軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百四十二話 原因を探ろう

ギルドマスターのルネイとあった翌日には風音たちは王城に呼ばれて、女王の間にて 解放者(リベレイター) の称号の授与式が行われた。そして同時にハイヴァーン公国ライノクス大公からユウコ女王への書簡もここで、風音からゆっこ姉に渡されたのである。もっとも内容については風音、そしてアオからのメールですでにゆっこ姉には知れていたので、ここでは形式としてライノクスから話を受けたと周囲に知らしめる意味合いがあった。

なお、ジーク王子はツヴァーラにすでに向かっているそうで、次に会うとすればアウディーンの戴冠式になるだろうとのことである。

「へーゆっこ姉の子供かぁ。会うのが楽しみだなー」

そして呟かれた直樹のその言葉が、弓花の脳裏から離れない。これはつまり流血は避けられないのではないのではないだろうか……と戦慄した。そして流れる血はジーク王子か、或いは直樹のモノか。いずれにせよ、直樹がジーク王子に襲いかからぬように、またはゆっこ姉が直樹に襲いかからぬように細心の注意が必要であろうと弓花は考えていた。

◎王都シュバイン 近隣 昼過ぎ

「ハーレムは愛……だけでは成立しない。女同士の協力と共同体の管理能力が重要……か」

エミリィは昨日にこっそりとアンネからハーレムの極意を教わっていた。ハーレムとはひとりの男を囲う共同体。中心にいるのが男であるように見えて、手綱を握っているのは私たち女である……と笑って答えられた。そして肩を叩いて「頑張りなさい」とエミリィはハッパをかけられたのである。

しかし……と、エミリィは直樹をどついている弓花を見た。

「さぁさぁ、お避けなさい直樹」

「ちくしょー。クロマルと一緒とか、ただでさえ実力に差があんのに!?」

(私はユミカと共に生きていけるのか)

ティアラとは上手くいける気がする。身分差を考えれば、楽観できる話ではない。しかし、自分の家柄やティアラの性格を考えるならば、実のところ問題はないだろう。その件については元王メフィルスも太鼓判を押してくれてもいた。

だが弓花は違う。本人は否定するが、しかし直樹のこととなるとエミリィは、自分と弓花では一歩や二歩どころではないくらいの差があると感じてしまう。いつか直樹をひとりで独占されてしまいそうな危機感を感じている。

「ほーら。逃げないと死ぬわよー。クロマルー、食べちゃいなさーい」

「止めろ。そいつ、お前に言われたらマジで食うから。やばいから。いや、マジで!?」

今だってあんなに楽しそうに稽古をしていてエミリィはそこには入れない。それが悔しい。

「あ、噛まれた」

「ギャアアアアアアア」

そんないつも通りの日常がそこにあった。

現在、エミリィたちは王都シュバインから少し離れた平地で訓練を行っていた。午前の授与式の関係で早朝訓練が出来なかった分、エミリィたちは夕方の訓練時間を早めて開始していたのである。

しかし、その中には風音はいなかった。風音は今度こそ『竜喰らいし鬼軍の鎧』を加工してもらうためにマジリア魔具工房に行っていたのである。

◎王都シュバイン マジリア魔具工房

「今度こそ、やってもらうんだからね」

「ええ、モチロンです」

意気込んでマジリア魔具工房に入った風音に、すぐさま対応に出てきたアガトが満足そうに頷いた。マイティーの飛行能力付与がエラくお気に召したようで、つい先ほどもまた外にマイティーとともに出ていたそうである。

「ま、とりあえずは視ますので中にお入りください」

アガトはそう言って、風音を誘って工房の中に入っていった。

こう見えてアガトは魔法具全般の調律師である。魔法具の作成こそ平凡な腕ではあるが、調整や加工などに関して言えばミンシアナでも右に出るモノはいないほどの人物であった。

◎マジリア魔具工房 探査室

そして風音がアガトに連れられて入った部屋は、壁や天井、そして床一面に魔法陣が描き巡らされた広い一室だった。その部屋の中心には装飾された台座が置かれ、周辺の所々に水晶が先に付いた小さな杖のようなモノが突き立てられている。

「これは?」

「魔法具などを細かく探査するために調整された部屋です」

風音の質問にアガトはそう答えた。

「この部屋自体が魔法具のようなモノでしてね。魔法具の中の魔力の流れや術式を浮き出させて可視化させるように造られているんですよ」

「へぇ、でもそれって魔法具用なんだよね?」

アガトの言葉に感心しつつも風音は今聞いた説明の中から気になる点を尋ねてみる。

「ええ。しかし魔物素材の武具も基本は分類的には魔法具にあたります。能力付与やそこに意志が介在しているか否かという特性はあっても魔力の流れや魔術式が構築されているのには違いありませんから」

「……なるほど」

アガトは風音に説明をしながら、部屋のあちこちに突き立てた杖のひとつひとつを回って魔力を込めて、それらを次々と起動させていく。

「そういえば、マイティーもここで何度か探査をしてみたのですが」

「どうだったの?」

風音もマイティーの内部解析などに関しては、あらかじめ調べても問題なしと告げていた。ゴーレム使いのユズハに対してと同様に専門職に調べてもらえれば……と考えていた。いずれその結果を風音に知らせてくれることを期待していたのだ。しかし、アガトの表情を見る限り、上手くはいっていないようだった。

