軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0458話

レイの手が伸びたのは、スカイファングの魔石。

右手にその魔石を握り、残る蟻地獄の魔石はエレーナへと手渡す。

「悪いけど、これを持っていてくれ」

「ああ、構わん。確かにこの魔石を持ったままではデスサイズを振るうのに邪魔だろうしな」

全てを承知とばかりに、蟻地獄の魔石を手にエレーナが微笑む。

そんなエレーナに小さく頷き、そのまま地面からデスサイズを拾って少し離れた場所へと移動する。

「さて、スカイファングはそれなりに強力なモンスターだったのを考えると、スキルを習得出来る可能性は高いんだが……どうだろうな、っと!」

その言葉と共に魔石を空中に放り投げ、デスサイズの刃を鋭く一閃。

空中で切断された魔石は、次の瞬間霞のように消え失せ……

【デスサイズは『風の手 Lv.3』のスキルを習得した】

つい先程セトが光学迷彩のスキルを強化された時と同じアナウンスメッセージが脳裏に流れる。

「……どうした? その様子を見る限りでは新しいスキルを習得出来たようだが」

嬉しいような、悲しいような、微妙な表情を浮かべたレイに向かって尋ねてくるエレーナ。

そう声を掛けられたレイは、小さく肩を竦めてから口を開く。

「確かにスキルの強化は出来たが……」

呟き、視線を向けられるのは手に持っているデスサイズ。

「いや、まぁ……試してみるか。風の手!」

呟き、スキルを発動する。

デスサイズの石突きの部分から伸びる無色透明の触手。ある意味ではセトの光学迷彩に似ていなくも無いが、その効果は大きく違う。

……それも、駄目な方にだ。

触手の先端部分のみで風を使った干渉が可能だが、それ自体では大した威力を持ってはいない。どんなに頑張っても軽く殴った時の衝撃くらいしか与えられないだろう。

このスキルの本領が発揮されるのは、やはり火災旋風のように他のスキルと共に使った時なのだ。

「……あ、でも触手の伸ばせる距離はそれなりに増えているな」

レベル2で150m程度だったのが、レベル3では200m程まで増えているのを実際に風の手を使ってみて感じることが出来る。

(レベル1で100m、レベル2で150m、レベル3で200mか。……となると、レベルが1上がるごとに50mずつ増えていくという認識でいいんだろうな)

使えるか使えないかで言えば、確かに使えるスキルなのだ。

現在レイの使える最も強力な攻撃方法でもある、火災旋風の射程距離が伸びたのと同じことなのだから。

「グルルゥ」

セトもそれを分かっているのか、おめでとうと喉を鳴らす。

「ああ、ありがとな。……出来れば、もっと強力なスキルが欲しかったんだけど」

呟きながらレイが視線を向けたのは、エレーナ……ではなく、エレーナが持っている最後の魔石。

恐らく砂漠の階層の中でもかなり強力なモンスターだと思われる蟻地獄だけに、ほぼ確実にスキルは習得出来るだろうとレイの中には半ば確信にも近い予感があった。

だが、どちらがその魔石を使うかと言われれば、首を傾げざるを得ない。レイにしろ、セトにしろ、両方ともスキルは入手したのだから。

もっとも、強化されたレイの風の手は単独で使うのには頼りないものでしかなかったが。

あるいはそれを理解したからこそか、セトはレイに頭を擦りつけ、自分はいいからデスサイズで魔石を吸収してと態度で示す。

「レイ、セトもこう言って……いや、態度で示してくれているんだ。お前がこの魔石を吸収しても良いのではないか?」

「だが……」

そこまで呟き、改めてレイは視線を自分に頭を擦りつけているセトへと向ける。

「グルルルゥ」

短く鳴き声を上げるセトの視線を受けて、やがて頷く。

「そうだな。セトがそこまで言ってくれるんなら、言葉に……いや、鳴き声に甘えさせてもらうよ」

「グル!」

良く言った、とばかりに喉を鳴らすセトの頭へと手を置き、感謝を込めて撫でながら視線をエレーナへと向ける。

「エレーナ、魔石をこっちに」

「ああ。……スキルを習得出来るといいな」

微かな笑みを浮かべつつ手渡してくる魔石を受け取り、小さく頷いて1人と1匹から距離を取る。

(さて、そろそろ使えるスキルを習得したいところだが……頼むぞ)

