軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百三十一話 待ち伏せをしよう

◎大竜御殿 神竜皇后の間

「ドラゴンイーターが来ています」

朝起きたばかりの風音に、突然やってきたアオがそう告げてきた。

「なに、それ?」

絶壁に眠っているタツオを貼り付かせたまま、いや断崖絶壁に眠っているタツオを貼り付かせたまま風音は眠い目をこすりながらアオに尋ねる。

「魔物です、ゼクシアハーツには出没しない新種のヤツです」

そう切り出したアオだが、その顔は浮かない。その様子からどうやら思ったよりも深刻な事態のようだと風音も理解できた。

「うーん、天下無敵のドラゴン様が対処できない相手なの?」

しかし風音の疑問ももっともだ。確かに風音のパーティは今では成竜が相手でも対処できるほどの実力はある。だが、それでも英霊抜きではこの里の竜の勢力に対抗できるほどのものではない。

「私や四竜クラスならば対処は可能でしょうが、万が一があります。私は戦いますが、出来れば白き一団のお力をお借りしたいのです。ただ風音さんとタツオくん、弓花さんは外れてもらいますが」

「んー私にタツオに……弓花なの? もしかしてそれって竜気の問題かな?」

風音の質問にアオが頷いた。タツオと竜体化を覚えた風音や、黒岩竜のステーキを食べたことで多少ではあるが竜気を発生させられるようになった弓花は戦うには不適格らしかった。

それにしてもパワーアップイベントがまさか弓花の出番を奪うことになろうとは、風音にも予想できない事態であったろう。ジンライの義手化により益々出番が喰われそうだというのに風音の親友は不憫な娘であった。

そしてタツオは自分の名前を呼ばれたからか、くえっと言いながら目を覚まし、へばりついていた風音の断崖絶壁からズルーと滑り降りて、フラフラと床を歩き始めた。どこにいくのかは決まっていないようだ。そして三歩歩いたところで、そのままズルリと寝転がり、またくえーと眠りに入ってしまった。そんなタツオを見ながら風音はアオの言葉を頭の中で反芻していた。

「あ、でも竜気がっていうならジンライさんの義手も危ないんじゃないかな」

風音はそのことに思い至ってアオに尋ねた。ジンライの義手はそのほとんどを竜の素材で構成している上に竜の心臓動力の武装である。その腕には竜気に満ち溢れていた。だがアオは「大丈夫でしょう」と返した。

「竜気を放出しているからドラゴンイーターを引き寄せることにはなるでしょうが、生体から発生させられた竜気でなければ取り憑かれる心配はありません。あれは竜気を発生させる生き物に寄生する魔物なのですから」

「寄生?」

風音が首を傾げて尋ねると、アオは忌々しげに目を細めて風音に答えた。

「ええ、ドラゴンイーターとは竜に寄生する植物の魔物なのです」

◎コンロン山 東地区

アオからの依頼により早朝に集められた白き一団は、昨日の 雷神砲(レールガン) による傷痕も生々しく残るコンロン山の東に赴いていた。すでにドラゴンイーターはコンロン山の中心に向かって移動中だ。もうじこの地区にもその姿を現すだろう。そしてそこには人化のアオと、参加を止められたはずの風音と弓花の姿があった。

「例え旦那様と息子に涙ながらに引き留められようと、仲間を見捨てられず戦場に出てしまう私かっこいい」

「自分で言わなきゃ、そうかもしれないわね」

風音の独り言に冷めた目を向けたのは弓花だった。その弓花に風音がムッという顔をした。

「というか弓花こそいいの? 危ないんじゃないの?」

風音同様に竜気を出せる弓花もドラゴンイーターに寄生される危険性はある。だが風音の言葉に弓花は「はっ」と笑った。

「神狼化時は竜気はストップみたいだから、その間だけ頑張ってみる予定だよ。正直、火力は多い方がいいでしょ」

そういう弓花の視線の先には直樹とライルがいた。後衛職はともかく、あのふたりのフォローは必要ではあった。

装備を変えて急激に実力を上げつつあるライルは現在、弓花から盾を交えた戦闘の指南を受けており、新たなる師弟に近い関係も構築されつつある。だが、未だその力は荒く、実戦では不安視される部分も多い。

また直樹は、ドラゴニュートシティで新たなる魔剣『牙炎』というものを手に入れたが、現状ではまだ使いこなせていない。操者の魔剣で操るにも魔剣の数が足りない現状の直樹は絶賛戦力ダウン中であった。

なお同じ新人組であるエミリィについてはポジションが後衛であることもあり、プラス火力としては考えられているが、決定打と見られていない点ではふたりよりも期待されてないということでもあった。

そしてそのパーティの中でジンライは……だが、今はユッコネエに跨がり、意気揚々とその義手を撫でていた。

「にゃにゃっ」

「ふむ。分かっておるわ。お前を蔑ろになどしはせぬ」

義手ばかりかまっているジンライへの抗議の声に、ジンライは頬をゆるめながらユッコネエの頭を撫でる。ここはジンライのパラダイスのようである。

「ねえ、ジンライさんがなんか……」

「全部あんたが原因だからね」

生暖かい風音の視線にジト目の弓花である。とはいえ、戦場においてジンライがその空気をそのまま持ち込むことはないと弓花も分かってはいるので、師匠には何も言わなかった。

