軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百三十八話 お金を受け取ろう

シジリの街冒険者ギルドの支部長であるモーロックは、先ほどまでの白き一団のリーダーとランクS指定冒険者との面談を終えたことでようやく肩の荷が下りたようで、ふうっと息を吐いてソファーにもたれ込んだ。

肝心の神託の魔王の件に関しては、たまたま助けてくれた以上のことは聞き出せなかったが、その件については自分が敢えて掘り下げる必要もないとモーロックは考えている。ギルドマスターと面会するのだから、何かあればそちらで掴んでもらうべきだろうと。

そして支部長室を出てモーロックが一階に降りると、そこは未だ戦場の真っ只中だった。

「ちくしょー。国一つ潰す量じゃないか、これ」

「当分は蜘蛛系の額はダダ下がりだな」

「バーネットの奴が毒にかかった。誰かッ解毒剤を!?」

すでに周辺のギルドからヘルプも呼んで手伝ってもらっているが、それでも対応しきれない量である。ともあれ、モーロックもこの冒険者ギルド事務所の責任者であるのだから、作業の進捗状況の把握は必要だった

モーロックの入室とともに職員が挨拶を交わそうとするが、モーロックはそれを手で制する。そして自分が来たぐらいでわざわざ作業を中断する必要はないと、そのまま作業を進めるようにと伝えた。

「どうかね?」

そしてモーロックは、その場のまとめ役の職員へと声をかける。

「あ、支部長。はい、順調です。素材そのものはほとんど同じものなので。今は状態の確認に入っています」

モーロックの質問に職員がそう返す。

「他にも上位のマドネススパイダーの素材や、マッドスパイダーが捕らえていたらしい魔物の素材や上質の黒水晶などもあって、そっちの鑑定もそれぞれ進めているところです」

「よくもまあこれほどの量を持ち込んだものだ。こんな大騒ぎはここ数年でもほとんどなかったな」

モーロックの言葉に職員が笑う。だが、運ばれる素材を見て眉を顰めた。

「しかし、これを見てると正直ゾッとしますよ。今はもう討伐されてるから良いものの、実際にマッドスパイダーがこの数いたわけですよね。連中があの黒い石の森に居続けていたら、黒水晶の産出は不可能となっていたでしょう」

「確かにそうだな」

職員の言葉にモーロックも深く頷いた。

黒水晶はこのシジリの街の貴重な資金源である。冒険者を雇って森に黒水晶を取りに行くことを生業としている採集者がこの街には多くいる。

だがマッドスパイダーを放置したまま黒水晶の採集など出来るはずもない。何しろ今回の蜘蛛騒動で、様子を見に行ったシジリの街のランクB冒険者たちがすべて殺されたか、または捕らえられていたのだ。

オーガ減少に伴い、主力の冒険者が街を離れていた時期であったにせよ、それなりに腕は立つはずの冒険者たちが、である。実際のマッドスパイダーの数以上に、群れのボスであったアラクネワイヤードという魔物の統率力が優れていたであろうことは言うまでもなかった。

「ミンシアナ王国軍が対応したとしても……そうだな。並の兵では1000人いても厳しかっただろうな」

そう考えれば風音たちは、そして魔王アスラ・カザネリアンは間違いなくシジリの街を救った救世主であった。

「それで、この街の英雄様は今はどうしておいでです?」

職員の質問にモーロックも笑って返す。

「さきほど、帰ってもらったよ。報酬が手に入ったら王都に行くと言っていたな。どうもあの話しぶりからすると元々ユウコ女王とも会う予定だったようだが」

「やっぱり普通の冒険者じゃあないってコトですか」

「そうだな」

女王と会う予定のある冒険者が普通のワケがないとモーロックも思う。

「ま、我々としては、早いところ鑑定を完了して、報酬を渡して気持ちよく送り出すべきなのだろうよ」

そう言ってモーロックは袖をめくり上げる。

職員だけに任せて、自分はのんびりというわけにも行かない。そしてモーロックも他の職員とともに鑑定作業に入っていったのだった。

その甲斐あってか、その日の夜には鑑定も無事完了。デスクワークの残っている一部の職員以外は、その日はぐっすりと眠りにつくことが出来たのだった。

◎シジリの街 冒険者ギルド事務所

「はい。これが依頼と討伐報酬となります。換金した代金もあわせて入っていますので、そちらのリストと合わせてご確認ください」

「うん。あんがとねお姉さん」

冒険者ギルドの支部長と話をした翌日、風音は冒険者ギルドの事務所へと来ていた。それはもちろん報酬を受け取るためである。そして応対した受付嬢は目に隈を作りながらではあるが、笑顔でリストと銭袋を風音に手渡した。

