軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百五十九話 大樹に向かおう

◎ハイヴァーン王国 天空街道

「おお、大きいなあ」

サンダーチャリオットの窓を開けて風音が正面の空を見ていた。そこにはもう随分と近くまでに迫った巨大な空に浮かぶ島があった。それは改めて見ても元の世界にはない幻想的で壮大な光景だった。

「まあ確かにさすがにこれは見事だわ」

「本当に信じられない光景ですわ」

弓花とティアラもソレを見て感想を述べる。ハイヴァーンに暮らしていたライルたちにしてもそれは気圧される光景のようだった。

『あれ、なんで浮かんでるんですか母上?』

「んー確かでっかい浮遊石が中心にあるんじゃなかったっけ?」

風音がゲームの中で得た知識を口にすると、ジンライも「そうらしいな」と御者席から答える。あの島は完全な未攻略ではないので、多少は外部にも情報が知れ渡っている。またプレイヤーもゲーム中でメインシナリオを進めていけば必ず入る場所なので、どういった場所なのかはそうしたプレイヤー情報で流れているのかも知れない。

「でもドラゴンイーターがいるんだもんね。飛竜ぐらいしか行く手段ないのに、その先に天敵がいるんだから厳しい話だよね」

「ドラゴンイーター? そんなものがあの島にいるのかい?」

風音の言葉に一緒に同行しているクロエが驚きの顔で尋ねてきた。

「うん。秘密みたいだから黙っててね」

ドラゴンイーターはドラゴンにとっては天敵だが、他の種族にとっては寄生されないのだから危険度は取り憑かれたドラゴンと同等程度である。十分驚異的ではあるが対処できないというわけではない。

ドラゴンイーターの種子を戦闘中に投げつけたからといって一粒や二粒ではドラゴンに寄生させるのは難しいし、戦闘外で植え付けて寄生させたからといって誰に従うわけでもないので対ドラゴン用に活用しようとしても難しい。だが、東の竜の里のような場所を害しようとするのであれば別の話となる。それはハイヴァーン等の竜騎士たちにとっても同様だ。

なのでドラゴンイーターの情報はハイヴァーン王国内では広めてはならないし、ある種の禁忌となっていった。

「なるほど。あの島にいった人間がいるのに島の中の話があまり広まっていない理由が少し分かった気がするよ」

クロエが嘆息する。

「あの島には竜族とは別の野生種の飛竜も生息しているらしいんだよね。例え駆逐しても種子が残ってればまたそいつらに取り憑いて増えちゃうし、厄介な相手だよ」

竜族の天敵があの島にいるということは、旦那様や息子のことを考えると風音も嘆息したくなる話だ。とりあえず今回の探索でつぶせる限りは潰しておきたいというのが本音ではあった。

「ところで、ここまで近付いたということは、そろそろ目的地なんじゃないのクロエ婆様?」

エミリィの問いにクロエは頷きながらある一点を指差した。その先は森があった。そしてその森の中に巨大な大木が一本立っていたのだ。

「レーゲンの大樹だな。15の成人の儀に向かう大木だ」

ジンライが懐かしそうにそれを見る。その大木はこの周辺の村の若者が成人となる15歳の年に向かうことが決められている一種の聖地である。

「罰当たりにもあそこにグリフォンどもが住み着いているのさ。下手すると闇の森の魔物が来るかもしれないからさっさと仕留めておきたいんだけどね」

忌々しそうに語るクロエに風音が反応する。

「闇の森?」

その風音の問いにはジンライが答えた。

「浮遊島の真下にある森のことだ。この地域は魔素が薄いが、あそこだけは別でな。浮遊島へ引き上げられる魔素が集中して、エラく強い魔物が出没しておるのさ」

「そんなのがいてここら辺って大丈夫なの?」

風音のもっともな問いにはクロエが答えた。

「闇の森の魔物ってのは濃い魔素の中でしか生きられないから普段は滅多にこちらには出てこないんだよ。だけどそういうやつらにとってはグリフォンなんかはちょうど良いご馳走らしくてね。今回みたいに浮遊島の魔物が降りてくると、ソレを追って闇の森の魔物が出てくる場合もあるのさ」

何かフラグが立った気がしたが、とりあえず風音は「ふーん」と返した。

そして一行は天空街道から途中の小道へと入る。ここから先は道も狭く馬車が通れない。風音が人数分の追加のヒッポーくんを作ろうとしたが、目的地までそう距離はないようなので、ジンライの言葉によりとりあえずは徒歩でレーゲンの大樹へと向かうことになった。

◎レーゲンの森

「あー、こういう道中も久しぶりだなあ」

風音が小道を歩きながら、そう口にする。

「まあほとんど何か乗って移動してたしね」

それに弓花が返答する。

「俺なんてずっと徒歩が基本だったけどなぁ」

とは直樹の言葉。冒険者のフィールドとなる森やダンジョンは普通の馬では移動出来ないし、街から街への移動手段として考えても自分で馬を買うよりも馬車に乗せてもらった方が安上がりである。

