軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百七十三話 床に叩きつけよう

「女の竜騎士とは珍しいな。現役の中で実力も伴っているのは紅のネイベル・シーンぐらいだと思っていたが」

剣に着いた血をヒュッと振って落としながらイジカがそう口にした。

そのイジカを周囲のアウターたちは恐怖と怒りをない交ぜにした顔で見ている。そしてその中の一人が声をあげてイジカにかけよった。

「先生、あんた仲間になんてことを!?」

その背後から近付く男にイジカは振り向きもせずに「止まれ」と口にした。その声に殺気が篭もっていたのを男は理解し、その場に留まる。

「邪魔をするなら斬ると言いたいところだがな。どうやらあまり甘くない嬢ちゃんらしい」

イジカは弓花から目を離さない。

「俺がてめえを斬りつけた途端に嬢ちゃんが俺を殺りにくる。どっちもやられちゃ旨みがねえだろう?」

「殺さずに仕留めますよ」

弓花がそう口にする。人殺しをするつもりはない。その弓花の言葉をイジカはフンッと笑った。

「甘さというよりも余裕の類か。臭うぞ。その槍、どれだけの魔物を突き殺してきた?」

その言葉に反応せず、弓花は槍を構え、ジリッと半歩進む。

「魔物を散々殺し尽くしといて、人間様だけ別枠みたいに語りやがるテメエみたいのには虫唾が走るんだよ嬢ちゃんよ!」

だが、挑発には乗らない。弓花はイジカの言葉も聞かず、ただイジカを倒すことだけに集中している。

(ふむ、まったく乗らないか。平和ボケしたツラのくせに、その意志が強固にできてやがる。よほどいい師に恵まれたか?)

イジカは言葉を止める。所詮ただの挑発だ。相手がノらないのなら意味はない。

「まあ、いいさ。楽しめるならな」

そして最初に飛び出したのはイジカの方だった。

「ウラァア!」

一気に踏み込み、槍の間合いを抜け、突きを見舞う。だが弓花はその剣先を僅かに槍の先と重ね合わせながら、避けに回る。いつものように槍独特の重心を生かして避ける『柳』やそこから派生して相手を転がす『転』へは至れない。相手のテンポが読めず、イジカの行動を読んで合わせることができない。

「はっ、ははははは」

イジカが嬉しそうに笑う。そのまま横に薙いで斬りつけるが、今度は弓花が踏み出し、剣を槍の柄で受け止める。

「ぬっ!?」

接触の時点で気付いたイジカは流石だろう。ぶつかった剣と槍の接触点を中心に練られた気が凝縮され、

「ハァアッ!」

そして爆発した。周囲のアウターたちはその場からイジカが駒のように吹き飛んでいく様を見た。

「うぉっと」

吹き飛ばされたイジカはそう言って、二回転ほどすると、荷物台の上に綺麗に着地した。

「それはバーンズの技の『反鏡』とかいうものか。実際の技は初めて見たが」

それに対して弓花は答えない。

「となると、そうか貴様がユミカだな。白き一団のひとり。牙の槍兵の女!」

「女じゃありません。弟子です!弟子!!」

弓花が反応した。未熟者である。

「朝と昼と夜の稽古を受けているとか」

「夜はしてない!!」

その弓花のツッコミを無視してイジカが弓花を観察する。

(なるほど。あの白いマントで最初に気付くべきだったか)

竜人化から竜騎士というイメージが強く出て、目の前の少女の正体が弓花であると結び付かなかった。だが確かに見た目からの年齢を考えれば、竜騎士で名が通っていないのは不自然だ。いやそもそもその年齢でそこまでの強さなのが不自然そのものではあるのだが。

(しかし変化するとは聞いてたが、竜人化か。銀髪になると聞いていたがどうなってる?)

