軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百六十一話 許可をもらおう

◎交易都市ウーミン トランザホテル

「おおおお、ユッコネエ。ユッコネエよぉ」

アングレーの手配で案内されたホテルの一室で、ひとり男泣きしているのはジンライであった。あふれ出るモノが止まらない。右腕が失われたときでさえ感じなかった、まるで自分の半身が失われたような、そんな喪失感をジンライは感じていた。

そんなションボリ男をルイーズがよしよしと背をなでている。

「師匠……」

その横で弓花が複雑そうな顔で、ジンライを見ていた。ホテルに着いて風音とユッコネエ、そしてタツオが出て行ってからはずっとこんな様子だったのだ。

ユッコネエの前では「大丈夫だ。お前の好きにするがいい」と笑顔で返していたジンライは、そのユッコネエが離れた途端に堰を切ったように号泣し始めたのである。

「よほど、ユッコネエが好きでしたのね」

『あ奴のあんな姿は余の現役時代でも見たことがなかったんだがのぉ』

ティアラが貰い泣きし、メフィルスは呆気にとられていた。

「けれども、どういたしましょう。ユッコネエにジンライ様が乗らないのであれば、いっそお爺さまが乗せて上げてはいかがかしら?」

『却下だ。男を背に乗せるのは勘弁願いたいの』

ティアラの提案をメフィルスは却下する。実のところ、ティアラの現在のレベルは25に到達している。そして、まだ実戦レベルではないがルビーグリフォン操作の訓練にも入っていた。

それがどういうことかと言えば、グリフォン幼体のメフィルスの身体が、通常のグリフォンサイズになる……というような感じである。まだ制御は拙いが現時点でも顕現させること自体は可能だ。

元々のルビーグリフォンは小型のドラゴンほどはあるので完全な状態とは言えないが、その戦闘力はやはりそれなりに高いものがある。

ともあれ、それはそれとしてメフィルスもようやく自分の活躍の場が……と喜んでいたのに、それがジンライの引き立て役になってはユッコネエの二の舞であると首をブルブル振っていた。そして、

(十円ハゲが出来てしまうではないか)

と、メフィルスは考えていた。そもそもメフィルスは現役冒険者時代もジンライのひきたて役が多かったのである。そのことにジンライ本人の自覚がなかったのがよりいっそうたちが悪いとも言えた。

おかげで後年のメフィルスはジンライを倣ってハーレムを頑張って作ったりと、助平心を全開にして頑張ってしまった。ジンライは我知らず一国の王へ多大な影響を与えていたのである。

『もう二度とあの頃には戻りとうないのだ、孫娘よ』

そう口にするメフィルスの苦悩を理解できないティアラは首を傾げていた。人生経験の足りない娘っこにはまだ自分の境地には達せまい……とメフィルスは達観した気持ちになっていたが、それは人生経験とはまた別の問題であるため、多分一生わかり得ない気持ちだろう。

「あ、風音からメール来てる」

と、そこに弓花が声を出した。

「なんですの?」

その言葉にはティアラが真っ先に反応した。

「えーと、ユッコネエをパワーアップさせたいので魔生石を使っちゃっていい?だってさ」

「魔生石をユッコネエに? どういうことかしら?」

ジンライをなだめながらのルイーズの問いに弓花は「えーとですね」と口にしてメールを見る。

「魔生石は召喚体を強化する力があるそうですよ」

その言葉にルイーズは「え、そうなの?」と目を丸くしていた。知らなかったようである。弓花としては(ルイーズさんでも知らないこともあるんだなぁ)と思ったが、ルイーズとてなんでも知っているわけではないのだ。

「あれはお前の手柄だ。お前に異論がなければ問題はなかろう」

その話の途中、ジンライが立ち上がり、弓花に向かって歯を食いしばってそう言った。目が充血していて怖いが、必死で師匠らしくアドバイスしようとしているのだろう。またユッコネエへの手向けに弓花を促しているのかもしれなかった。

「師匠。ええ、そうですね」

なお、ジンライの言葉通り、魔生石は弓花が浮遊島でクィーンアントを倒した際に手に入れたものなので、使用優先順位は弓花にある……が、弓花は師匠の言葉を受け入れて、あっさりとオーケーと返事を返した。

自分の召喚獣のクロマルに不満はないし、『深化』で完全に狼化すればホーリーケルベロスという強力な魔獣にもなるのだ。ユッコネエがそれで強くなるなら弓花も万々歳であった。

