軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百四十二話 武器を受け取ろう

早朝にドルムーの街入りした風音たちは、すぐさま以前にも泊まったオードナルホテルにチェックインすることにした。それは街に着いてみると、思った以上に冒険者の出入りが激しく、街にいるのにわざわざ野営などして周囲の興味を煽るのは逆に危険だろうという判断によるものであった。

そして風音とタツオ、直樹はホテルで落ち着くのもほどほどにシュライン魔法武具工房へと向かうことにする。

まずは予定通りに直樹の新たなる魔剣を受け取り、そして風音のトンファーに魔法装填機能を追加してもらう作業の依頼を行うつもりであった。

◎ドルムーの街 シュライン魔法武具工房

「久しぶりだな白き一団よ」

風音たちが工房に尋ねると、女工房長のアイキス・シュラインの工房長室まで通された。そして風音と直樹は約一ヶ月ぶりのアイキスに挨拶をすることとなる。

「しかし、思ったよりも来るのが遅かったな。魔狼騒ぎもあったし、すぐに戻ってくると思っていたのだが」

「まあ、色々とあったんだよね」

風音と直樹はうながされるままに、アイキスに向かい合う形でソファーに座る。

「それは、そっちの黒っちいドラゴンも関係あるのかい?」

アイキスの言葉にクワーと風音の肩に乗っている幼体の黒竜が鳴いた。

「まあ、ね。竜の里まで行ってきてさ」

風音がその黒いミニドラゴンの頭を撫でると、気持ちよさそうに黒竜はすり寄ってきた。アイキスはそれを見てずいぶんと懐いているなと思ったのだが、言うまでもなくこのドラゴンはタツオである。

さすがに長時間離れているのも不安があるし、かといって工房でやりとりするのに長時間インビジブルと光学迷彩で隠れてるのも難しい。そのため、風音は『武具創造:黒炎』でタツオ用の鎧を作り、堅い鱗に護られた黒竜の子供のように見せていた。

無論、外では黒竜でも目立つのでインビジブルと光学迷彩で隠れるが、風音は多少親しい人物にはこの形で会うことにしたのだった。

「それで、魔狼騒ぎって言ってたけど、やっぱりまだ退治されてなかったんだね」

風音の言葉にアイキスが苦笑する。

「まあな。どうやら中々厄介なことになっているらしい。数が多い上にドラゴン相手だとすぐさま逃げてしまうようでね」

それは予想していた状況であった。

「埒があかないってのと、どうも竜騎士と騎竜が二組食われちまったらしいんだな」

「そりゃあ、よろしくないね」

風音の言葉にアイキスも頷く。

「なので竜騎士部隊は恥辱晴らせぬままにこれ以上の損失を防ぐべく撤退。現在は騎士団と冒険者による別部隊での山狩りを行ってるところみたいだね。そっちはそっちで返り討ちにあってかなりキツいことになってるらしいけど」

どうやら思った以上に魔狼討伐はよろしくない状況のようだった。

「ところでそのトンファー、あの黒岩竜の角だろう?」

ともあれ、風音たちはそのことを話しに来たわけでもない。なのでアイキスはその話題をそこで打ち切り、気になっていた風音の腰の得物のことを尋ねる。

「うん、そうだよ」

風音の回答にアイキスがうなった。アイキスも風音に黒岩竜の角のことを相談されて匙を投げた一人であったのだ。

「まさかあの角を加工できる人物が存在していようとはな」

「人じゃあないけどね」

鉱物の加工にかけては右にでるモノがいない種族とされているドワーフ族としては忸怩たる思いがあるのだろうが、相手は成竜から神竜に届こうという南赤侯スザであると口にすると「であれば」と納得はしたようだった。

「そしてレインボーハートは指輪とネックレスに化けたか」

トンファーの次にアイキスの視線は風音の虹のネックレスと虹竜の指輪に向けられる。

その言葉に風音は愛想笑いで返す。自前のレインボーハートは今あなたの目の前で動いている私の息子になりましたけどね……とは言えないが、しかし持っていたレインボーハートをどうしたのかという質問のダミーの回答にはなりそうだなと風音は思った。そして横でタツオがクワッと首を傾げていた。

