軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百三十九話 王都に行こう

風音たちがショッピングを楽しんだ翌日、白き一団は惜しまれつつもシジリの街を後にすることとなった。ツヴァーラでの戴冠式までは残り一ヶ月を切っている。まだ余裕があるとはいえ、用事もないのなら先に進もうと意見はまとまっていた。

今回はハイヴァーンに向かったときとは違い、ヒポ丸くんとサンダーチャリオットでの移動である。前に泊まったカンタランの村に立ち寄らずとも王都には当日中に立ち寄れそうだったのだが、前に立ち寄った場所に再度訪れることも旅の醍醐味だろうとの風音の言葉によって、以前に泊まった宿に泊まることとなったのであった。

もっとも風音が前回、感動した黄金の小麦畑はすでに収穫後のようだった。なので、タツオに見せられなくて風音は少しションボリしていたが、翌日のゆっこ姉との再会にテンションは上々である。早くゆっこ姉に会いたいねーとしきりに話していた。

◎ミンシアナ王国 王都シュバイン 中央通り

「ああ、着いた、着いた。よし、ホテルとって今日はゆっくり休むよー」

王都シュバインに入って早々に超ローテンションで風音がそう口にした。

「いや、だからゆっこ姉に会う約束してんでしょうが」

「チッ」

風音が弓花の指摘に舌打ちをする。一国の女王様と会う約束をしておきながらブッチしようとするなど、さすがは白き一団のリーダーである……とは当然誰も思いはしなかった。昨日までとえらく違うリーダーの態度には戸惑ってはいたが。

「なあ、朝まではテンション高かったのになんであんなにやる気なくなってんだ、うちらの大将は?」

ライルが風音の変化に戸惑いながら直樹に尋ねる。

「あー、いや……なんか前にしたイタズラかなんかのことで今回キツく怒られそうだってのをついさっき思い出したらしくてさ」

直樹も具体的なことはよくは知らないが、要するにお通じメールについて話し合う日がついに来たという事である。

ゆっこ姉もここ最近のメール内ではそのことを完全スルーしていたために、すっかり風音も忘れていたのだ。だが、いざ考えてみたときにゆっこ姉が『アレ』を果たして本当に忘れる、もしくは水に流すだろうかと自問自答してみたのである。

答えは否である。

完全に話題にあげてないことがそもそも怪しい。罠と疑うのは当然。だが、風音がそこまでに思考がたどり着いた時にはすでに遅かったのである。

「お久しぶりです。皆様方」

街に入った風音たちの目の前で、団長ロジャー率いる王宮騎士団が白馬に乗って並んでお出迎えをしていたのだった。

風音の舌打ちが再度響いた。ぐぬぬといううめき声が聞こえた。

(……怒られたくない)

風音は今、必死で怒られないための策を考えていた。しかし現実は非情である。ロジャーの案内により、街を抜け、城門を通り、城の中へと通される。

風音が「こいつとか、日頃姉を変な目で見たりするくらい怪しいからちょっと調べるべき」と弟を指さしたが、残念ながらその言葉は無視された。「事実なのに……」と風音がブツブツ言っていたが、事実だからどうしたという話ではある。

なお、今回はプライベートでの謁見であるため、女王の間ではなく賓客室に風音たちは通されることとなった。お偉いさん方のいるところならば、下手に怒ることも出来ないだろうにと風音はゆっこ姉の策に驚愕せざるを得なかった。無論、ただの被害妄想である。

◎王都シュバイン 王城デルグーラ 賓客室

「お久しぶり」

風音たちが通された賓客室にはゆっこ姉が笑顔で待っていた。

風音が直樹を前面に押し出して盾にしているが、直樹は姉にひっつかれて幸せそうであった。ソレを見てゆっこ姉がため息をつく。

「変わってないみたいね、直樹も」

「え? ああ、モチロン!」

ゆっこ姉の言葉を直樹は良い意味に捉えたようで、グッと親指を立てて答えた。

(ああ、変わってない)

