軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百二十四話 とっとと帰ろう

◎王都シュバイン 王城デルグーラ 女王の寝室

「いや、良いのよ。私も急いで送って意味不明な文面にはなってたのは分かってるし。うん、私を今回助けてくれたのも風音なんだし、気にしてないわ。本当にありがとうね風音」

そしてこの笑顔である。そこには、こぼれ落ちる涙を必死で堪えながら親友に対して感謝の言葉を贈り続ける女王様がいた。感謝の気持ちは本当だ。何者にも代え難い親友であるには違いない。しかし、だからこそ、悲しい。

何故にこの自分のお友達はこんな小学生のようなことが出来るのであろうか。しかもこのチンチクリン、紆余曲折あったにせよ今や一児の母である。悲しい。なぜだか分からないがゆっこ姉はとても悲しい気持ちで溢れていた。そして涙を流しながら、疲れてそのまま眠りについてしまった。呪いの影響もあってゆっこ姉の消耗もかなりのものだったのだ。そこにきてあのメールである。心が休息を求めても仕方のないことだった。

「はっ、言い訳すら出来ずにフェードアウトされた」

眠りについてしまったゆっこ姉を見ながら呟く風音の後ろでアオがどう言い訳するつもりだったんだろうと首を傾げたが、ゆっこ姉はすでに夢の中へと旅立っている。今頃は自分のメールの意図に早々に気付き、悪魔たちを退けて自分を救ってくれた親友とキャンプファイアーを囲ってマイムマイムを踊っている頃であろう。

「なんだか知らないっすけど、カザネっちにユウコ女王様が感涙しまくりで疲れて寝ちまったみたいっすね。ほんに情の深いお方っす」

そう、ウィンドウの見れないイリアは良い方向に勝手に解釈し、タツオも『さすが母上』とバッサバッサと羽を広げていた。ちなみにタツオは風音にくっつくとウィンドウが見れてしまうため、ゆっこ姉が起きていてウィンドウが開いてる間は「ストップ、タツオ!」と抱きつこうとするタツオを止めていた。姑息な母である。

「ま、いいんですけどね。女王陛下に別れの挨拶ができないのは残念ですが、とりあえず私たちはお暇しましょうか」

そしてアオがそう口にしたことで、その場は収まる。その後、風音は猛省したと書いたメールを送ってからイリアに簡単に挨拶をして王城を後にした。

悪魔の件もある。風音がここにいた痕跡は出来うる限り残しておかない方がよいのだ。名残惜しいし、言い訳したいし、謝罪もしたい気持ちもあるが、それを抑えて風音はアオとタツオと共に、そのまま王都シュバインを離れていったのである。

ちなみにアオは去り際に、アオが『滞在している』ことになるように変化の術による替え玉をイリアに依頼していた。アオによる女王の目覚めを印象づけること、そしてハガスの心臓の封印もアオの手のモノであることを広め、悪魔の認識をアオに向けさせる腹積もりだった。

そうして白竜王の千鬼討伐騒動から続いていた不穏な状況も終わりを告げ、ミンシアナ王国はようやくのいつもの日常を取り戻していく。その裏ではチンチクリンな女の子が活躍していた事実は表には出てこない。彼女が国を救った英雄だと知るのはわずかばかりの関係者だけであった。

◎ミンシアナ王国 上空

「むう、次に会うときが怖い」

国を救った影の英雄がそんなことを言って頭を抱えていた。王都シュバインからは既に離れ、今は風音たちは東の竜の里に戻る真っ最中である。

『歓迎してくれるとは思いますよ。あなたがユウコ女王陛下を救い、悪魔をしとめたのは紛れもない事実ですし』

そうアオは口を出す。その言葉は紛れもなく本心であるし事実だ。事情が事情だけに風音には今回の件では報償も表向きはない……というよりもその話し合いもせずに出てきてしまったのだが、当然のことながらこのまま何もないままということはありだろう。

「そんなのは別にどうでもいいんだよ。友達なんだから助けて当然なんだし」

もっとも風音にとってはそれはどうでも良いことらしい。あるいは特に言うまでもなくなんかくれるだろうというゆっこ姉への期待故か。

『そう言えるあなたが羨ましいですよ』

そしてアオは少女たちの友情に微笑ましく思う。

「いっそ、千通ぐらいからメール送って流してしまうってのはありかな。お通じだけに」

しかし、風音のその言葉にアオの微笑ましい気持ちは消失した。アオの風音への好感度がだだ下がりした。

『あまり羨ましくなくなってきました。止めましょうよ。また泣いてしまいますよ。女王陛下が』

「……むぅ。まあ、ゆっこ姉も精神的に参ってたようだし、落ちついてから顔会わせればきっと分かってくれるよね」

『ていうか、メールで連絡来ると思いますけどね』

「あーそうだねー」

ファンタジー世界に来たというのにSNS系の「いるんでしょ?」的な強迫観念に追われることになろうとは……と思い遠い目をする風音である。ウィンドウは自分自身と直結してるので居留守も使えない。自業自得過ぎてアオも何も言えなかった。

