軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百四十七話 弟子入りをしよう

◎王城デルグーラ 中庭

「らぁああ!!」

王城デルグーラの中庭で炎の煌めきと七色の輝きが交差する。

それは直樹の竜炎の魔剣『牙炎』と水晶竜の魔剣『虹角』の魔法刃の光であった。そして魔力で出来た刀身同士が重なり合い、激しくスパークするソレを直樹は目の前の相手に対して振り下ろす。

「甘いっすね」

しかし、直樹の渾身の一撃は虚しく宙を切った。つい一秒前まで目の前にいた女は幻影のようにゆらりと消えて、直樹の前から完全に姿を消したのだ。

(消えた? どこに?)

倒すべき敵の姿が眼前から一瞬で消えた。だが直樹は慌てず『察知』スキルで周囲を探る。普段であればこれで相手の位置を掴めるのだが、しかし反応はない。

「おお、探知系の能力っすか。怖いっすねえ。チビりそうっす」

そして、ふっと後ろから声が響いたと思えば、右側からまるで巨大な金槌で叩かれたかのような衝撃が直樹を襲った。それは『爆地』と呼ばれるイリアの当て身技だったが、直樹はその攻撃を把握する間もなく吹き飛んだ。

「ぐっ!?」

そのまま勢いよく転げて、壁まで叩き付けられた直樹だったが、ダメージは軽微。竜鱗の鎧が最大限にその防御力を発揮した。そして直樹はすぐさま立ち上がって態勢を整えようと腰を持ち上げようとするが、

「「チェックメイトっすね」」

立ち上がる前に左右から同時に声がした。そこにはふたりのイリアがいて、どちらのイリアの刀も直樹に向かって突き出されていた。

さきほどの後ろからの声があったにも関わらず、右側から攻撃を食らった理由。その種明かしは実物を見れば一目瞭然、実際に二人のイリアがいたからだった。

そして直樹はうなだれて「まいりました」と口にしたのである。

「すごいねえ。分身の術だ」

「ふむ。ヤツの分身は実体を伴っておる。なかなかに厄介な術だぞ」

そしてうなだれる直樹と、刀をプラプラとしているイリアの背後から声がかかる。

「「ちょっ、ジンライ。ネタバレは止めるっすよ」」

そしてイリアが慌てて後ろを向き、目を丸くしてジンライを咎めた。

「ダブルで喧しいわ。とっととひとりに戻れ」

そのジンライの言葉に、片方のイリアがドロンと消えた。

「む、消滅した」

その様子を見て風音は驚いたがアストラル体も嗅ぎ分ける『犬の嗅覚』により、イリアが消えたところに溜まっていた魔力が、残ったイリアに吸い込まれていくのを感じた。

(魔力で実体を造ってたのか。すぐに気付けないのは構造がしっかり出来て閉じられてるからかな)

風音は分身の術をそう考察したが、その横ではジンライとイリアの会話が続いていた。

「ちょっと見りゃ一目瞭然だろうし問題はなかろう。そもそも実体と幻体を混ぜて使うのがお前の十八番なんだから、実体が伴っておることがバレても痛くも痒くもあるまい」

「そりゃー分身の質がバレたんなら混ぜて使うっすけど、バレてないんならだまし通すに決まってるじゃないっすか」

ジンライの言葉にイリアがブーという顔をして抗議した。

その、まだ少女の面影のある女性はゆっこ姉の影武者のイリア・ノクタールである。彼女はかつてジンライたちとパーティを組んでいたクノイチで、今はゆっこ姉の影武者をやっている。

「ちなみにジンライさんならあの分身どうするの?」

「ふむ、所詮イリアだ。何人いようがすべて倒せば良いだけだな」

「ぐぅ」

過去に実際に倒されたイリアがうなり声をあげる。イリアもここまでに相当鍛え続けてはいる。しかし、風音たちと出会う前の槍一本の老人ならいざ知らず、現在のジンライには及ばないのはその纏う空気から理解できていた。

「それで、どうだ。こやつの出来は?」

そしてジンライの視線が直樹に向いた。直樹はウッと唸ったが、地に這いつくばっている自分を隠せはしない。完膚なきまでに遊ばれて倒されたのを直樹は自覚してしょげていた。

そのションボリ直樹がゆっこ姉にお呼ばれしてもいないのに何故王城にいるかといえば、厚かましくも姉にくっ付いて勝手に城に入っていた……というわけではなく、二刀流の扱いをイリアから教わるためであった。そして実力を見るための腕試しで直樹は完全にやられたのだ。

「そうっすね。見るからに魔剣に頼りすぎな感はあるっすねえ」

直樹の顔が伏せられる。それは自分でも理解していることである。

「後はどうしても接近してからの攻撃に乗り切れてないところがあるっすね。後衛から前衛に転向した連中に多い癖っすけど。剣を伸ばして間合いを広げるのはいいっすけど、距離に安心し過ぎてるし、近付かれると腰がひけてるのはマイナスっす」

