軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百四十四話 御披露目をしよう

マジリア魔具工房での一件により風音は黒い石の森で荒稼ぎして手に入れていた己の全財産をほぼ失うこととなった。

被害額は本来その程度では済まないのだが、風音自身がゴーレムメーカーで建物の補修をしたことと、アガトの管理問題もありアガト自身も自分の資産で修理費を負担することになっていた。

それも風音としては心苦しい話ではあった。召喚体の不始末は基本的に主の不始末である。ましてや、今回狂い鬼は風音が鎧の問題点に気付いたのを察知して、良い機会だからと出てきたようである。アガトがそれを教えたことがきっかけではあるが、それで責任を感じさせるのもいかがなものだろうかと風音は考える。しかし、形の上ではアガトの接触がきっかけではあるので、風音の負担をそれ以上増やすつもりはアガトにはないようだった。

また、王都内での不用意な騒動を引き起こしたことも問題ではあったが、こちらはゆっこ姉のコネ……ではなく、称号持ちであるために恩赦待遇で免除された為、特に罰則等はなかった。もっとも白き一団の鬼殺し姫が暴れたためという話自体は説明されてしまったが、それはやむを得ないことだろう。こうしてマジリア魔具工房の騒動は、さらなる問題が広がる前に早々に処理されたのである。

◎王城デルグーラ 賓客室

「迷惑かけるわね。本当に」

ゆっこ姉は頭を揉みほぐしながら、目の前のアガトにそう告げた。

「いえ。私の方こそカザネ様の鎧に、アレほどのモノが潜んでいるとは気付きませんで。誠に申し訳ございませんでした」

アガトは冷や汗をかきながらそう返した。女王陛下からの早朝の呼び出しである。内容は昨日の工房での騒ぎの件である。これはゆっこ姉のとれる時間がそこしかなかったためではあるが、呼び出される方としては身が縮む思いであっただろう。

「まー仕方ないわよ。『浸食結界』だったわね。あれを張られるとは普通思わないもの」

「確かにあんなとんでも無いものが出てくるとは思いませんでしたが」

実のところ、探査室にも暴れた魔法具や召喚体を封じる仕掛けは存在している。だが『浸食結界』によって空間そのものを変質された結果、仕掛け自体が発動出来なかったのだ。それを想定していなかったのは当然そうする必要が今までなかったためだ。それほどにあの技は特異なものであった。

「まったく厄介なのを飼っちゃってるわね、あの子は」

ゆっこ姉の召喚する『爆炎竜サラマンドラ』もああした結界は出せない。あれは一種のユニークスキルであり、習得できるか否かは、能力の大小よりも資質の問題に依存するためである。

「それにカザネ様のお力の方も想像を超えたもののようで。まったくあの方には驚かされるばかりです」

アガトは風音の竜体化については多少知ってはいたのだが、さすがにスキルを惜しみなく使う風音の戦闘を見て驚きを隠せなかった。もっともその後も風音に普通に接していた辺り、組織の長として器が広いようだ。

「まあ、補修費はひとまず立て替えておくから、後でそっちも対応しておいてね」

「はっ、感謝いたします」

ゆっこ姉の言葉にアガトが頭を下げる。マジリア魔具工房は国も資金を投入している。特に探査室が動かないままでは困るのだ。

そして、アガトを下がらせたゆっこ姉はひとり物思いに耽る。

(魔王の神託に、ボス空間の構築か。本人が発生させられるかはまだ分からないけど……)

自分の親友が厄介な存在に変わっていくのをゆっこ姉は感じていた。

(或いは対立存在である『勇者』が生まれている可能性もあるか)

ただの伝承であるかもしれないが、『魔王』が現れると『勇者』というモノが出現すると言われている。正確に言えば『魔王』が倒されることで、倒した者が『勇者』として確定するのだが、それでも不自然に巨大な力を持つ者が出現し、魔王と戦い始めることが多いのも事実である。

本当にそんなシステムが存在するかも分からない。一つ前の神託の魔王も勇者が倒したわけではなかった。ゆっこ姉のそれはただの杞憂である可能性も少なくはない。

(杞憂なら良い。けど勇者とやらが実際に現れたとして、それが風音を殺そうというのなら)