情報屋から仕入れていた特徴と一致しない。そして今も上空には竜の気配があるが、目の前の少女と繋がっている様子はない。どこから竜気の供給を受けているのかが分からない。

(まあ連中が竜を使役していたという話は聞かないから、別の手段で何か補給を)

と、そこまで考えたところで思考を中断する。

「雷神槍ッ!!」

いつの間に出したのやら、アイテムボックスから取り出した投擲用の槍に雷の気を纏わせて弓花が投げつける。

「ちぃっ」

それをイジカが瞬時に横に飛び出して避ける。(不殺じゃねえのかい?)とは思ったがそれを口に出すのは自分の甘さを露呈する行為だ。明らかに必殺の威力のそれはイジカのいた場所を通り抜け、倉庫の荷物を、その後ろの壁を、恐らくは隣の建物まで貫通していった。

それを見ていたアウターたちがゾッとした。対竜攻撃としてハイヴァーンでは古くから広まっている雷神槍だが扱える人間は限られている。冒険者で言うなら使いこなせるのはランクB以上の冒険者ぐらいの難易度だろう。

この場にも何人かはランクBクラスはいるが、だが動けない。その実力の高さも分かるが、さらに竜人化をされてはイジカ以外は手に負えないと周囲のアウターたちは考えた。これは竜人化のスキル『竜の威圧』の効果も効いていた結果だった。

なんにせよ邪魔が入らないのはありがたいとは弓花もイジカも考えていた。

「くくく、なかなかにやるなユミカよ」

「うりゃあああ!」

笑って声をかけながら弓花に特攻し剣を振るうイジカと、それらを受け流し隙あらば攻撃を仕掛ける弓花。途中に繰り出される弓花の派手な赤い気を纏わせた槍技と、イジカの紫の気を纏わせた剣技が激突する度に周囲の空気が震えた。

それを見ている周囲のアウターたちは身動き一つとれずにその闘いを見ていた。次元が違うと恐れおののいた。

(しかし強い。竜人化してなかったら押し切られてたかな)

そう考えながらも身体は次の攻撃を繰り出している。ふと、相手の攻撃が止まって見えた。

(……来たかな)

わずかにそう考えたが、すぐさま無駄な思考を引っ込める。集中力が研ぎ澄まされ、音も色も消えた世界が広がる。それは『ゾーン』へと至る感覚。

だが、その技は両刃の剣だ。互いに切磋琢磨しあう実力の持ち主が相手では、その相手もゾーンの領域へと引き上げてしまう。そしてギアの上がったユミカにあわせてイジカもまた『ゾーン』へと入る。それにはイジカの顔が歓喜に染まる。

(久々の感覚。こいつは捗るねえ)

イジカの純粋な殺意に染まった瞳が弓花を貫く。だが弓花の金の瞳はそれをモノともしない。

剣の速度が上がった。だがそれ以上に互いの斬撃に隙がなくなった。張り詰めた空気が何十倍にも濃縮されたような空間の中、何人かのアウターが空気に耐えきれずに吐き、何人かは過呼吸で倒れた。

そして次第にそれは激しさを増す。ここから先は純粋な剣技、槍技の戦い。派手な大技などを出す隙はもはやない。時折赤と紫の魔力光が飛び散り、踏み込まれた床がひび割れ、破片を飛び散らせる。

だがその均衡を保っていた戦いは片方の変化によって一気に崩れる。

(……竜気が切れる)

まだ変化して10分も経っていないハズだが、目の前の敵は強すぎた。次第に出力をあげ、弓花は気がつけば全力を出していた。ならば竜気が尽きるのは必然。そしてそれは相対するイジカならば当然のように気付くだろう。

故にそれが勝利の分け目。

踏み込んだ直後に竜気が切れ、勢いの足りない弓花と、

それを勝機と見て切りかかるイジカと、

その誘いに『乗ってしまった』イジカに対し、シルフィンブーツの空中跳びで更なる踏み込みをかける弓花。

そして結果はその場にいた誰の目にも明らかだった。

勝機の目を見つけて飛び出した男は全身を床に叩きつけられ這いつくばり、ここまでの状況を読みきった少女がひとり立っているというシンプルな結果がそこにあったのである。