軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百二十一話 スキップをしよう

そこはただの廃墟だ。かつてのように重苦しい空気こそないが人の住んでいない空虚な街だ。ムルアージの廃都と呼ばれた場所はただ静かにその場にあった。

風音は転がった建造物の破片に腰を下ろすジンライに、石畳に転がるライルと直樹とエミリィ、枯れ木にもたれているルイーズとメフィルス、タツオ、そして見えない何かを触るパントマイムをしている弓花を見て愕然としていた。

とりあえずほぼアヘ顔の弓花の両手をピースさせてみて「いえーい」と言って満足した風音は再度驚愕した。

「なに、これ?」

最初、風音は直樹たちが筋肉的な単語をやたら口にするのでもしかすると筋肉好きの自分に対する何かしらのサプライズの為のフリなのではないかと思ったのだが、どうやら本格的におかしい状態のようだった。弓花をダブルピースしたのも冗談でやってるかどうかの確認のためである。遊んでたわけではありません。違います。

「ふーむ」

そして風音は考える。見た限りの感じでは、全員がかかっているのは精神系のスペルかスキルだろうかと。風音自身は叡智のサークレットの『幻術無効』・『精神系状態異常防御』と、ピンチの中で己が開眼したと勝手に解釈している『精神攻撃完全防御』スキルにより、その手の術はいっさい効かない。

また叡智のサークレットの『幻術無効』は光学系の幻術であれば、幻術として認識はするが幻術自体を見ることは出来るはずなのだ。しかし、風音には弓花たちの見ているものの確認すら出来ない。つまりはこれは精神感応系の幻術のようである。

(誰かに叡智のサークレットをはめてみれば目覚めるかなあ)

『精神攻撃完全防御』スキルだけで対応できるのであれば叡智のサークレットを外しても問題はないはず。なので、別の誰かにサークレットを装備させようかと風音が考えていると、『犬の嗅覚』スキルがこれから先に進もうとした方向から誰かがやってくるのを感知した。

敵意はなさそうな匂いに風音が目を細める。相手はどうやら人間のようだった。

**********

「タランタッタター」

鼻歌がその男の口から漏れる。細身に見えるがその実、極めて強力に鍛え上げられた肉体を持つ男が廃都をスキップしながら進んでいく。

それは遠くから見ても気付くくらいの派手目な格好に、その顔もアイシャドウからルージュなどと丹念に化粧が施されているようであったが、長身でガタイの良い、明らかに男にしか見えない男であった。

190は超えるガタイの、化粧をした派手目な服の男がスキップをしながら歩いていくのである。怖い。

それは、名をマーゴ・ベルベットというランクS冒険者として知られる男であった。彼はハイヴァーン公国から依頼を受けて、二日前にミンシアナのこの廃都まで来ていたのだ。そして今日、罠にかかった獲物が出たのを感じ取り、それを確かめに歩いていたのである。

「タランラー」

まるで羽のように軽くマーゴは飛び上がり、そして崩壊しつつある建造物の上に一気に登って、そのまま走り出す。かかった獲物の位置が正確につかめたのだ。

(あらあら。この気配、人間さんじゃない。となると狙ったのとは別かしらねえ)

そんなことを思いながら、マーゴはいくつもの建物の上を飛び越えて、かかった獲物のいる路上の前の建物へとトンッと忍び寄る豹のように飛び乗った。そして静かに獲物たちの様子を観察する。

(男の子が三人……あらまあ。いいわね)

ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。すでに全員がマーゴの術下にある。であればとマーゴの心が震える。この世界において法というものは基本的に街の中や村の中などの人々の生活圏の中に適用されるモノである。そこから出てしまえば基本的には治外法権。なにをされても文句は言えないのである。

例え、いたいけな少年が街道上で襲われても、それを法に問うというのは難しい。無論、その地の領主の裁量で罰などどうとでもなることではあるのだが、ともあれ、ここは廃都。人の手を離れた場所であり、弱肉強食の世界であり、そしてここは強者であるマーゴが法であるのだ。