「術式は見えました。けれど、その構造そのものがあまりにも我々の知るものとは違いすぎた。ですので調べることを断念しましたよ。残念ながら」

アガトはそう言って肩をすくめた。

「あれはそうですね」

そして少し考えた後、こう口にした。

「我々とはアプローチの違う……いや、我々の扱う魔術の何十世代先の魔術という感じでしょうか。古イシュタリア文明とはまた違うもののようですし」

「そっか。私も使えはするけど、詳しくは知らないんだよね。少しは分かればと思ったけど」

そう言って風音とアガトはともに肩を落とす。

風音はこれと同じように、ゴーレム使いのユズハにも、スキルを用いて造った『マッスルクレイ人形のゴーレム』を渡している。そちらの制御術式は、ある程度は簡略化したものであるハズなので良い結果が出るかもしれないが、しかしどこまで調べられるかは微妙そうだな……と風音は考えた。

「とはいえ、魔物素材の武具ならばこちらにも一日の長があります。それでは鎧を渡していただけますか?」

アガトの言葉に風音はうなずき、アイテムボックスから『竜喰らいし鬼軍の鎧』を取り出した。有機的でメタリックで禍々しい、筋肉だけを剥き出しにして硬質化させて凶悪にしたようなデザインの軽装鎧がそこにはあった。その鎧は今は風音の鎧として形を保っているが、つなぎ目などはなく、実際に纏う際には変形して風音に吸い付くように纏われるのである。

それを見てアガトの顔が歪む。

「 呪いの武器(カースウェポン) ……? いや、中に宿っている意志が強力すぎて、それが染み出ているのか」

アガトはそう言って一歩下がる。

「見ただけで分かるの?」

「そりゃ、これだけのものならば素人でも分かりますよ。カザネ様はこの武具に認められているのでそうは感じないかも知れませんが、周囲に殺気を放ちすぎている。なるほど、これは確かに私の出番やも知れませんが」

そうは言いながらもアガトは『竜喰らいし鬼軍の鎧』に近づこうとはしない。それどころか、ジリジリと下がっている。

「アガト……さん?」

「いけませんね。これは私が触れたらすぐさま殺されそうだ。申し訳ないですが、その鎧を中央に置いていただけますか?」

「え? うん。分かったよ」

そのアガトの指示に従い、風音は『竜喰らいし鬼軍の鎧』を部屋の中心まで歩いていって台座に置いた。

「では見てみましょうか」

アガトはそう言って、周囲に構築した魔術式を送る。そして周辺に刺さったいくつもの杖の先の宝玉から『竜喰らいし鬼軍の鎧』に対して光が放射された。だが、その光は鎧に届く前に鎧自身から発せられる黒いオーラによって弾かれてしまう。

「アガトさん、これは?」

「拒絶されましたね」

風音の言葉にアガトがそう答えた。その言葉に風音は唸ったが、アガトは気落ちした風ではなく、寧ろ興味深そうに鎧を見ている。

「まあ、それだけ強力な武具だということですが、しかし、これは上手く機能していないようです」

「機能してない?」

「ええ、私の目で見たところ、この鎧の中には、27、いや25、違うな。一体がやけに強大なのか」

アガトは少し考えながら独り言のように呟いた後、風音を見た。

「この鎧の中にはあなたに従う強力な魔物の魂と、その強力な魔物に従う23の魔物の魂が存在しています」

それは狂い鬼と、黒い石の森で仲間にしたオーガたちであろうと風音は考えた。数も一致しているので間違いはないだろう。

「うん。それは分かってるけど」

「本来、魔物素材の武具の進化は装備している者の意志をくみ取り、最適な形へと変わります。ですが今回の変化ではソレが上手くいっていない。そうですね?」

「うん。そうだね」

能力だけならば申し分ない。だが、その外見はあまりにも禍々しく風音の趣味にあったものではなかった。

「その理由は、23の魔物の魂が、あなたではなく、恐らくはボス級の強力な魔物の魂に従っているために起きているのだと思われます」

「というと、つまり?」

「宿っている23の魂は現時点ではその強力な魂に従っているに過ぎず、彼らがカザネ様を認めていない以上、カザネ様にとっての最適な形へはなり得ないのです。恐らくはその強力な魂に対して望まれた姿へと形が現れているのではないかと」

そう口にするアガトの言葉に、風音は眉をひそめた。

それは確かに理解できる話だった。黒い石の森で遭遇したオーガたちは狂い鬼に従い、この鎧へと変わっていった。しかし、そこに風音への敬意はない。

現時点において、あのオーガの群れは狂い鬼に従って風音に協力しているに過ぎないということなのだろう。そう考えれば、確かに納得がいく。

「つまり、どうすれば良いのかな?」

そして風音はアガトへと向き合い、その対策を尋ねる。対するアガトの返答はシンプルであった。それはテイマーの極意であり、召喚体を従える手段そのもの。

「この手のタイプに対しては方法はひとつです。力でねじ伏せて従える。それしかありません」

そんな、きわめて明確なアドバイスをアガトから受けた、その時である。

鎧から恐ろしいうなり声が響き渡ったのは。