軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百七十四話 解決をしよう

ズダンッと音がした。

それはイジカが弓花の槍術の技『転』によって思い切り床に叩きつけられた音。

アウターたちがイジカを見ると完全に白目をむいてのびていた。全身を打ち付ける『転』は、仮に意識が刈り取れなくとも身体の自由を奪う。こうした状況には極めて役に立つ技だった。

そして周囲のアウターがみな呆然とそれを見ていたが、いったい何が起きたのかを把握できた者はいない。それまでの攻防も決着も、あまりにも速すぎて追いきれるような力量の者はいなかった。

なお、最後の闘いで何が起こったかと言えば、弓花は竜人化が解けた瞬間にあえて踏み込み、変化が解けて勢いが削がれたと見せた後に、シルフィンブーツの単発空中跳びで速度を上げて再度踏み込んだのである。空中跳びによって発生する魔力で作られた『蹴り出すための足場』はトランポリンのように使用者を弾き出す効力がある。風音がピョンピョンと跳ね飛べるのもその力のおかげだ。そして弓花はそれを踏み込みのブーストに使用した。この戦闘中、ただの一度も見せていなかったシルフィンブーツの能力による弓花の奇襲は見事に成功していた。そして闘いの最中に動きの鈍った弓花に勝ちを意識してしまったイジカは、その空中跳びによって加速したスピードの変化に対応できず見事にハマったのだ。

その結果が今の状況である。

弓花は目の前の男が行動不能になったことをその目で確認すると周囲を見回した。たかだか15の小娘相手ではあるが格の違いはまざまざと見せつけられている。そしてその視線にその場にいた全員が気圧されて一歩引いた。

だがそのアウターたちの背後から怒鳴り声が響き渡った。

「何やってやがるテメエら!」

アウターたちがその方向に視線を向けるとそこには、男が一人立っていた。その男はこの街のアウターのリーダー、ボラボ・デギータだ。

「先生がやられたからってビビってるんじゃねえ。よく見やがれ。今の戦いであの娘は疲れ切ってるじゃねえか」

ボラボの指摘に、アウターたちが改めて弓花を見る。

すでに竜気は尽き、髪も黒に戻り、金色だった瞳も元の茶色いものに戻っている。そして、イジカとの戦いで体力、精神力共に使い果たしたのだろう。ゆっくりとだが肩で息をしている少女がそこにいた。

さらに言えば、竜人化が解けているため、当然竜の固有スキルである『竜の威圧』も解けている。圧倒する威圧感が消えたことで、今の弓花は竜人化のときに比べて実際よりも弱っているように周囲のアウターには見えていた。

「大体だな。そいつが白き一団の一員で、単身で来てるってこたぁ、仲間は来れねえってことだ」

確かに風音たちはまだ街に到着してないが、だが実際には上空にジライドと騎竜モルドが控えている。単独ではないどころか、その後ろ盾に公国があるのは明白であった。だが、それはボラボも知っていて、なおもそう口にしていた。

「今ならてめえらにだってそのガキを捕まえることは容易いだろうよ。そんで鬼殺し姫に突き出してレインボーハートの交換だってできるだろうさ」

その言葉に周囲のアウターが「おおーー!!」と声をあげる。先ほどまでと違い、希望が見えてきたとでも考えたのだろう。その様子を見ながらボラボは心の中で(バカめ)と口にしながらきびすを返す。

(上にはあの飛雷竜モルドがいるんだぞ。当然ジライド将軍もいやがる。くそ、ドア磨きは本当だったってことか)

そう悪態を吐きながら奥の部屋へと向かう。その奥に街の外に出られる隠しの地下道が存在している。騎竜の目があると地上からでは逃げ切れぬので、こうした逃げ道を用意していたのだ。

(それにあの鬼殺し姫が人質交渉なんぞするわけねえだろうが。ドジ踏んだならそいつごと化け猫にでも食わせかねねえぞ。ヤツァ、俺らと同じ人種だ)

ボラボは存外に風音のことを評価していた。おかしな方向に。

(大体、案外今回の件だって元々ヤツが狙ってたんじゃあ)

考え過ぎだ。あの子はただ見せびらかしたかっただけのアホの子である。まあ、どのみちクリスタルドラゴンを倒した事実は広まるし結局持っていることはバレるからという考えもあったのだが、破損なしのレインボーハートの価値がそこまで高くなることについては理解できていなかった。そんな風音ちゃんに対して過大評価もいいところなのだが、しかしそれ以上の考えを持つことはボラボにはできなかった。

「逃がさないよ」

上空から声が届いた。

「な、にぃ!?」

ボラボが上を見ると銀色の輝きがそこにはあった。そしてボラボは槍の柄で打ち付けられ、その場に突っ伏した。ボラボの無惨な呻き声が響く。

全く以て一瞬のことだった。身体を地面に叩きつけられたボラボが這いつくばった形で顔を上げると、そこにいたのは槍の柄の先でボラボを押さえつけてる銀髪の弓花だった。顔立ちが獣人のようになっていて尻尾も生え、犬耳もついている。そして顔に疲れがあるにはあるが、だがつい数秒前に見た時よりも確実に回復していた。神狼化の疲労回復能力が働いているのだ。

