軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百四十八話 自慢をしよう

「ああ、そうだ。直樹、忘れないウチにこれ渡しとくから装備しときなよ」

イリアの弟子入り面接のようなモノも終わり、そろそろホテルに戻ろうかという空気になったところで風音が直樹にあるものを手渡した。

「ん、なんだよ、これ?」

そして直樹は風音から渡されたモノを見て、ヌッという顔になった。

「って、姉貴の蓄魔器じゃねーか!?」

「私は新しいのもらったからね。それはアンタにくれてやるよ」

フフンとおニューの蓄魔器を見せびらかす風音だが、直樹の視線は手に持っている白蓄魔器に集中していた。

「う……」

「……直樹?」

「うぉぉおおおおおおおお、姉貴からのプレゼント!俺へのプレゼントッ!分かった。大事にするぜ!なくしたりしないように厳重に保管しねえとな!金庫とか買って仕舞わねえと!!」

気合いを込めてそう口にする直樹の言葉に「いや使えよ」と風音が抗議した。

「アンタの場合、近距離での対応に問題があるってのもあるけど、セーブし過ぎて魔剣のパワーを出し惜しみしてるとこがあるからね」

風音の言うことは正しい。白き一団のパーティは攻撃力に特化している分、直樹はそのフォローに回ろうと動くことが多い。現在の直樹は確かに風音たちのサポートに近い立ち位置ではあるが、しかしそのままではダメだと風音は考えていた。

「あのブルーリフォンの時みたいなのを私は期待してるんだよねー」

「ブルーリフォン? なんすか、それ?」

イリアが風音の話を聞いて興味深そうに尋ねる。それには直樹が答える。

「ああ、姉貴の言ってるのは魔剣の能力を限界まで引き出す俺のスキルのことですよ。でも、あれは奥の手で使うとほとんど動けなくなるから使いどころが難しくて」

スキル『魔剣の操者』の全力使用。魔力を莫大に食う代わりに、最大威力で攻撃する直樹の必殺技だが、使用後の疲労が大きく風音も実戦では一度しか目撃していない。だが、風音は直樹の言葉に目を細める。

「魔力を限界まで食うってんでしょ。でも、その白蓄魔器と水晶竜の魔剣に仕込んである蓄魔器も合わせれば、高位の魔術師よりも魔力は多くなるんだからね。使える以上は使いこなすことだってできるハズなんだから、努力はしないと」

風音がいつになく真剣な顔で言う。直樹の実力が上がることは直樹の生存確率を上げることに直結する。風音もそこを妥協する気はなかった。

「ああ、そうだな。分かったよ姉貴。とりあえずは白蓄魔器を溜めて試してみるさ」

実際のところは魔力のガス欠だけではなく、あの技は身体の負担も大きい。しかしスキルの使用がより自在にできるのならば、確かにより強力な戦力となるだろう。魔力不足で本格的な訓練は今まで断念していたのだが、ちゃんと向き合って再開しようかとも直樹は考える。

こうして直樹の問題点は浮き彫りとなり、今後の訓練の課題としても上がっていく。まあ、それはそれとして、直樹としては姉のオサガリを貰えたことでたいそうご機嫌となっていた。

そして、ゆっこ姉とルネイから依頼を受けた翌日には風音たちはウィンラードの街へと向かうこととなったのである。

◎ザルツ峠 翌朝

木と岩が並ぶあまり標高の高くない山々が続く光景の道を、ヒポ丸くんとサンダーチャリオットが走っている。朝に王都を出てからそれほど経ってはいないが、移動速度が他の馬車などとは段違いに速いため昼を過ぎた辺りでウィンラードの街にはたどり着けそうだった。

「こっちの方は来たの初めてだなぁ」

直樹が御者席に座って周囲を見回しながらそう呟く。

直樹は以前にミンシアナに来た時もウォンバードの街から王都シュバインまでを往復しただけだったので、こうした他の場所などを見る機会はなかったのである。もっともそれを言えばライルやエミリィは何もかもが初めてではあったが。