内心で呟き、そのまま蟻地獄の魔石を空中へと放り投げ、デスサイズで一閃。

次の瞬間には魔石が霞の如く消え去り……

【デスサイズは『腐食 Lv.3』のスキルを習得した】

そう、脳裏にアナウンスが流れるのだった。

「……これは……」

何故そのスキルを習得したのか分からず、思わず少し離れた場所に転がっている蟻地獄の死体へと視線を向ける。

「グルルゥ?」

セトもまた、何で腐食を? といった困惑を滲ませつつ首を傾げていた。

そんな1人と1匹を疑問に思ったのか、エレーナが首を傾げつつ口を開く。

「レイ、どうしたんだ? その様子を見ると、スキルを習得出来なかった……という訳では無さそうだが」

「ああ。間違いなくスキルは習得した。ただ、その習得したスキルがな」

「何か予想外のスキルだったのか?」

「腐食、だ。新しく覚えたのではなくて、腐食が強化された」

レイの言葉に、首を傾げるエレーナ。

「腐食? 確か吸収した魔石を持っていたモンスターに関係したスキルを覚えることが出来るのではなかったか?」

「ああ。今回の例で言えば岩蜘蛛から光学迷彩……いや、これも正確には擬態と透明化で多少違うが、それでも似た系統のスキルを習得するのが普通なんだが……待てよ?」

説明しつつ、視線の先にある頭部が無い蟻地獄の死体を見ていたレイは、ふと何かに気がついたかのようにじっと死体へと視線を向ける。

そのまま解体用のナイフをミスティリングから取り出して死体へと近づいていき、甲殻の部分から外していく。

突然始まった素材の剥ぎ取りに首を傾げつつも、黙って見ているよりはとそれを手伝い始めるエレーナ。

そして10分程掛かって自分達よりも巨大な蟻地獄の甲殻を全て取り外すことに成功し、そのまま胴体を斬り裂く。

「……これか?」

内臓の中にあった、見覚えの無い器官を傷つけないようにナイフで周囲を切り取りって取り出す。

50cm程の内臓器官を揺らすと、中に何らかの液体が入っているかのようにチャプチャプとした音を立てる。

「危険だから、一応下がってろよ」

「ああ」

「グルゥ」

さすがにここまでくれば、レイが何をしようとしているのか、そして何故腐食のスキルが強化されたのかを理解したのだろう。微かな緊張と共に表情を引き締めたエレーナと、そのすぐ横にいたセトは言われたように距離を取る。

その距離が十分になったところで、レイは反動を付けて手に持った内臓器官を岩で行き止まりになっている場所へと放り投げた。

投げた時に万が一があっては危険だと判断したのだろう。放り投げられた内臓器官は見て取れる程度の速度で飛んでいき……やがて岩へとぶつかり、次の瞬間その衝撃により内臓器官が破れて周囲へと赤黒い液体を撒き散らかす。

同時に立ち上がる煙。

見るからに有害そうな、赤黒い煙を見た瞬間にレイは後方へと大きく跳躍してエレーナやセトの隣へと着地する。

そのまま数秒。やがて内臓器官がぶつかった場所から発生していた赤黒い煙が消えた後に残っていたのは、まるで氷に熱湯を掛けたかのように歪な形になっている岩だった。

「やっぱりな。俺達と戦った時は戦闘時間が短かったから使う暇は無かったが、あの蟻地獄は本来酸も武器にしていたんだろう。それがブレスのように吐き出すのか、あるいは頭部の角を通して流すのか、はたまた噛みついて直接牙から流し込むのかは分からないが」

「……それを考えると、短期決戦で倒して良かったと言うべきだろうな」

レイの言葉に、エレーナが思わず安堵の息を吐く。

勿論、レイにしろエレーナにしろ、あるいはセトにしろ、そう簡単にやられるつもりはない。だが、それでも万が一という事態は常に想定しているし、持っている武器や防具に腐食液で無駄に傷を付けたくないという思いもある。