勇者を殺らねばならないと、ゆっこ姉は考える。

今のゆっこ姉の心の許せる人間は限られている。それを奪おうとする者に対して容赦をしようという気持ちはない。そのゆっこ姉の行動が後にどんな事態を引き起こすのか、それはまだ誰にも分からなかった。

◎王都シュバイン 近隣

「お金には欲という穢れがたくさん染み着いています。それを祓うために穢れたお金はすべてその身から解放させるべきなのです」

「あー確かウチのお婆ちゃんの姉に当たる人がそんな感じで新興宗教に全財産ぶち込んでたなぁ。そんで婆ちゃんがスゴい荒ぶってたことがあったわ」

風音の言葉に弓花がそう返した。だが風音はその弓花の言葉を無視する。温度差の分からない他人の身内話ほど厄介なものはない。下手に同意してブチ切れられることだってあるのだ。「あんたが言ったんじゃない」と言っても「私はいいの」と返されることもあるのである。世の中は理不尽で満ちあふれているのだ。

そして風音はそんな地雷を踏む気はない。今の風音は現世の穢れを払い落とした美しき風音さんであり、賢者の心を持っているのだから。

もっとも現在の風音は貯蓄ゼロではあるが、とりあえずは機嫌が良かった。それは当初の目的である『竜喰らいし鬼軍の鎧』の変形については上手くいった為である。

「しゃっきーん」

早朝訓練で風音は高らかにその鎧を周囲に見せつけた。

以前のような、有機的かつ金属質な闘争本能を形にしたような禍々しく生々しい造形であった姿は今や完全に風音に最適化されていた。

新たに生まれ変わった鎧は、かつての有機的な造形は消え、その身は触っただけで切り裂かれてしまうほどに鋭利なフォルムで、それでいて鎧としての体を崩さぬ重厚な、刺々しくも禍々しい、冷たい凶器に悪魔を宿らせたような、殺意という概念を体現したデザインへと生まれ変わったのである。

「あれ?」

弓花が首を傾げている。おやおやという顔をしている。それを見て風音も首を傾げた。弓花が何か困った顔をしているのである。親友が困っている。どうしたものだろうと風音も考える。

「どうかしたの、弓花?」

「え、うん。そのね。ちょっと、認識のズレっていうのかな。それがあるような気がするんだよね」

「あーまあ、時々あるよね。そういうの」

風音もうんうんと頷いた。認識の齟齬というものは確かに存在する。シャベルとスコップの地域による認識の違いなど、世の中には様々な認識のズレというモノが存在しているのである。

「私はさ。風音が『竜喰らいし鬼軍の鎧』の形が余りにもアレなんで悩んでると思ってたんだよ」

「うん。悩んでたよ。ボディラインもハッキリしてるデザインだったし、ちょっとハズいよね、アレは。妙にゴツゴツしてたしさ」

その風音の言葉に弓花はうんうんと頷いた。

「そうなんだ。で、今のその鎧は大丈夫なんだよね?」

「うん。流れるような鋭利なデザインに、軽装鎧ながら重厚な構造。まさしく全身これ凶器って感じで超カッコいいよね」

『母上、強そうです!』

タツオが横でくわーっと興奮している。タツオ的にもありらしい。

「あーうん。そっかー。ああ、そうなんだ。いや私が勘違いしてただけだから、まあいいんだけど」

風音親子が首を傾げるのを見ながら弓花は疲れた笑顔をしながらフウッっとため息を付いた。そして、以前よりは鎧として見れる感じではあるので良しとすべきだろうと、若干ポジティブに考えることにした。

ちなみに、

「確かに惚れ惚れするフォルムよのぉ」

「ちょっと羨ましいかも」

「あ、ああ、俺もカッコいいと思うぜ……うん、多分」

肯定組は風音親子の他にジンライとライルがいた。直樹も同意はしていたが、顔はひきつっており、姉貴持ち上げの嘘っぱちであるのが明白であるため除外する。