ゆっこ姉は実に残念な気持ちにあふれていたが、直樹はそれに気付かない。

「まあ、いいわ。風音、後でゆっくりふたりでしたいお話があるから、覚えておいてね」

「ごめんなさい。私はこの後、用事があって忙しいのです。ほら、有名パーティのリーダーなので」

ちなみに有名パーティのリーダーさんの次の予定はホテルにチェックインしてゆっくり休むことである。さきほど、本人がそう言っていた。

「大丈夫よ。何か用事があっても私の権力で握りつぶしておくから」

対してニコニコと微笑むゆっこ姉は権力者であった。1パーティのリーダーの用事を潰すことなど造作もないのだ。

「タツオくんもお久しぶり。お元気だったかしら?」

『はい。元気です。ゆっこ姉も以前よりもお元気そうで何よりです』

「あのときはずっと寝てた後だったしね」

(あれ、ゆっこ姉ってタツオと……っと、そうか。一度会ってるんだったっけ)

ふたりのやり取りに弓花が、ひとりで疑問に感じてひとりで納得していた。ゆっこ姉とタツオは、以前にゆっこ姉を目覚めさせた時に対面していたのである。

「まあ、聞きたいこと、話したいことはあるけど、ひとまずは椅子にかけて頂戴。落ち着いて話がしたいわ」

そしてゆっこ姉の言葉に従って、全員が全員席に着いたのである。ちなみにライルとエミリィはさきほどからガッチガチに緊張していて言葉も出ない。他国の女王様と直接会っているのだから当然ではある。ふたりの反応こそが本来は正しいのだろうが、実のところ、そんな彼らも次期ツヴァーラ女王や現神竜皇后と毎日タメ口で過ごしていたりしている。どうでも良いことだが。

「ま、聞きたいことがあるって言ってもほとんどは風音と弓花からメールで聞いてるんだけどね」

一同が席についたところで、ゆっこ姉がそう口にした。

ゆっこ姉は風音と弓花から、タツオも、浮遊島も、魔王のこともすでにある程度のことは聞き及んでいた。重要と思われる事柄はほぼ把握していたのである。

もっとも、それはあくまで風音と弓花からの視点での話。なので、ゆっこ姉は一同に対してこれまでの道中に対してのねぎらいの言葉をかけてから、それぞれの旅の話を聞くことにしたのである。

そしてシジリの街と黒い石の森にまで話が進むと、いよいよ風音の不滅のマントの中のことも話題に入ってきたのである。すなわち『竜喰らいし鬼軍の鎧』のことである。

ゆっこ姉も風音が不滅のマントで覆って鎧を隠していたことには気付いていたが、どうせ後で見れると思ってスルーしていたのである。しかし実物の『竜喰らいし鬼軍の鎧』を見てゆっこ姉もさすがに顔がひきつらざるを得なかった。

「なるほど……魔王になる気は満々という事ね。出来ればこの国の外で魔王になってほしいけど。具体的に言えば、ソルダードで」

「やだよ」

風音、即答である。

そんな風音の返答をスルーしてゆっこ姉は『竜喰らいし鬼軍の鎧』をじっくり見ながら、少し考えて、そして口を開いた。

「あーまあ、魔物素材製の武具が進化するのはこの際、しょうがないけれど、もうちょっと形を選んだ方がいいわね。さすがにそれは人の目に付きすぎるわよ」

そのゆっこ姉の言葉に風音が唸る。

「そりゃあ、どうにか出来るならどうにかしたいけどさ」

すでにこの形で進化しているのである。風音がどう指示しても鎧が再度変形することはなかった。

「多分、出来るわよ。どうにか」

だが、ゆっこ姉があっさりそう口にしたことで風音は目を丸くする。

「どうやって?」

身を乗り出して尋ねる風音にゆっこ姉はやれやれと言った顔で言葉を続ける。

「まあ、ゼクシアハーツだと変化系統は決まってたし、変化後に加工なんて出来なかったけどね。でもここはゲームじゃあない」

その言葉には風音も得心が行く。自分が常識だと思っていたことはあくまでゼクシアハーツでの常識。そうした違いが存在しているのも当然のことだと。

「確か、風音はアガトは知っていたわね」

そして納得がいった顔の風音にゆっこ姉が告げる。

「うん。マジリア魔具工房の工房長さんだよね」

「彼に一度見せてきなさい。多分、どうにかしてくれるから」