軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百九話 確認をしに行こう

リザレクトの街に着いた翌日、風音達は定例の早朝特訓を街から離れたところで行っていた。

「あっはっはー、私の勝ちだーーー!」

「おのーれーーーー」

その場でブハーと息を吐きながら勝利の声を上げたのは風音。疲れ切って恨みの声を上げたのはジンライである。つまりは模擬戦で勝利を納めたのは風音であった。

この模擬戦では風音はロクテンくん阿修羅王モードを使用していた。それも『魔王の威圧』の視線モードにより『物理現象』にまでなった圧力をかけながらの『天翼八斬』と名付けた六刀流+蹴り+天使化の攻撃をジンライに仕掛けたのである。それはジンライの要望通りの全力攻撃であり、ジンライは最終的に気力体力を使い果たしてのダウンという形での敗北となっていた。

とはいえ手が二つしかないジンライが八つからなる高速かつ重量級の連続攻撃を前にそもそも5分も粘れるという状況が成立することの方が異常ではある。

「何したんだジンライ師匠は?」

「いや、サッパリだ。散った火花しか見えなかったんだが」

同じく近接戦闘をメインとする直樹とライルにはまったく理解が出来ないようであった。昨日のことで冷戦状態であるはずの二人がそのことを忘れて会話をしている。

「なるほど、私が勝てぬワケか。攻撃する側よりも早く突き出しておるわ」

「弾いた刀をすべて別の刀にぶつけてますし、一回二回ならともかくノーミスで凌いでますねえ。ひどいものを見た」

ライルの特訓に呼ばれたジン・バハルと弓花はその戦いの内容を辛うじて理解は出来ていた。しかし、それもジンライが風音の動作を読んで先手を打ち続けつつ、弾いた刀をぶつけ合わせることで辛うじて均衡を保たせているのが分かったぐらいである。

ジンライのその神懸かり的な読み、スキルでいうならば『未来予測』と呼ばれる洞察眼は阿修羅王モードと一度対戦を行い情報を得たことで、さらに鋭くはなっているようだった。しかし、それでも保たせられて5分である。このまま続けていけばその時間も延びていくかもしれないが、ジンライ側に決め手となる勝ちの要素が見えない時点で、粘れるか否かという状況に陥ってしまっている。

「ぬう。アレさえ使えれば、或いは……」

「いや、止めてよね。そこまで命懸けるつもりはないから」

ジンライの言うアレとは英霊ジークの名付けたオリジナルの槍術『 一角獣(ユニコーン) 』のことであろう。

現在もジークとの戦いの感覚を頼りにあの技の完成度を高めているジンライがあれを放てば、阿修羅王モードを突き抜け風音に通る可能性は高い。それどころか恐らくはそのまま命まで奪う危険性もある。風音のカザネ・ネオバズーカと同様に当然特訓で使って良いものではなかったのだ。

ともあれ、勝利は風音のものである。今回の戦闘は全力5分で魔力消費量は200ほど。弓花が加わらなければ、ロクテンくん阿修羅王モードの優位は今のところ保てている。

「まあ、コスパはそこまで悪いとは言えないか。戦いどころ次第かなぁ」

すでに第六天魔王モードの二本腕のブラックな姿に戻っているロクテンくんから降りた風音が呟く。元々の風音の戦闘スタイルがそこまで魔力に頼ったものではないこともあり、阿修羅王モードが限界に来ても戦闘自体は継続できる。上位の魔物と渡り合う時には頼もしい味方となるはずだった。

その横ではジンライが唸っていた。

「ワシにもあと腕が二本、いや一本でもあれば勝利は見えるのだがな」

「サイドアームみたいな簡単な命令を効くヤツや最初に命令を仕込んだヤツなら作れるけど、義手は元々持ってた腕の感覚を使うからねえ。ジンライさんの技量について来れる追加の義手ってのは正直無理だよ」

「うぬぅ」

いくらスキルを手に入れたからと言って風音の六刀流はパワーとスピードこそあるものの技量そのものは高いとは言えない。それでもジンライが負けるのは単純な手数の差であった。それを補えれば……というジンライの認識は正しく、事実としてジンライに弓花が加わった場合には阿修羅王モードでも勝利は難しくなる。

