軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百二十二話 合意を取り付けよう

「あげるわけないでしょッ!」

風音がブーッと頬を膨らませて言う。大事な弟と、弟の友達と、ジンライさんである。風音は、早々にワケの分からないオカマに仲間をくれてやるようなファンキーな思考の持ち主ではなかった。

「ケチんぼめ。アンタらだけでイケメン囲ってずるいわよ!」

全く以て許し難いとマーゴはマーゴで怒っていた。わざわざゴミを女の子と言ってあげただけでも譲歩したというのに何故にこちらの要求をはねのけるのか。本当に女とは度し難い生き物だ……と。

「だったら少しぐらい味見させてなさいよ。ペロペロさせなさいよ。ペロリストさせなさいよ」

「うっさい!弟に近付かないで!!」

そして風音の拒絶は主に弟のためである。

普段、あそこまで弟をケチョンケチョンにしている風音だが、それはそれで愛情の裏返しともいえる。まあ気持ち悪いと思ってるのは本当だし、弟じゃなかったらただのゴミとしか扱わないと考えているのも事実だが、大事にしているのも嘘ではない。

しかし、その風音の様子にマーゴは交渉の余地ありと判断した。

「あらあら、弟って言うとこっちの黒髪の子かしら」

マーゴの視線に風音は無言で構える。そしてあのハイヴァーンの大公ライノクスを思い出す。弟をあんな悲惨な目に遭わせたくはない。見ただけで尻ネギが真っ先に連想されてしまうような、あんな悲しい運命を背負わせるべきではないのだと、風音は直樹のために睨みつける。

「まあ、一番おいしそうなのだけれど仕方ないわねえ。じゃあ弟くんはかえすわん」

その風音の気迫を感じ取ったマーゴは最大限の譲歩を口にする。

「私は、こっちのライルくんとジンライさんっぽい二人をもらってくわ」

だがそこでも風音のエヌジーが入る。

「ライルもだめ。弟の友達だし。あと、ジンライさんは」

「ジンライさん? まさか若返ったとは聞いていたけど」

マーゴは、若返ったジンライをまじまじと見る。以前に会ったときは50前後であったはずだが、今は30前後と言ったところか。まさか自分から食べ頃に戻っているとは。まさしく天がマーゴに味方したとしか思えない。ならばライルを返してもまだお釣りが来るのではないか。マーゴはそう考えた。

(まあ、夜の稽古も多いことだし……散々、やらかしてるし)

風音の脳裏にジンライとの過去の記憶が次々とよみがえる。そして今更ひとつぐらい性癖が増えても問題なかろうと風音は結論づける。

「あ、味見程度なら良し」

「良くないわっ!!」

風音の最大限の譲歩を聞いたジンライの意識が急速に復活した。

「あれ? ジンライさん?」

「うそん!?」

それには風音もマーゴも驚いた。実はマーゴが全速力で接近してきたのに気付いた風音は叡智のサークレットを誰かに付ける前にスキルを使って一旦隠れていた。そして不意を打って失敗したわけだが、まあ今は置いておこう。

ともあれ、これは自力での回復であった訳だ。そしてランクSのマーゴとしては自分の術が破られていたことに純粋に驚愕していた。

「えーと、ジンライさん。まさか私の術を解いたの? どうやって?」

マーゴが驚きの顔を崩さずにそう尋ねる。

それにはジンライは「秘密だ」とニヤリと笑う。一方で風音は、義手の方をジンライがチラチラ見ているのを観察し、術を解いた原因をある程度、推測していた。

「それにだな、マーゴよ。お前も悪ノリが過ぎるわ。カザネが冗談だと思わんだろうが」

「え?」「え?」

ジンライの言葉に風音が驚いてマーゴを見る。マーゴも風音と同様に驚いているように見えたが、しかしコホンと咳払いをしてマーゴが頷いた。

「ま、さすがジライドくんのお父さんね。すべてお見通しか」

肩をすくめて「やれやれ、敵わないなあ」と口にするマーゴを見て、風音は反省する。マーゴが本気で直樹たちに、達良の友達のJINJINの持っていた『日焼け少年と男性が抱き合っている表紙の同人誌』の中に描かれていたようなことをイタそうとしているのではないかと考え、風音は不安になっていたのだ。どうやら、目の前のオカマの冗談を本気と捉えてしまったのだと風音は勘違いをした。

