軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0457話

サボテンモドキの件があった翌日、いつものようにダンジョンへと潜ったレイ達は、小部屋から出て周囲を見回すと思わず溜息を漏らす。

その溜息は、呆れとも納得ともつかない色々な感情が混ざっている溜息だった。

「砂砂漠、岩石砂漠、砂砂漠と来た以上は予想してしかるべきだったが……」

呟くレイの視線の先に広がっているのは、幾つもの岩が転がっている岩石砂漠。

「だが、予想通りと言えば予想通りの光景だろう? それに、地下13階より移動しやすいのを思えば、それ程悪くは無いと思うが」

「ま、確かにそう言われればそうなんだけどな」

いつもならダンジョンから脱出する前に、その階層がどのような場所なのかを確認してから魔法陣で転移しているのだが、昨日は冒険者やサボテンモドキの死体を少しでも早くシルワ家に届けるという目的があった為、地下13階の階段から降りてきて、小部屋の外の様子を確認もせずに魔法陣で地上へと転移したのだ。

だからこそ、レイ達は今日この時に初めて地下14階をその目で見ることになった。

「それに地下12階でもそうだったが、魔石の吸収をするのに岩石砂漠は便利だろう?」

「そっちも確かにそうだな」

エレーナの呟きに頷いたレイは周囲を見回す。

視界の中には探す必要も無く巨大な岩が幾つも存在しており、確かに地下13階とは違って身を隠すという意味では便利極まりないだろう。

「そうだな。ならまずは魔石の吸収から始めるか。……地下15階の階段はどっちの方角にある?」

魔石の吸収と聞いて、嬉しそうに喉を鳴らすセトをあやすように撫でながらレイはエレーナへと問い掛ける。

エレーナは腰のマジックポーチから取り出した地図と、今見える場所からの地形を見比べながら口を開く。

「あの岩がたくさんある場所が向こうにあって、この剣のような岩が向こう。となると……こっちだな」

そうしてエレーナが指さした方向は南西の方角。高さ10m程もある岩が無数に並んでおり、簡易的な迷路に近い存在になっている一画へと視線を向ける。

「よりにもよってあそこか」

岩砂漠というよりは峡谷と表現した方が正しいような一画を目にしたレイは、うんざりした表情で呟く。

だが、すぐに魔石の吸収を行うという意味では普通に岩の側でやるよりも安全か、と半ば自分に言い聞かせるようにして足を踏み出す。

(それに、迷路があったとしてもセトがいれば上空から見通すことも出来る。……そう考えると、かえって俺達には楽な階層だったかもな)

その岩の密集地帯へと視線を向けつつ、それでもこうしていても始まらないとばかりに1歩を踏み出す。

そんなレイを挟むように、右隣にエレーナ、左隣にセトが並び、岩石砂漠の道を歩いて行く。

上空から降り注ぐ強烈な日差しと、砂漠特有の渇いた風。それらを感じつつも、2人と1匹は気にした様子も無く歩を進める。

レイとエレーナに関して言えば、ドラゴンローブと外套があるからこそだろう。だがセトはと言えば、特に何か魔法やスキルを使っている訳でも無いのに、全く堪えた様子が無かった。

これまでの砂漠の階層では多少なりとも暑さを嫌がっていたというのに、だ。

「セト、平気なのか?」

「グルルゥ!」

その様子に気がついたレイが尋ねると、セトは全く問題無いとばかりに喉を鳴らす。

いや、寧ろ上機嫌ですらあった。

(慣れた……のか? まぁ、確かにグリフォン程の高ランクモンスターであれば、砂漠程度の暑さはどうということもないだろうが)

横でレイとセトのやり取りを聞いていたエレーナは、外套から零れ落ちる自らの金髪をフードの中に押し込めつつ、内心で首を傾げる。

そして、多少無理をしてでもイエロを連れてきた方が良かったのかもしれないと考えた。

だが、すぐに首を振ってその考えを打ち消す。

セトとイエロは似て非なる存在だ。セトが平気だったからといって、イエロが平気だとは限らない。特にイエロは竜種として生み出された為か、まだ子供……否、赤子とすらいってもいいような大きさであり、それに比べるとセトは十分な身体の大きさを持っている。

(使い魔と魔獣術の違いと言えばそれまでだろうが、生まれた時からある程度大きいというのは羨ましいな。……もっとも、イエロが生まれた時から成長した竜種と同じ大きさだったとしたら、それはそれで色々と不味い事態になっていたのは間違いないだろうが)

そんな風に考えながら歩き続けること、30分程。ダンジョンの中を歩いているというのに、全く敵が姿を現す様子は無いまま幾つもの巨大な岩が密集して、自然の迷路を作り上げている場所へと辿り着く。