そうしてマーゴは、全員の状況を確認した後、己の肉体への賛美を共感させる術『 筋肉の森(マッスルフォレスト) 』にかかっているのを確認するとフンワリと、まるで羽のように地面に降り立った。おいしそうな男の子三人に、黒竜の子供とグリフォンの子供が一体ずつ、そして無駄に胸に肉が付いているゴミが四つ。

「あんら、どこかで見た顔と思ったらライルくんじゃないの」

そしてマーゴはその中に友人の息子がいるのを発見する。あまり肉の付いていないゴミもよく見れば友人の娘だった。まあそちらはどうでも良い。所詮マーゴにとっては女=ゴミなのだ。

それは、女が滅べば世界は男しかいなくなると言うのにどうして女など存在しているのだろうかと真剣に悩むほどである。そして何故、彼がこうも女を憎むのかと言えば、彼の愛する男たちは皆、女に奪われたからである。いつだって女はマーゴから大切なモノを奪っていくのだ。故にマーゴにとって女とは敵なのである。

だが、同時に女を絶やすことはマーゴには出来ない。彼の愛するジライドがゴミとくっついてしまったとき、マーゴは人生において三十八度目の女抹殺宣言を口にした。しかし、生まれたライルを見て、女を絶やすということはライルのような男の子が産まれなくなることだと気付いてしまったのだ。そしてマーゴはその場で崩れ落ちて涙したのである。

マーゴとはそうした心の中の二律背反を抱える悲しき愛の狩人であり、かつて男に存在したという伝説のヤオイ穴を復活させ、いつの日か男と男が手を取り合って子供を産める世界を作りたいと切に願い、その方法を探求し続ける衆道者なのである。

ちなみにハイヴァーンにいるのも、ハイヴァーンの神のノーマンが男の子であるからだった。

まあそれはそれとして、愛する親友の愛する息子が目の前にいる。その事実にマーゴの心は激しく高鳴る。

(なんで、ここにいるのかは分からないけど……ヤレる!!)

グッと拳を握るマーゴ。だが、マーゴは気付いてしまう。建物の破片に座っている男が、愛しのジライドによく似ていることに。マーゴの喉がゴクリと鳴った。

(ライルくんの親戚かしら。しかし術には掛かってるようだし……ヤレる!!)

再度グッと拳を握るマーゴ。だが、マーゴはさらに気付いてしまう。ライルとともに地面に転がっている黒髪の男の子がこの中で一番顔の整ったイケメンであることを。

(イケメン……ヤレる!!)

マーゴは錯乱していた。ライルを見て己の中の良心と欲望を 秤(はかり) にかけたマーゴであったが、ここに来て三連発を喰らい、もはや良心が吹き飛んでいた。それは例えるならば理性の吹き飛んだ 獣(けだもの) である。なのでマーゴは手を合わせて、こう言うしかなかったのだ。

「よっし。それじゃあ、いっただきまーす!!」

「いただくなーーー!!!」

ドムッという鈍い音がした。

そしてマーゴと風音の双方が、互いに驚く。

マーゴはもちろん自分の認識外から突然現れた風音に驚き、風音はスキル『インビジブル』と『光学迷彩』で忍び寄ってからの蹴りを(殺すつもりはなかったとはいえ)、本人に当たる前に何かにぶつかって止められたことに驚愕していた。

(むっ!? 不可視の壁?)

風音にはなにが起きたのかは分からなかった。だが、何かで防がれたのは間違いない。そして『空中飛び』で地上に着地せずに再度蹴りを放つが同じ事だった。その様子をマーゴは見ながら呟いた。

「ふん。胸はない……けど女の子なのね。ざんねーん」

「残念じゃないもん!」

風音はそう言って反論するが、残念である。胸が、ではない。そちらも残念かも知れないが、マーゴにとって目の前のチンチクリンは女である以上はゴミであるも同義なのが非常に残念だったのだ。

「あなたくらい勝ち気なのが男の子だったら食べちゃいたいくらいけど、女の子じゃねえ」

まあ顔は悪くない。いずれこの顔に近い男の子が産まれるならば生かしておく価値がないわけではない。無論、男同士で子供が産まれるようになるまでの代理存在としてではあるが。なので、マーゴは風音にこう提案した。

「どうかしら。ここはひとつ、女の子を帰すから男の子を私にくれるというのは?」

「断るっ!!」

当然の反応だった。