軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百三十三話 美味しいものを見つけよう

その日、ヴァラオンと呼ばれるドラゴンが、自分たちの天敵を目撃したのは偶然であった。

コンロン山より離れた場所、霧の結界が張ってあった地点よりも外に餌を求めて飛んでいたヴァラオンは狩りの途中で奇妙なものを見たのである。

ドラゴンの主食といえば言うまでもなく肉である。野生動物や魔物、そして地竜などの同じ竜であっても彼らの食事足り得る。同じ竜種ではあるが、知性を持たないドラゴンというのは基本的に知性持ちにとっては別種という認識だ。或いは人族にとっての未開の蛮族などといったものに対する差別意識に近いのかもしれない。

ともあれ、ヴァラオンは地竜を食べようと小さな群れを探して飛んでいたのだが、しかしどこからか甘い匂いが漂ってきた。その神経を痺れさせる香りにヴァラオンは一瞬で心奪われ、そちらに飛んでゆき、それと出会ってしまったのだ。

そこにいたのはドラゴンイーターとドリアドリザード。ヴァラオンはその目で認識したにも関わらず、すでに匂いに囚われていたために、その存在に疑問すら感じずにその場で降り立ち、そのまま寄生されてしまった。

だが、その身に異物が侵入するわずかな瞬間にヴァラオンの意識はわずかばかりだが覚醒する。そして、その短い時間に最後の力を振り絞って、咆哮した。それは仲間に危険を知らせる狼煙のようなものだった。

もっとも、それを仲間のドラゴンたちが受け取ったのかはヴァラオンには分からない。なぜならばヴァラオンの意識はその後すぐに消え、そのまま寄生されていったのだから。

その後にヴァラオンが目覚めたのは自分の右腕が吹き飛んだ痛みに気付いたためだ。突然の痛みに、ヴァラオンの意識は覚醒する。

(何が起きている? 私は無事か?)

ヴァラオンは目の前の状況が分からず、声も出ず、体も動かせない状況に気づき、心の中でそう叫んだ。そして目の前の状況を見て、今が戦闘中だと気付いた。

どうやら自分を攻撃しているのは仲間ではなく人族のようである。だがその中に西の里の蒼焔のアオがいるのも分かった。

であれば、あの人族は竜族が自分を始末するように依頼したものだろうとヴァラオンは理解した。そして今あの里にいる人族といえば神竜皇后の仲間であろうこともすぐさまヴァラオンには想像が付いた。

ならば、それで良いと……この悪夢を早く終わらせて欲しいとヴァラオンは願い、咆哮した。

**********

「意識が戻ってる?」

風音がそう呟いてドラゴンイーターに浸食されている竜を見た。風音にはヴァラオンの咆哮が死を願うものだと理解できていた。竜体化のスキルによって咆哮の意味を把握できていた。だが、それは風音の意志を、ヴァラオンの意志とは逆の方向へと向かわせた。

(アオさん、今の聞いた?)

情報連携を通して風音がアオとやりとりをする。

(はい。ですが、だからといって方針は変わりません)

当然のことながらアオもさきほどの咆哮は聞いていた。だが、すでに最終通告は風音自身の口から出ている。だからアオは冷酷を装ってそう返す。

(でも、ドラゴンイーターって植物と言っても魔物なんだよね。コアとかあるよね?)

しかし重ねて尋ねる風音の質問にアオは答えた。

(あります。脳はありませんので、ドラゴンの身を操っているのはそれです。ですが場所は分かりませんよ。あの身体のどこかということだけです)

決まった特定の部位ではないのだ。そしてそれを探っていくうちに、竜族では浸食されて、寄生されてしまう。人族では竜族の巨体を捕まえて、ドラゴンイーターの身体からコアを探すような真似も出来ないし、それに危険を冒してする理由もない。

「場所なら分かるよ!!」

だが風音が自らの口でそう宣言する。

アオからは驚きの声があがるが、風音には確かに見えていた。それはおそらくとても美味しい『部位』なのだろう。風音にははっきりと見えていた。だから指示を下す。

「狂い鬼!探し出して喰らっちゃいな!!」

そして離れた位置にいる風音の声に、ドラゴンイーターの前にたどり着いた狂い鬼が叫び声をあげて突進する。

風音の『食材の目利き』スキルがそれの位置を正確に掴んでいたのだ。それはドラゴンイーターから発せられる匂いに釣られかかっていた狂い鬼の思考に閃光をもたらした。この美味しそうな匂いの元が判明したのだ。

狂い鬼がグバッと口を開けるとそこから涎が滝のようにあふれ出してきた。横にいたティアラの意識の宿っているフレイムパワーがドン引きしていた。

だが狂い鬼は自重しない。風音が美味しいものを食べる手伝いをすると言っている。であれば狂い鬼もその風音の指示には従わざるを得ない。

そして、狂い鬼はドラゴンイーターの目の前で、ストーンミノタウロスを召喚する。のみならず、そのストーンミノタウロスから黒い炎が湧き上がり、巨大な、赤いラインの入った黒の全身甲冑がはめられていく。そして、その両手には黒い 刺又(さすまた) という捕縛用の武器が握られていた。

