軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百四十三話 誤解を盛ろう

◎ドルムーの街 オードナルホテル

風音と直樹とタツオが宿に戻ると、ジンライたちが難しい顔をして待っていた。シュライン魔法武具工房に寄った風音たちとは別に、ジンライたちは魔狼討伐の参加のために冒険者ギルドに立ち寄ることになっていたのだが、どうやらあまり芳しくない状況のようだった。

「んー想像以上っぽい?」

「そのようだな」

風音の問いにジンライがそう返す。そして冒険者ギルドで聞いた話をジンライは風音に告げ始めた。

まず、ジンライの話に寄れば、魔狼討伐の依頼は未だ継続中なので、風音たちが参加する事については特に問題がないとのことだった。もっとも今はかなりよろしくない状況らしい。

まず当初に討伐を行おうとした竜騎士部隊はどうやら初期段階での探索ではなにも発見できなかったらしい。そしてしばらくして部隊を分けることで範囲を広げて探索をしたところ、二組の竜騎士と騎竜が個別で狙われ、そのまま食われてしまったのだという。

「空飛んでたんだよね?」

風音の言葉にジンライは頷く。

「だが森の中だからな。見回すには降下せねばならないしそこを狙われたのだろう。襲われたのは成竜ではないにしても曲がりなりにもドラゴンだ。相手のフィールドであったとはいえ、よほどの相手ということだろうな」

ジンライはそう答えた。

「森の中に限定するならドラゴン二体以上の実力はあるわけか」

「そういうことだろう。オマケにかなり多くの仲間を率いているらしい。現状ではハイヴァーン騎士200名にランクB辺りの冒険者90名程度で探索中というところだ」

ランクBといえば、実力的に言えば直樹やライルに匹敵する。それが90名で未だ解決できていない。相当に厄介な相手であると言わざるを得なかった。

「ああ、そうだ直樹。イリアたちは参加してないらしいぜ」

ライルの言葉に直樹が顔を上げる。

「そうなのか?」

デイドナの街では参加するために出て行ったと直樹は聞いていたのだが。

「ランク的に厳しいって結論になったらしくてな。引き返したそうだ」

「そうか。まあ、ドラゴンを倒す相手じゃあな。仕方ないか」

そう言って直樹は安堵する。確かに話を聞く限りイリアやルインズでは力不足だろうと思われた。もっともそれは現状の直樹、ライル、エミリィたちであっても同じようなものではあるのだが。

「それでワシらの方針なのだがな」

ライルと直樹の会話の終わりを見計らってジンライが話を続ける。

「基本的に冒険者の部隊は一組に纏まって山狩りを決行しているようだが、ワシらはどうする?」

それは混じって参加するか、いつも通りに単独で動くか……という問題だ。

「獣人の鼻も効かないの?」

「微妙らしいな。むしろ追わせてはめられることも多いようだ。相当に頭が回るらしい」

「んー、こっちで仕切らせてくれるんなら参加かな。正直、他のパーティのペースに合わせたら危ないっぽいし」

その言葉にライルとエミリィが目を丸くする。それは単独の部分ではなく仕切るという部分に反応してのもの。ふたりは今までこうした大規模クエストに参加することはあっても基本仕切られる側の人間だった。もっともそれも当然の話ではある。ライルたちはもう新人の域は超えたがまだ若手に属する冒険者なのだから。だが他のメンツは特に思うところはないようで、疑問にも感じず、その話を聞いている。

「やはり数でカバーせねばならんか」

ジンライの言葉に風音が頷いた。

「うん。犬の嗅覚も微妙かも知れないし今回は数が必要だと思う」

「移動手段はヒッポーくんか?」

「そうだね。狂い鬼討伐のときみたいに3人乗せる方向で考えれば全員分の移動手段だってなんとかなるでしょ」

「懐かしい話だな」

ジンライがふっと笑う。その横では弓花が「そうですねえ」と返していたが、その過去を共有しているのはこの三人のみだった。

(思えばずいぶんと賑やかになったもんだね)