目の前にある巨大な岩へと触れながらエレーナは首を傾げる。

「さて、ここまで敵が1匹も出てこなかった訳だが……どう思う?」

「普通に考えれば、この岩の迷路の中で待ち構えているんだろうな。モンスターにしても、出来るなら視界が確保出来ている場所よりは奇襲を仕掛けられる場所の方が戦いやすいだろうし。……もっとも、ここに生息しているのはそこまで知恵の働くモンスターだけじゃないにも関わらず、その類のモンスターも姿を現さないってのはちょっと疑問だが」

「となると、頭のいいモンスターが他のモンスターを統率しているとでも? だが、今まで遭遇したモンスターはサンドワームやサボテンモドキのような同一種族ならともかく、別種族で行動を共にしているのは見たことがないぞ?」

驚きの表情を浮かべつつ尋ねてくるエレーナに、レイは首を横に振って口を開く。

「それだけ強力なモンスターが存在している……という可能性もあるし、あるいは」

わかるだろう? 目でそう尋ねてくるレイに、エレーナもまた頷く。

2人の脳裏を過ぎっているのは、共に『異常種』という言葉。

「ともあれ、ここでこうしていてもしょうがない。どのみち次の階層に行くにはここを突破しないといけないんだしな」

「うむ、頼りにしている」

「グルルゥ!」

自分も頑張る! と喉を鳴らすセトを撫で、2人と1匹は岩で出来た迷路の中へと入っていく。

あくまでも自然に出来た迷路であり、迷路のようになっているとは言ってもそれ程複雑ではない。

ただし、自然に出来たが故に意図しない場所に死角があるのも事実だった。

「……地図として売ってる以上、せめて迷路の正解ルートを書いていてもいいと思わないか?」

地図を見ていたエレーナが呟くが、迷路が自然に出来ているものである以上は正解の道筋は幾つも存在している。

そして自然に出来た迷路であるが故に、いつ何らかの事情で変化が起きてもおかしくなく、それ故に正しい道筋というものは人によっても異なっていた。

また、この迷路では特定の場所だけに生えている植物の類もあり、そのような素材を目当てにしている者達は自ら地図に説明を書き加えるようなこともしている。

「まぁ、俺達の場合は初めてだからしょうがないんだけどな」

それらを説明し、小さく肩を竦めてそう告げるレイ。

その説明に納得したのか、それ以上は何を言うでも無くレイ達は迷路の中を進んでいく。

そして5分程歩いたところで、早速分かれ道へと到着する。

「どっちに行く?」

「ちょっと待ってくれ。……地図によると、右に行くと行き止まりになっているな」

「なら右だな」

「……レイ?」

行き止まりだと言った方向に何故行くのか。

そう尋ねたエレーナに、レイはセトの背を撫でつつ口を開く。

「最初の分かれ道である以上、ここで行き止まりの右に行く奴がいるとは思えない。なら、魔石を吸収するのに丁度いいからな」

「……確かにこのような場所にわざわざ来るような物好きはいないか」

レイの言葉であっさりと納得し、そのまま右の道へと進んでいく。

すると10分もしないうちに、まるで広場のようになっている行き止まりへと到着する。

20畳程で、多少動き回る程度には問題が無い程度の広さだ。

「これは、また……何の為の場所なんだろうな。とても自然に出来たとは思えないんだが」

周囲を見回しながら呟くレイだが、実際に多少歪ではあるものの円形と言っても間違いでは無い形をしており、とても自然に作られたものには思えなかった。

(いや、自然じゃないか。あくまでもここはダンジョン。となると、ダンジョンの核が何らかの意図でこうしたのか?)

そんな風にも思ったが、今ここで考えていてもしょうがないと結論づけ、念の為とばかりに周囲を見回す。

モンスターの姿や自分達へと視線を向けている冒険者の姿も無く、セトへと視線を向けて視線で尋ねても喉を鳴らして安心だと告げる。

エレーナの方へと視線を向けるも、そちらでも特に異常は無いと頷くのを見て。ようやく安堵の息を吐きミスティリングから魔石を3つと蟻地獄、スカイファング、2匹分の砂蟻の死体を取り出す。

そのまま、取りあえずとばかりに死体から素材の剥ぎ取りはせずに魔石だけをどうにか取り出し、レイの下にはスカイファング、岩蜘蛛、蟻地獄のものが1つずつに、サボテンモドキと砂蟻のものが2つの合計7つの魔石が存在していた。