本来であれば、ユッコネエを通じてメガビームで成竜タイプを叩く予定だったが、風音はアイムの腕輪を通し『ストーンミノタウロス』召喚と『武具創造:黒炎』装着を行い、メガビームの使用魔力量を割ってしまった。だが風音はそれを推し通す。ジンライはすでに、その判断を支持している。成竜タイプなど自分たちだけで何とかなると笑っていた。

だから風音も、自分で判断したことを全力でやるまで。

「ブラックミノくんはドラゴンイーターを抑えて。ドラグーンとパワーは狂い鬼の援護。ドリアドリザードは直樹たちよろしくねっ!」

**********

風音の言葉に従って、直樹とライル、タツヨシくんノーマルに後方にエミリィ、そして現在7体までに減少したフレイムナイツがドリアドリザードに立ち向かっていく。

ドリアドリザードは地竜に寄生した魔物とはいえ、元の宿主ほどのパワーはないようだった。でなければ最初にフレイムナイトが激突した際に、受け止めきれるわけもない。そしてこのメンバーの中ではやはりライルが抜きんでて活躍していた。

「おーれいっ」

ライルが竜牙槍をコアに突き立て、ドリアドリザードがその活動を止めた。

タツヨシくんノーマルが受け止め、その隙をライルが突く。確立された戦い方だが、しかしそれでも攻撃を喰らうこともある。だが現在のライルは竜素材の鎧と盾によって身を守られて、迷わず一歩を踏み出すことが出来る。今もドリアドリザードの角を盾で受け流しながら、そのコアをしとめていた。

「うわ、兄さん。まじ絶好調!」

「こっちはスランプだってのに、イヤなヤツだ」

エミリィと直樹の声にライルが「へへっ」と鼻を掻きながら笑う。

そして、かつてないほどに自分の身体と槍が一体化しているのがライルにも実感できていた。ジンライのような開眼した……というほどではないが、確かにライルは一皮むけたようだった。

「美味しいところは全部持ってかれてるんだ。ここだけでも活躍しねえとな」

そういってライルが次の標的めがけて走り出した。

それを追うように走る直樹の持っている剣は魔剣『牙炎』という。竜の炎のブレスを封じ込めたという強力な炎の魔剣で、対悪魔戦で魔剣をほとんど破壊された直樹に与えられた武器だ。しかし未だに直樹はその魔剣を扱い切れていないようだった。

(ライルがあそこまでやれてるのに、俺ってヤツは)

そう直樹は自分を責め立てる。もっとも使いこなせていないといっても、刀身に竜の炎を纏わせることは出来るので、木で覆われたドリアドリザードには相性がよい。

本来の性能は竜のブレスのように炎を吐き出すことだが、今はその魔剣の制御を把握するのに手間取っていてたどり着いていなかった。もっとも、使いこなせていないという認識は実は事実とは異なる。

それはあくまで直樹基準での使いこなせていないという話だ。未だに竜の炎のブレスを出せないのは、そこに至るまでの行程を感覚ではなく理論によってその能力を把握する……という本来であれば完全な異能を発揮しながら覚えている途中であるからで、実はもっと適当にやれば今の直樹ならすぐにでも炎は出せる。しかし直樹はそれを理解していない。周囲も気付いてはいない。直樹の『魔剣の操者』というスキルの真価を、未だ正しく理解している者は直樹本人を含め誰もいなかった。

ともあれ、直樹は自らの把握した限りの力を持って、剣を振るっている。魔剣が出し得る最高出力の炎を纏わせて剣を振るう。

それでも弱くなったと直樹が考えているのは、結局のところ問題は魔剣を使い切れていないということではなく純粋に剣術の技量不足である。それが魔剣を剣として振るわなければならない場面が増えたために露呈しただけであった。

そしてライルと、それに続く直樹、エミリィ、フレイムナイツによってドリアドリザードとの戦いは続いていく。

もっともその中にあって、エミリィの心中も実は穏やかではいられなかった。

後ろから見ているエミリィは気づいてしまったのだ。召喚騎士は術者の意志力によって制御される。そしてフレイムナイトの行動が常に直樹の周辺にあることを。

今まではそうした機会がなかったから分からなかったが、フレイムナイトは直樹を護ることを前提に動いていた。だからエミリィも自分と同じ思いを抱えている人物がもうひとりいることを知ってしまった。

(まさかティアラはナオキのことを……)

愕然とした思いを抱えながらも、エミリィは賢明に頭を切り替えて戦いに集中する。

なお、今まで気付いていなかったのか……というツッコミは捨て置く。