もっとも、レイの場合はその全てが現在では作成不可能に近いようなマジックアイテムであり、生半可な攻撃で傷を負うようなものではないのだが。

「ともあれ、砂漠のモンスターが相手ではあまり役に立たないだろうが、金属製の武器や鎧を装備している敵と戦う時はかなり有利に戦えるのは間違いない」

敵、という単語を聞いた時にエレーナの脳裏に浮かんだのは、人型のモンスター……だけではなく、人の姿もあった。

確かに金属製の武器を持っている相手といえば、モンスターよりも人間の方が多いのだから当然ではあったのだが。

「……とにかく、満足出来るかと言われれば正直微妙だが、それでもスキルを2つ強化出来たんだから良しとしておくか」

「グルゥ!」

レイの言葉に、セトがその通り! と喉を鳴らし、エレーナもまた一瞬脳裏を過ぎった考えを振り払って頷く。

「そうだな。で、これからどうする? まずはあっちの処理をした方がいいと思うが」

呟いたエレーナの視線の先にあるのは砂蟻2匹とスカイファング、蟻地獄の死体。

蟻地獄の死体以外は魔石だけを抜き取った状態になっており、素材の剥ぎ取りはまだ殆ど行われていない状態だった。

4匹の死体を眺め、少し考えたレイは蟻地獄の死体へと視線を向ける。

既に甲殻の類は外されているし、腹も開かれて内臓を出されており、素材の剥ぎ取りをするには一番手早く終わると判断した為だ。

「まずはこいつから片付けるとしよう」

「それはいいが、甲殻はともかくそれ以外の剥ぎ取れる部分は分からないぞ?」

「売れそうな場所は軒並み持っていくとするさ。ミスティリングに収納すれば持ち帰れないってこともないしな」

レイの言葉にどこか呆れたような表情を浮かべつつ、それでもしょうがないとばかりにエレーナもまたレイと共に蟻地獄の剥ぎ取りを開始する。

そんな2人を守るようにセトが周囲を警戒しており、何かモンスターが襲ってきても逆に倒してやると言わんばかりに見張りに立つ。

「頭部はそのままでいいとして……他に売れそうなのは、足か?」

「確かモンスターの素材を剥ぎ取る為の本を持っていただろう? それに載っていないのか?」

「確か載ってなかったと思うが……ちょっと待ってくれ」

エレーナに言われ、モンスターの本をミスティリングから取り出して調べるが、やはりそこには蟻地獄の項目は存在していない。

「……無いな。このダンジョン特有のモンスターだったりするのか?」

「この階層にいるとなれば、普通に砂漠にも存在していそうだがな。なら、やはりこのモンスターはこのまま売れそうな部分だけを収納するということでいいか?」

「いや、一応全部収納しておく。ギルドでちょっと調べてみるよ」

呟き、剥ぎ取りした甲殻や頭部、あるいは内臓といった代物を全てミスティリングへと収納する。

「さて、そうなると残るのはこの2匹な訳だが、どっちからにする?」

エレーナの視線が向けられているのは、6枚のコウモリのような羽が生えた蛇といった外見のスカイファングに、砂に紛れるような保護色をしている砂蟻が2匹。

どちらから剥ぎ取りを始めるかという問いに、レイは迷い無く砂蟻を選ぶ。

こちらを選んだ理由は簡単で、以前にソルジャーアントやクイーンアントから素材を剥ぎ取ったことがあったから慣れているというのもあるし、何よりもレイの持っているモンスター図鑑に載っていたというのも大きい。

(にしても、ソルジャーアントと砂蟻。この呼び方の違いは何なんだろうな。恐らくは名前を付けた奴の趣味とかだろうが)

内心でそんな風に考えつつ、甲殻を剥ぎ取り、使える素材と討伐証明部位をより分ける。

勿論ミスティリングに入っていた砂蟻は2匹だけでは無く、戦った時に倒した死体の多くがミスティリングへと入っている。

眼前にある2匹の死体からの素材剥ぎ取りをエレーナと共に済ませると、それらの死体も取り出しては甲殻を外していく。

素材の剥ぎ取りに関しては、自然とレイが甲殻を外してエレーナがそれ以外を担当するという役割へと落ち着いていった。

もっとも、甲殻が無事だった砂蟻の数自体が少なく、すぐにレイもエレーナのように胴体を切り裂いたりする方へと回ることになったのだが。

そのまま作業を続けること1時間程。

砂蟻自体の大きさもスカイファングや蟻地獄に比べると小さいこともあって、素材の剥ぎ取りはかなりの速度で行われていた。

更に砂蟻の死体自体もそれ程多くは無かった――レイの魔法で多くが甲殻諸共に焼かれてしまった――ので、それ程時間を掛けずに全ての砂蟻から素材を剥ぎ取ることに成功する。

やはり早く終わったのは、素材を剥ぎ取りをする上で最も時間の掛かる甲殻の部分が無事な砂蟻の数が少なかった為だろう。

続けて羽の生えた蛇であるスカイファングの解体にも取り掛かり……そちらでも1時間程掛かって剥ぎ取りを終了するのだった。