軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百八十三話 危機感を感じよう

「ダメだったな」

ヒポ丸くんで草原まで戻ってきたジンライがそう言った。ジンライの後ろに乗っている直樹も首を横に振っている。

そしてジンライの言葉に馬車に乗っていった男ノーラは「そうですか」と言って肩を落とした。予想はできていたことではあったが、それでも生きていれば……というわずかな期待はあった。それが今途絶えた。一緒にいる御者の男も気落ちした様子だった。

「随分とメチャクチャにされてた。冒険者ギルドカードも二つしか集められなかったよ」

気落ちした様子の直樹の言葉にジンライが続く。

「とりあえずは集めて燃やしておいた。これで連中も化けて出ないでくれれば良いんだがな」

冒険者のゾンビ化、死霊化は死活問題でもある。死んでいる冒険者を見つけたら埋葬するのは、道義以前に自分たちの身を守る上でも必要なことだった。ミイラ盗りがミイラになることは決して少なくない。

「そっか。ありがとジンライさん、直樹」

とはいえ、風音は風音でジンライと直樹に礼を言う。自分たちの身の安全もあるが、安らかでいてほしいという気持ち自体には嘘はない。ましてや死んだ冒険者は風音たちの知り合いだった。

現在、風音たちがコボルト地竜モドキライダーたちを壊滅させてからすでに一時間は経過していた。倒れた馬車はもう使えず、馬も死んでいることを確認した風音たちは、襲われていた男たちを一旦休ませて、その間にジンライたちに、彼らを護衛していたというパーティの捜索に行ってもらっていた。

そして風音たちが救った男はノーラ・コルグメントと名乗っていた。ドルムーの街のドラゴン料理専門の料理人らしく、その名を聞いたルイーズが「あの……」と声を出していたので、かなり有名な人物らしい。

ノーラは久々に売りに出されていた地核竜の肉を買い付けるためにクリオミネの街まで自ら足を運んだのだという。

普通の地竜や飛竜ならばともかく地核竜を狩るのはなかなか難しいとされている。通常であれば大規模な地竜の群れの中に一体いるだけだし、ダンジョン内でも深い階層にしか出てこない。

またドラゴンは言うまでもないがデカい。ダンジョン内では持って帰れる量が普通は限られているので倒したドラゴンの素材をすべて持ち帰ることは難しい。素材保管人が冒険者を数パーティ雇って速攻でダンジョンを降りて回収することもあるそうだ。

そういう意味ではダンジョンの入り口で地核竜を狩れた風音たちは運が良かったのかもしれない。もっとも風音たちがいなければ、食べられる立場だったのは地核竜ではなく、その場にいた冒険者たちだったのだが。

「どうもしっかりと保存庫を閉めてなかったようでして、地核竜の肉の臭いにつられてきたようなんです」

ノーラはバツの悪そうに魔物の襲われた理由を口にする。ドラゴン料理を扱う者としてはやってはならないミスを犯したのだ。ノーラの内心は苦々しい思いでいっぱいだった。

「旦那のせいじゃありやせんよ。護衛の連中のミスでしょう。散々注意しておいたんですがね。あのバカ共が。どうも一度閉めた後に再度確認するのに開けて、そのままにしちまったらしい」

そして、どうやら保管庫を閉め忘れたのは護衛兼手伝いの冒険者たちのようだった。だが憤る御者の男にノーラは首を横に振る。

「それでも彼らが最後まで魔物を引き留めてくれなかったら僕たちもカザネさんたちの助けも間に合わずに捕まって殺されていたかもしれないんだ。悪く言うもんじゃないよ」

御者もそれはわかっている。なのでそれ以上の言葉は御者からは出なかった。

「ふむ、地核竜の肉の臭いに釣られたわけか。ならば仕方ないかもしれぬな」

「そんなに魔物が寄ってくるものなの?」

ジンライの頷きに風音が尋ねる。

「黒岩竜を食べたユッコネエを思い出せ。コボルトがあのクラスの肉を食えば途端に変質するぞ。あのコボルト・ブルーになるか、ハイコボルトになるかは分からんが」

なるほどと風音が頷いた。弱肉強食の世界に生きる魔物にとっては是が非でも欲しいものなのだろうことは、その言葉だけで十分風音にも理解できた。

通常あそこまでの魔物の集団で襲われることは普通ないが、臭いに惹かれたあのコボルト・ブルーが周囲の魔物を牽制しつつ、仲間たちをまとめて襲ってきたのだろうと思われた。しかし風音にはまた別の懸念もあった。

「ところでノーラさん、護衛の冒険者のパーティって『スクラルキラー』で良かったんだよね」

「はい」

ノーラの返事に風音と、その後ろにいる直樹、ライル、エミリィの表情に陰がよぎる。それはブルーリフォン要塞で出逢ったスキンヘッドのブルーシーのパーティの名だ。ノーラはそしてブルーシーの名も口にした。残念ながら彼がこの戦いで果てたのは確定となった。

