軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十九話 護衛をしよう

◎アカナ街道

「親方の馬車に乗るのも久しぶりって気がするなあ」

「ガハハハ、まだ一週間もたってねえがな」

運転席の親方の横で風音はのほほ~んとして、羽を伸ばしていた。

「今度は魔力切れで倒れたりはしないんだな」

「成長期ですから」

そう口にする風音に親方が笑う。実際レベルアップにより風音の魔力は初めてゴーレムを呼び出したときの2倍近くに上がっている。現在の魔力は最大量の半分ほどなのであの騎士型ゴーレム2体で親方が見ていたときと同じ量は消費している。

「それにしてもカザネも器用な真似をするよな。ゴーレムを2体も呼び出すなんて」

「あー親方、それ認識が間違ってるよ」

親方は「何が?」という顔で風音を見る。

「ゴーレムの扱いはエンチャントアイテムと同じカテゴリーで正しくは召喚術ではないんだよ。作ったら術者の制御を離れて勝手に動くの。だから何体も作ることが可能なんだよね」

「それは魔力さえあれば何体でも作成できるということですか」

幌馬車のなかからキンバリーが声をかける。さきほどまでとはその態度はうって変わってフレンドリーだ。キンバリー曰わく格上の相手にはそれなりの態度で接するのが礼儀だとかなんとか。

「そうだね。今の私ならあれを最大4体作れるよ。高位の魔術師がちゃんと準備を整えてやるなら多分100人編成も可能だねえ」

そんなに…とキンバリーは声を上擦らせる。

とはいっても雑兵ばかりになるので使えるレベルに落とすなら20ぐらいかなと風音は頭の中で計算する。

「ふう、まったくユミカもカザネもなんてえ腕だよ」

そうぼやくのはジロー。ヒールで自己回復していたがまだ疲れがとれていない模様。

(ちょっと搾りすぎましたね)

とキンバリーはジローを見て反省する。

「でもユミカもスゴいよね。並みのランクBぐらいなら普通にいい勝負になるはずだよ」

「まあ、これからよねえ」

これは後ろを警戒中の弓花とモンドリー。

弓花も風音にかなり水をあけられていることを実感するが、落ち込んだ様子はなかった。

「ユミカの攻撃は素直すぎて読みやすいのです。まあ習い始めてすぐなら仕方ないのですが。というか本当にまだ覚えて間もないんですよね?」

弓花の成長力の異常性は風音に比べ分かり易い分、周囲から見ても目立っている。以前に他の武術を嗜んでいた(弓道部だったので間違いではない)とは言ってあるがそれで納得させられるかと言えばまず無理だろう。

「それとカザネ、気になることがあるのですが」

「何かな?」

キンバリーの声に風音が振り向く。

「あの騎士型ゴーレムなのですが、あれの動きはカザネ自身を模したものですか?」

「うん、そうだよ。さすがに目がいいね」

騎士型の行動ルーチンは風音は術者のものをコピーするように設定している。それに気が付くキンバリーの観察眼に風音は舌を巻いた。

「そうですか。動きが被って見えていたので」

キンバリーは頷き、そして風音に提案する。

「であれば、もし可能ならあのゴーレムはカザネ自身と同じサイズにした方が良いかもしれませんね。下から突き上げる動作が多いのと微妙にチグハグな動きが見られました。恐らく戦い方が体格に合ってなかったのでしょう」

「おおお、なるほどぉ」

それは術者である風音も気付いていなかったことだ。

「キンバリーさんありがとー。これでナイトーさんがさらに強くなるよ」

いやいやとキンバリーは風音の感謝の言葉に満更でもなさそうに微笑んだ。数時間前の非友好的だった態度が嘘のようだ。

「つうかよ。カザネが凄かったってのはいいんだけど。キンバリー、おめえは少しあきらめが早すぎたんじゃねえか?」

二人の会話に親方が口を挟む。

さきほどの試験試合、確かにキンバリーの判断は間違ってはいなかったと親方も理解しているが、風音の次の手も見たかったし、自分が見込んだ男があっさり負けを認めたのも不満ではあった。

だがキンバリーは首を横に振る。

「カザネは炎の術が使えるようです。カザネが本気ならゴーレムを防いでる間にまとめて燃やされていたでしょう」

(…そこまで見えてるんだ)

確かにあの後、風音は炎の魔術を使う気ではいた。しかしその気配に気付いたというのには正直驚きだった。

(弓花の攻撃の時といい、ちょっと鋭すぎるかも。何かしらのスキルかなぁ)

と、風音はキンバリーの能力を推測する。

「もちろん実戦でやりあうことになったら後れをとるとは思いませんが、カザネと私がやり合うならばその結果は戦いそのものよりも戦いが始まる前の距離で決まるでしょうね」

「それにあれ以上やり合ったらガス欠で私また倒れてたよねえ。キンバリーさんも護衛できる元気がなくなっちゃうくらいには大変なことになってたかもしれないし」

「どんな大変なことになるはずだったんでしょうねえ」

風音の言葉に冷や汗をかくキンバリー。そして二人から物言いが付いてはさすがの親方も分かったよと言わざるを得なかった。

「あーちょっと東側に気をつけておいた方がいいかもしんない」

さきほどの会話が途切れてから約10分。突然風音が口を開いた。

「あん?」

のどかな風景に当てられ呆けていた親方が風音の方を見て言葉の意味を思考する。

「まさか、魔物か?」

冷水をかけられたように頭が冷えた親方が慌てて東の森を見た。

「って、なんにもいねえぞ」

親方は目を凝らして森の中を見るが見えている限り何かがいるようには見えない。ただ街道に沿って相変わらず森が続いているようにしか。

「風音、どれくらいいるの?」

馬車の中から弓花が風音に尋ねる。

「5か6かな」

風音は森を見ず目を瞑ってそう答える。

「風でニオイが散ってるから微妙。あっちも気づいてないっぽいし。親方、念のために少し早めにいった方がいいかも?」

「お、おう?」

親方も、そして馬車の中のモンドリーとジローも訳が分からないという顔をしているが、弓花がまじめに対応しているのを見て何か根拠があるのだろうことは理解していた。

「しかし、本当に何なんだ?」

一人考え事をしていたキンバリーは何事か理解したように「そうか」と口にする。

「カザネは獣人に近い鼻を持っているとプランから聞いています。魔物の気配が臭いで分かるんですね?」

風音は首肯する。

「うん。あっちは足はあまり速くないし多分このまま通り過ぎれると思うけど」

「ま、かち合わないですむならそれにこしたこたぁねえな」

親方が馬に鞭を振るい、馬車の速度を上げる。

「ああ、そっか。狩りの獲物の数が多いと思ったらそういう仕掛けかよ」

裏でジローが「なるほどなぁ」と頷いている。その言葉で風音と弓花は隠してるつもりでも自分たちの行動が目立っていたんだな…と知った。

(この臭い、多分結構大きいな。なんだろう?)

まだ見たことのない魔物なのは違いない。が、今は護衛任務中。むやみに戦うことはできないと自分をいさめる。そして五分ほど過ぎたあたりで相手の動きがないのを風音は確認し、もう問題はないだろうと親方に速度をゆるめるよう声をかけた。

以降は特に魔物に遭遇されることも近づかれることもなく馬車は走り続けた。夜には馬を休め、野営をとり、そして朝に再び走り出してウィンラードの街に辿り着いたのはちょうど昼に差し掛かった頃だった。