軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百十四話 親方にまた頼もう

◎リザレクトの街 宿屋サンバン

風音とティアラが宿屋にたどり着くと何故か部屋の中で親方が待っていた。

「よお、カザネ。十日ぶりくれえか」

「そんぐらいかなあ。おひさー。そしてなんで親方がここにいるの?」

風音は挨拶と当然の疑問を口にした。ちなみにティアラも横で「お久しぶりです」と挨拶している。

「ティアラさんも久しぶりだな。まあ、何でここにいるのかと言われるとジンライに頼んで待たせてもらったからなんだけどよ」

そして続けてこう言った。

「どこぞのバカが俺宛の紹介状なんて贈っちまったらしくてよお。まあそれをもらったやつが大急ぎで作れって騒いでな。突貫で作って、そんでもってさっさと起動させろって飛竜便でここまで俺も一緒に運ばれたってえわけよ」

「ああ、アガトさんかあ」

マジリア魔具工房のオーナー、アガト。ヒポ丸くんのような自立型ゴーレム馬を作る約束をしていたがまさかこんなに早く持ってくるとは風音も思わなかった。その行動力には脱帽である。

「ごめんなさい」

なので風音は素直に謝る。アガトには勢いでノセられた感があった。

「まあ、いいけどよ。こっちは金もらってやってんだしな」

親方はそう言って風音を見た。

「そんでこの街にヒポ丸くん二号(仮)を持ってきてるんだが、起動をやってもらえるか?」

「あいよー。ちゃんと専用の術も用意してるしオッケーだよ」

そして風音は親方に案内されてヒポ丸くん二号(仮)の下へと向かった。

◎リザレクトの街 倉庫街

風音が親方の案内されたのは宿から少し離れた倉庫街の中の倉庫の一つだった。

「ピンクだね」「ピンクですわ」

「おうピンクだぜ」

風音とティアラの言葉に親方が頷く。倉庫の中にあった馬の置物はピンクで、そして、やたら金属加工の厚みのあるハートマークが多い。ラブリーというか、どちらかというと時とか止められそうな印象だった。

「どうだ。やれるか?」

親方の質問に風音はヒポ丸くん二号(仮)をいくつかチェックしてから「問題なし」と答える。

「そんじゃあスキル・ゴーレムメーカー・ヒポ丸くんマークトゥー」

その場で風音が杖を振りかざし、スキルを発動するとヒポ丸くん二号(仮)が動き出す。それが終わると風音は首の裏にあるチャイルドストーンに手をかざして、自分の魔力を送った。そしてチャイルドストーンの中に風音の魔力の光が灯り、その発動を確認すると親方に「オッケー」と言った。

「相変わらずいとも簡単にやっちまうな」

親方は感心してヒポ丸くん二号(仮)を見ているが風音は唇をとがらせて反論する。

「それは誤解だよ。仕込みの方が時間かかるんだからね」

実際言葉通りに風音はこの二号(仮)のための調整を念入りに行っている。実験もなしの即納品である。いきなり120キロとかぶっ飛ばすとヤバい。

「そういうもんかね」

親方はその手の苦労については専門外だ。

「後はチャイルドストーンをはめ込んだ人間の言うことを聞くように設定しておいたから親方が起動して持って帰ることもできるよ」

「そいつは助かるなぁ」

親方自身もこのヒポ丸くん二号(仮)には興味がある。帰りに試乗できるのであれば願ったり叶ったりな話だ。そう思いながらヒポ丸くん二号(仮)の様子を見ている親方に風音が尋ねる。

「ところで親方は、まだこの街にいるの?」

「いんや。依頼主の要望でできたらすぐ戻るように言われてる。まったく人使いの荒い依頼人でな」

そう言う親方の言葉に風音はニンマリと笑ってシナを作って親方におねだりする。小指は唇にそっと添えてだ。

「えーとねえ。だったらぁ、ちょっとぉ、頼みたいことがー、あるんだけどなー」

それを見た親方が、いたたまれないものを見たような視線で頷く。

「まあ、いいけどな。おめえ、そういうの絶望的に似合ってねえな」

「マジでっ?」

あのアホの弟だったら喜んでドラゴンの口の中にでも飛び込むというのに……と、風音は己の女子力のなさを痛感した。なお後ろでティアラが「いいですわ、いいですわー」と繰り返し呟いていたので需要層の問題のようだった。ちなみにさすがの直樹も飛び込みません。

親方から了承を得た風音は今朝方竜船の中からとってきた動力球(小)をアイテムボックスから取り出して、親方に手渡した。それはサッカーボールほどのサイズのチャイルドストーンに似た球で、それを親方は興味深そうに眺める。

「こいつは心臓球? ではないか。初めて見るが、深層階のチャイルドストーンに似てるな。どこでこんなの手に入れたんだよ?」

「秘密ー」

さすがに竜船のことも無限の鍵のことも口にはできない。最近は秘密にしなければならないことが多いのだ。秘密の多い女風音ちゃんだ。

「チッ、そんでお客さん。こいつをどうしようってんで?」

親方はどこ経由なのかを聞くのは諦め、その用途を尋ねる。

「これをヒポ丸くんに付けたいんだよね」

「これをか?」

親方が目を丸くした。この動力球(小)がチャイルドストーンと同じ機能を持っているならば、サイズ的に考えてタツヨシくんドラグーンをフル稼働してもお釣りが出るハズだ。実際この手のモノは城や砦、主要施設に使う動力源として使用されていることが多い。

