軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百九十六話 波動を感じよう

◎大竜御殿 客間

「ライノクス、そういえばお尻は大丈夫なの?」

「お婆さま、大丈夫とは言えませんがこれでも鍛えてますから。あの程度、どうということは……」

ルイーズの問いにライノクスは苦笑いしながら、そう応えた。ちなみに鍛えると言っても括約筋のことではない。体を鍛えているという意味だ。括約筋の力は人並みである。念のため。

なお、ライノクスはルイーズの孫だが、母親もエルフ族なのでかなりエルフよりの混血と言うことになる。だがハイヴァーンにはエルフ族があまり多くはなく、したがってライノクスも長命種ではあるが基本的な認識は大体人族と同じだと言っても良い。なので目の前の美しい女性が自分の祖母というのは感覚的にピンとこない。むしろ 親友(ジンライ) の元恋人という印象の方が強かった。

「そう? あなた、エリーシュに似て無理しそうなタイプだから気をつけなさいね」

そう言ってライノクスの頭を撫でるルイーズはいつもの『男を見る顔』ではなく、家族として接する顔になっていた。ちなみにエリーシュとはルイーズの息子にしてライノクスの父親の名である。直樹のマザコン版といえばだいたい合ってる。

(まあ、美人だしな。父上がイカれるのは無理もないが、しかし祖母って言うのはこういうのじゃないと思うんだが)

ライノクスは少し照れながら鼻をかく。そして童貞故の悲しさか、血のつながりはあってもその圧倒的な存在感を放つ胸をつい見てしまう。まあ童貞じゃなくても見てたと思われる。それぐらいにはルイーズの乳とは素晴らしいものだということだ。

「ダーメよ」

その 童貞(ライノクス) の視線など百戦錬磨のルイーズには当然まるっとお見通しである。ライノクスが「ぐっ」と唸って顔を背けたのをルイーズは「ふふん」と笑った。それは息子の部屋からエロ本を発見して「タカシ(仮)もそういう年頃なのねえ」としたり顔をしていた母ちゃんみたいな笑顔であった。

「なんだか俺、大公様と距離が縮まった気がする」

ルイーズとの距離感に戸惑いながらも巨乳に目がいってしまう自分の国のトップを見ながらライルがそう呟く。完璧すぎて近寄りがたいよりは、少しぐらい欠点があった方が親しみが持てて良いのである。童貞も個性だ。そう 童貞(ライル) は考える。

「ノーコメント」

しかしライルの横にいるエミリィは無表情でそう返した。少なくとも今回のことでエミリィの中の大公の好感度は1ミリたりともプラス修正はされていないようだ。男とは感じ方が違うのだろう。

(……あれはナシだわ)

そうエミリィが呟いたのが誰の耳にも届かなくて本当に良かった。

「それよりもナオキがいないみたいだけど、どうしたのかしら?」

「ああ、ジイさんと弓花がどっか連れてったみたいだけど」

エミリィの問いにライルが答える。神竜帝の間で拘束されたまま、どちらかへ連れて行かれたようだ。

「ユミカと……けど、おジイ様もいるんなら、まあいいか」

そう言って一瞬眉をひそめたエミリィが頷いた。相変わらず弓花への警戒心は高いようである。

「そういえば兄さん、私さっき気が付いちゃったんだけどさ」

「なんだよ?」

エミリィの笑みに不気味なものを感じたライルが首を傾げながら尋ねる。

「ナオキって実はシスコンかもしれないわ。ナーガ様とカザネのやりとり見て、ムスーッとしてたし」

「は?」

ライルは思わず声をあげた。それはあまりにも妹の言っていることが意外だったからだ。

「あ、その反応。もしかして知らなかったでしょ? もう、兄さんってホント鈍いわよねえ」

いや、ライルが驚いたのは、そうではなく、今の今まで気付いていなかった妹の脳内に驚きを禁じ得なかったためである。だというのに、まるで妹は自分が大発見をしたというようなドヤ顔で兄に報告したのだ。恋が盲目すぎてライルは眩暈が起きそうだった。

「前々から少しはそうかなって思ってたんだけど、ほら、そういうのってナオキのイメージに合わないし、普段は顔にも出してないでしょ」

直樹はポーカーフェイスというパッシブスキルを常時使用中なので、顔に出してないのは事実ではある。だが、それは置いておいても普通は気付きそうなものだが、直樹への恋愛補正がそれを許さなかったのだろう。そしてライルは「ハッ」と口元をゆがめてため息を付いた。