「それで私は良いけど、あんたはどうするの。正直下がってた方がいいと思うけど」

気持ちを切り替えて弓花がそう尋ねる。実際風音は危ないだろう。タツオは今回はさすがにお留守番だが、風音もそうするべきだと弓花は思っていた。

「うん、後ろで見てるつもりだけどさ。けど今回はあいつを使うつもり」

風音が指を指した先には3メートル魔剣を携えたタツヨシくんドラグーンがあった。

「使う? いつもいっしょに戦ってると思うけど?」

「いつもとは違うよ。今回は完全制御でやるよ。ジンライさんの義手みたいに」

「どゆこと?」

弓花が首を傾げる。

「情報連携を通じて私が完全に制御して動かす。ようはティアラのフレイムナイトに近い感じかな。私のは一体だけど」

その風音の言葉に、名前を呼ばれたと思ったティアラが振り向く。

「何か呼びました?」

そう尋ねるティアラに風音が今した話題とは繋がらない、別の言葉で返す。

「うん。今回もティアラのフレイムナイトには活躍してもらうからねえ」

「はい。任せてください」

実際のところ、目立った活躍こそしてないものの戦いの中ではいつだってティアラのフレイムナイトが役に立っていた。

数がいてそこそこ戦力にもなるため囮役・盾役としては非常に優秀で、ティアラ自身も集団を操ってのヘイト管理に非常に長けている。要は敵をかき回すことが上手いのだ。

そしてその陰に隠れて、雷の魔術を使って要所要所で纏まった敵を叩くルイーズとは良いコンビであると言えよう。

「今回はティアラも新技を披露できるしね。気合い入っているわよ」

横にいるルイーズが口をそう挟む。

「ええと、確かフレイムパワーだったっけ?」

風音がティアラから聞いていた召喚騎士の名を口に出す。その風音の言葉にティアラも満面の笑顔で「はいっ」と答えた。

このフレイムパワーとは、新たなる召喚体ではなく、元々呼び出せたフレイバードとフレイムナイトを融合させた炎を纏った有翼騎士である。フレイバードは一体しか呼べないため、このフレイムパワーも一体だけしか出せないが、戦闘能力が大幅に向上するため、今回の戦いの中では期待される戦力だった。なおフレイムパワーのパワーとはつまりは 能天使(パワー) の意である。

また他のフレイムナイトはクリスタルの槍を持っているが、このフレイムパワーは弓花より譲り受けた竜骨槍を持っている。これは元々はジンライの愛槍であり、竜牙槍には及ばないまでも親方作のシロモノであり、当然クリスタルの槍よりも強力な武器であった。

「よし、それじゃあ、ミーティングはいるよ」

準備が整ったのを見計らって、風音はその場で全員に声をかけた。一度話し合いは行っているが、ここで戦闘前の最後の確認である。

今回、風音たちが戦うことになったのはドラゴンイーター三体に従属の無数のドリアドリザードという魔物だ。その魔物を発見したのは早朝見回りに出たドラゴンの一体だった。もっともそのドラゴンは、今はドラゴンイーター3体の内の1体となってしまっている。

最後の力を振り絞ってこのドラゴンイーターの存在を咆哮して伝えたそうだが、その後にドラゴンのみが感じる甘い匂いに釣られて取り込まれたらしい。

「ドラゴン族には抗いがたい匂いらしいね。私は叡智のサークレットの耐性防御があるから平気だけど」

風音はそう言ってチラリと弓花とアオを見るが、弓花は鼻をムズムズさせたまま唸っていた。

「私はちょっとムズムズするわね。まあ耐えられないほどじゃないし神狼化すれば大丈夫だと思う」

「人化によって症状はある程度抑えられますが、その分、火力も落ちますね」

「頼むから、植物人間とかにならないでくれよ。シャレにならないから。姉貴もだけどさ」

直樹が心配そうにそう口にする。今回風音は後ろに回るので一番危ないのは弓花だと思ったのだろう。だが弓花はジト目で直樹を見ながら、

「ま、一番危険なのは今一番役立たずのあんたなんだけどね」

と言い放って、直樹を涙目にさせていた。事実だけに返す言葉がない。

「まあまあ。直樹とライル、エミリィにタツヨシくんノーマルはドリアドリザードの対処をお願い。あれはあれですばしっこく厄介みたいだし」

「オッケー。正直ドラゴンクラス相手とか言われてもビビるしな」

そう軽口を叩いての返事はライルだ。己の力量の上昇を肌で実感しているライルは自信に満ち溢れているようだった。その上で自分の力量の過信もしていない。

「ビビるって言ってもね。ドラゴンイーターは地核竜んときよりは鈍いっぽいから、ライルなら行けるかもしれないけどね。ま、今回はそっちをお願いするよ」

風音の言葉に任せろとライルが胸を叩いた。その会話は、役割上はドリアドリザードが相手だが、実力の上ではドラゴンイーター戦の参加資格ありと宣言されたに等しく、後ろにいる直樹がライルを悔しそうに見ている。そしてそれを風音も分かっていてフォローはしなかった。

(ま、直樹は魔剣に頼りすぎてたからなぁ。その段階で慣れすぎてたのがマズかったんだろうね)

プレイヤーとしてのスキルの恩恵を考えれば、本来であれば直樹はもっと伸びているはずである。だが、ここでの生活に合わせすぎたのだろう。それが恐らく風音達と直樹の成長の差を生んでいると風音は考えている。

だから風音は直樹のその悔しさへのフォローは行わない。今の直樹は弱い。だが、きっと強くなれると風音は信じている。這い上がれると願っている。そして今感じている悔しさはやがて直樹の強さになると期待して、風音は直樹を無視して話を進めていく。

そして作戦目標は3体のドラゴンイーターの殲滅。それは要はドラゴン3体と戦うことにも等しい大仕事である。そして、各々の役割を確認し、風音達はもうじきここを通るであろう魔物を待ちかまえることとなった。