軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百二十話 ボインちゃんになろう

話はユウコ女王が目覚める少し前の時間まで巻き戻る。

◎ミンシアナ王国 王都シュバイン ベルサー酒場

今はまだ昼時だが、ここ最近のシュバインは未だ祭り気分が抜けないのか、この時間でも酒を飲む輩が多いようだった。その中でカウンターにやや酔い気味の冒険者の男と、背が高くスラッとしたウェストに耽美な顔立ちの、何よりもとても胸の大きい美人の女性が『白竜王の千鬼討伐』と呼ばれる戦いのことを話していた。

「てぇ、わけなのさ。いやジーク王子様々だぜ」

男がグラスを片手にそう言って、グイッと酒を飲み干した。ここまで一気に語り尽くして、のどが渇いたのだろう。ジーク王子の姿は王国軍とはまた別に編成されていた冒険者たちの部隊からも目撃されていたらしい。

「こうさ、まるで白い壁みたいな光りが戦場を横断してな。あんなもの初めてみたぜ」

その話に興味深そうな顔を女はしていたが、だが聞きたい内容は他にもある。

「へぇ、それでユウコ女王の姿は変わらず見えないんだ?」

ユウコ女王は今はオーガ討伐以降は姿を見せてない。戦場に直接出たわけではないが、その指揮に追われて過労で倒れて今は静養中らしいとのことだった。

「まあな。王国軍も少し動きがおかしいから、心配っちゃぁ心配だけどよ、戦闘後の城での魔術も気にはなるしな」

男もさすがに冒険者だけはあり、王国からの言葉を鵜呑みにしているわけではないようだった。

「まあ、あの女王様はかなり計算高い人らしいしな。もしかしたらジーク王子の地盤固めのために、今の時期は表に出るつもりがないだけなのかもしれないなんて話もあるんだが」

実際、最初の戦勝パーティからここまでジーク王子は何かしらにつけて、出突っ張りだ。国内、国外問わずミンシアナの顔として間違いなく印象に残っている形になっているのは違いない。だが、男の言葉には含みがあった。

「文官派がまた表にでるんじゃないかって?」

「へ、それはここではあまり言いっこなしだぜ」

女の言葉に男は少し口元を歪めて笑う。

かつて文官たちの勢力が表立っていたときには、こうした酒場にはいつも何人かの監視員がいたものだった。男も冒険者新人の頃には酒場の客が連行されている場面を何度も見ている。

もっとも今の男の目には怯えというよりも情欲の色の方が強い。

「どうせなら寝物語にでも聞かせてやるぜぇ?」

そう口にして身を乗り出す男に、女はスッと男の唇に人差し指を押いて「残念」と呟いた。

「旦那がいるのよ。お誘いにはのれないわ」

「マジかよ。畜生」

あっさりとふった女に男が悪態付いて肩を落とす。そして、これ以上は聞けないと踏んだ女がボインボインと振るわせながら立ち上がった。

男の周囲が「てめえなんぞが相手に出来るタマかよ」「でけえぜ」「俺なら旦那ごと愛せるぜ」などと口々に言っているのを無言の笑顔で手を拭り振りながら、女は奥のテーブルに向かっていった。

「お疲れさまです」

その奥のテーブルにいたのはアオであった。

『母上が母上ではないようです』

そしてどこからともなく声が聞こえる。それは光学迷彩によって身を隠しているタツオだろう。

「まあ、『少々』本当の姿とは違うかもしれないね」

少々の部分を強調しながらボインボインと胸を揺らす女。何を隠そう、このライダースーツに豊満なボディを押し込めてそうな女の正体は風音である。

ボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボインボイン

「楽しいですか?」

「それなりに」

アオの質問に風音はそう答えた。揺らしまくりである。

「しかし、オーガのスキルですか。そういえば混乱状態にさせると変化の術を使うって噂がありましたっけ」

そうアオの言うとおり、セクシーボイン女はオーガの変化の術で変身した風音本人である。意外なことではあるが、オーガというのは変身能力が備わっている。もっともオーガにしてみれば戦いに偽りの姿を持ち出すことなどありえないのだろう。その持っているスキル『変化』を使うこと自体が恥であると考えているようで一生のうちで使うことが一度もないオーガがほとんどである。

ならば何故使えるのか……という話ではあるが、ゲームとしてのゼクシアアーツとしてでの答えであれば魔物ステータス入力時に変化をするというオーガの伝承を取り入れたことの名残である。