『ところで母上、お尋ね申したいのですが』

風音とアオの会話が一区切りついたところで、風音に抱きしめられていたタツオがクワッと質問した。

「なにかな、タツオ?」

気を取り直してタツオの質問に風音が答える。

『メールとはなんでしょうか? 父上の知識からはないものなのですが』

その言葉に風音が目をぱちくりする。

「あー旦那様ってそこらへんの知識ない人(?)なんだ?」

『どうでしょうね。ある程度知識も選別してタツオくんに渡してるからかもしれませんが』

アオの言葉に風音も「なるほど」と頷いた。記憶の受け渡しは本来はあまり薦められる行為ではないのだ。ナーガの記憶をすべて焼き付けてしまえば、ナーガのコピーになってしまう。出来うる限り知識は自身で身につけさせ、可能性を広げておく方が良いとされている。

「メールって言うのはね。すごく距離が離れても書いた文字を伝えられる魔術?……みたいなものなんだよ」

風音がタツオにそう簡単にかいつまんで話す。

『それは凄い。それを使えば父上にも連絡が取れるんですか?』

タツオがクワァと興奮して尋ねるが、風音は首を横に振る。

「これはお母さんたちじゃないと使えないからねえ。旦那様とじゃ繋がらないんだよ」

そう風音は言うとタツオがショボンとした顔をしたが、しかしアオから続けての言葉があった。

『その点については私が当面は東の竜の里に常駐していますから、ダイレクトにではないにしてもナーガ様に連絡を取ることは可能ですよ』

「あり、そうなの?」

それは風音には初耳の話だ。

『ナーガ様も一命は取り留めましたがかつてのお力は取り戻せませんでしたし、私が長代理として動くことになっていますので』

ちなみに風音とアオはすでにパーティ登録をすませてある。弓花と直樹も後でアオと登録する予定だ。今回の悪魔の件で情報伝達の速度の重要さを知った風音は、ミンシアナに帰る途中で死霊王のヨハンともパーティ登録しておこうと考えていた。

ともあれ、アオが長代理として東の竜の里にいることになるとは風音も聞いていなかったので、風音はその件を掘り下げる。

「それ初耳なんだけど。アオさんって西の竜の里の人だよね?」

『私は竜族の繁栄のために動いてるだけですので』

元々東の竜の里を護る四竜もアオが転生竜の儀式で生んだ子供たちである。アオという存在は竜族においても特別なものであるらしかった。

「だったら旦那様との連絡をお願いして良いの?」

『惚気ばかりでなければ構いませんよ』

そう冗談めかして言うアオ。

「だってさ。タツオ、良かったねえ」

『はい。旅の間も父上と言葉を交わせるとは感動です』

風音に抱きしめられながらクエックエッと感動の声をタツオはあげていた。翼もバタバタしたいが、風音に抱きしめられているので、モゾモゾしているだけであった。

『旅ですか。風音さんは里に戻った後もまたすぐに旅立つおつもりなんですか?』

「うん。少しのんびりしてからだけど、目的地もあるしね」

『目的地?』

アオの問いに風音は「A級ダンジョンのゴルド黄金遺跡」と返した。

「そこに元の世界に戻れる穴があるそうだよ」

その言葉にアオの目が細まる。

『確かに、ここ数十年の間にダンジョンの奥で異世界に繋がっていると言う噂は何度か聞いたことがありましたが』

「ゆっこ姉本人の目撃情報だからね。確度は高いと思うよ。私たちはそれを目指してるのさ」

『元の世界に戻れると?』

それはアオにとって当の昔に諦めたことだった。だが目の前の少女はソレを成そうとしている。

『しかしタツオくんはどうします。あちらでは育てるのは難しいと思いますが?』

アオの言葉にタツオが「クアッ?」と声をあげて不安そうに風音を見る。それを風音はタツオの頭を撫でながらだいじょーぶと答えた。

「私はここで生きるつもりだし、戻る手段も考えてあるよ。神様からも保証付きのヤツをさ」

ニヤリと笑う風音。なるほど……と、アオは頷く。どうやら目の前の少女は本気のようだと。そしてその道筋まで掴んでいるのだと感心する。それは彼が見てきたプレイヤーの誰しもが成し得なかったことだ。

(現実世界に帰れる……)

風音の言葉にアオの顔が真剣なものに変わる。それを見て、風音はアオが元の世界への想いに駆られていると思ったが、アオの頭の中はこんな感じであった。

(ハードディスクを破壊出来るなら……誰かに見られる前に電子レンジに……外国製ミキサーでミキシング出来たら……)

この世界に来てから800年、ずっと願っていた望みが叶うかもしれないと。腹ボテロリフォルダが両親と妹の目の前で火を噴く前にどうにか出来るなら……そうアオは思わずにはいられなかったのである。そして風音にはそのアオの想いは伝わらなかった。当たり前だが。

なお、翌日目覚めたゆっこ姉から風音に「メールの件については顔を合わせたときにゆっくり話しあいましょう」と書かれたメールが届いていた。何故かその場で「へへー」と言いながら土下座した風音であったが、ゆっこ姉には届かない。ただタツオがくわぁ?と首を傾げただけである。