軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百五十一話 魔王とやろう

◎ドルムーの街 近隣の草原

そこにいるのはまるで闇より生まれいでた混沌、それを人の姿に変えたような男であった。

その全身を覆う甲冑はまるで邪悪な笑みを浮かべた悪魔の顔が張り付いたような形をしており、両手足の装具も刺々しく突起物が突き出ていた。そしてフルフェイスの兜は竜と鬼を併せたような造形で、その両端には捻れた大きな角が突き出ており、全身を覆うような禍々しき漆黒のマントを羽織っていた。いずれも血管のような赤いラインが刻まれ、それは脈打つように紅に輝いているのだ。

さらには、その兜から僅かに見える真っ赤な瞳は、見る者を凍らせるような威圧感を放ち、口を開けば、その声は誰もが震え上がるような根源的な恐怖を感じさせた。

そんな吟遊詩人の詩に聞く魔王のごとき人物の前にいるのはハイヴァーンでも若手ナンバーワンと名高いランクB冒険者の直樹だ。

その直樹に、男は巨大な漆黒の剣を振りかざして声を発する。

『よくぞ来た勇者よ。今こそ決着の時!!』

「応ッ!!」

漆黒の魔王は走り出し、直樹へと斬りかかり、対する直樹も水晶竜角の魔剣と竜炎の魔剣を握って迎え撃つ。

「あれ、なんですの?」

「魔王ごっこ?」

早朝訓練で一息ついていたティアラが弓花に尋ねて、弓花は適切な言葉を上手く出せずにそう返した。それを聞いてジト目になったティアラに弓花はさらに補足で説明をする。

「なんでも昨日のドラゴンステーキで風音の『戦士の記憶』のレベルが上がって剣技も上達したらしいんだよね。そんで直樹の訓練相手になりそうだってんでね。でも直樹ってほらシスコンだからさ。風音もああして変装して戦うって話の流れになったんだけど」

そこまで聞けばティアラにも想像がつく。

「凝ってしまったんですのね」

「魔王カザネリアンっていうらしいよ、アレ」

「名前はふざけとるが、思ったよりは強いようだな」

一緒にいるジンライがそう評した。確かに直樹と風音の鍔迫り合いは白熱しているようだった。

「変化の術に武具創造に、他にも色々スキル詰め込んでるみたいですからねえ。まあ魔剣を魔剣として使わないのなら、直樹じゃ勝てないと思いますけど」

弓花は冷静にそうジンライに返した。

「だろうな」

ガンッと魔王カザネリアンが大剣を強引に押し進め、直樹を弾き飛ばした。ジンライが「腰が入っとらん」と口にする。あの格好ではあるが、あくまでカザネリアンの筋力は元の姿と変わりはしない。直樹と大差ない力なのに、風音が一方的に直樹を弾けるのはジンライの言葉通り、腰が入っていないということだろうし、風音の『直感』と『戦士の記憶』の見切りが働いているのだろう。絶妙のタイミングで直樹の体勢を崩す一撃を出しているのだ。

その巧さはスキルの恩恵であろうがジンライも舌を巻かざるを得ない。

「まあ、剣二振りで戦うのでは今までとは勝手が違うのだからな。バランスを崩しやすいのもやむを得なくはあるが」

ジンライの言葉に弓花も頷く。

「師匠も二刀流は扱えるんですよね?」

「多少はな。だがナオキを鍛えるならばもっと出来る誰かに指導してもらうのが一番だ。しかし二刀流ともなると、使い手も少ないのだな」

そういってジンライは唸ったが、だが少し考えた後、何かを閃いたようだった。

「むう、そうだな。今はユウコ女王陛下の影武者でもあるイリアならば二刀流の使い手だ。あれに頼ってみても良いかもしれん」

実はジンライもイリアに二刀流を習っていた。そしてジンライがそれを習ってからもうかなりの年月が経過している。その間もイリアが鍛錬を怠っていなければ、直樹の良き師事者となるかもしれないとジンライは考えた。

もっともイリアがここにいない以上、今の時点では狸の皮算用でしかない。そしてその後に早朝訓練も終了すると、風音たちはホテルに戻ることにした。

それから午前中にはホテルを後にし冒険者ギルド事務所で換金を依頼していた素材の代金を受け取ると風音たちはディアサウスへと向かうこととなる。今回の魔狼討伐で換金せずに素材として回収したのは魔狼の毛皮と牙、それにコボルトキングの武器バルディッシュ、また地核竜の素材については他の冒険者たちの助けもあったので、竜の心臓以外は他の冒険者たちに譲っていた。

