軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百四十五話 調査をしよう

ゆっこ姉から風音に呼び出しがかかったのは、鎧のお披露目兼早朝訓練を終えてホテルに戻ってすぐのことだった。

風音はその呼び出しに、昨日の騒動の件で怒られるのだろうかと凄くビビっていたが、しかし逃げ出すことはなかった。まあ、そこらへんは褒めてあげても良いかなーと横で見ていた弓花は思ったが、風音とジンライだけが呼ばれたところを見ると仕事の話だろうなとも推測していた。もっとも風音にはそこまで頭を働かせる余裕はなかったので、タツオを頭に乗せたままなことも忘れてお城へと向かったのだった。

◎王城デルグーラ 賓客室

そして王城内の賓客室でタツオがくわーと鳴いている。風音の頭の上でバッサバッサと翼を広げていた。母を護ろうという意志がそこに込められていた。頼もしい息子である。まだ生後二ヶ月半とは思えない。

「いや、タツオくんも大丈夫だから。風音も緊張しなくて良いわよ」

「ホッペ、ツネらない?」

自分のほっぺを両手でガードしながら涙目の風音に、ゆっこ姉は「やらないから」と返す。今はプライベートではない。たとえ風音が粗相したとしても、ホッペを虐待するのは今より後である。そう言う意味ではゆっこ姉の否定も嘘ではない。嘘ではないが風音の期待している答えでもなかったのは事実である。

そして愚かな少女は、その言葉を聞いて安心したのか、軽くなった足どりでルンタッターと用意されていた椅子まで向かい、チョコンと腰をかけたのであった。その後ろにジンライがつく。タツオもくわーっと言って風音の頭に乗っている。

だが、この部屋にいるのは彼らだけではなかった。

「しかし女王陛下もつくづく、白き一団がお気に入りのようですね」

そう言ったのはギルドマスターのルネイである。彼は先に席に座って待っていた。その後ろにはアンネが立っている。

そしてゆっこ姉の後ろには王宮騎士団団長のロジャーと、一度は風音を暗殺しようとし、さりげなくロリコンであることがバレた元軍開発部責任者にして現マッスルクレイ共同研究責任者ガルア・バルアがいた。

「個人的な親交もあるし、実行能力は折り紙付きでしょう?」

ユウコ女王はルネイにそう返す。それにはルネイも頷かざるを得ない。黒岩竜討伐に、ハガスの心臓移送。いずれも難易度はランクS。ムチャ振りが過ぎるとも思うが、事実として風音たちは受けた依頼を達成し続けている。ミンシアナの冒険者ギルドとしても有望な冒険者であり、だからこそ女王のお手つきとなるのはルネイにしてみればあまり好ましくはなかった。

「確かに、晴れてジンライ・バーンズもランクSとなったことですしね。しかしカザネ・ユイハマにもそろそろランクを昇格していただきたいものです。さすがにランクCはないでしょう」

『ないのですか?』

風音の頭の上からのタツオの質問にルネイは頷いた。

「実力に見合っていません。ランクAはまだ依頼達成数が足りていませんが、B昇格ならば申し分ない実績です。カザネ・ユイハマは冒険者の中でも極めて高い位置にいる人物です。それに相応しい格になっていただきたいと私は思っていますよ」

そのルネイの言葉にタツオはくわーと鳴いた。母が褒められたことを理解し気をよくしたのだろう。

「もっとも、必要か否かと言えば今は必要がないがな」

しかし、後ろにいるジンライが皮肉げにそう口にした。まだランクSに指名されたのを根に持っているようである。

「まあね。ジンライさんがランクSだからパーティとしては確かにもう必要はないんだけどねえ」

ジンライの言葉に続けて風音がそう返す。基本的にパーティのランクは一番高ランクの人物を中心に考えられる。故に今では風音たちも立派なランクSパーティであるため、実質的な意味では風音のランクを上げる意味はほとんどない。それはルネイも承知なので、それ以上は強く言うつもりもなかった。

「まあ、いいでしょう。しかし外聞もありますし、とりあえず昇格の話は忘れないでいてください」

「ん、了解。落ち着いたら考えてみるよ」

ルネイの言葉に風音はそう返す。

「で、そんなことを話しに、ここに呼ばれたわけじゃあないよね」

「当たり前でしょ。これのことよ」

そう言ってゆっこ姉はアイテムボックスからブラックポーションを出して、テーブルの上に置いた。

それを見て風音とジンライが眉をひそめる。

「また悪魔関係?」

「そうね。本当に悪いのだけれど『また』なのよねえ」

風音のイヤそうな顔にゆっこ姉も苦笑いで返す。ゆっこ姉としてもこれ以上、風音を悪魔たちと関わらせたいとは思っていない。だが今回の件はどの道、風音が関わらなければならない案件であったのだ。

「ルネイ、依頼書の方を出してくれるかしら」

「はい。アンネよろしく頼む」

ゆっこ姉の言葉に、ルネイが後ろに控えているアンネに声をかけ、アンネが依頼書を風音の前にスッと置いた。それに風音は「どれどれ」ともったいぶりながら目を通して眉をひそめた。

「アングレー・メッシの背後関係調査?」

風音は渡された依頼書の内容を見ながら困惑した顔をする。後ろから覗いたジンライも唸る。

依頼内容は魔物を倒す等ではなく指定された人物の調査依頼であった。それは出来るか否かはともかく、今まで風音がやったこともない類の依頼である。実績のない風音たちに対して指名依頼をしてまで任せられるものだとは思えなかった。

「これ、どういうこと?」

「アンネ。説明を」

そして風音の疑問の声に、ルネイがアンネに説明するよう指示する。

「はい。アングレー・メッシ。この人物は、我がミンシアナ王国の南の隣国であるリンドー王国で一代で財を成した商人です」

「リンドー王国。確か他の大陸とも貿易をしている海の国だったっけ?」

アンネの説明に風音がそう尋ね、それにはアンネも頷いて肯定した。

「アングレー・メッシはそうした国内でも海洋の交易ではなく内陸内での商いをメインに動いてきて成功した人物ですね。メッシ商会と言えば今じゃあ相当に知られたものです。その彼が、現在ミンシアナ内の国境付近の新しい街の建設に手を貸してくれているのですが」

「新しい街?」

風音が首を傾げるとゆっこ姉が横から補足する。

「あのカザネ魔法温泉を中心とした町だそうよ。そういえばアンタを町長にしたいって話が上がってたわね」

「何それ?」

「名前もカザネ魔法温泉街になるらしいし、まあ細かいことはマッカに聞いて頂戴。その件は私あまり知らないし」

ゆっこ姉はゼニス商会の宿泊施設及び街発展振興部の代表という長い肩書きを持つマッカ・トーマックに振ることで話を終えた。実際、ゆっこ姉もよくは知らないのでそれ以上言えることもないのだが。

「話を戻してもよろしいですか?」

ゆっこ姉と風音のやり取りが終わったのを見てアンネがそう尋ね、風音とゆっこ姉が頷いて同意する。

「彼は今、ひとつの商談を持ちかけてきています。持ちかけるべき本人がいないので保留となっていますが」

「持ちかけるべき本人?」

アンネの言葉を聞いて訝しげな顔をした風音に、ルネイが口を開いた。

「つまり、君だカザネ・ユイハマ。アングレー・メッシはカザネ魔法温泉のオーナーたる君から温泉の権利を買い取ろうと持ちかけているのさ」