軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百五十五話 老人と出会おう

「嫌です」

取り囲む兵たちに対して風音はそう返した。あまりにもあっさりと返されたその言葉に兵たちは動揺するが、しかし風音はご両親から知らないおじさんについていってはいけないとしっかりと躾けられている。教育の成果がそこに現れていた。

そして風音は改めて自分たちに槍を突き出している兵たちをジロジロと見渡した。

(あー、鎧に一貫性がないねえ)

風音の見る限り、自分たちを取り囲んでいる兵たちの身に着けている鎧には統一性がなく、正規の兵のものには見えなかった。また目の前の隊長らしき人物こそ、それなりに出来る気配はあったが、他の兵たちの実力はそこまでのラインには到達していないように感じる。風音の『犬の嗅覚』もその差をはっきりと感じ取っていた。

風音もこんな冒険者ギルドの事務所の中で自分たちから仕掛けようなどとは考えてもいなかったが、しかし戦闘になっても風音たちはあっさりと切り抜けることは出来るだろうという確信はあった。つまりは現在の状況は風音たちにとってはピンチと言えるモノではなかったのである。

「それで、どちら様なの?」

そして、訝しげな表情から一転して余裕の顔になった風音のその言葉を聞いて周囲の兵たちは怯えて一歩下がった。彼らは風音の純白のマントの隙間から発せられる、とてつもなく恐ろしい猛獣の気配を感じとっていたのだ。

そんな兵たちの様子を見ながらジンライが口を開く。

「この街の警護兵にしても装備がバラバラだな。王国兵でもなかろう。お前たちは誰かに雇われているのか?」

ジンライも風音と同様に目の前の兵たちが正規の者たちとは考えていなかった。であれば、誰かが雇った冒険者たちか何かなのだろうと当たりを付けてそう口にしたのだが、そのジンライの問いに対して隊長らしき人物が声を張り上げて答える。

「左様だ。我々はアングレー様に雇われたメッシ商会の民兵団。この街の平和のために動いている。貴様等のようなブラックポーションを蒔く連中から護るためにな」

その言葉には後ろにいたザックスが顔をゆがめたが、だが清廉潔白である風音が動じることはなかった。が、その言葉の中身に対しては引っかかる部分があった。

(あれ、アングレーさんってブラックポーションを没収しようとしてるの?)

それは重要な情報ではなかろうかと風音は考える。

どうやら風音たちを取り囲んでいる兵たちはアングレー・メッシが雇った兵たちのようである。そして彼らはウーミンの街でブラックポーションを所持している者たちを捕まえようとしているらしい。

話を纏めると悪魔と繋がっていると思われたアングレーが、悪魔の広めていると思われているブラックポーションを没収しているようである。

(って、どういうことだろう?)

はてな?と考えている風音の横でジンライが一歩前に出て口を開いた。

「なるほどな。しかし、現時点ではブラックポーションは禁輸されたものではあるまい。我々が連行される理由にはならんな」

そのジンライの言葉に民兵団の隊長は否とは答えなかった。ジンライもウーミンの街の事情に明るいわけもなく、今の言葉自体はただのカマ掛けでしかなかった。しかし、それに対しての答えがないということは、つまりは未だにこの街でブラックポーションは禁止されているものではないということなのだろう。

そして普段であればここまで相手に言われれば、民兵団の彼らも腕ずくで抑えつけて従わせるのが常であっただろう。しかし、相手は風音たちである。兵たちも戦いの場に生きてきた連中だ。戦っても勝てないのは肌で感じている。だが隊長はその場に留まり、退く意志を見せない。そして僅かな膠着の後、

「入るぞ」

突然、外から誰かが事務所の扉を開けて入ってきた。

「お……オウギ様?」

そして私兵の隊長がその人物を見て驚きの声を上げていた。

外から入ってきたのはひとりの老人だった。その老人は目をつぶっており、白い着物に 袴(はかま) を履いていた。そしてその手に握っているのは……

(刀……?)