「まあ、互角ではやれてるのだ。いずれどうにかしてみせよう」

クックック……と嬉しそうに笑うジンライに風音は「うわぁ」という顔になる。当面は風音もジンライの特訓に付き合わされることになりそうであった。

**********

「そうだ。風音、これから用ある?」

早朝訓練終了後、タツオとスキンシップを取っていた風音に弓花が声をかけてきた。ティアラも一緒にいる。

「どったの?」

風音の頭の上でタツオがくわーと鳴いた。

「んー、昨日、闘技会の興行の人と私が話したらしくてさあ」

「らしい?」

いきなり不穏なことを言う親友である。

「ほら、昨日の私ってちょっとボーッとしてたところあったから」

話した内容も覚えていないのだから、一般的に言ってちょっとではなかったと思われる。昨日のジンライとのやりとりの後に追い打ちで 血染めの狂戦士(ブラッディベルセルク) の問題にぶつかった弓花の精神は大変不安定であったようである。一緒にいるティアラも弓花の言葉に付け加えるように口を開く。

「わたくしも気付いたときにはもう興行の方と話し終わったところで、ユミカは『こんな私で役に立てるのであれば』と言って別れてたんです」

なんでも弓花を落ち着かせるためにひとりにさせていたところに声がかかっていたらしい。

「本当に何話してたかも覚えてないの?」

「昨日の私には泣いてる子供の姿しか映ってなかったのよ」

眉をひそめる風音に弓花が悲しそうにそう返した。

「さきほど、わたくしが昨日のことを聞いて思い出したくらいでしたの」

困った顔の弓花とティアラである。当然風音も困った顔である。タツオは母上ならば万事解決出来ると思っているので特に困ってはいない。信頼が重い。

「そんで、私にどうしろと?」

「まあ、結局何を話したのかをね……聞きに行くんで、ちょっと一緒に来て欲しいかなーって」

どうやら不安らしい。現在の 血染めの狂戦士(ブラッディベルセルク) さんのハートはガラス細工のように壊れやすく繊細のようだ。

「んー了解。そんでいつ行くの?」

「今からッ!」

さっさと不安を解消したいのだろう。風音の問いに弓花が力強く答える。

そして風音は、ゴーレムメーカーでシャワールームを作成し、水珠で水を用意して汗を洗い流したあとタツオに黒竜偽装用装備を『武具創造:黒炎』で造って纏わせて街に出掛ける準備に入った。

ちなみにタツオが偽装している黒竜の子供は確かに珍しいが、そんなのを連れているのは竜騎士契約をしたものだけだろうし、子供の竜の素材的価値も大して高くはないそうである。それ目当てで白き一団に喧嘩を売るバカはいないだろう……と、昨日に聞いたところブリックも答えていた。

◎リザレクトの街 中央闘技場近辺

「にゃにゃにゃー」

ご機嫌で街中をゆっさゆっさと歩くユッコネエにタツオと風音が乗っている。

魔力回復のために呼んだユッコネエだが、早々にユッコネエはタツオを背に乗せていた。その上でタツオが『母上もー』とせがんだのでやむなく風音も乗ることになったのだ。ユッコネエの作戦勝ちである。

その横には弓花とティアラが並んで歩いている。普段であれば目立つことにネガティブな反応をしめす弓花だが、今は視線が風音たちの方に注がれるのはありがたかった。

「そんで、やっぱり何を話したか覚えていないわけ?」

闘技会関係の事務所のある中央闘技場へと歩きながら風音は再度弓花に尋ねる。昨日の闘技会興行の関係者との会話がなんであったのか、未だに謎なのである。無茶な要求をされないようできる限り内容については知っておきたいのだが。

「私が役に立つ話だってのは覚えてるんだけど」

しかし弓花には、その記憶が掘り起こせない。昨日はポンコツだったのだ。

そして悩む弓花の横でタツオが風音に声をかける。

『母上ー』

「何、タツオ?」

『この通りの周辺に描かれている人の顔はなんでしょうか?』

そう口にするタツオの視線の先にはゴツイスキンヘッドの男が描かれた紙がペラペラと貼られていた。

「んー、大闘技会以降の闘技会で無敗を誇ってる人だって書いてあるねえ。名前はバロック・ジーニアスっていうんだってさ」

『お強いんでしょうか?』

「さあ?」

当然風音は知らない。しかし昨日のブリックたちの話題に上がらなかったところをみると超越した強さの持ち主とかそんなわけでもないだろうと風音は考えた。

『あんな禿げてる人よりも母上の顔が貼られている方が良いのに』

「いや、あれは剃ってるだけじゃないかなぁ。多分だけど。それに私はもういいや」

大闘技会中は優勝候補として風音も同じように貼られていたのである。そして、そんな風音たちの会話によって過去の記憶が揺さぶられた人物がいた。それは弓花である。

「バロック? あれ、それって」

「弓花、何か思い出した?」

風音の言葉に「えーと」と唸ってる弓花だったが、突然の声にその意識を奪われる。

「白き一団の活躍など連中が吹聴した大げさな与太話に過ぎない」

いきなりの大ボリュームの声の中に見知ったワードの中が聞こえてきて、弓花以外の二人プラス一匹もそちらに視線を向けた。