「ここらへんはオーガの生息地なんだよね。狂い鬼も元々ここの住人だったらしいし」

馬車の中から風音がそう口にした。

「あれ、あいつって黒の石の森に住んでたんじゃねえの?」

同じく御者席に座っていたライルの言葉に風音は「違ーう」と返す。

「元々狂い鬼はここに住んでたんだよ。だけど一度痛い目を見て、ここからオーガの群れの多い黒い石の森にいって従える仲間を増やしたんだってさ」

風音はそう口にする、狂い鬼は痛み分けとはいえ、討伐に来た10パーティを壊滅させたほどの凶悪な魔物である。頼りになる存在ではあるが、風音以外で狂い鬼を御せる者はいない。

「でもここが狂い鬼にとっての故郷なら、久しぶりのこの地に戻ってきて感慨深いモノとかもあるんじゃないの?」

そんなことを思い付いた弓花の質問には風音は首を横に振った。

「いや、さっきから非活性状態のままだね。認識はしてると思うけど、特にそう言うのはないみたい……というかさっき、ここのオーガは弱いし、戦ってもあまり面白くないだろうなーとかそんなことをちょっと思ってたみたいだよ」

「ああ、そう」

風音の言葉に弓花も少しひきつった笑いでそう返した。

そもそもオーガの一番の敵は人間ではなく、縄張りを巡る他のオーガの群れであったりする。黒い石の森で遭遇したオーガの群れはたまたま狂い鬼が従えていたオーガたちだけだから攻撃しなかっただけで、本来は同族だからと言って情けを掛けることもないのである。

そんな話もしながら風音たちは進んでいく。そしてヒポ丸くんをそこそこ飛ばした結果、予定通りに昼を越えた辺りで目的のウィンラードの街へと風音たちは到着していた。

そしてジンライ、弓花、ライル、エミリィはジンライ道場へと向かうこととなり、ルイーズとティアラは今晩の寝床を確保しに宿屋リカルドへ向かった。そして風音は、直樹、タツオと共に久しぶりのウィンラードの冒険者ギルドへと向かうこととなったのである。

◎ウィンラードの街 冒険者ギルド事務所

「あらぁ、カザネちゃんじゃない。お久しぶりー」

冒険者ギルドの事務所に入った風音に受付の女性が声をかけてくる。

「ニーナさんもおヒサー」

そして風音はその女性に手を振って答える。相手はギルドの受付嬢ニーナだった。それはかつて獣人の冒険者ギャオに美味しくいただかれてしまった、このギルドでも人気ナンバーワンの受付嬢である。

