軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百五十六話 浮遊島を語ろう

◎ハイヴァーン王国 竜爪街道

「へえ、のどかそうな村だねえ」

風音が馬車の窓を開けて道の先を眺めている。ディアサウスを発って3日が経ち、ようやくジンライの故郷であるソラエの村が見えてきたのだ。

「そうだな。静かで何もないところだが……本当に何も変わってはおらんのだな」

ジンライは目を細めて、昔を懐かしむようにそう口にした。ジンライにしてみれば久方ぶりの帰郷である。思うところがあるのだろう。

「私もクロエ婆様に会いに何度か来たことあるなあ」

そして馬車の中ではエミリィも懐かしむように、近づいてくる村を見ている。エミリィとライルも子供の頃にこの村に遊びに来たことがあるのだ。シンディがジンライの姉であるクロエとも仲が良く、両者で首都と村を何度も訪ねあっていた。もっともクロエが買い物ついでに首都に来ることが多くなったので、エミリィたちもここ十年は村に来てはいない。

「姉さんか」

そしてクロエの名が出た途端にジンライの目がただ懐かしむだけではない微妙なものに変わっていた。どちらかというと冷や汗をかいているようにも見えた。それを見てルイーズがニヤケ笑いになる。

「ジンライくん、クロエが苦手だものねえ」

『そうであったな。クロエは良い女であろうに』

馬車の中からのルイーズとメフィルスの声にジンライが「むぅ」と声をあげる。続けてルイーズがメフィルスに視線を向ける。

「そういえばメフィルスはクロエに手を出そうとしてボッコボコにされてたわよね?」

『そういうところも可愛かったのだがのぉ』

「あれは可愛いという域を超えてるでしょう」

ジンライがメフィルスに珍しく反論する。

「そんなにヒドかったの?」

風音の問いにジンライは苦々しく答える。

「あのときはメフィルス様の看病で村を出るのが二週間延びた」

「……うわぁ」

風音があららという顔をする。

「姉さんは異様に強くてな。腕力も魔力もあるから冒険者になっていれば大成したんだろうがな」

「へえ」

風音とその横にいる弓花が驚いた顔をする。

「もちろん、強いといっても素人レベルではあるが……まあ熊ぐらいなら素手で倒せる人だ」

「師匠、そりゃ素人レベルじゃないと思いますけど」

200体の森の動物たちを駆逐した少女がそう反論した。

「まあ、ジンライくん以外は熊を倒す拳は喰らわないだろうから大丈夫よ」

そう口にしたのはルイーズ。ジンライが「ワシも喰らいたくないんですがね」と言ったが無視された。それは確定らしかった。

◎ソラエの村 宿屋ティノア

そして一行はほどなくしてソラエの村に着いた。いつも通りにヒポ丸くんとサンダーチャリオットが周囲の目を引いたが、途中で宿屋の主人に声をかけられたので、そのままその宿に泊まることにした。とはいっても、この村の宿屋はひとつしかないので、そこに泊まらないならコテージを用意するしかなかったりするのだが。

(あー、宿屋がひとつしかないってことは、あれかな。メーベルさんって人が女将をしている宿屋ってここのこと?)

(そーいうことね)

宿屋の主人の娘に案内されて部屋に向かう途中に風音はルイーズにボソッと尋ねて、ルイーズは笑って頷いた。なにげにルイーズもこの村には足を運んでいるので、実は宿屋の主人のことも赤ん坊の頃から知っている。

ジンライの幼なじみのミルラや既に亡くなっているメーベルとは一夜を共にした仲であり、以降も友人として接していたのだ。そしてジンライに告げないようにと頼まれたことをルイーズは今も口にしてはいない。

行きずりの旅人とデキた父親の分からない子供を育てる村の女なんてそう珍しい話でもないでしょう……とシンディとの婚約を聞いていたふたりはそう口にしてその想いは自ら閉ざしたのだ。

(しっかしジンライくんはここぞというときには外さない男だけど、まさか二人同時とはねえ。さすがよね)

シンディからの出来ちゃった告白の前にたまたま村に寄ってたまたまみんなで仲良く夜の稽古に勤しんだら一発ヒットである。恐るべき男であろう。

結婚後にシンディから情操教育を受けることで、以降はストップがかかるジンライだったが、それまでのヤンチャの結果がどこぞで芽吹いている可能性は否定できない。そして来るもの拒まず去るもの追わずだったジンライはそうしたことをまったく把握してもいない。

元々ジンライはこれまでの人生の中で自分から女性にアプローチをかけたことは一度もない。孤高の天然リア充であった彼は女性に執着がなく、誰と夜の稽古をしたかなどまったく覚えていなかったのである。

