軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2 馬車にて

(よし、これで邪魔者はいなくなったぞ)

侯爵令嬢を騙っていた詐欺師を迂回の森に捨てたデニッシュは、誇らしげに足を組み替えた。

(これで俺は、本物の侯爵令嬢と婚約する事ができる!)

そもそもの始まりは、十七年前。

ガシヨウ国、国防の要である、ツールフライド侯爵家が襲われた。

当時ガシヨウ国は、ダイエッタ国と戦争をしていた。

ダイエッタ国は迂回の森を挟んでガシヨウ国、シガワ国共に隣接している国だ。横長の国は背後に鉱山を背負い、採掘した鉱石を資源にしていた。

しかし鉱山の資源はいずれ尽きる物。

当時のダイエッタ国は国の資源が枯渇して、焦燥感に追い立てられていた。

そして狙われたのが、文化の似ていたガシヨウ国だ。

ガシヨウ国は麦と砂糖の名産地。そして手先が器用で凝り性が多く、ガシヨウ国と言えば華やかなスイーツが有名だった。娯楽に力を入れるだけの国力があるという事だ。

ちなみにシガワ国も食に力を入れた美食国家だったが、ガシヨウ国の方がダイエッタ国と文化が近く、華やいで見えたのでこちらが狙われた。

そして国境付近でダイエッタ国と頻繁にやり合ったのがツールフライド侯爵家。

国力の差もあって何度も追い返されていたダイエッタ国は、まずはツールフライド家を潰す為、工作員を送り込み……生まれて間もない跡継ぎを誘拐した。

恐らく、人質を取って交渉するつもりだったのだろう。

しかし誘拐した工作員は侯爵家の追っ手を振り切る為に迂回の森に入り……無残な遺体となって発見された。

そこに、幼い跡継ぎの姿はなかった。

侯爵家は大いに怒り、怒濤の勢いでダイエッタ国を撃退。逆鱗に触れたとばかりの猛攻に白旗をあげたダイエッタ国は現在、トップの首を挿げ替えて和平を結んでいる。

そうして終戦したわけだが、侯爵家には深い傷が残った。

とくに生まれたばかりの幼子を守れなかった侯爵夫人が、深く心に傷を負った。

彼女は我が子が生きていると信じて探し歩いた。

大衆へ向けて子供を探していると発信し、同じ髪色の赤ん坊が侯爵夫人の元へ大量に顔合わせに来たほどだ。中には赤ん坊を誘拐してまで連れてきた者もいて、誘拐された子供を探しているのに誘拐してくるとは何事かと厳しく取り締まられた。

そして侯爵夫人のお眼鏡に適ったのが、エクレアだ。

チョコレート色の髪にクリーム色の目。おっとり愛らしいエクレアは、侯爵夫人が手塩にかけて育てた社交界の華だ。

そんなエクレアと婚約した当初は、デニッシュも鼻が高かった。令息達の通う学園で、優秀な成績を修めたのを評価されたらしい。

『エクレアと婚約して婿になり、跡継ぎとなれ』

父である伯爵にそう言われたときは、天にも昇る気持ちだった。

実家の伯爵家は兄が継ぐ。次男のデニッシュの方が優秀でも、長男と言うだけで兄が家督を継ぐのだ。

不条理だと嘆いていたが、まさか……侯爵家を継いで欲しいと打診が来るなんて!

(それもこれも、俺が真面目で優秀だったからだ!)

事実であった。

デニッシュは学園で好成績を残したし、首席になった事もある。流石に君臨し続ける事はできなかったが、上位にいたのは確かだ。

(まさか死んだと思われていた侯爵令嬢が生きていて、見付かるとは思っていなかったが……あちらが俺を婿にと望んだんだ。そうなると、エクレアが邪魔だ)

わざわざ婿にと願われたのだ。本物が見付かったのなら、デニッシュと婚約するのが正解だろう。

しかしデニッシュはエクレアと婚約していた。偽物の侯爵令嬢と。

(このままだと偽物が本物を妬んで虐げるかもしれない……そうなる前に、偽物は処分した。なんて気が利く男なんだ、俺は)

デニッシュは本気でそう思っていた。

(これで俺に婚約者はいない。侯爵家の跡継ぎになる為の基盤はできている。後は夜会で発表される、侯爵令嬢と婚約するだけだ)

輝かしい未来に思いを馳せている間に、馬車は侯爵邸へと辿り着いた。

馬車を意気揚々と降りたデニッシュは、金髪を掻き上げてにやけそうな口元を意識して引き結ぶ。どうしても頬が緩んでいたが、本人はキリッと真面目な顔を作っているつもりだった。

完璧な未来を確信しているデニッシュは知らなかった。

自分がとんでもない勘違いをしている事を。