楽街の方角でも同様の煙が見える。

「こりゃあ、何事かしらね」

弓花の後ろから窓の外に顔を覗かせているルイーズが緊張した面もちでそう口にした。今ルイーズたちがいるのはホテル最上階の4階だ。また、ここは上流階級御用達のホテルで周囲も貴族などが住んでいる豪邸が並んでいるような区画である。

そして、

「アングレーさんの屋敷の方からも煙が?」

弓花がそう口にした。一カ所だけなら火事とも考えられる。だが、違う場所から、それも歓楽街とアングレーの敷地辺りから……となると、何かがおかしい。

「鐘が鳴っておらん」

ジンライがボソリとそう呟く。

それにはルイーズとメフィルスが目を見開く。

通常であれば街のどこかで異常でもあれば、それを知らせる鐘が鳴り響くものだ。鳴らす間隔で、どういった事態が起きているかも分かるのだが、しかし現時点において、それがない。

そして、鐘そのものは街の何カ所かに配置されており、どこかしらから鐘は鳴るはずだった。しかし、それもない。

また、その配置は町の警護兵の詰め所などにも設置されている。それすらもならないということは……と、ジンライたちが思案したとき、鐘が一カ所鳴り響いた。

「あら、鳴ったわ」

そう安堵のようなルイーズの顔は、だがその鐘の間隔のない音に強張った。

「なんですか?」

弓花がそのルイーズの反応に、訝しげに見る。見れば今度はティアラも顔を青くしている。

「そうか。お前は知らんかったのだな。まあ、無理もないが」

普通であれば、子供の頃に習うものなのだ。鐘の音の種類の意味など。だからジンライはこう告げた。

「間隔なしの鐘の音の意味は『襲撃』。全員戦闘準備だ。ユミカ、カザネにも連絡を。ユッコネエが動けぬのならワシ等で出向くしかあるまい」