◎交易都市ウーミン 召喚院施設 裏庭

召喚院で返信待ちだった風音は、弓花からのオーケーのメールが来たので「大丈夫だってー」とその場にいるマグナたちに告げた。

現在、風音たちは召喚院の施設の裏庭にいた。ここはサイズの大きい召喚体等を呼び出すために用意されたもので、外から見た感じよりも大きく、実際には学校の校庭の運動場ぐらいはあるようだった。

そして、そこでは今、サンダーチャリオットが出されて召喚院の研究者たちによって色々と調べられていた。これはマグナが風音のサンダーチャリオットの噂を聞いて確認させてほしいと願われたからということもあるが、風音自身もサンダーチャリオットについて詳しく知りたいということもあった。あわよくばサンダーチャリオットのパワーアップも図れればなお良しである。

「ふむ。これは素晴らしいシロモノだな。ここまでのチャリオットは見たことがない」

「ん、そうなの?」

風音も他のチャリオットは見たことがないので比較対象がないので分からないが、マグナや他の研究員からしてもサンダーチャリオットは非常に興味深い対象のようである。

「ああ、何しろチャリオットの召喚はデュラハン系統の固有召喚だからな。デュラハンのチャイルドストーン召喚者が命じて呼び出させることも出来るが、ここまでのものではないのだよ」

マグナも興奮気味にそう告げた。

「この戦車には意志が宿っておるわけではないから、召喚騎士のように加工も不可能ではないようだ」

「それってどうやるの?」

「ここにもおるが、専用の術士がいてな。実際にバラして変えたり、接ぎ木のような要領で魔力を馴染ませて繋いだり出来るのだな」

風音の言葉にマグナはそう返した。

「……へぇ」

「しかし、特に変えなくとも、これはこれで十分だとは思うのだが」

マグナの言葉に風音も特に変更したい箇所はないんだよなーとは思っていた。実際に変えられるかどうか、そして変えるにしても何かアイディアはないかとも思って呼んだのだが、特にそういうのはここの人たちも思い付かなかったようだ。

「うにゃにゃーー」

そして、そう話している風音の後ろでユッコネエがゴロゴロしていた。

いいから、パワーアップしようぜ……という感じである。

今、ユッコネエは風音と分かり合った反動で、甘えたがりでちょっと反抗期に入ってきているようだった。

「ユッコネエ、もうちょっと待ちなさい。弓花からはオーケーって来たんだから、すぐ用意するからさー」

そのユッコネエに、風音は仕方ないなーという顔でそう口にした。

その風音の言葉にユッコネエが「にゃー」とさらに転がった。今度は喜びを表現しているようである。タツオも一緒にゴロゴロしている。楽しいようだ。

そして風音が水晶化で封じている魔生石とユッコネエのチャイルドストーンを取り出した。

「しかし、こんな封印方法が。一体どうやってるんだ?」

それを見てマグナが驚きの顔でそう口にする。『水晶化』による封印、今までにないこの封印法が確立すれば革命的な話ではある。他の研究員も、風音のそれに視線を移す。

「秘密ー、というかやり方は教えられないんだよね。私もよく分からないし」

しかし、魔生石を見ながら風音はそう返した。『水晶化』は風音以外にはナーガとタツオしか使えない固有スキルだ。他にクリスタルドラゴンがいれば別だろうが、あいにく知り合いにはいない。

マグナはイマイチ信じられない顔で目の前の楕円形の球体の水晶を眺めている。しかし、そう見えるほどに魔素の気配はなく、間違いなく安全ではありそうではあった。

「それで、これをどうすりゃいいの?」

「うむ。まあ、やることは単純だ。チャイルドストーンに、魔生石を食わせると思いながら、近づけていくとそのまま吸い込んでくれるわけだな」

「ほうほう」

そう言ってチャイルドストーンと魔生石を近づけようとする風音に「しかし」とマグナが声をかける。

「魔生石を取り込んだ魔物は繭を形成して5〜6時間は眠りにつく。その間はチャイルドストーンを通して繋がっている主もそばに居ないといかんのだ。でなければパスが切れてしまうのでな」

「なるほど」

風音は頷いてから、ユッコネエを見た。

「ユッコネエ、そういうことだけどオーケー?」

その風音の言葉にはユッコネエも「にゃおー」と返した。特に緊張もないようだ。

そして、風音は魔生石の水晶化を解き、そのままチャイルドストーンと魔生石を接触させたのだった。すると魔生石はチャイルドストーンへと吸い込まれていき、併せてユッコネエが輝きだした。