軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百五十八話 グリフォンを倒そう

風音たちがソラエの村に着いた翌朝。

寝そべってるユッコネエの前で、普段通りのジンライと、「目の前に師匠いたー、焦ったー」と口にしている弓花と、ジンライをやや頬を赤らめて見ているイリーサがいた。気の多い娘がひとり混ざっているが、特に何かあるわけでもない。多感な年頃なのだろう。

そして風音たちがいつも通りに早朝訓練を終えて宿に戻ると、ジンライの幼なじみである可愛い系お婆さんのミルラが朝食を用意して待っていた。宿に人が多く泊まるとこうして手伝いに来ることもあるらしい。

もっとも今は風音たちしか泊まっていないし、人手が足りないということもない。久方ぶりにジンライと話したかったのかな?と風音は考えたがそれが正解だろう。

「ジンライさんの子供の頃ってどんな感じだったの?」

「そうねえ。修行って言っていつも山を駆けてたのよ、この人」

朝食の途中、風音から投げかけられた質問にミルラがそう返す。

「むう」

ジンライが眉をひそめる。恥ずかしいらしいが今とあまり変わってないよね……と風音は思う。

「クロエ姉さんに勝つんだって言ってね。結局村を出る最後の日でようやくそれは叶ったのだけれど」

今もライノクスを目標に(一勝はしたと風音は聞いているが)特訓中である。やっぱりあまり変わっていない。

「ミルラ、その話はこのくらいでな」

「はーい」

ペロッと舌を出してクスクスと笑うミルラは年寄りであるが、可愛らしい人であった。若い頃は村の男性が全員ホレていたほどだが、いつだって一人の男に寄り添っていた。男が去った後でも、その想いは変わらなかった。

「へぇ、師匠って昔から修行漬けだったんですねえ」

ボリボリとキュウリっぽいものを食べながら弓花がそう言う。するとミルラにギロリと睨まれた。

(???)

思わず身を引いた弓花だったが、特になにもなくその場の時間は過ぎていく。

「強くなるためにはな。常にそうあろうとする意志が必要なのだ」

「ま、私には師匠がいますし目標は事足りてますけどね」

「抜かせ」

そう言って笑うジンライは非常に上機嫌であった。ミルラは不機嫌であった。

(私の時はいっつもムスッとしてたのにねえ)

ミルラの背中からはゴォオと嫉妬の炎が舞い上がっているようだった。もう50年近くは昔のことである。ミルラが修行しているジンライに毎日手作りランチを持って行ったのは。

木の影の下で黙々とミルラの作った食事をとるジンライ。ムスッとした顔でミルラに額の汗を拭われていたジンライ。あの頃はそれで良かったし今更どうこうしたいわけでもないが、弓花の態度が腹立たしい。ただの嫉妬だとは分かっているので表には出さないが。

(え? ええ? なんでガン睨みされてるの?)

いや、表に出てないと思っているのは本人だけであるようだった。なぜか人の良さそうな小動物系お婆ちゃんに睨まれて弓花が泣きそうである。昔から裏表のない人の良いミルラにはこの嫉妬という感情を上手く処理できていなかった。

(おい、ユミカ。何かしたのか?)

(知らないですよ。いや、でもなんかしたのかなあ)

ジンライもこんなミルラを見るのは初めてでボソリと弓花に尋ねるが、弓花に分かるはずもない。そして内緒話をするふたりを見てなおさらミルラの炎が激しくなるのである。

それを横で見ているルイーズは(あら、おもしろい)と、もうそこそこ長い付き合いの大人しめの友人の初めて見る姿を興味深そうに眺めていた。シンディの本気は危険だがミルラならば(実力的には)問題はないだろうという余裕もあった。

そして朝食も終わってしばらくするとクロエが宿屋に訪ねてきた。ジンライが「あの件か」というと風音たちが首を傾げるとクロエが説明を行う、なんでも浮遊島から降りてきたグリフォンたちが南の森で暴れているらしく、昨日にジンライが手を借すことを約束していたそうだ。

「ワシはこの村の出身ではあるしな。狩りを手伝う予定だ。だがギルドを通してないし、あまり稼ぎにもならんからここで待っててもいいぞ」

とはジンライの言葉。ちなみに裏の意味はワシ一人でやりてえ……である。仲間に遠慮しているわけではない。

「グリフォンって浮遊島の周りにいるやつだよねえ」

風音の言葉にジンライとクロエが頷く。グリフォンたちは一度島から落ちると再び浮遊島まで戻ることの出来ない個体も多く、そのまま落ちた先に居着くのだという。今回も何かの理由で地上に降りてきてしまったグリフォンたちが暴れているらしい。

