軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百四十一話 出来る男を知ろう

「ひゃっほーーーい」

その日、天をかけるピンクの馬に乗った男の姿が王都シュバインの外で目撃されたという。

◎王都シュバイン ミンシアナ冒険者ギルド本部 ギルドマスタールーム

「で、結局、直してもらえなかったわけ?」

「うーん、マイティーのバージョンアップを頑張ってたら昼になっちゃってさ。また明日にでも行ってみるよ」

そうボソボソと話す風音と弓花と、そして白き一団の他の面々は今はミンシアナ冒険者ギルド本部事務所のギルドマスタールームに来ていた。

午前中に立ち寄ったマジリア魔具工房で、風音はオーガの宿った鎧の加工を頼もうとしたハズだった。しかし、アガトの所有するゴーレム馬のバージョンアップに取り組んだだけで時間切れとなり、風音はそのまま冒険者ギルド事務所に来ていたのであった。

なお、アガトからは速度上昇の『ラビットスピード』と陽炎分身の『フレアミラージュ』というバフ系スペルをグリモアで覚えさせられた風音だったが、結局の処マイティーには風音が元々覚えていた『フライ』のスペルを付与することとなったのであった。効果としては約30秒間程度の飛行が可能という感じであった。

そしてスペルをマイティーに付与してもらったアガトはそのまま街の外へと飛び出していったのであった。工房長とは一体何をする人なのだろうか。

「ふむ。人数が増えているようですね」

そして風音たちの前にいるのはミンシアナ冒険者ギルドのギルドマスター、ルネイ・キャンサーであった。カチャッと人差し指でメガネのフレームを上げながらルネイは風音たちを見る。

「ハガスの心臓移送のクエスト、お疲れさまでした。そして我々の情報不足により予想外の事態への対応があったこと、心よりお詫びいたします」

そう言ってルネイは頭を下げたのであった。

「いや、依頼を受けた時点では悪魔が出る事なんて分からなかったわけだし不可抗力だとは思うよ」

そう風音は返すがルネイは首を横に振る。

「普通に考えて、今回の状況を鑑みれば例えランクAパーティだとて全滅だった可能性は高いでしょう。依頼難易度は命の重さそのものです。それを量り間違えることは許されないことだ」

そう口にするルネイの言葉には、凛とした一本筋の通ったモノがあった。それは直樹とは違う方向のイケメン、出来る男の顔であった。つまりはライルの敵である。

そのルネイの態度に弓花がちょっとだけ顔を赤くした。好みのようであった。

「冒険者ギルドとしても今回のクエストは最高難易度のランクSのクエストとして換算し直して報酬をお渡し致します。お詫びとはなりませんが、これをお受け取りください」

そう言ってルネイは後ろに控えていた女性に手振りをして、報酬となる銭袋を差し出した。そして風音がソレを受け取り「いただきました」と返す。

「それとジンライ・バーンズのランクS指定ですが、こちらはすでにカードを作成完了です。これをお受け取りください」

そしてルネイは懐から、光り輝くような銀色のカードを取り出してテーブルの上に置いた。

「随分とゴージャス」

「趣味がよいとはいえんな」

風音の言葉にジンライがそう愚痴りながらカードを受け取る。

「権威付けは形から入るのが基本でしてね。まあ看板みたいなものですから」

ルネイはそう言って、わずかに笑った。

落ち着いた男である。とてもスチャラカお姉さんから産まれた人物のようには見えなかった。

(本当にルイーズさんの息子さんなのかな? なんかぜんぜん印象違うんだけど……)

(そだねえ。出来るビジネスマンっぽい感じだよねえ)

(失礼ね。子供の中じゃああの子が一番、私の血を引いてるわよ)

ボソボソと話す弓花と風音の後ろからルイーズも首を出してボソボソと会話に参加する。

(えーどこがー?)