「ふんふん。綺麗に纏まってるみたいだね」

そして銭勘定を始めたチンチクリンに受付の女性がそわそわしながら声をかける。

「あの……その、ナオキくんは今日は一緒じゃないんですか?」

その言葉には風音も「なんだろう?」という顔をしたが、知り合いなのだろうと結論付けて、正直に答えた。

「弟なら今は宿で寝てるよ。今日の特訓でかなり痛めつけちゃったんでしばらくは動けないと思う」

弟という言葉と痛めつけたという言葉に「?」となってフリーズしている受付のお姉さんを置いておいて、風音はもらった金額と内訳のリストを見て内容の確認をしていく。

風音の予想よりも高額な報酬であったが、内分けを見ると、とりあえず入れてみたバンブーキノコや木の上で見つけた黒水晶などが高額の換金となっているようだった。

バンブーキノコがレア素材なのは風音も知っていたが、風音が木の上で発見した黒水晶も実は純度が高く非常に貴重なものだったようである。ちなみに黒水晶は樹液の塊で、薬にして煎じて飲ませたり、魔術の媒介などに使用する素材とのことだ。

そして金額とリストのチェックを終え、数字も一致していることを確認すると風音は書類にサインをして、無事お金を受け取ったのであった。受付の女性は、何か聞きたげだったが最終的にはなにも言わずに風音を見送った。

◎シジリの街 冒険者ギルド事務所前

「風音ーー。どうだったー?」

風音が事務所を出ると、外で待っていた弓花が声をかける。一緒にティアラとエミリィもその場にはいた。

そして弓花は風音に、近くで売っていた鳥の串焼きを差し出した。自分の分はもう食べ終わっているようである。その証拠が口元についているのを風音は発見した。

「ん、あんがと。あと、口にタレついてるよ」

風音がトントンと自分の口元を指さす。

「え、本当?」

そう言って弓花が取り出したのは銀の鏡。元々鏡としての質はあまり良くなかったのだが、風音のスキルでコーティング・ミラー加工を施すことでピカピカの高品位の鏡に生まれ変わっていた。

そして弓花がアイテムボックスから鏡とともに出したハンカチで汚れを拭いている間に風音も鳥の串焼きを食べてみる。

(甘いけど……醤油ダレじゃあないね)

なんだか分からないが美味い。現地の食べ物を楽しむのも旅の楽しみだろう。

それをウマウマと食べている風音の横にティアラがやってきて尋ねる。

「それでカザネ。報酬はどうでしたの?」

「うん。マッドスパイダーとマドネススパイダー素材は、大量に出ちゃったせいで換金額が微妙だったけど、他の素材がレアだったらしくて思ったよりも稼げたみたいだよ。一応、これを人数分で割る感じで行こうと思うんだけど」

風音がリスト表を見せると、ティアラも「そうですわね」と頷いた。それを横から見たエミリィが「うわっ」という顔をした。

どう見ても一回の討伐依頼で稼げる額ではない。それもそのはずで、黒い石の森で倒したマッドスパイダーの数は一般的な魔物討伐依頼での成果の数十倍はあった。その上、素材換金の何割かは風音が見つけたレア素材である。

それをあっさり等分で……という神経は正直どうかとエミリィは思うのだが、風音もティアラもお金にはあまり頓着はない。風音はあれば使うが、なければ使わない刹那の時を生きる少女である。ティアラもお姫様らしい金銭感覚のようである。ちなみに弓花も手に入れたお金をかなり貯めているようだが、実はそれも昔からの貯蓄癖に過ぎない。風音ほどでもないが弓花もそこらへんの感覚はあまり確かではないのは、毎日出る食事のクォリティからも明らかである。また他のメンバーも王族やそれに準じる者やらバトルジャンキーやらがメンツなので同様にお金に対してルーズな人間が多い。

この世界の比較的常識人であるエミリィとしては胃の痛い話である。そしてエミリィが意を決したように風音にそう問いかける。

「カザネ、やっぱり、等分ってのはどうかと思うんだけど」

「そう?」

エミリィの問いに風音は首を傾げる。

「うん。それで相談なんだけど。これ、私が一旦分けてみるから、それが適正かを後で見て判断してくれないかな?」

そう言うエミリィに風音は目をぱちくりさせるが、言っていることは理解できる。

「んー、了解」

なので、エミリィの言葉を風音はさらっと了承した。

そして、その返答を聞いてエミリィは心底ホッとした。もはやエミリィには、際限なく増え続ける自己資産にも、パカパカ大金を分けちゃう状況にも耐えられなかったのである。そして白き一団の会計係がここに誕生したのであった。

その後の風音たちは、この街の被服屋をいくつか回り、気に入った服等を買って過ごすこととなる。そして帰りに寄った道具屋にたまたまマナポーションの在庫があったため、風音はその場ですべて購入した。

エミリィが絶句するほどにマナポーションの金額は高かったが、魔力を大量消費する風音には命綱と成りうる可能性もあるアイテムでもある。

稼げているのだから購入しない手はなく、今回の購入により風音の手持ちのマナポーションは計4本となったようだった。