軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十一話 決断をしよう

「ザルツ峠の狂い鬼?」

「うん」

弓花の槍の手入れが終わってからしばらくして風音が口を開いた。

「ここから王都に向かう途中に渓谷があってね。そこらへんがオーガの生息地帯になってるらしいんだ」

「オーガってあの3メートルはある巨人族だよね」

「うん、なかなかの強敵だね」

風音の言葉通り、オーガというのは魔物の中でも強敵の部類に入る。その強さは風音たちが狩っていたホーンドラビットやレイダードッグなどの比ではない。

「それでザルツ峠には狂い鬼と呼ばれる群れのボスがいるらしいんだよ」

「怖そうな名前ね」

弓花の感想に風音も頷く。

「そいつが二ヶ月前くらいにも大暴れしてね。ここらでも名のあるパーティを10ほど壊滅させた後、姿を消したんだって」

その言葉に弓花が絶句する。

「10パーティ、壊滅って!?」

「最後は3パーティ共同で追い詰めたんだけど痛み分けでこっちも二人だけしか生き残れなかったらしいよ」

「………」

弓花は唖然とした顔で風音を見ていたが、途中で何か思い当たったらしく恐る恐る口を開く。

「ところでなんで風音がそれを今話題にしてるのかな」

「そりゃあ、次に私たちが倒す相手になるからだからだよ」

「Oh...」

弓花ががっくりと膝を突く。

「というかギルドからCランク以上強制参加ってお達しがあってねえ。強制参加イベントだよ、これ」

風音の言葉の嵐に打ちのめされつつ、弓花は聞き返す。

「か、回避フラグは?」

「叩き折られた!」

男らしく、ドンッと依頼書を机に叩きつける。

風音の話を弓花が頭の中でまとめるとこうだった。

朝、風音が狂い鬼の生き残りの二人ガーラとアンナと遭遇して話をしていたところ、ギルドの人が慌ててやってきて依頼書を風音に届けたそうだ。

元々ガーラとアンナは仇討ちのために狂い鬼の情報を集めており、一昨日の晩に戻ってきたのを聞いて再度戦いに挑むことを決意していた。しかし、ギルドのつかんだ状況はさらに酷いものだった。

狂い鬼はどうやら渓谷の先の黒い石の森のオーガ族約300を従え、戻ってきたのだという。

「黒い石の森ってのは、黒水晶が採れるらしいよ。今度行ってみたいと思ってる」

という風音の言葉はおいておいて、狂い鬼の目的は恐らく『ここ』だろうということ。無論、自分を痛めつけた人間への復讐である。そして現在もオーガの群れは侵攻中で明後日には街に届くらしいということだった。

「どうもミンシアナ王国の兵隊は今動かせないらしいんだよね」

「なんでよ」

弓花の問い掛けに風音は困った顔で答える。

「コンラッドで聞いたじゃん、戦争のこと。国境付近の兵を厚くしてないといざという時マズいんだってさ。元々攻める気がなくとも隙を見せたせいで相手に欲を出させることもあるし」

「あーそういえばあったわね、そんなこと。コアストーンが暴騰してるのもそれが原因だったっけ」

弓花は頭をくしゃくしゃと掻きながら言う。

「そんなわけで可能な戦力がある以上、それを使いましょうってことで、ギルメン強制参加決定。そんでこれを受け取ってから逃げたりしたらこーだ」

風音が手刀で首を横に切る動作をする。

「うそぉん」

「マジっす。街の存亡が掛かってるから必死だよ」

風音がうんうんと頷く。

「いやー、運が良かったよねえ。ランクCにならなきゃこんな稀少なイベントを逃すところだったよ」

「悪いって言うのよ。これは!」

「ジローくん、ガン泣きだった」

「でしょぉねえ!」

運が悪いにもほどがある。

「それで、風音は受けるって言うんでしょ」

やけくそ気味に弓花は尋ねる。

「うん、強制でなくても受けてたとは思うよ」

ただね…と風音は続ける。

「弓花は好きに選んでいいよ」

「どういう意味よ」

困惑した顔の弓花に風音は伝える。

「言葉通りだよ。この依頼書は『受けとった』人間だけに適用されるんだ。知らぬ存ぜぬを通せばなんとかなるよ。だから弓花はリンリーさんが恋しくてコンラッドに戻っちゃいましたって言えば済むことなんだよ」

「それは…」

弓花の言葉が止まる。それはつまり風音をおいて逃げ出せということ。

「あんたって娘はなんで、なんでそんなこと言うのよ」

「いやーでも、自由意志は尊重したいって言うか」

そう口にする風音に弓花はため息をつく。

(まったくもう、軽い口調に表情が伴ってないわよ…なんていっても誤魔化すんだろうな。こいつは)

中学からの腐れ縁だ。この娘が人見知りのくせに寂しがり屋の性格なのはよく知ってる。

(あーもうめんどくさいヤツッ)

だからこういう時はこっちから強引にいくしかないのだ。

「うるさいわねえ。貸しなさいよ」

「あっ」

弓花は風音から強引に依頼書を奪うとペンで自分の名前も書きそろえる。

「はいはい。私も参加決定ですからもう下らないこと言わないの」

「弓花、ちょっと乱暴だよ」

その言葉に弓花はフンっと笑う。元々風音を置いてどこかに行く気などさらさらないのだ。

(私だってね。この世界に来て、リンリーさんの言うことだけ聞いて無気力に過ごしてたあの頃に戻るなんて、あんたがいない日々なんてもう二度とごめんなんだから)

弓花は心の底からそう思う。

「それにどうせあんたのことだし、負ける気なんてないんでしょ?」

「まあね」

風音は頷く。その表情はもういつもの風音そのものだった。

「なら問題なし。それに」

弓花が立てかけた槍を見る。

「せっかく親方に見立ててもらった槍を持っておいて、見捨てて逃げ出すなんて真似できるわけないしね」

そう弓花が言ったところで、風音が思い出す。

「そういえば弓花は親方の家に行ったんだよね。このこと、聞いてなかったの?」

街の有力者である以上、この出来事を知らないはずはないと風音は思うのだが。

「うーん。家じゃなくて仕事場だったんだけど、今思うと裏で騒いでたのがこのことだったのかも」

(となるとこの親方の槍って、このことを見越した餞別だったんだろうなあ)

と風音は考えた。その上で弓花にオーガの件を口にしなかったのは逃げるという選択肢も許容してたのだろうと。

(…懐深いな、親方は)

そして風音の中で親方への親密度が上昇したのだった。