なお、本日と前日の夜はルイーズが帰ってこなかった。朝方にひょっこり戻ってきたときに、それぞれの日にモッコとロンドの臭いがしたので、ああ、そういうことなんだな……と風音は思ったが黙っていた。パーティ内のことでなければ特に口を出すこともないだろうと考えたのである。

◎ハイヴァーン王国 ドラゴンロード ディアサウス方面

「今日はディアサウスに向かいます。タツオも早起きしてメガビームの訓練に余念がありません。旦那様みたいなドラゴンに早くなりたいそうです。それではまた、お手紙出しますね…と」

風音はポチッとウィンドウの送信ボタンを押して、アオへのメールを送信した。風音は毎日、一度か二度はアオへナーガへの手紙を送っていた。

そしてナーガからの返信によれば、里の結界も問題なく維持されていて、現在はドラゴンイーターの種と共に燃やしてしまった森の修復中なのだという。

その修復にもっとも活躍しているのがヴァラオンという、あのドラゴンイーターに一度寄生された竜だそうだ。あの事件以降、ヴァラオンは植物を操作して、成長を促したりも出来るとのことである。今やほとんど数のいない木竜へと変わった可能性があるらしく、現在は東方の竜族にその能力の確認を依頼しているところなのだとメールには書かれていた。

『父上、早くお返事来ないですかねえ』

風音のメールを見ながらタツオがウキウキとした顔で風音に尋ねる。

「さすがに旦那様もすぐには無理だよ。のんびり待とう。時間はあるんだからさ」

そう言って風音はウィンドウを開いて今度はゴーレムメーカーを表示する。そしてエミリィ強化案という保存ファイルを開いて、カチャカチャとさわり始めた。

それを横から見た弓花が「エミリィ強化案?」と、つぶやいた。さすがにメールの内容を見るのはプライバシーの侵害だろうと思って目をそらしていたのだが、別のウィンドウが開いたのでつい目がいってしまった。

「え、私?」

そして当然、名前を出されたエミリィが尋ねる。それに風音は特に悪びれもせずに答える。

「うん。エミリィもブレイクを覚えたみたいだし、そろそろテコ入れをしてみようかなって気がしたんだよね」

風音のいう『ブレイク』とは槍術でいう『振』に相当する弓術で、振動により堅い魔物を破壊する技である。直接握って当てる槍術等よりも難易度は高いのだが、それをエミリィはついにモノにしていた。

「いや、でもテコ入れっていっても竜牙鋼の矢もディアサウスにいけばかなりの数が手に入るんだよね?」

魔狼討伐でもエミリィは周囲の活躍に隠れてはいるモノの、地核竜の牙と魔鋼の矢で多くの魔物を倒していた。以前に受け取った20本もほとんど回収しているので現在は18本、ディアサウスで追加の200本も受け取る予定だった。

「ま、あくまでまだ案だからさ。期待せずに待っててよ」

なにかまたとんでもないものが来そうな気がする…とその場にいたエミリィと弓花とティアラは思ったが、だがそれを声に出すことはなかった。

何かを言った途端に、それが現実になりかねない、そんな怖さがそこにはあった。もっとも風音もそこまで万能ではなく「微妙かなあ」と口にしてからはウィンドウを閉じてタツオと外の景色を見ていた。うまく行かないときは気分転換も必要だ。

そして今回は特にジンライが浮気をしたというわけでもなく、怒れるドラゴンに威嚇されるでもなく、極々平和に首都に到着し、ヒポ丸くんとサンダーチャリオットはディアサウスの正門をくぐる。以前は竜の咆哮に脅えていた門番も、今回はヒポ丸くんとサンダーチャリオットの威容にビビっているだけだった。いつも通りの光景である。

そのまま一行は、バーンズ家の屋敷へと向かう。

道行く人たちが当然その異様な雰囲気の漆黒の馬と馬車をジロジロ見るが、それもいつもの光景なので気にしない。気にしていては白き一団ではいられない。ヒッポーくんハイとクリアに乗って後ろからついてきている直樹とライルが恥ずかしそうな顔をしているが気にしない。そして特に迷うことも、何かに呼び止められることもなくバーンズ家の屋敷に着いたのだった。そこでどんな方法でかは分からないが夫の帰還を察知し家の前で出迎えていたシンディに会うのだが、だがその顔色はあまりよろしくないようだった。そして、その理由をジンライが尋ねるとシンディは悲しそうにこう言った。

「竜族侮辱罪でジライドが捕まってしまったのよ」

なんでも投獄されてたらしい。それも結構前に。