風音の疑わしげな視線にルイーズが「見てなさい」と言いながら、ルネイの方を向く。

「何かありますか、お母様?」

その言葉に確かにふたりは親子であると風音たちははっきりと理解するが、ルイーズは「ふふん」と笑いながら、横にいた秘書らしき女性を見た。

「ルネイ、そちらの女性をみなさんに紹介してあげたいのだけれども」

「? 意図が分かりませんが、私の隣にいるのは秘書のアンネ・キャンサーです」

そうルネイが口にするとアンネと呼ばれた女性は頭を下げた。耳がとんがっていてルネイとルイーズと同じエルフのようである。そして「キャンサー?」と風音が首を傾げる。

「ええ、彼女はルネイの奥さんなのよ」

その言葉に弓花が少しションボリする。春が過ぎ去っていくのを感じた。

「それじゃあ、ルネイ。先ほど、この部屋に私たちを連れてきた女性のことは?」

「彼女は秘書のキャサリン・キャンサーです。それが何か?」

不審げな表情でルネイが返す。その言葉に風音が「キャンサー?」とまたもや首を傾げるが、疑問符はそこで止まらなかった。

「今日、下で受付をしている娘についても話してもらいたいのだけれど?」

「今日の? そうですね。今日ですとレイ・キャンサーか、ミルーリ・キャンサーか、シズリ・キャンサーか、アミラ・ジョールか、それともハルエ・キャンサーの誰のことを言っているのでしょうか?」

もはや事情を知っているジンライとメフィルス以外の頭の中は「???」と疑問符でいっぱいだった。キャンサーの名字が異様に多いのである。

「ええと。このギルドってキャンサー家の人で固めているの?」

「ええ、そうですね。すべてではありませんが」

風音の言葉にルネイが頷いて返す。それはそれで事実ではあるが、それが一方的な見方でしかないのもまた事実であった。

「正確にはキャンサー家の人間にみんな変わってしまったというべきね。今のキャンサー姓の女性、すべてルネイの奥さんだから」

ルイーズの言葉にライルが噴いた。直樹もむせている。

「あ、でもひとりだけ姓が違う人もいたし」

風音はひきつった顔をしながら、先ほどの受付嬢の名前の中でキャンサーではない人物がいることを思い出して口にした。

「アミラ・ジョールは来月、この人と式をあげる予定です。キャンサー姓はその後ということになりますわ」

ライルがテーブルに突っ伏した。ルイーズもそれは知らなかったようで、アンネに同情の視線を寄せる。

「アンネ、息子が苦労をかけるわね」

その言葉にはアンネも苦笑しながら言葉を返す。

「いえ。好きでこの人といっしょにいるのですから。お気になさらずに」

その言葉にルネイが不満げな顔をするものの、それを口には出さなかった。ルネイは自分は気が多いことも、独占欲が強いことも、アンネに苦労をかけていることも理解している。それでいて自分の我が侭を許してくれているアンネに甘えてもいる自分を自覚している。

「すまんな」

「いえ」

そして、ふたりにしか聞こえないほどの小さな声のやりとりがあった。

「ちょっと待て。それじゃあ、この事務所ってまさか、この人のハーレムみたいなものじゃねえか」

ショックから抜け出てテーブルから起きあがったライルがそう叫ぶがルイーズが首を振る。

「みたいじゃなくて、ハーレムなのよ。主だったメンバーはみんな息子のお手つきだし」

「失礼な。仕事とプライベートは分けていますよ。お母様と違って私は真面目に生きていますから」

そうルネイは反論する。だがハーレム自体は否定しなかった。

「真面目ねえ。まあ、仕事一筋なのは事実だけど」

「プライベートでもこの人はこの調子ですけどね」

横でアンネがそう口にして笑う。

「む、やはり私生活ではもう少し砕けた方がいいのか?」

「あなたは変わらないでいいのよ。いえ、このままでいてちょうだい」

ルネイの険しい顔にアンネは首を振ってそう答えた。それを見ながらルイーズは苦笑いをする。

「この子だけは育て方を間違えたとしか思えないのだけれど、まあそういうことよ」

そのルイーズの言葉に、ともあれ風音も「うん、理解した」と返すしかなかった。

「ナオキにはああいう生き方もあってるかも知れない」

そしてルネイを見ながら呟かれたエミリィの言葉に、直樹と風音は「何言ってんだ?」という顔をしていた。

ちなみに直樹は(どういう意味だろう?)という疑問からだが、風音は(キモいから無理だし)という率直な感想からだった。何しろ風音は直樹が姉スキーに覚醒してからキモい姿しか目撃していない。キモい=直樹である。

そして風音は昔はかわいかったのになーと思いながら直樹を見る。そしてため息をついた。直樹はそんな姉の様子にさらに首を傾げるのだった。