「身内の不始末だからと言って真っ先に飛び出していきました。良い人でしたが残念です」

「うん。そっか」

「カザネ、最終的に連中も護衛は達せられたのだ。悪い死に様ではなかったさ」

ジンライが慰めの言葉をかけるが、だが風音の顔は晴れない。

「ジンライさん、一応聞くんだけど、冒険者の亡骸の近くに『チャイルドストーン』はなかった?」

その言葉にジンライが首を傾げる。

「いや……どういうことだ?」

そして風音の言葉を聞いてノーラが「ああ」と言って手を叩いた。

「そういえばブルーシーさん、話してました。前の戦いでスゲーモン手に入れたって。ドルムーの街で換金して大金手に入れるんだって言ってました」

ノーラの言葉にジンライの顔色が険しいものに変わる。

「まさか、持っていたのか。チャイルドストーンを?」

ジンライの問いに風音は頷いた。

「ブルーシーさんは40階層クラスのチャイルドストーンを持ってたんだ。それに地核竜の肉も持ってかれたとなると」

チャイルドストーンはダンジョンの門番的な魔物のコアだ。それを魔物が手に入れれば吸収して、強化された魔物が生まれる。地核竜の肉を食べた場合も同様だ。それらを合わせた場合、どれほどの魔物が生まれるのかは正直ジンライにも分からない。

「ミノタウロスクラスの魔物が生まれる可能性も否定できんな」

ジンライの言葉に風音が渋い顔をする。

「そのクラスだとランクB以下の単独パーティだと相手にならないよね」

オルドロックの洞窟で戦ったミノタウロスは強かった。あの凶暴な怪力とマテリアルシールドの防御は脅威と言って良かった。その後マテリアルシールドはないが能力がオリジナルと変わらないストーンミノタウロスとも戦ったし、スキルを覚えて実際に戦わせてその実力も分かっている。

予想した中でも実際にあるとマズいのは前々日に風音が行ったストーンミノタウロスと騎士型ゴーレムの編成。強化された魔物を中心とした魔物軍団が生まれることだった。そして相手が集団で動くことの多いコボルトならば、あの地核竜の肉を分け合って食べていたならば、その可能性は十分にあるだろうと予測出来る。

「でも、追いかけるには……ちょっと遅いよね」

「一時間以上経ってる。臭いを辿れると言っても森の中に入っているようだし、危険だな。こちらには一般人もいる」

ノーラや御者もそうだが、ギルドマスターのベンゼルもいる。彼らを連れての追跡は厳しいだろう。それにパーティを分けて戦力を分断するのも論外。森は彼らのテリトリーでありコボルト・ブルー数匹と遭遇すればパーティの中に犠牲者が出る可能性は高い。

風音とジンライが考え込んでいると、横からベンゼルが助け船を出してきた。

「ふむ。ではギルドマスター権限で、このノーラさんの護衛任務を緊急の指名依頼にするとしましょうか」

その言葉にジンライはフンッと笑う。ルイーズ同様にジンライもベンゼルとは知り合いらしい。

「依頼料はもらえるんだろうな」

「もっちーろん。ですよね?」

「ええ、まあ」

ジンライに大きく頷いた後に尋ねるベンゼルに呆れつつもノーラは頷く。こんなところで置いてきぼりはごめんだし、ここまで助けてもらったのだ。ノーラも風音たちに報酬を支払うのは当然だろうと考えていた。

こうして方針の決まった一行はそのままドルムーの街へと向かうことになった。チャイルドストーンと地核竜の肉の行方も気になるが、まずはやれることをやるべきだろう。

そして、その道すがらに風音はノーラのことをルイーズから聞いていた。

◎首都街道 ドラゴンロード ドルムーの街方面

「へぇー、ノーラさんって有名人なんだ」

風音の感心の声が馬車の中に響いた。

「お恥ずかしい。まだまだ修行中の身ですよ」

馬車の中で唯一の男であるノーラがどこか気恥ずかしそうにそう返した。

ちなみに今馬車の中にいるのは風音、ティアラ、ルイーズ、弓花にノーラだ。ベンゼルは騎竜ライエルに乗っているし、御者は御者席のジンライの横に座り、反対側の席にはライルがいた。エミリィと直樹はそれぞれヒッポーくんハイとクリアに乗って外を駆けている。

「まーたまた。ドルムーの有名レストラン『竜牙堂』の指名ナンバーワンシェフじゃない」

謙遜するノーラにルイーズがそう返す。

ルイーズが言うにはこのノーラというまん丸い男はドルムーの街でも有名なシェフなのだという。この男の料理を食べようと予約が殺到して現在は1年は待たねばならぬと言う話だとか。

「でも、今回も結局地核竜の肉を持ち帰れませんでしたしね、ダメダメですよ」

ノーラはそう言って苦笑する。久方ぶりの狩られた地核竜が出たというので行って買い付けたまでは良かったがこの様である。何も得られず帰ることになるノーラは途方に暮れた顔をしている。

「地核竜の肉だったっけ。それ、多分私たちが倒した奴のだと思うけど」

「そのようですね。あなたがた、鬼殺し姫と白き一団のことはスクラルキラーの方々も自慢してました」

スクラルキラーのことを思い出しているのかノーラの声は少し寂しげだった。

「その地核竜の肉、私も持ってるよ」

「本当ですか!?」

ノーラが風音の言葉に反応する。

「うん、旨いって聞いてた腰や尻と肩に、後は舌とか。そこそこ自分たち用にとっておいたんだよね」

特に舌は丸ごと持っている。風音はタン好きなのだ。

その言葉にノーラも「ああ、それで……」と口にした。購入するときの地核竜の部位リストからいくつかのものが最初から足りなかったのだ。

「それでものは相談なんだけどさ」

そう言って風音はノーラに在る相談を持ちかけた。それは、つまり黒岩竜のステーキについてのことである。