「本当にお久しぶりだねえ。ここ最近すっごい活躍だって聞いてるのよ。もう遠い人になっちゃったんじゃないかって、みんなと話してたんだけれど」

そう言いながら風音の鎧を見てニーナが呟いた。

「……やっぱり遠くなっちゃったのかなぁ」

風音の身につけている、触る者を皆傷つけそうな刺々しい鎧を見てニーナはそう呟いた。

「そんなことないよぉ。日々フレンドリーを心がけてるよ、私は」

グッと握り拳でそう反論する風音の言葉に、頭に乗っているタツオもくわーっと鳴いて肯定する。

『その通りです。母上は誰に対しても分け隔てなく公平に接する素晴らしい方です』

「はは……うえ?」

ニーナは少し首を傾げたが、頭の上に乗っている黒竜の子供を見て、風音が竜騎士となろうとして幼体から育てているのだとなんとなく理解する。

実際に生まれた竜を授かる竜騎士も存在している。というよりも竜騎士の騎竜は大体がそうして育てられた竜たちばかりである。

そしてそれは一般的にも知れ渡っている事柄であり、ここまで風音とタツオを見てきた人たちもニーナと同じように考えていたのだろうと思われた。

またニーナの視線は左の薬指にも向けられた。

「あら、カザネちゃん、あなた」

「ん?」

風音の疑問の表情を余所にニーナが風音と、指輪と、後ろの直樹を見てニンマリと笑う。

「その指輪って、もしかしてカザネちゃん結婚したの?」

その言葉には風音もにへらーと笑って「まぁねえ」と返した。つまりドヤ顔である。

「これは私の旦那様からの贈り物だよ」

風音の言葉にはニーナもキャーと声を上げた。

「もう、そんな『素敵な旦那様』まで連れてきちゃって、まったく隅に置けないなあ」

そして風音の笑顔が凍り付いた。認識の齟齬があると気が付いたのだ。だがニーナは風音のその顔に気付かず、話を続ける。

「同郷の人、見つかったんだね。顔立ちも似てるし結構カッコいいし。そのまま結婚しちゃったなんて。もう、羨ましいなぁ」

「いやーー、まあね。まあね」

後ろではすべてを察した直樹が、もはや天下を取ったような顔で笑みを浮かべていた。姉貴と自分が結婚している。なるほど、夢のようではあるが、目の前の女の人がそれを認めてくれた。直樹にとってこんなに嬉しいことはなかった。そして、

「今後とも俺と風音をよろしく、頼み……ぶほあっ!?」

スッと前に出てアピールをしようとした直樹が、突如豪快に吹き飛んだ。そして直樹はそのままドアに激突して、その衝撃で開いた入り口からゴロゴロと外へと転げていった。

「うぉっ、なんだ。こいつは?」

「人が転がってきたぞ!?」

「冒険者ギルドか。たく、冒険者ってのは乱暴な連中ばかりだな」

「だな、絡まれる前に離れっぞ」

そんな声が外から聞こえているが、スキル『猿の剛腕』の腕力で思いっきり愛しの弟を放り投げた風音は、そんな投げ捨てたゴミなど気にすることもなくニーナに向き合った。

「あ・れ・は・お・と・う・と・で・す」

「あ、あはははは」

冷や汗をかいてニーナは笑う。弟にしては年齢差が……とも考えたが口にすることは出来なかった。風音はその細腕で青年ひとりを片手で投げ捨てたのだから。ニーナは乾いた笑いを浮かべるしかなかった。

「あんな気持ち悪い弟と結婚とかあり得ないよ。そんなことになったら舌噛んで死ぬよ」

「そんなに……」

見た目はイケてるのに、随分と嫌われてるんだなとニーナは思ったが、ともあれ、それを触れる雰囲気ではない。なので捨てられたゴミのことは忘れて、指輪について再び尋ねる。

「えーと。で、でも、結婚は事実なんだよね?」

「うん、したよー」

そして笑顔に戻った風音の返事にニーナは「いいなぁ」と口にした。

よくよく見れば風音の鎧は異常な禍々しさというか物々しさというようなものを感じるが、どう見ても一級品の強力な防具であった。それだけではない。額のサークレットや身につけている首飾り、腕輪などの装飾品の、そのどれもが一流のもの。特に薬指の指輪の宝石はニーナも初めて見るが、七色の輝きを帯びた恐ろしく美しい逸品だったのだ。

「うう、そんなものを贈ってもらえるって事は、お相手は相当なお金持ちでしょう?」

「そうだねえ。名前は言えないけど、すっごく偉いよ」

風音は神竜帝ナーガを思い浮かべながら、そう答えた。少なくともタツオが自分の身を自分で守れるほどに成長するまでは、タツオの誕生に纏わる話は外に情報は流さないと決めているため、ここで旦那様の正体を話すことはできない。

だがニーナには名前も出せないような偉い人物との結婚ということが琴線に触れたらしい。目の前のチンチクリンは夢の玉の輿を達成した恐るべき存在なのだとニーナは悟った。羨ましかった。

「はぁ、そろそろ私もいい人見つけないとなぁ」

そして冒険者たちのアイドルはため息を吐いてそう口にしたのだった。

冒険者から求婚をされることはままあるが、結婚をするならやはり安定した『高収入』な人物が望ましい。冒険者であっても、せめてランクAは欲しいところだ。しかし、平和なこの街では高ランクの冒険者と出会うのは難しい。出会えてもお手つきになっていることがほとんどだ。

いつの世でも婚活とは難しいもののようであった。