そしてそのスキルだが、昨日に狂い鬼に勝った褒美であろうかアイテム使用の発動スキルとして風音にも使用が可能になったのだった。

(しかしオーガに変化って無駄スキルだよねえ)

そう風音は思うが、この変化スキルはなかなかに強力ではあるようだった。

幻術ではなく、物理域にまで引き上げた魔力体が覆って実体を伴っているため、魔眼で見破るのも難しい。

「それで、やっぱり話は他で聞いたのと同じだね。ゆっこ姉は静養中で、軍がおかしくて、文官派? とかいうのが表に出てきている」

炭酸果汁を飲みながら風音がそう口にする。

現在風音たちは王都シュバインで情報収集の最中である。

元々、アオはすぐさま戻ってゆっこ姉の呪いを解こうと考えていたのだが、王城の様子がおかしいことに気付き、一度街で話を聞くことにしたのである。そして知ったのがボルトア大臣率いる文官派の国家掌握であった。

「ボルトア・モーガン、確かローレンの腰巾着であった人物のはずです。今の文官たちはみなユウコ女王に骨を抜かれた方々ばかりですから、妙に手際が良すぎるのも気になりますね」

そう思案顔でアオは言う。アオの人物評価に置いてボルトアが陣頭指揮を執ってここまで大それたことをしでかせるとは思っていなかった。

「それで、アオさんが直接出向いて、そのままゆっこ姉のところまで行くのはやっぱり難しいの?」

風音の問いにアオが頷く。

「呪いを解ける手段があるといって素直に通れるとは思えませんね。ユウコ女王は即位して以降、文官たちの力を削ぐことに腐心していましたから」

それが夫を殺され、子供を盗られかけた女の情念が成したものであることを風音は知らない。

「彼らにとってユウコ女王が眠りについている今の状況はこれ以上ない望ましいもののはずです。まあそれにしてもという感じはありますが」

アオは、ここまで文官たちが迅速に状況をコントロールできていることに疑問を感じている。何か別の力が働いている気がしてならなかった。

「そんじゃあ、どうしようかな。正面からダメなら、こっそり入ろっか」

そういう風音にアオも苦笑いをしながらも頷くしかない。彼もそれを考えていたところだった。

「事後承諾になりますが、ご本人に許可をいただくのが一番手早いでしょうしね」

『母上、お忍びですか』

いつの間にやら風音の座っている膝の上に寝ころんでいる、透明状態のタツオが尋ねる。

「うん、そうだね。お母さんの親友を早く助けないといけないしね」

そういって風音はタツオの頭らしき部分を撫でながら(ゆっこ姉、すぐ行くからね)と侵入する手段を考えていた。

◎王都シュバイン 王城デルグーラ 地下水路

カツーンと足音が響く。暗がりの中、蝋燭に灯った僅かな光りの中を男が歩いていく。

そこは王城デルグーラの地下にある地下水路の一角。堀の水の調整や、街へ水を供給させる施設でもあり、王族の逃走経路、隠し部屋などもある場所だ。本来は見回り番もいて、不審な誰かが入り込めるような場所ではないのだが、その見回り番も千鬼討伐のゴタゴタで一時止められている。その水路を男が一人歩いていた。

水路の横の、人ひとり通れる程度の僅かな小路の角と角の中程で男は止まると、その場にある僅かなくぼみを押した。すると小路の石の壁が別れて、地下へと降りる階段が出てきた。

そして男が階段を下りるとそこには石造りの部屋があり、そこには一人の女性がその場にはいた。

「どうかな。そろそろ色よい返事を聞かせてくれても良いと思うのだけどね」

その歳は見た目二十代半ばと言ったところだろうか。短髪でどちらかといえば幼い顔立ちのその女性は薄布一枚のような格好で鎖で繋がれ、荒い息を吐いていた。

「イリア、君の実力は知っている。だからこそ惜しい。ここでくすぶらせずに私の役に立って欲しいものなのだがね」

その男に対し、女は双眸に光りを宿した瞳で睨みつける。

女性の名はイリア・ノクタール。かつてのジンライたちのパーティのメンバーであり、東の国ジャパネスのクノイチ、そしてユウコ女王の影武者でもある彼女はこの王城の地下に秘密裏に捕らわれていた。

「ボルトア……あなたは……」

そして捕らえている相手はボルトア・モーガン。今やこの国を支配している男がそこにいたのである。