軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百二十三話 過去と向き合おう

あまりにもあまりな光景にチビッた風音はパンツを履き替えた。

なお、以後の物語においてこの件についての言及はない。

◎王都シュバイン 王城デルグーラ 地下水路

風音はゴーアの最後を見届けるために、叡智のサークレットの遠隔視でその光景を見ていたのだ。そして、そのあまりにもヒドい自分の英霊の所業に絶句していた。何を思ってあんなものを創造してしまったのか、中二という暗黒時代に生まれたその化け物に風音はただただ恐怖した。

そして数分惚けた後、正気を取り戻した風音が犯行現場に行くとディアボの時と同様にゴーアだった黒い固まりがそこにはあった。

(悪魔ってのは、休止状態になるとみんなこうなるんだったっけか)

ルイーズの話によれば周囲の殻みたいなものは心殻壁というものらしいが、悪魔は倒されると、こうして破壊することが困難な黒い物体に変わる。

この心殻壁を破壊するには精神系の強力な魔術が必要なのだがその使い手は少ない上に高位の悪魔の『心殻壁』ほど硬く、破壊は難しい。それが悪魔を封印という消極的な方法にせざるを得ない理由ともなっている。だが風音のスキルはそれを突破できるとルイーズは推測していた。

「スキル・魂を砕く刃」

そして風音がスキル発動させることで両手剣の『黒牙』に魂を砕く刃を付与される。そのまま一気にその剣を突き立てると、まるで風船のように心殻壁に穴が開いて、そこから何かが吹き出していき、やがて黒い固まりも消失していった。

(うん。出来るね、浄化)

おそらく吹き出したのは取り込まれた魂だったのだろう。そして死んだ魂は、ナーガラインの流れに乗り、消えていくというのがこの世界の常識だ。であれば悪魔に喰われた魂達も今ナーガラインへと流れていったのだろうと風音は考えた。

こうして風音はディアボの時とは違い、今回は悪魔を確実に消滅させることに成功したのである。

(にしても、あれはやっぱり使い辛いや)

そして風音は先ほどの戦いを振り返る。

今回、風音は自らの存在を知られぬ為に、確実に悪魔をしとめることを選択した。だからこそアオにも頼らず、風音は最初の段階でセカンドキャラクターを英霊召喚していた。この場を『極大殺界』という結界で覆わせて孤立させ、外に情報を漏らすことなくゴーアを倒すよう仕掛けて、そしてそれは成った。

また、この戦いで風音はセカンドキャラクターの性格の把握もある程度出来ていた。

(あいつ、やっぱりこっち守る気ないなあ)

それが風音のセカンドキャラクターに対する結論である。あの悪魔(風音はゴーアという名前を知らない)が全体攻撃をしたとき、セカンドキャラクターはこちらを守ることが出来るポジションにいたにも関わらず、ユッコネエを見殺しにしていた。風音とて狂い鬼の特攻がなければ危うい状況だった。あの悪魔にディアボほどの強さは感じなかったが、だが実際のところ、それほど軽い勝利でもなかった。

さすがに風音が本当に危うければセカンドキャラクターも出てきただろうが、その根拠もゼクシア・ハーツの英霊召喚システムは主の生存を第一優先として設定してあるはずだからというシステム依存のものであり、あれの中身が自分で判断して風音を守るとは思えなかった。何故ならば、あれの中身は荒ぶる中二の風音の精神そのものなのだ。

セカンドキャラクターをブイブイ言わせてたのは当時直樹が反抗期で風音と口を利いていなかった時期(本人曰く恥ずかしかったからだそうだが)でもあり、風音の中二病が悪化の一途を辿っていた頃だった。当時の荒ぶる自分を風音が思い出す限り、最悪の場合、直樹を襲いかねない懸念もあった。可愛さ余って憎さ百倍という時期でもあったのだ。

(コンパニオンキャラもまるごと全体魔術で殺しまくりだったしなあ)

そう風音がぼやく。そもそもあのキャラはヒールプレイであった。八方美人の騎士様キャラだったジークのロールプレイと違い、あれは引き連れた仲間NPCを即死させて放置が当たり前、歩く人間は皆殺し、見えた街は大炎上という風音の中二マインドを体現した黒歴史そのものである。

あまりにも仲間が死ぬので途中から不死属性のユニークNPCのみ引き連れてたぐらいな上に、実績をとるためにその不死属性NPCも井戸の中に放り込んでしまっている。

そんなキャラなので仲間を守るわけはないとは思っていたが案の定であり、そもそも自分さえ守れれば良かったので、防御魔法も自分専用しか習得していないので仲間を護るすべも少なかったりする。