そんなジンライがルイーズ、メフィルスとともに神妙な顔で宿を出て行った。その際のジンライはまるで首を掴まれて持ち上げられた猫のようであった。なんでも、この村の村長をやっている姉のクロエに会いに行くのだということだ。

風音たちにも後で紹介してくれるということなので、若者組は大人しく宿で待つことにした。

「そんじゃ、ジンライさんたちは出てっちゃったけど、これからの予定を決めてこうか」

そう言って風音は宿屋の部屋のテーブルの上にハイヴァーン王国の地図を広げた。この街はあくまで寄り道、風音たちの目的は浮遊島なのだ。そして地図の周りにはタツオや弓花、直樹にライル、エミリィ、ティアラが囲んでいる。

「これからっていうと浮遊島に行くんだよね。エルスタの浮遊王国だったっけ?」

弓花の質問に風音も頷く。

「うん。完全な未開の地ではないらしいんだけどね。フリーの竜騎士か飛竜使いでないとたどり着けないし、周囲にはグリフォンや飛竜がいて近付くのも難しいって話だよ。昔竜騎士団で一度遠征してみたら痛い目見て、それからは国軍もいかなくなっちゃったらしいしね」

その風音の言葉にライルとエミリィもうんうんと頷いた。エルスタの浮遊王国はハイヴァーンの人間ならば誰もが知っている島で、そのエピソードもライルたちは聞いて育っているのだ。

「島を守護している硬いドラゴンがいるって話だよな。遠征軍もそいつにやられて壊滅したっていう話だったよな」

ライルの言葉にエミリィも頷く。その遠征は約200年前の当時の大公の命により行われた。100の竜騎士たちが島に差し向けられ、這々の体で逃げてきたと言われている。

「旦那様に聞いたんだけどね。あそこにはそのよく分からない堅いドラゴンもいるんだけど、それ以外にもドラゴンイーターが結構いるらしいんだよねえ」

その話に弓花たちがざわめく。東の竜の里での戦いを思えば、あれの驚異は理解できる。特に竜騎士とは最悪の相性だろうというのはすぐに想像が出来た。

「本当なのか?」

眉をひそめる直樹に風音は「旦那様情報だから間違いなし」と返す。

「それもあって竜騎士団も手も足も出なかったんだってさ。竜族もあの島へは立ち入り禁止になってるらしいし」

「えーと、そうすると私やあんたにタツオくんは危ないんじゃないの?」

挙手して尋ねてきた弓花の言葉に風音は「それは大丈夫」と答える。

「ドラゴンイーターは同種の臭いで寄生されているドラゴンの見分けを付けるから、私の『ドラゴンフェロモン』があれば対抗できるし、一応ドラゴンイーターから手に入れた竜喰木って香木を持ってれば人間サイズくらいなら襲われないんだって。ま、竜サイズは範囲広すぎて無理だけど竜人族なら実際試して大丈夫らしかったから実績もあるよ」

「そうなんだ。正直あんな植物ゾンビみたいになるのはゾッとしないものねえ」

弓花はあの寄生されたドラゴンたちを思い出し、苦々しい顔でそう口にした。

「そりゃ私もだし、タツオにだってあんな目にあわせるつもりはないよ」

『母上がいるならば怖いものなどありません!!』

「いや、私がいても怖いもんは結構あるからちゃんと自分で見て判断しなさいタツオ」

『はい、母上!!』

風音の叱責に勢いよく即答するタツオ。素直なのはよいことだが、反省するところは反省して欲しい。母上絶対主義のタツオに風音は若干の不安を覚えた。

「後は今あそこにいるか分からないけど鳥人族が住んでるかもしれないから、迂闊に攻撃をしかけたりしないようにね」

「鳥人族っていうと翼のある天使みたいな種族のことだよね?」

弓花の言葉に風音も頷く。ゼクシアハーツ内では絶滅寸前の種族だったはずだが、現在でも目撃例はあるようなので、あの島で生き残っている可能性はあると風音は考えていた。

「そうだね。弓を扱わせると右に出る者はいない種族だったかな、確か」

「翼のある種族がいるっておとぎ話は聞いたことあったけど、弓使いなの?」

エミリィが関心深そうに風音に尋ねる。

「うん。そのはず。もしかするとエミリィには良い勉強になるかもね」

その言葉にエミリィは「だといいなあ」と口にした。

浮遊島にいる幻の種族から弓を習う。子供の頃から憧れている場所に対してエミリィの期待はさらに膨らんでいた。