風音が心の中でそう呟いた通り、老人の持っているものは白い木で造られた鞘と柄の、恐らくは刀であった。そして風音は、服装や顔立ち、持っている武器からして、目の前の老人はジャパネスの人間であろうと考えた。

「オウギ様。何故にこのようなところに……いらしたので?」

そして、そのオウギという老人に対して隊長はかしこまった態度で声をかけたが、オウギはその隊長の問いには答えず、告げるべきことだけを告げてゆく。

「お前さん。間違っておるよ」

「は?」

オウギの言葉に隊長が間の抜けた声を上げる。だがオウギは特に気にせず、そのまま話を続ける。

「その方々はランクB『ザックスレイブン』やランクC『ソードライダー』のメンバーではなく、今やランクSパーティとなった『白き一団』だよ。そして彼らはアングレー殿の客人だ。拘束しようものなら、色々と問題が起きていただろうね」

「なんですって!?」

隊長がその言葉に目を丸くして、そして風音たちを見た。『白き一団』の名は隊長も聞いたことはあるが、しかし問題なのは風音たちがランクSパーティであるということだった。ランクSは街一つを破壊できるほどの力を持つという。下手に機嫌を損ねれば、どんな被害が及ぶか分からない。

「ほかのパーティもただの雇われに過ぎん。特に連れて行く必要もなかろう」

そう言いながらオウギは、兵たちに囲まれていた冒険者たちを見回し、そして再度ザックスに顔を向ける。相変わらず目は閉じているが、ザックスには老人から視線を向けられていると感じた。心の奥底まで覗かれているような奇妙な感覚がそこにはあった。

老人はその後「まあ、よかろう」と口にして、続いてルイーズに声をかける。

「そちらの方は、後で持っているものを渡してもらっても良いかね?」

「なにをかしら、お爺ちゃん?」

ルイーズも突然現れたこの老人に対してどう考えて良いのか分からず首を傾げながらそう返した。それは誤魔化しているわけではなく、実際になにを指しているのかがルイーズには分からなかったのだ。だがオウギは気にせず話を続ける。

「その懐に入れてるブラックポーションの素を渡して欲しいと言っておるんだよ。封印はしっかりしてあるようだがね」

その言葉には思わずルイーズも「まっ!?」と声を上げた。

ルイーズは確かに今、ザックスから抜き出したブラックポーションの素となるモノを所持していた。そして動き出さないように厳重に封印処理もしていた。それを指摘されたことにルイーズは純粋に驚きが隠せなかった。故にルイーズは尋ねる。

「お爺ちゃん、何者かしら?」

その問いにオウギも素直に答えた。

「 扇(おうぎ) ・ 禅十郎(ぜんじゅうろう) 。アングレー殿の商いのパートナーというところかね。ワシは」

「……オウギ・ゼンジュウロウ?」

ジンライが一人その名を呟いて首を傾げた。

そして老人は隊長に顔を向けて声をかける。

「さて、ここはもういいから。あとはワシにまかせてくれんかね?」

そのオウギの言葉に隊長も頭を下げて了承する。ランクSパーティにアングレーの客人。そのふたつの事実は隊長には重すぎたのだろう。オウギにそう言われた後、隊長は安堵のためいきをついていた。

そして、続いてオウギは風音の方に向いた。

「それじゃあ、風音ちゃんたちはワシについてきてくれるかな?」

風音は、その呼び方のイントネーションに若干の違和感を感じたが、だがそれよりも聞かねばならないことがあった。

「ついてくってどこに?」

「アングレー殿の屋敷だよ。あんたらはアングレー殿に会うために来たのだろう?」

そう告げられては風音たちも頷くしかない。老人の言葉通り、風音たちはアングレーに会いに来たのだ。突然やってきた私兵の命令とは違い、目的の人物に会えるというのであれば風音たちに断る理由はなかった。

そしてオウギに促されるままに案内された風音たちは、そのまま街の奥にあるアングレー・メッシの屋敷へと訪れることとなったのである。