「そっか。冗談だったんだ。ごめん、マーゴさん。ちょっと本気にしてた」

「いえ。分かってくれればいいのよ。こっちも大人げない真似をしてごめんなさいね」

マーゴが心の中で地団駄を踏みまくっていることに気付かない風音は、素直に謝罪した。よくよく考えてみると仕掛けたのはマーゴで、とんでもないことを口走ったのもマーゴで、風音は何一つ悪くない。だが、風音はロクテンくんの失敗以降に微妙に謝り癖が付いてしまっているようだった。

対してマーゴとしては「おいおい、待ってくれよ。マジでオーケー出掛かったのに、マジかよ。え、今からでもダメなの? やり直しとかないの?」という気持ちだったのだが、誤解で留まっているのだから、必死で心を静めざるを得なかった。良心が復活したのだ。愛のない夜の稽古は邪道。それをマーゴはようやく思い出したのである。

「それよりもさっさとみんなを起こしてくれんかマーゴよ。それとこんなことをした事情も聞きたいしな」

ジンライの鋭い視線にマーゴはハーイと言って、正気を失っているライルたちの術の解除に向かっていった。

「それにしてもジンライさん。よく自力で解けたね」

マーゴが術の解除をしている途中、風音がジンライにそっと尋ねる。そしてジンライは義手をスッと見せる。

「それはこれのおかげだな」

どうやら風音の予想通り、義手がなにか作用していたようだった。

「わずかだがな。見せられている幻覚の自分と、義手の動きにズレがあるのが感じられたのだ。術の影響下にない義手とワシの意識が繋がってることで違和感が生まれたのだろう」

もっとも最後の決め手は味見許可ではあったのだがそれはジンライは黙っていた。孫のように思っていた風音からそんな言葉がでるなんて悲しいジンライではあったが、普段が普段である。

過去に散々夜の稽古の話もイイワケしているので、そっちまで問題なしだろうと思われてもやむなしなのではないかとジンライも思ったのである。ジンライはそうではないが、戦士たちの中には両刀や衆道に走る者も少なくない。誤解を受ける下地もあった。

(ああ、ユッコネエと戯れたい)

そう現実逃避するジンライを余所に、仲間たちが次々と起き上がってきていた。

◎ムルアージの廃都 領主の館

「みなさん。お久しぶりです」

風音たちがマーゴに案内されて到着した領主の館にたどり着くとそこには白骨の死霊王ヨハン・シンプソンが出迎えてきた。

「やあ、ヨハンさん。オヒサー」

風音の挨拶に合わせて、白き一団の全員から挨拶が交わされる。

エミリィは若干ひきつった笑みだったが、普段から骸骨のジン・バハルとの特訓に明け暮れているライルは特に怯えるような様子はないようだった。

「前に比べると随分と綺麗になったねえ」

風音は外から見て、そして中に入ってみての領主の館の状態を見ながらそうヨハンに話しかける。

「以前にいただいた浄化の杖が僕と相性がスゴく良いみたいでね。都市の浄化も一段落したら、暇になったんでスケルトンたちにここらだけでも掃除させてたんだよ」

そういうヨハンの前をスケルトン兵がカツンカツンと歩いていく。

こうしたモノに対して死霊使いは、基本的には隷属した死霊の魂などを込めるものである。だが、それは必須ではない。実のところスケルトンやゾンビなどの操作そのものはゴーレム使いの術式と近い。死霊を入れるのは操縦者と燃料タンクの追加という二つの意味合いがあるのだが、ヨハンは風音のゴーレムのように制御プログラムを術式として組み込んで動かしているため、スケルトン兵に特に人の怨念が宿っているわけでもないようだった。

「そうそう、それよ。街全体が恐ろしく澄み切ってるのだけれど、これヨハンくんがやったものなの?」

ルイーズがヨハンに問う。怨念に滅びた街が今では清らかな廃墟となっているのだ。ルイーズから見て、それはとても驚くべき状況であった。

「ええ、自分で言うのもなんですが、僕の神聖魔術は想像以上の威力ですよ。まあ、それが原因でマーゴさんに護衛していただくことになったのですけれどね」

そうヨハンは憂鬱そうに笑った。そしてヨハンは現在の状況を語り出した。

ことの始まりはハイヴァーン公国での『東の竜の里襲撃事件』であったという。