守る気もなくフレンドリファイアする気満々なロールプレイ。その名前といい、つくづく仲間の前では出し辛い英霊だった。

とはいえその極悪ロールプレイキャラが悪魔を倒したことによって風音は新たなるスキルも手に入れていた。

その名は『武具創造:黒炎』。あのキュクロープスの『武具創造』に黒炎属性がついたもののようである。黒炎属性というのが分からないが、闇属性と炎属性の混合であろうか。

(次にミノくん呼んだときにつけてあげよう)

強力な割にやられ役であることの多いストーンミノタウロスをパワーアップできそうなスキルに対して風音はご満悦であった。

◎王都シュバイン 王城デルグーラ 隠し部屋

(何が起きてるっすかねえ)

イリア・ノクタールがそう心の中でボヤいた。幽閉された隠し部屋の中、彼女はひとりジッと耐えていた。この一週間、彼女の心が休まるときなど一度としてなかった。今もそうだ。彼女の頭の中には魔術が仕掛けられている。気を抜けばボルトアの人形と化す洗脳魔術。それを防ぐのに彼女は全神経を研ぎ澄ませて耐えていた。

ここまでの間に肉体的な責めもあった。その精神にも手痛い傷を負わせられた。だがイリアの心は壊れず、未だあり続けている。

元よりクノイチだ。自分がそうした目に遭うことは覚悟していたのだ。そうしたものに耐える修行も受けてもいた。

(とはいえ、限界っすかね。どうにかして上手く死ねればいいんすけど)

心の中でつぶやくその口調は軽いが、限界は近づいていた。一番の問題は洗脳後の自分の行動だ。ユウコ女王の影武者でありながら、それを利用されてしまっては一族の名折れだろう……と、自分を殺す手段を考えていると、

「どっせーい!!」

突然目の前の壁が粉砕された。そしてチンチクリンが破壊された壁の外から出てきた。

「むーむむむーむーむむー」(あれ、カザネっちじゃないっすか)

猿ぐつわを噛まされているイリアが、なんだか唸っている。外から臭いを辿ってやってきた風音は何を唸ってるんだろうと見ていたが、縛られてるのに気付いて、さっさとイリアを解放したのだった。

「ぶはー、助かったっす。さっすがジンライさんのリーダーさんっすね」

解放されたイリアはそう言ってワハハハと笑っている。風音はその臭いからイリアがどんな目にあっていたかを知ってしまったが、だがイリアはまったく気にした風でもなかった。さきほどまで死のうかと考えていたことが嘘のようなくらいに普通に戻っていた。それこそがイリアが一週間耐え続けられたメンタルの強さである。

「あー、それにしてもカザネっちは凄いっすねえ。頭んなかの洗脳魔術まで外せるなんて。正直、解放されてもこれヤベエからとりあえず死んだ方が良さげかなーとか思ってたのにビックリっす」

そんなことを平然と言われたことに風音がビックリしたが、イリアの洗脳魔術を破ったのは 無限の鍵(インフィニティ・キー) である。風音もイリアの死の気配を『直感』で把握し、すぐさま無限の鍵の力で魔術から解放したのである。とはいえ、ゆっこ姉の影武者といえども 無限の鍵(インフィニティ・キー) については口外しづらい。なのでとりあえずは解放手段については曖昧に笑って誤魔化すことにした。

「そんでー、カザネっちが来てくれたのはいんすけど、あのボルトアのクソ大臣はいなかったんすか?」

久方ぶりの自由に体中をゴキゴキと動かすイリアに風音は「あーさっきのがボルトア大臣だったのかな?」と返す。風音がさきほどの悪魔のことを話すとイリアも「それっすね」と返した。悪魔であることはイリアは知らなかったようだが、その可能性も推測はしていたのですんなりと受け入れられた。

そしてとりあえずはゆっこ姉の元まで戻ろうと風音と結論づけ、イリア独自の隠密ルートを使ってゆっこ姉の寝室までたどり着いたのである。

だが、その先に待っている試練に風音は気が付いていなかった。己がかつて行った悪行を忘却の彼方に捨てていた。そう、風音はその扉の先にある、過去に自ら犯した過ちと向き合わなければ成らなかったのである。

それは風音が記憶の奥に捨ててしまった過去だ。だがゆっこ姉にとってはたった今知らされた真実。そして風音は扉を開けた先の光景を見て、ようやくそのことを思い出したのである。

「……」

そこには膝から崩れて呆気に取られているゆっこ姉がいた。そして周囲にあるのはウィンドウだ。概ね似たような内容が書かれたメールのウィンドウが約100通分開いて浮かんでいた。差出人は風音、受取人は当然ゆっこ姉。

それはゆっこ姉の最後のメール以降に風音が送ったメールだった。

『え、まだしてるの?』『お通じ悪過ぎー』『くっさー』『入ってますかー? コンコン』などといった、返信が来なくて最終的には意地になって送り続けた約100通のお通じメールのウィンドウがそこに陳列されていたのである。

そしてゆっこ姉はなぜだかとても悲しくなって泣いた。