と風音は、他のメンバーの首を傾げる姿を見ながら感慨深く頷いていた。

**********

「どういうことだ?」

ガンッとテーブルを叩く音が響いた。

それはドルムーの街の冒険者ギルド、その支部長室から響いた音だった。そしてそれはパーティ『カイロス』のリーダーであるボランが怒りのままにテーブルを叩いた音であった。

「そんな話、俺たちが納得出来ると思っていたのか」

ボランは怒りのままに鋭い視線を冒険者ギルドの支部長に向ける。

「そうは言っても決定事項です。明日の山狩りは仕切りを『カイロス』から『白き一団』に移させていただきます」

最初からその反応が返ってくることは分かっていて構えていたのだろう。ボランの怒りもどこ吹く風で支部長はそう返した。

「確かにうちらが仕切ってから結果は出てないけどよ。だが突然ポッと出のヤツにそれを譲れってのか? しかもあんな悪評高い連中にだ」

そして、このボランの怒りももっともではあった。

パーティ『カイロス』はリーダーを務めるボラン自身がランクAであり、成竜討伐の参加経験もある猛者の一人だ。そして彼のパーティメンバーにはランクB以下の者はいない、このハイヴァーンでもオーリングなどと並ぶ有数の実力派パーティである。

それを差し置いて最高でもランクBの冒険者しかいない話題先行のルーキーパーティに任せろというのだ。怒りが湧き上がらないわけがない。

さらに言えばその白き一団の評判もよろしくはない。

ルーキーとしてはオーガの大群を討伐したりドラゴン殺しを行ったりと異例の活躍を見せてはいるが、どうにも胡散臭いのだ。ミンシアナの王族の陰がチラつき、話自体が随分と盛られている印象が拭えない。

それに盗賊団を皆殺しにしたり、アウターファミリーをひとつ潰したりと黒い噂も上がっている。

仕切りを取り上げられるという熟練者としてのプライドに触る部分もないとは言えないが、だがそれ以上に仲間を任せられるような信用に足る連中ではないとボランは考えていた。

その王族連中につるんで名を上げている連中ならばろくな人間ではないだろうというボランの考えは一概にも間違いとは言えない。今でこそ落ち着いてはいるもののミンシアナという国の特権階級の腐敗ぶりは他国では有名な話だったのだ。

下手をすればそんな連中の引き立て役として死ぬかも知れないのだから、ボランからしてみればたまったものではない。だが支部長はそのボランの考えを理解しつつも発言を覆すことはなかった。

「言い分はもっともですが、決定事項です。少なくとも白き一団の提示する案に一考の価値ありと我々は考えています」

「どういうことだ?」

「それは明日に街の前に集合したところで説明をします。実際に見てもらった方が早いでしょうし」

そう口にする支部長にボランは首を傾げる。そのボランの様子に返答せず、さらにと支部長は話を続けた。

「……それとこれは昨日の話ですが、ドラムスの街から連絡掲示板経由で緊急通達がありました」

その言葉に益々ボランは首を傾げた。話の連続性が見えない。

「その内容は『ドラムスの街』と『白き一団』は一切の関わりを持ってはおらず、どのように尋ねられようともそれを周知徹底するようにというものです」

「なんだ、そりゃ?」

そうボランが聞き返すのも無理はない。たかだか冒険者との間に『何もなかった』などと通達する必要がどこにあるというのか。

「勿論そのままの意味ではないでしょう。これはドラムスの街は例え誰からの問いであっても他に返す言葉を持たないという意思表示です。何かあったのは確実でしょう。ですが問題なのは」

