軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十七話 試験官と戦おう

◎冒険者ギルド事務所 地下闘技場

「闘技場なんてあったんだあ」

試験当日、風音たちは事務所で待っていたプランに案内されて、ギルド事務所の地下にある闘技場まで来ていた。

「昔はここ奴隷市場だったらしいわね。今はごらんの通りだけど」

プランは面白くもなさそうにそう口にする。

(奴隷ねえ)

奴隷制度はこの世界でも根付いている。風音も市場で商人たちが引き連れているのを何度か目撃している。

思ったほど待遇が悪そうでもないというのが風音の印象だったが、程度問題でもあるし、劣悪な環境もあるところにはあるだろうとも考えている。

闘技場の中にはいると風音たちの見知った顔がいた。

「あー親方だー」

「いよぅカザネ。ユミカもおはよう」

「おはようございます。モンドリーさんも。もう体は大丈夫なんですか?」

「うん。おはよう。ユミカ、カザネ。怪我の方はもう問題ないよ」

「怪我っつーか、噛まれたときに悪い病気をうつされたらしくてな。まあそんで寝込んでたんだよ」

「あーなるほど」

感染症だったわけだと風音は考えた。

「それで今日は試験官とかいう人と会うハズなんだけどもしかして親方のことだったりするの?」

レベル的に妥当な人選だとは風音は思ったが、しかしどうやら違うらしい。親方は横に首を振った。

「いや俺らは今日は客だよ。お前等が試験官をぶっ倒せたらCランク任務として俺らの護衛につくわけだ」

「なーるほど、ようやくお帰りってことだね」

と風音は笑ったが、親方の背後に控えていた男がゴホンとわざとらしいセキをして前に出た。

「ジョーンズ代表、私を倒すなど冗談は止めていただきたい。ランクFの、しかもこんな子供相手に」

ブスッとした顔の男に親方はさも可笑しそうに言い返す。

「つってもよキンバリー。この嬢ちゃん等はマジ凄いんだぜ」

「そういう話はいいですから。ただでさえ単独で動いて怪我をされたんですから自重してください」

「ちぇっ、お前ももう少し余裕を持って生きた方がいいぜ?」

「余裕を持ちすぎてる方が周囲に多すぎるから苦労する人間もいるんですよ。私を筆頭にね」

キンバリーの辛辣な言葉に親方も苦笑しながら、風音に向き合う。

「まあ、そういうわけだからよ。試験官ってのは俺じゃなくてこいつだ。キンバリー・レーン。ランクBのレベル26。まあ、なかなかやる」

「ふーん。よろしくね。キンバリーさん」

「ああ、一応試験は受けさせてやる」

キンバリーはそう口にするとボソッと言い放った。

「が、受かるとは思わないことだな」

あからさまに拒絶反応を見せるキンバリーだが、風音は特に気にしたこともなく、親方に話を戻す。

「親方、なんでこの人、こんなにピリピリしてんの?」

「さあ、カルシウム足りねーんじゃねえか」

「ジョーンズ代表、悪ふざけはやめてください」

「いや、結構マジだけどな」

「くっ」

一瞬、何か言い掛けるが、キンバリーはそれを留めてプランの方を見る。

「それで試験を受けるのはこの二人とそこの彼と3人だな?」

「うん。そうよー。ジロー、出番だからこっち来な」

「うぃっす」

プランの言葉に従い闘技場の端にいた男が風音たちの前まで足を進める。

「あれ、ジロー君だ?」

「おはようございますジローさん」

「ようカザネにユミカ。なんでお前らも試験受けることになってるんだ?」

彼はジローという名の冒険者である。親方のおごりの時にカザネと長い間会話を交わしていたのをユミカも覚えていた。

「コネで」

「コネかよっ!」

風音の答えにジローは脊髄反射でつっこみを入れる。

「いや違うわよ。カザネ、あんまよけいなこと言わないように。そっちの人が本気にするから」

プランがキンバリーを見ながら注意をする。

(ああ、それがキンバリーさんがピリピリしてる理由か)

横で見ていた弓花がそう理解する。恐らくは親方が自分たちを依怙贔屓しているのではないかと疑っているのだろうと考える。

「はいはい。まあ推薦状もらったのは事実なんだから嘘ってわけでもないんじゃないの」

「おいおい、俺が推薦したのはランクDだぜ。おめーらが試験受けるのなんてさっき聞いたばかりだってんだ」

その親方の言葉をキンバリーは苦虫を噛み潰したような顔をして聞いている。

(白々しいとでも思ってるんだろうな)

その顔を弓花はそう解釈した。無論、その解釈は正しい。

「ともかく、やってみれば分かることです。時間をかけるつもりはないですし君から彼、そしてそこの子供の順にやりましょう」

「私からですか?」

突然の指名にうろたえる弓花をキンバリーが冷たい視線を向ける。

「ええ、何か不都合でも?」

「あ、いえ」

「ほーら弓花。その人、話通じないみたいだからチョチョイとノシて身の程を分からせちゃってよ」

「あんたは黙ってて」

ピキピキと青筋の立つキンバリーに顔をひきつらせながら弓花は風音に言う。横で親方が大笑いしているのがさらにキンバリーの表情をこわばらせる。

(あーもう、風音のアホが)