「ちょっと、兄さん。なによ、その顔?」

「いや、なんでもねー」

そしてライルは、おっぱい大きな彼女欲しいなーと思ったという。現実から逃げたのだ。

ちなみにそんなエミリィの思い人は鼻を垂らしながらガン泣きで「ほら、竜族ならエロいのとかないしナーガ様は基本安全牌だから。ね、師匠?」とか「そ、そうだな。清い関係なのだから、基本お前と同じ立ち位置だ。間違いない」などと槍使いの師弟コンビの説得を受けていた。

だが、直後の巨大な魔力の波動に、その説得も一旦停止となる。

それは先ほどまで直樹たちのいた、今も風音たちがいるはずの神竜帝の間から発っせられた。直樹は風音のことを叫びながら、部屋を飛び出した。そしてジンライと弓花もそれを止めることもなく、後に続く。なんとも攻撃的で荒々しい気配。そんな恐るべき存在がそこにいると、彼らに告げていた。

◎大竜御殿 神竜帝の間

「姉貴ぃっ!!」

最初に部屋に突撃した直樹は、そこには床に這いつくばっている巨大な、紅に染まったドラゴンがいるのを目撃する。そしてその目を見て直樹は固まった。

視線はこちらを向いてはいない。しかし、その凶暴な光を宿す双眸は人の本能の根元にある恐怖を直に呼び覚ますように感じられた。そう、直樹ははっきりと感じた。これは自分たちとは違う異質な化け物だと。

それは全身を赤く染め上げた、まるで紅玉で出来た20メートルほどのドラゴンだった。身体から発する紅の光は脈打つように点滅しており、禍々しいと言っても良い魔力の奔流がそのドラゴン周辺に渦巻いて魔力風を生んでいた。

「カザネ、ナーガ様ッ! なっ、これは!?」

「赤いドラゴン?」

直樹に続いて、部屋に入ったジンライと弓花もその圧倒的な存在を見て、足が止まる。さらには、アオや護剣の四竜である西白候ビャク、ライノクスやライルたちも遅れてやってくる。

そして皆、その竜を見て驚愕していた。しかしその赤いドラゴンの威圧に当てられた中でも、アオや他の竜族たち、またジンライやライノクスは、すぐさま自分を取り戻し、それが誰なのかに気付く。

それは確かに色が変わり僅かに変形もしているのだが、その姿形は元々のものとはそれほどの違いはない。であるにも関わらず、目の前のドラゴンをそうであると気付けなかったのは、魔力の質が大きく変動していたが故だ。身に纏う気配がこれまでとは明らかに違っていたのだ。

と、そんな緊張している一同をよそに『赤く変質した』ナーガの胸元から風音とタツオが出てきた。

「よーし、上手く繋がったみたいだねー」

風音は仕事をした満足げな顔でナーガに声をかける。そして周囲の様子など気にした風でもなく、というよりも気付いていないナーガが声を出す。

『これは 漲(みなぎ) るな。東方からとりよせた 老酒(らおちゅう) を飲んだときのような気分だぞカザネよ』

「気分は大丈夫? 酔ったままみたいな状態が続くようだとよくないよね?」

『いや、一時的に肉体が変化と共に活性化しておるだけで、特には問題はない。ここ最近に比べると一段階ギアがあがった感じではあるがな』

『父上、凛々しいです!!』

レインボーハートがなくなった後のナーガしか見たことがないタツオが初めて見るナーガの活性化した姿に感動している。

『ふむ。そうか。そうであろうタツオよ。我も久方ぶりに気力が満ちあふれておるわ』

ナーガが満足そうに笑う。ようやく父親としての威厳ある姿を見せられたとでも考えているようである。

ゴホンッ

そんなドラゴン一家に、咳払いが聞こえた。それはアオのものだった。そして三人はようやく部屋の中に入ってきていたアオたちに気付く。

「あれ、みんな、どったの?」

その風音ののんきな声に一同から空気が抜けたような声が漏れる。

「とりあえず、ご説明願えますか風音さん」

そして頭を抱えながらアオは風音に尋ねたのだった。今この場でなにが起きたのかを。