それなりに大きいパーティともなれば馬車の購入もありだが、直樹たちのパーティの規模ではそこまで必要ではなかったのだ。

「恐ろしく贅沢なのよ、このパーティは」

エミリィが苦々しく口にする。ここを離れた場合に元の生活に戻れるのかが激しく不安である。生活水準というのは上がってしまうと下げるのが中々難しいのだ。挙げ句に借金まみれで死んでいく没落貴族などはざらにいるのをエミリィたちは知っている。

「あれ? さっきの馬車もシンディんとこの孫だからそういうもんなのかなって思ってたんだけど違うのかい?」

クロエが疑問に思って、そう尋ねる。クロエは都会の名家は凄いものだと思っていたようである。

「いや、こちとら少し前まで普通の冒険者だったんだぜ。白き一団が……というよりカザネがおかしいんだよなあ」

ライルは一緒に歩いているタツヨシくんノーマルを見て言う。ちなみにタツヨシくんノーマルだが、現在は竜骨槍以外に背丈ほどもあるタワーシールドを装備している。ライルに貸し出す際にチャイルドストーンは出力の高いものに変わっているし重装備を身につけてもまだ余裕はある。

ライルがタツヨシくんをガードに利用することが多いので、ディアサウスで手頃なものを選んで購入し装備させた後にカザネが水晶化をかけたのだ。

ちなみに風音の『水晶化』を最高レベルのクォリティで掛けた場合、鋼鉄よりやや硬め、魔力耐性ありという感じのものになる。『武具創造:黒炎』は媒介となるものを必要としないし、最高レベルで生み出すと水晶化よりも強度は高く、黒炎という闇と炎の能力まで付与されるが永続効果の水晶化と違い、召喚時間が魔力量に依存される。

周囲を引きつけるような透明で神々しいクリスタル装備と、漆黒に血管のような赤いラインの入った邪悪そのものといった黒炎装備という見た目の問題もあるが、性能と持続性の差がふたつのスキルには存在していた。

ともあれ、タワーシールドはクリスタル加工の透明なもので、ライルとしても敵が見やすいので扱いやすいという利点もある。

また、その芸術品のような美しい盾を見たクロエは「さすが金がかかってるねえ」とやはりバーンズ家の金で買ったと勘違いしているようだった。もっとも、あえて風音のスキルをバラす必要もないので、その勘違いは訂正されなかった。

そしてレーゲンの大樹までは徒歩で一時間といったところまで風音たちは進んでいた。すでにグリフォンと遭遇する危険もあるので周囲の警戒は怠らないよう、全員が緊張のままに歩いていく。

風音も臭いを探ってはいるが、やはりこの辺りの魔物はゴブリンくらいで、それも一緒に歩いているユッコネエの気配に脅えて引き返しているようだった。

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一方で風音たちのもう目と鼻の先にあるレーゲンの大樹では別の問題が発生していた。風音たちが狩る予定のグリフォンたちは大樹の袂にて、風音たちと遭遇することなく今やその命を終えようとしていた。

「クェエエエエエ!!!」

そして残りわずかとなったグリフォンが怒りに震えて、『ソレ』に襲いかかる。だが『ソレ』はグリフォンの爪などモノともしない堅い殻に守られたまま、その手の刀のような爪を思いっきり振り下ろし、攻撃を仕掛けたグリフォンをまっぷたつに切り裂いた。

『ウツーケーガー!!』

切り裂いた『ソレ』が勝利の雄叫びをあげる。

そして群れのボス格であるブーストグリフォンはその光景を見ながら手下がすべて死に絶えたのを悟ると、周囲にいる10を超える虫たちに背を向けてその場から逃げ出すことを選択した。

『アケチーハカッタナーーー!!』

『テンカーフブウゥー!!』

背後から迫る虫の魔物の叫び声を無視してブーストグリフォンは逃げ出していく。さすがに速度だけはブーストグリフォンの方が速い。背後から撃たれた何かに翼を切り裂かれながらもブーストグリフォンは虫たちから次第に遠ざかっていった。

そしてレーゲンの大樹の下にはグリフォンの死骸とそれを狩った魔物たちだけが残ったのだ。

『ヒカーェーヨ』

『ホトトギスーコロセー』

『エンジョーエンジョー』

虫の魔物たちは口々に叫び合い、そして顔の仮面のような部分が剥がれて、ワラワラと爪のようなものが蠢く口が開いた。そして虫たちは倒したグリフォンをムシャムシャと喰らい始めたのだ。

それは鎧虫類オダノブナガ種という鎧を着た人の姿に似た虫の魔物であった。

元々は東方の地に生息する外来種の魔物であったがオダノブナガ種は繁殖力が強く大陸中にいつの間にか増えていった。馬車に卵でも付いていたのではないかというのが学者たちの通説となっているようだが定かではない。

そして大樹の下にはボス格であるキング・オダノブナガ、 番(つがい) であるクイーン・オダノブナガ、そしてオダノブナガ・アーチャーやオダノブナガ・ブレードなどが鎮座しグリフォンを喰らっている。

グリフォンたちをモノともせずに狩ったその実力は高く、グリフォンなどよりもよほど危険性の高い魔物である。その危険な魔物がグリフォンたちの臭いに釣られて闇の森から抜け出してこのレーゲンの大樹の下までやってきていた。

その事実を風音たちは知らない。自分たちの向かう先にいる危険な魔物の存在をまだ白き一団は気付いていなかった。