軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百九十四話 街を救おう

その後の風音とアンガスとの戦いだが、確かに最初の時よりもずっと勝負にはなっていたが、風音がアンガスにダメージを与えられることはなかった。

全方位型マテリアルシールドは強力だった。なにせ風音が意識した瞬間にシールドが発動する。以前にオルドロックの洞窟で戦ったミノタウロスのマテリアルシールドも厄介だったが、小さく小回りが利いて頭も働く風音のそれは非常に防ぎにくい代物だった。アンガスもそれがあるために一方的に攻撃ができない。

また近接時の空中跳びによる踏み込みは『直感』によりタイミングこそ合うのだが、こちらはまだ経験不足により不発も多く決定打にはならないようだった。

対してアンガスは封印していたトンファーの使用を解禁していた。攻撃の主体が蹴りであることはブレていないようだが、動きがコンパクトになり、防御にまったく隙がなくなっている。

風音の蹴りはすべてトンファーによってさばかれる。力ではなく、トンファーの回転によっていなされ、反撃を食らいそうなところを風音はマテリアルシールドで弾いて防ぐ。そんなやりとりの繰り返し。

だが最後には風音のミスでアンガスが勝ちを取る。そんな戦いが延々と繰り返され、それは夜が更けるまで続いていた。

◎パラムの街 セヌレホテル前 翌朝

「兄貴、そのトンファー。子供を殴った凶器っすよ」

「犯罪の匂いがしやす。マズいですぜ。証拠は燃やした方がいい」

何故に取り巻きがそんなにトンファーを燃やしたがるのか不明だが、風音とやり合ったアンガスたちは、その翌日にはドンゴルの街へと戻るのだといってホテルを出ることになっていた。そして風音とジンライが見送りにいくと、アンガスが風音にあるものを手渡した。

「よし。この俺特製のトンファー入門書を読んでさらに鍛えるがいいぜ」

それはトンファー入門と書かれた書物だった。風音が受け取って中を開くと、図が常にトンファーを持ってはいるのだが蹴り技の教本だった。

「上巻って書いてあるけど?」

「下巻はここだけの話だが、トンファーの技が書かれている。秘密だぞ」

ボソッとアンガスは言う。

「その上巻を使いこなした暁には下巻もくれてやろう。お前は俺のライバルになり得る存在のようだ」

「ライバルッ!?」

風音が一瞬その言葉の甘美さにズキュンと感銘を受けたが、すぐに正気を取り戻して「いや、このおっさんとライバルというのは……」とぼやいたが、アンガスはじゃーなーと言いながら取り巻きを連れてさっさと去っていった。

「相変わらず、騒がしい連中だな」

「ま、いいけどね」

風音は去っていくアンガスたちに手を振りながら教本を見てニヤケている。

実は昨日のアンガスとの戦闘後に風音のスキルが一つ増えていたのを発見したのだ。その名を『キックの悪魔』という。別に魔物を倒した覚えはないから、恐らくこれこそが自分のユニークスキルなのだろうと風音は判断していた。なぜ今になって出てきたのかは不明だが、もしかすると今回でメインの攻撃を蹴りと明確に選択したからかもしれないと風音は考える。今までは戦闘における手段の一つとしていたものが、ここでようやく主な攻撃として考えるに至ったためではないかと。

(……もう魔法剣士は名乗れないかもしれないなあ)

そんな諦めの笑みが生まれる。そう思うと少女は自分が一つ大人になったような気がした。そしてまだ諦めてなかったのかという天の声は届かなかった。

「修行、一緒にやるか?」

ジンライの言葉に風音は「そうだねえ」と答えた。

身体能力の強化はレベルアップの恩恵でそれほど必要ではないと風音は思っているが、今回手に入れたのは恐らくユニークスキルだ。弓花を見る限り、魔物から手に入れたスキルに比べてノビシロが大きくあるように思える。教本によって覚えることはいくらでもあるし、しばらくはこちらを伸ばすことを重点的に考えてみても良いのではないかと思っていた。

そしてアンガスたちを見送った風音たちは、他の仲間たちも呼んでホテルをチェックアウトし、そのままパラムの街の冒険者ギルド事務所へと向かうことにする。そこには昨日に引き続き、情報を収集していたベンゼルが待っているはずなのだ。

◎パラムの街 冒険者ギルド事務所

風音たちが冒険者ギルド事務所にたどり着いて中に入ると、そこには難しい顔をしたベンゼルとギルド職員たちがいた。

「おはようベンゼルさん。どうかしたの?」

その様子をただ事ではないと感じた風音はベンゼルに挨拶をすると同時に何事かと尋ねる。

「カザネさんにみなさん。あのですね。デイドナの街が今襲われてます」

ベンゼルの顔が青い。ギルドの従業員たちの中心に連絡掲示板が置かれていて、みな食い入るようにそこに書かれている文字を見ていた。どうやらかなり深刻な状況のようだ。

「どういうことだ?」

ジンライの問いにベンゼルが「ドラゴンベアですよ」と返した。

「ドラゴンベア?」

風音の問いに、それを横にいた直樹が説明に入る。ハイヴァーン内の魔物であれば、直樹もよく知っているし、ドラゴンベアは実際に倒したこともある。なので当然その魔物の知識もあった。