「ま、トンファーについては後でお願いしたいことがあるんだけどさ」

その風音の言葉にアイキスの目が光ったが、後回しとのことなのでとくに何も言わず自重することにする。

「まずは依頼のモノから先にいただける? 出来てるんだよね」

「ああ、勿論だ」

アイキスはそう答える。

ソファーから立ち上がると、さきほどから直樹が無言で向けている視線の先にある、後ろに立てかけてあった豪奢な鞘付きの剣を持ち上げてテーブルの上に置いた。

「これが……」

直樹が目を輝かせてそれを見る。そして直樹はアイキスを見ると、アイキスも直樹に頷いた。

「いいから抜いて見ろ。それはあんたのものだ」

そう言われては直樹を止めるものは誰もいない。そして直樹はその剣を鞘から抜き放った。

七色の輝きが、その場を支配する。

「おおおおお!!!??」

直樹が呻いた。風音とタツオも「おお」と声を出していたが、アイキスは満足げな顔で直樹を見る。

「あんたの姉さんの言うとおりに水晶竜の角一本をそのまま使った。ここまでの一品はもう当面は見られないだろうね」

その輝きはレインボーハートほどではなくとも普段のタツオほどの輝きはあった。そして刀身は透き通っていて内部を七色の光が流れていた。

「予定通り、蓄魔器も付けてくれてるみたいだね」

風音はその剣の柄の部分を見てニヤリとする。

「いい勉強させて貰ったよ」

そう言って笑い返すアイキス。直樹は相変わらず呻いたまま、呆然とその剣を見ている。

「それにしてもすごい輝いてるね」

「本来であればあと一本か二本は作れる筈の水晶竜の角だぞ。それを真芯だけ抜き取って一本だけ作るなんていう贅沢なことしてんだ。それぐらいにはなるさ」

風音の言葉にアイキスがそう返す。

「ありがとうございます。これはすごい。ヤバい」

ようやく金縛りから解けたのか、直樹がそうまくし立てる。

「ああ、分かったから振り回さないでくれよ。下手に発動したら部屋が壊れるから」

感動している直樹に、やや恐々とした顔でアイキスは言う。

「まあ、あんたの姉さんの依頼通りにセブンスレイは飛距離よりも威力と継続時間を強めにしてある。しかし、それで良かったのかい?」

「うん。勿論」

風音は頷き、すでに仕様を聞いている直樹も納得済みという顔だった。

「俺は操者の魔剣の遠隔攻撃に頼りすぎてた面がありますし、今は剣士としての力を上げたいんです」

そして直樹はそう答えた。アイキスもなるほどと頷いたが、直樹はこれまで魔剣を飛び道具として扱ってきていた。今まではそれでも良かったが、結局遠くから戦っていては魔剣を活かし切ることはできず、その能力にも歯止めがかかっていた。それを悪魔戦を経たことで直樹は甚く反省していた。

「ま、そうはいってもコイツも渡すんだからそっちの方面もがんばっては貰いたいけどね」

そういってアイキスが取り出してテーブルにおいたのは二つの虹色のイヤリングだった。

「クリスタルドラゴンの目を加工した遠見のイヤリング。これはあんたの目となって、かなり離れた距離までを見通せるようになるわけだが」

「ま、私の叡智のサークレットの遠隔視みたいなもんだよね」

「さすがにそこまで見渡せる距離は出ないけど、戦闘範囲内なら十分に見通せるだろうね」

叡智のサークレットはアーティファクトには及ばないモノの強力な魔法具だ。今では失われた技術も使われており、現代で再現するのは難しいようだった。

直樹は水晶竜の剣を鞘に収めて、イヤリングを自分の耳に着ける。

「その剣はアンタのものだ。名はアンタが付けな」

「はいっ」

直樹がその場で頭を下げる。涙が溢れている。どうやら泣くほどに嬉しかったらしい。

そして感涙していた直樹が落ち着くのを見計らって、アイキスは風音に尋ねた。

「それで、さっき言ってたトンファーの件ってのはなんなんだい?」

アイキスは期待に満ちていた目で風音を見る。

「うん、これなんだけどね」

そう言って風音はトンファーをテーブルの上に置くと、アイキスはそれをさっと手に取った。よほど見たかったらしいようだった。

「見事に加工されてるな。飾り気はずいぶんとないようだが」

「これはまだ未完成品なんだよね。スザさんがいうには、魔法剣のように魔鋼を付けるなら、これに別の素材を装着させる形で作った方がよいだろうって話で」

「なるほどな。留め具用の穴は開いてあるのか。これに穴を開けること自体が奇跡みたいな話なんだけどね。ドワーフでも神の火持ちでもなければ無理だろうに」

そんなことをブツブツいいながらアイキスはそのトンファーをしげしげと眺めている。

「そんじゃあ私にこれに合うパーツを作れって言うんだね?」

「うん、そういうこと」

「さすがに立て続けにこんな伝説級のモノを持ってこられて断るようなら鍛冶師じゃないし、別に引き受けるけどね。ただ、こいつに合う素材っていったら相当なものじゃないと釣り合わないと思うがね」

アイキスの言葉に風音は、少し考えた後、こう口にした。

「うーん、この工房って銀素材って大量にあるかな?」

風音の言葉にアイキスは首を傾げる。

「あるにはあるが、ミスリル銀か白銀辺りの方が良いんじゃないのか」

ミスリル銀は硬質で魔力の通りやすい上位素材、白銀はその素材としてのクォリティは銀と近いが魔力を通しやすい。対して銀はアンデッドなどに対する聖属性を持っているが、汎用性に欠けている素材だ。

「いや、ちょっと試したいことがあってさ」

そう言って風音はウィンドウを開き、スキルリストから『偽銀生成』を選択して見る。

(まあ、またずいぶんとお金も入ったし、そろそろコイツも使ってみるかなあ)

そう言って風音は笑ったのであった。