「まあ、随分と改善させてきてはおるのだがなぁ」

ジンライもそれは察して訓練でも鍛えるようにはしているのだが、得物の違いからなかなか直しきることが出来ないようだった。

「とはいえ、二刀流の動きはまずまずじゃないっすかね。癖がなさ過ぎるのが気にかかるっすけど、形になってたのには驚いたっすよ」

「ああ、それ。私、私が教えたの!」

挙手する風音にイリアが驚く。

「カザネっちが? 相変わらず多才っすねえ」

多才という言葉そのものはひどく的確であると言わざるを得ない。本人の努力によって得たものではないにしろ。

「口伝オダノブナガ流だよ」

そして風音は己の流派を口にした。もっともイリアはその言葉には別の感慨を以て言葉を返した。

「あー本当にオダノブナガを倒したんすねえ。正直、信じられないっすわ」

風音たちが遭遇した闇の森の魔物オダノブナガ種は、元々はイリアの故郷ジャパネスの闇の森に生息している魔物である。生息していると言っても、イリアも実際に見たことはない。出会えば必ず死ぬという最悪の害獣として話を聞いているだけである。

なお、東方の国ジャパネスでは年に何度か魔素の霧が広がる百鬼夜行の刻と呼ばれる期間がある。その霧の中では闇の森の魔物も活動出来るために、人間の生息域を襲いにやってくることがあり、特にオダノブナガ種は闇の森の魔物の中でも特に恐れられた存在だった。

「どうだったんすか、アレは?」

「ふむ。アシガルならばお前でも殺れるだろうが、連中は群れで行動する。出会ったら逃げることを勧めるな」

ジンライも先の戦いでは、英霊ジークがいなければほぼ確実に殺されていたと自覚している。それほどにあの敵は強かった。

「おー、ジンライがそう言い切るのは珍しいっすねえ」

「単体であれに勝つにはワシは修行が足りん」

極めの一歩に届いたジンライですら、英霊ジークありきでようやくなのだから、とてもではないがイリアで太刀打ちできるモノではないだろう。

「あのー、それで俺の弟子入りは?」

そして話がずれていったのを見ながら直樹が情けない声でイリアに尋ねた。その声には諦めの色が見えた。

「ん、別に構わないっすよ。まあ、戴冠式終わった後ならっすけどね」

対してイリアはそう気軽に返した。

「カザネっちには前金もらってるっすし。お姉さん、もうどんな激しいプレイを求められても耐えられるっすよ」

「いや、そういうのは求めてないから」

風音が首を横に振っている。なおイリアの言葉に直樹のノドがゴクリと鳴ったのだが、幸いなことに風音は気付かなかった。

直樹は姉が大好きだがエロいことも大好きでオッパイも大好きである。もっとも房中術もお手の物のクノイチ相手に直樹が対抗出来るはずもなく、薬と合わせて調教すれば三日でイリア専用リモートロボットにバージョンアップすること請け合いである。触らぬ神に祟りなしだ。

「そんで前金ってなんだよ?」

ともあれ、直樹は気を取り直して先ほどの言葉の中にあった疑問を口にした。

「ああ、これっす」

そしてイリアはお手製の不思議な袋から刀を取り出したのだ。

それはアダマンチウムを使用した鞘や柄の刀だった。そしてイリアがその鞘から刀を抜くと淡く輝く紅色の水晶の刃が顔を見せた。

「こいつは……」

「ノブナガ種の爪を刀にして、旦那様のクリムゾンクリスタルブレスで強化したものだよ」

風音がそう説明をする。つまりはイリアの持っている刀はロクテンくんの大太刀と同じもので、斬れば紅の水晶化が発生し敵の動きを鈍くすることも可能な魔刀であった。

「ぶっちゃけ、ウチの実家に持って帰って売れば、もう一生食いっぱぐれないぐらいのレア武器っすよ。これ、ホントにくれるんすか?」

頬ずりしながらイリアが風音に尋ねる。口ではそう言うもののもう手放す気など毛頭ないような様子ではある。

「うん。弟が世話になるんだし、それがゆっこ姉の力になるんなら問題ないよ」

風音としてはただ直樹のためというだけでなく、ゆっこ姉の役にも立つのでその刀を渡すことに特に不満もなかった。

なお、(まあ、まだ結構あるしね)……とまでは風音は口にしなかった。

「こんなものもらったんじゃあ、どんなクソでも鍛えてやるっすよ。大船に乗った気持ちで任せて欲しいっす!」

そしてドンッと胸を叩くイリア。その後ろでは直樹が「……クソか、俺」と愕然としていた。

なお、直樹の特訓については戴冠式後の、この王城内でイリアの手が空いた時ならば可能とイリアは告げた。戴冠式後はA級ダンジョンのゴルド黄金遺跡に向かうことになっているが、風音は問題なしと頷いた。

なぜならば、少なくとも戴冠式までには、移動距離の問題は解決できる目処があるためである。

「ま、直樹もその頃にはもっと強くなってるはずだしね」

風音はフフンと笑う。鍵となるアーティファクト『 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) 』はカザネ魔法温泉に向かう課程で手に入れる予定であり、さらには白蓄魔器を渡すことで直樹の魔力は大きく上昇する。

弟最強計画の骨子入手を目前に控え、風音は高笑いが止まらなかった。

そして目の前のジンライ、直樹、イリアはいきなり笑い出した風音に引いていた。変な部分で常識人である直樹は姉のこういうワケの分からないところは苦手であった。