「白き一団が街ひとつにそんな要求を強要することが出来るだけの力があるってことか?」

愕然とするボランに支部長が頷く。それはもう冒険者の出来ることではない。そしてボランは事が自分の常識の範囲を超えていると考え、青い顔で支部長に問い返した。

「だが、なんでそんなことを俺に話す? これは秘密の話だろうに?」

「ええ、本来知られるべき話ではありません。ですが、明日に同じように冒険者たちに今の説明をすればあなたと同じ反応が返ってくることは目に見えています」

それはそうだろうとボランは思う。今の自分の心境が他の冒険者全員のものと同じとは思わないが、多かれ少なかれボランと同じように考える人間はいるだろう。

「だからこそ、明日の山狩りのメンバーの中でももっとも力のあるあなたに知っておいて欲しかったのです」

「何をだ?」

「何か問題が生じた場合に我々がどちらにつくのか……ということを」

支部長の言葉にボランがゾクッと震えた。

「彼女らの背後にはミンシアナだけでなくハイヴァーン、ツヴァーラも控えています。その上で半月前のベンゼルギルドマスターの件も関わっていると言われています」

ハイヴァーンのギルドマスターであるベンゼルが悪魔に殺されたという衝撃的なニュースはすでに冒険者たちにも知られている話であった。

「まさか連中が……」

「それこそまさかでしょう。あのパーティには悪魔狩りで高名なキャンサー家の人間もいるんですよ。彼らは恐らく『ギルドマスターと共に戦った側』でしょう」

支部長の言葉にボランの目が細まる。

「ちなみにですが、クリオミネの街のアウターファミリーの件はアウターのまとめ役である『オルボスファミリー』がハイヴァーン公国の許可を得てギルドに依頼をかけたものです」

「マジかよ」

ボランの頬を汗が伝う。どこまでも裏のある話のように聞こえる。だが、ここまで来ればあのルーキーパーティという存在をボランは別の目線から見れるようになってきていた。

「そもそもがここ数ヶ月でいきなり台頭してきたのも妙な話でしょう」

「そりゃあな」

ここ最近でもデイドナの街のドラゴンベア襲撃戦にも参加してたとも言われている。その活躍っぷりはいくらなんでも異常だろうと。

(連中は、国か、あるいはギルドの裏の実行部隊か何かで問題が生じる場所に赴いてるのか……或いは急速に名を上げているのも何か目的があって)

その『何か』は分からない。だが、国を跨いだ巨大な何かが動いているような、そんな匂いがするとボランは気付いてしまう。

「ちっ、やな話を聞かされちまったぜ」

ボランは心の底から思ったことを言葉に出した。知らなければ幸せなことだってあるのだ。ボランは今そこに足を踏み入れてしまった……という気がしていた。

「我々も彼らはアンタッチャブルな存在として出来うる限り、刺激をしないようにとの方針をとっています。その理由、理解していただけますね」

支部長の言葉にボランが頷く。

「つまり俺は、連中が他の冒険者と問題を起こさないように防波堤の役割をすればいいんだな」

「理解が早くて助かります。特にリーダーであるカザネという人物にはお気をつけてください」

「まだ何かあるのかい?」

ボランの問いに支部長が頷いた。

「彼女の怒りを買う真似だけは絶対に避けてください。遠くクリオミネの街を越えた先まで彼女の罰を受けたアウターもおりますし、我が国の将軍ですら意にそぐわなければ罰を与えるような人物なのです。理由は分かりませんがどうやら彼女の怒りを買って少し前に危うく殺されそうになったとも聞いています」

それを聞いてさすがにボランも頭の中がパンクしそうになっていた。

ジライド将軍がこの魔狼の件で竜騎士部隊を引き上げた後に負傷をしたという話は聞いていたが、それがここで繋がるとは、ボランにはまったくもって意味の分からない話であった。

そして、明日に自分は一体何と出会うのかと戦々恐々とせざるを得なかった。正体の見えぬ不気味な集団『白き一団』の存在を前にボランはただ愕然とするのみであったのだ。