「浮遊島に行く前にグリフォンが見れるなら見ておきたかったしね」

「けど、そっちのバカの言うとおりこの村は金がないから大した報酬は払えないぞ」

クロエが「バカとはなんだ」と怒っているジンライを指さしてそう口にした。その言葉には弓花が「大丈夫です」と口にする。

「師匠の故郷ですし一肌脱ぎますよ。私たち、そこそこ稼いでますし。ねえ?」

その弓花の言葉に何故か風音がソッポを向いた。

「え?」

そして風音の反応に弓花のアタマの中にとある推測が成り立った。

「ちょっと風音、あんた……まさか」

「ふーふーふー」

口笛を吹いて誤魔化そうとしたが残念ながら失敗である。そして風音は逃げ出した。しかし弓花に回り込まれた。

「ちょっと、あんた。前回の魔狼討伐でも相当な額もらってたはずだよね」

弓花もテキトーな事を言っているわけではない。白き一団が手に入れた報償金や素材換金のお金は仕事の分担にもよるが基本的にはパーティ内では等分で分けている。なので風音がもらった分は当然弓花も把握していた。

「ふーふー」

やはり口笛は鳴らないようだった。残念である。

実は風音はドルムーの街でトンファー用の 神聖物質(ホーリークレイ) 獲得のために大量の銀を購入しており、その時点でほぼ全財産を使い果たしていた。 神聖物質(ホーリークレイ) のコストパフォーマンスはかなり悪いのだ。

そして、その後に余った 神聖物質(ホーリークレイ) や産廃の偽銀を売って多少金も戻ってきていたし、魔狼討伐分の額ももらってはいるのだがディアサウスでマナポーションなど色々と買ったので再度カツカツの状態になっていた。

「あんたって子はまた使っちゃったの?」

「うー、お母さんみたいなこと言うなー」

弓花の呆れた声に風音がうめいた。

「ドラゴンイーター素材でも持って帰ればまた弾は補充できるからいいんだよ!」

グッと拳を握ってそう断言する風音に弓花やエミリィは溜め息をついた。弾といってる時点でまたパーッと使う気満々であった。

「ま、グリフォン素材もそこそこ金にはなるからな。今回で稼げば旅費には問題あるまいよ」

そこにジンライのフォローが入る。甘やかしである。

もっとも普通の冒険者からすればグリフォン素材はそこそこどころではない金額で取り引きされるのも事実である。上位個体である変異種やユニーク個体である異常種などであればさらに上乗せであるのでジンライの言葉も間違ってはいない。

「大丈夫、まだ一週間くらいは宿屋に泊まる余裕はあるよ」

しかし風音の財布は余裕なさすぎであった。横にいる弓花は既にどこぞの街に根を下ろせば裕福に暮らせるだけの金額をため込んでいるというのにチンチクリンは一週間ヒッキーで文無しである。

「まあ、今更だし、使ってるのも装備とかにだから仕方ないんでしょうけどね。けど少しは余裕を持っておかないとどこで必要になるか分からないんだからね。ちょっとは貯めるってことを覚えなさい」

「はーい」

「くぇー」

風音が元気だけは良い返事をして、タツオも一緒に鳴き声をあげる。大丈夫だろうか。この親子は。

ともあれ、浮遊島攻略の前哨戦のグリフォン討伐を白き一団で行うことは決まった。場所はここから南に普通の馬車で半日のところにある森付近とのことで、そこでグリフォンの群れが暴れているそうだ。

この地域一帯は 飛竜(ワイバーン) なども時折飛んでいるが、それ以外ではゴブリンなどがいるぐらいだという。魔素が浮遊島に引き上げられているらしく基本的には魔物は少ない地域なのである。

「グリフォンは8体ぐらい?」

「うむ。もしかすると変異種もおるかもしれん。油断は出来んな」

ジンライの言葉に一同が頷く。

クロエは、このままジンライたちが退治に乗り出されなければランクB以上のクエストになるだろうと言っていた。

もっともここ最近の修羅場続きの状況を思えば、比較的楽な仕事であるには違いない。緩みすぎず、引き締め過ぎずが好ましいのだろうなとはジンライの言葉だった。

「そんじゃーいくよー」

そして、その風音のかけ声に全員返事をして、白き一団はグリフォン討伐に向かうことになったのである。