「ハイヴァーンでも厄介な部類の魔物だ。昔、竜を食った熊が進化したとかで、姿形は熊なんだが全身が鱗で覆われてて火を噴く」

「何それ怖い」

風音はその姿を想像したが、毛むくじゃらじゃない熊は頭の中で思い浮かべられなかった。

「ほとんど熊型の竜なんだよね、あれ」

エミリィも少し顔をこわばらせている。よほど手強いという認識なのだろう。

「そのドラゴンベアが400体ほど今デイドナの街に攻め入っているそうです。街は石壁に守られてますが、突破されるのも時間の問題だと連絡掲示板に書かれています」

そのベンゼルの言葉に全員の顔がこわばる。数が数だ。突破されれば街は壊滅するだろうということは容易に想像が付いた。だが問題はそれだけではない。

「それに、どうも状況がミンシアナに似ているのです」

「どゆこと?」

風音の問いにベンゼルが口を開く。それは昨日から収集していたミンシアナの情報だった。

「ミンシアナの首都シュヴァインを襲ったオーガの群れですが、続報によりますとミンシアナ軍は無事オーガ討伐に成功したようです。数については千体ほどだったそうですが。まあ、あの国には我が国と同じ守護兵装がありますからね」

(守護兵装?)

風音には聞き慣れぬ言葉だが、その説明はなかった。

「通常、魔物がそんな数で突然押し寄せてくることはありません。絶対にないわけではありませんが、それでも兆候はあります。ですがミンシアナにも今回のデイドナにもない」

「つまり、あんたはどちらも同じ原因によるものだと考えているわけね」

ルイーズの問いにベンゼルが頷く。

「ミンシアナのオーガの大群が悪魔の仕業なら、今回も同様のケースである可能性はある。そして狙いはお分かりですね」

ベンゼルの視線に風音は頷く。勿論すべてが推測によるもの。だが捨ておけるものではない。それはつまり、自分たちが原因で街が消えるかも知れないということだ。

「そして、現在のままではデイドナは壊滅するしかありません。あの街にいる兵は500名程度。冒険者たちもC以上は100名はいません」

「それでは軽く蹴散らされるな」

ジンライは冷静にそう答える。ドラゴンベアはオーガよりも手強い魔物とされている。並の兵士ならば一体に対して10人程度で当たる必要がある相手だ。

「近隣の冒険者や公国兵を集めているのですが、兵を揃えて街に向かってもとても間に合うものではありません。恐らく街を蹂躙し尽くされた後に掃討戦になることでしょう」

そしてそこまで口にした後で、意を決したようにベンゼルは風音たちを見る。

「ですが、今どうにかなる戦力がここにあります」

ベンゼルは『這い寄る稲妻』を知っている。ストーンミノタウロスのことを聞いている。百体はいたコボルトたちを彼女らだけで倒したのを見ている。

「悪魔の誘いの可能性、あるのよねえ」

ベンゼルの言葉にルイーズがそう口にする。

「ただでさえそんなとんでもない数のところにノコノコと向かっていって、それが罠そのものかもしれないなんて、無茶を言い過ぎじゃないの?」

そう言って笑う。だがその瞳には怒りが篭もっていた。どれだけ無茶なことを求めているのか……と。しかし、それはベンゼルも承知のことだ。

「分かっていますよ。でもデイドナの街を見捨てるわけにもいかない」

ベンゼルも真っ向からルイーズを睨み返す。ここで退くようならばギルドマスターなどしていない。その目を見てルイーズは微笑む。先ほどの偽りの怒りの色は消え、少し試した自分を反省する。目の前の男は自分たちを殺す覚悟で挑んでいる。まあまあの男に育ったようだとルイーズは頷くと、後ろにいる少女に視線を映した。

「ですって。リーダー?」

「つまり、私たちがそのクマさんを蹴散らせばいいってことだよね」

ルイーズの視線に風音がはっきりとそう告げる。その風音の背後には当然と頷く者、不安を顔に出す者、しょうがないなあと苦笑いする者と、様々な顔があった。風音はそれらを見回して、頷いて、握り拳を掲げてこう口にする。

「大丈夫。私たちならやれるよ」

その風音の微笑みに仲間たちは決意を固める。少女の言葉には、彼らをそう感じさせる説得力があった。そして白き一団はデイドナの街へと進行することを決めたのであった。