弓花はよけいなことを口にする親友を心の中で罵倒しながら闘技場の中心でキンバリーと対峙する。

「あの、お手柔らかにお願いします」

「お手柔らかにだと? なるほど手加減をしろと?」

キンバリーのそれはもはや鬼神の相である。

「見下げ果てた性根だな貴様。そうやって代表を取り込んだか」

(うわぁ、ダメだわ。こりゃ)

どうやらかける言葉を間違えたようだと弓花は理解する。もっとも何を言っても同じだったような気がしなくもないが。

「はあ、もういいから始めるよ。キンバリー、あんたも落ち着きな」

「ふん。分かってる」

プランの言葉に多少落ち着きを取り戻したキンバリーが腰に下げた剣を抜く。

「さっさと終わらせる。私はこの後代表を護衛する任務があるのだ」

「私たち、頭数に入ってないみたいだねえ」

「ガハハハ、みてえだな」

横からの声にまたもピクリと青筋を立てるキンバリーだが、その視線は弓花を向いたままだった。

「やっぱり怒らせてどうこうってわけにもいかないか」

場の雰囲気が変わったのを感じた風音が、ぼそりと呟く。

「ま、そう甘いもんじゃねえさ」

それを察した親方が風音に言う。もっとも風音としてもそこまで期待したわけでもなく、理不尽に敵視されたことへの意趣返しとしての意味合いの方が強い。

「それで親方、あの人の実力ってどんなもんなの」

「そりゃあ俺の護衛に呼び寄せたくらいだぜ?」

「信頼はしてるってことだね」

風音の言葉に親方は「まあな」と言う。

「ま、現時点でのユミカが勝てるとはさすがに思わねえな」

「なるほどね」

風音はじっくりとキンバリーを見る。

(へっ、なんてえ目だよ)

その横で親方が心の中でぼやき、そしてなんとも恐ろしい娘だと考える。

(ユミカを応援する気持ちがねえとは思わねえがな)

しかしその目が、その意志が示してるのはキンバリーへの勝利への欲求だろう。一挙手一投足、そのすべてをつぶさに観察しているその姿勢、集中力は驚嘆に値すると親方は評価する。

(ま、とはいえ今はユミカか)

親方は視線を闘技場の中心で戦う二人に向けた。

「いぁあああああああ!!!!」

弓花の突きがキンバリーに向かう。

「むう」

キンバリーはその突きを受け流す。

(速度に不足はないか)

そして目で槍の軌跡を追い、次の攻撃に備える。

(流れが素直すぎるが、この歳ならば十分すぎる技量じゃないか)

先ほどまでの興奮も消え、今はもう冷徹な戦士としての顔でキンバリーは弓花を見ていた。実際に戦い刃を合わせた後でも弓花を実力無しと断じるほどキンバリーは愚かではない。

「ふっ、ほっ」

突き出された槍の流れを読み、返しが来ないタイミングで一撃、二撃と打ち込む。そのいずれも弓花は受け、そして反撃を試みている。

(反応も悪くないか)

「ユミカさんでしたか」

「あ、はい」

戦闘のさなか、弓花はキンバリーから声をかけられるのを意外に思いながらも、同時に相手の中の雰囲気が変わったのを感じていた。

「筋は悪くないのですが、剣の間合いに槍で挑むのは無謀です。闘いはまず相手を自分の間合いに持ち込むことを考えた方がいい」

「は、はい」

もっとも弓花もそれは理解している。だが引きずり込まれる。キンバリーの技量は確かに弓花のそれを上回っている。間合いをとることが難しい。ならばどうすればいいか? しかし魔物との戦いや親方との訓練だけではその答えを出す経験値が足りない。

(でも、まったく戦えないわけじゃない!)

そう弓花は自分を奮い立たせて槍を構える。実際まるで歯が立たないわけでもないという実感はある。戦えているという事実が弓花を駆り立てる。

(間合い。牽制し下がる。そして)

相手の打ち込みを受けながらバックステップで距離をあける。

(ああ、打たせてくれるんだ)

あえて攻め込まないキンバリーの意図を察し弓花は強く強く槍を握り込んだ。

(ならば見せるまで)

『ラッシュ』。

弓花がスキルにまで昇華させた連続の突きがキンバリーを襲う。

(速いっ)

それにはさすがのキンバリーも目を見開いた。

だがそれも一瞬、ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつと、すべてがキンバリーの剣で止められる。そのあまりの速度の攻防に横で見ていたジローがうめき声を上げる。

(実力はある。だが惜しいな)

速度に申し分はないが、キンバリーはそれらの軌道をすべて読み尽くしていた。フェイント一つ入らない素直すぎる攻撃ではキンバリーには当たらない。そして必殺の気合いを込めて弓花が放った渾身の突きすらもするりと躱し、

「っ!?」

瞬時に間合いを詰めたキンバリーはその切っ先を弓花の首筋に押し当てていた。

「参りました」

同時に弓花が敗北を宣言する。

(あーあ、負けちゃったかぁ)

キンバリーから剣が引かれ、弓花は大きく息を吐いた。

もっともこの結果に対し不満はない。実力差の通りに負けるべくして負けたというとこだろう。それに勉強させてもらったとも素直に思える。

「ま、いいでしょう」

そんなさっぱりとした気持ちの弓花にキンバリーはこう告げた。

「合格です」