「なんだ、ありゃあ!?」

「赤いと思ったら今度は銀色?」

「何がどうなってやがる!」

アウターが弓花に襲いかかろうとした瞬間の突然の変化。驚く男たちを無視し超人的な脚力でアウターの集団を飛び越え、さらにさきほど活躍したばかりのシルフィンブーツの空中跳びで一気に加速してボラボの下へと飛びかかり制圧したのだ。ボラボも元々は冒険者でランクBの腕は持っている。だが、あまりの突然の奇襲にはまったく対応できなかった。何よりも、

(畜生、パワーが違いすぎる!?)

神狼化のステータスアップにより押さえ込まれたボラボはまるで巨大な石を乗せられているかのように身体が動かせる気がしなかった。完全に詰みである。

そして弓花はボラボを押さえつつ、周囲のアウターたちに対して、銀狼を召喚して牽制した。

「あーそこらの人全員動かないでね。動いたらこっちの子にパックンチョされちゃうから」

弓花の言葉にアウターたちが銀狼を見る。体格こそ普通の犬よりやや大きい程度だが、そこいらの魔物よりもよほど恐ろしい威圧を放っている。現状までの闘いで銀狼たちが目立ったことはなかったが、弓花が目立たなかったので併せて日陰にいただけで彼らの能力はかなり高い。

そうしてアウターたちが動く気配もなくなったところで、弓花はある人物の名を呼んだ。

「それじゃあ、用事済ますかな。ここにレイルズ・トマーソンさんっていますー?」

その声に目の前のアウターたちは反応しなかった。そして声がしたのは背後からだった。

「ああ、はい。私です」

ボラボが向かおうとした扉の奥から男が一人こわごわとした顔で出てきた。彼はボラボのアウターファミリーのナンバー2であった。地下道の隠し扉を開けてボラボを待っていたのだ。

弓花はその出てきた男レイルズを見て、それが本人であることを周囲の反応で確認すると、懐から封書を出してレイルズに投げて渡した。そしてその中身を読むように促す。

その内容とはボラボ・デギータに代わりレイルズ・トマーソンがこの街のアウターを取り仕切るようにというハイヴァーンのアウターファミリーのまとめ役である『オルボス』の首領モンデ・ロアニスからの指示書であった。

「レイルズッ、てめえ」

ボラボがそう叫んだが、弓花はそのボラボを槍の柄でグイッと押さえ込む。

その内容は今回の件をすべてボラボ個人の暴走として(事実ではあるが)カタを付けようという意図があるものであった。ボラボが憤るのも無理はないが、もはや裁定は下された。ボラボは勝負に負けたのだ。

そして弓花はレイルズに状況の収拾を任せると、レイルズはそれに素直に従った。目の前の弓花個人の指示ならばいざ知らず、弓花が『オルボス』のリーダーの指示書を持ってきたという意味は大きい。逆らえばハイヴァーン領内に留まることはできないだろうということはレイルズを含めアウターたちは理解している。騒ぐのはすでに終わった状況からどうにか逃れようとわめくボラボだけである。

そして弓花はジライドに状況の終了を告げ、この街の警備隊を呼び出した。こうして、この街のアウターの元リーダーであるボラボ・デギータと、竜騎士殺害などそのほか諸々の余罪がある凶刃イジカは逮捕されたのである。

その際に他の集まったメンバーについてはお咎めなしであったので、弓花が不審に思い尋ねたが、ジライドからの返答は「問える罪がない」ということだった。実際彼らは『まだ』何もしてはいなかった。ただボラボに集められたと言えばそれまでで、アウターと無用な波風を起こしたくないクリオミネの街の領主にとってみれば現状維持であるのが一番好ましいということだった。

結果として騒動の落としどころがボラボ逮捕のみという形となったということだ。なお、イジカは竜騎士殺しを始め、様々な殺人事件に関わっている可能性があり、首都に移送後に尋問し処刑となるという。

「それでどうする? クエストも終わったそうだからもうじきカザネたちも戻ってくるらしいが」

そのジライドの言葉に弓花は少し悩んだ後、首を横に振った。

「どうせすぐに会えますし、今日の午後にはティアラやティアラのお母さんたちとショッピングの予定でしたしね。帰りましょう」

なるほど……とジライドは頷く。そういえば目の前の少女は、普通に少女だったのだなと改めて理解する。その実力を見ているとそうした事実を忘れそうになるなと苦笑した。

そしてジライドは飛雷竜モルドに声をかけ、早々にディアサウスに戻ることを決めたのだった。

もう昼も近い。全速力で飛ばして戻らねばショッピングには間に合いそうもなかったのである。