「まあ面白い召喚体も手に入ったしこいつも戦闘用に使えないかと思ってさ」

「そりゃあ、戦闘用には十分だろうが」

「後はこれのメイン動力にしたいのね」

そう言って風音がポーチから設計図を出して親方に渡した。それを受け取って見た親方がさらに驚きの顔で風音を見た。

「こいつは……確かにこれぐらいのやつの動力としては最適か。だが分割となると強度に問題があるぞ?」

「といってもそのサイズをそのまま作っちゃうと連れてくのも大変だよ。どっかにしまっておくんじゃ意味ないしねえ。まあ強度は後で詰めておくとして、制作の方はゴルディアスの街に着いたら親方にもお願いすると思うから」

風音の言葉に親方が設計図を見ながら唸る。

「まあ既存のものを加工する程度だから問題はねえハズだがジョイント部分に魔鉱を用意して変えねえとダメだな、こりゃ。つーか」

親方はジト目で風音を見た。

「おめえ、これをいつから考えてた? 明らかに以前頼んでたときに既に設計してねえとこうはならねえよな?」

「まあねえ」

風音はすっとぼけた顔でそう言う。横にいるティアラにはなんの話だかがまったく分からなかったが、設計図をチラ見したところ妙にでかそうなものが描かれていたのは確認ができた。もっともその正体が現実のものになるのはまだしばらくの時が必要になりそうである。

親方もマッスルクレイの配置を変えて、甲冑の調整をすることですぐに動力球を埋め込むことに成功した。そして埋め込んだ分の体積のマッスルクレイだが、外さずに胸や脚部などの装甲を若干緩めて詰めて設置し直した。その結果ヒポ丸くんの姿はさらに厚みが増し、ゴツくなっていた。

その後、風音はゴーレムメーカーのクリエイターモードでヒポ丸くんの仕様を最適化して変更配置のバランスも調整を済ませた。完璧な仕上がりだと風音は満足して頷く。

「ところでよ。面白い召喚体が手に入ったってのはどういうことでい?」

すべてが完成したあと、親方が先ほどの風音の言葉で引っかかっていたことを尋ねた。それに風音はニンマリと笑って「実はぁ〜」と話し始めた。そしてそれを聞いた親方も興味を持ち、そのまま御披露目会として外をひとっ走りする話になったのである。

◎リザレクトの街 外周

さてヒポ丸くんのスペックだが以前叩き出した時速120キロという速度は動力球の導入によりさらに上昇した。制御用の魔力を存分に使用してもまだ余裕があるため、時速150キロは出せるようだ。それは、もはや四本足であることが詐欺のような速さだ。

そして前回の時に問題視された搭乗者に対する負担はサンダーチャリオットの付与能力『紫電結界』によって改善されている。電気的な何かしらのバリアによって御者席が護られ、御者に過度な風圧などがかからないようになっているのだ。これは元々この馬車が1人で搭乗し1人で闘うデュラハンを想定して作られているためだと思われる。

さらに横幅の広い車輪とこれまた電気的なリニアな何かの力で内部もほとんど揺れることもなく快適な状態を保っているのだ。

もっとも問題がないわけでもない。このサンダーチャリオット、速度が上がれば上がるほどに例え戦闘モードでなくとも車輪の放電力が上がる。ましてやヒポ丸くんの現在の速力は時速150キロ以上。デュラハン史上に於いても類を見ない速度を実現したことにより、サンダーチャリオットはかつてない恐るべき量の放電を放つこととなった。

その恐るべき放電量の馬車は現在リザレクトの街の周囲を走っていた。凄まじい稲光を発しながら、恐るべき轟音を鳴らしながら爆走していた。

その速度と放電の光によって、外からではもはや馬も馬車も見えない。稲妻が地面を走り続けている。そのようにしか見えなかったのである。

「ガハハハハハハ、すげえ、こいつぁスゲエぜカザネ!」

「なるよ! 私は今日風になる!!」

「ガハハハハハハハハ」「あはははははははは」

上機嫌でヒポ丸くんを操る風音とそれを上機嫌で見ている親方、そして涙目のティアラがその中心にいた。彼等は自分たちがどう見られているのか気付いていなかった。スピードというドラッグに酔いしれて周りが見えなくなっていた。

そして、その光景を見たリザレクトの街の住人は恐れおののいた。

地面を走る稲妻などという奇妙なものを彼等は見たこともない。しかもその稲妻は人々を襲うどころか、通りすがりの人は避け、目の前に飛び出た子供の前で放電が一気に爆発し(逆噴射的なものと思われる)立ち止まったのである。その際に稲妻の正体が馬と馬車とそれを操る少女であることを子供は目撃していたのだが、そのことを子供が告げても大人たちは誰も信じようとはしなかった。大人は私をわかってくれない的な子供がまた一人生まれた。

そして夜になる前にはその稲妻は消え去りその姿も見えなくなったのだが、ついにはその正体がなんなのかは不明のままだった。

もっとも特訓の帰り道にその話を立ち聞きしたミナカを除いたパーティ全員がその正体には気付いていた。各々思うところはあるだろうが、確実に風音の仕業であろうとは確信していた。

そして彼らが宿まで帰った後、先に戻っていた風音の下にジンライがえらい形相で向かっていったので、その場にいる全員が風音を叱りつけるのではないかと見ていたのだが、予想に反してジンライは風音を軽くたしなめる程度だった。それどころか、

「次は人のいないところで走るべきだな。その、明日とか良いのではないかな?」

などと言っていた。どうやら自分も乗りたいようだった。

その翌日に街から離れた場所でまた稲妻が目撃された。かなり遠い場所での目撃だったので、住民は昨日の稲妻が街を去ったのだと考え、安堵したという。

ちなみに冒険者ギルドでは『這い寄る稲妻』という名で魔物として登録された。それは正体不明の雷の化身、現時点ではわずか二例しか目撃のない謎の魔物である。