魔石を取り出すだけなので、掛かった時間もそう多くは無く、流水の短剣で汚れた部分を洗い流す。

「さて、これをどうやって分けるかだが……まずは2つあるサボテンモドキと砂蟻からだろうな。セト」

「グルゥ!」

レイが放り投げたサボテンモドキの魔石を飲み込むも、脳裏にアナウンスメッセージは流れない。

続いて砂蟻の魔石も飲み込むが、こちらも変化は無い。

やっぱりかという半ば納得の表情を浮かべつつ、レイもまたデスサイズで2つの魔石の吸収を行うが、こちらも当然の如くスキルの習得は無い。

「まぁ、基本的にはそれ程強くないモンスターだしな」

怖いのは、あくまでもマシンガンの如く放たれる針であり、その針にしても致命的なダメージを受ける訳では無い。

当たると痛く、引き抜くのにも痛みが伴うが、それだけと言えばそれだけなのだ。

……もっとも、その痛みこそがサボテンモドキの敬遠される理由なのだが。

砂蟻にしても、砂漠の階層に出てくるモンスターの中では弱者の部類に入る。こちらも怖いのは、圧倒的多数で攻めてきた場合のみだ。

その様子を見ていたエレーナにしても、これまで幾度か見てきた経験からサボテンモドキと砂蟻程度の魔石ではスキルを習得出来ないというのは理解していたのだろう。特に何を言うでも無く、次こそが本番だとばかりにじっとレイとセトへと視線を向けていた。

「さて、そうなると残り3個だが……俺とセトが1つずつ、残る1つはスキルを習得出来なかった方ってことで構わないか?」

「グルゥ!」

レイの言葉に特に異論が無いらしく、セトも喉を鳴らして同意する。

それを見たレイは、残っている魔石3つをセトへと差し出す。

「セト、お前から選んでいいぞ。どれにする?」

「グルゥ?」

いいの? と小首を傾げて尋ねるセトだが、レイは構わないと頷く。

そんなレイへと視線を向け、やがてセトの円らな瞳は魔石の中の1つへと目を止め、クチバシで咥えてそのまま飲み込む。

【セトは『光学迷彩 Lv.2』のスキルを習得した】

脳裏に流れるアナウンスメッセージ。

「グルルルルゥ!」

スキルの強化に、セトは喜びの声を上げる。

「これは、ある意味で妥当……なのか? ともあれ、光学迷彩が強化されたのはかなり嬉しいな」

思わず呟くレイ。

岩蜘蛛は外見が岩のようになっており、その名の通り岩に擬態して敵を待ち伏せするという習性を持っている。

それを考えれば、光学迷彩というスキルが強化されるのはある意味当然だったのかもしれない。

(まぁ、透明になるセトの光学迷彩と岩に擬態する岩蜘蛛だと、周囲に溶け込むって時点で色々と違うように思えるが……今更それを考えてもしょうがないか)

今まで幾度も似たような効果を持つスキルのようで、実際には全く違う効果のスキルを習得したことは幾度もある。

既にそれは魔獣術の特徴の1つであると認識していたレイは、それ以上深く考えることは無いままに早速セトへとスキルの使用を促す。

「セト、光学迷彩を使ってみてくれ」

「グルゥ!」

任せて、とばかりに喉を鳴らしたセトは、次の瞬間にはその姿を透明にする。

そしてそのまま20秒程が経過し、再び姿を現す。

姿を現した場所は光学迷彩を使った場所から1歩も移動しておらず、それがどれだけ光学迷彩という能力が有用なのかを現していた。

「約20秒か。効果時間が倍になったというのは嬉しいが……単純に10秒増えただけなのか、あるいは10秒の倍で20秒なのか。次に光学迷彩が強化されるまで、その辺の判断は保留だな」

「だが、10秒であってもこれまで幾度かその凄さを見せつけていたのだ。それが20秒になったと考えると、かなり凄いのではないか?」

エレーナの興奮した言葉に、レイも頷く。

「それは確かにそうだな。しかし……セトはどこに向かっているんだろうな?」

セトの頭を撫でながら呟くレイ。

透明になったり、毒の爪が最もレベルの高いスキルであったりと、とてもレイのイメージにあるグリフォンとは違う成長をしているセト。

魔獣術で生み出されたが故の成長だと言われれば反論のしようが無いのだが、それでも多少思うところがあるのは間違いない。

「セトがセトである以上は文句無いけどな」

「ふふっ、確かに。レイとセトの間にある繋がりは、見ていて羨ましいと思う時がある」

レイの呟きに、同意するようにエレーナが頷く。

そんな言葉にフードの下で薄らと頬を赤く染め、何かを誤魔化すようにセトへ視線を向ける。

「レベル1では光学迷彩は1度使うと次に使えるようになるまで30分くらい掛かったが……その辺は変わったか?」

「グルゥ……」

試してみないと分からない、と首を傾げるセト。

「そうか、なら時間が経ってからまた使ってみて、再使用にどれくらい必要なのかも確認しておいた方がいいだろうな。それと触れている相手に効果を及ぼした場合の時間も後で調べる必要があるか。……さて、次は俺の番だな」

左手に握られている残る2つの魔石、蟻地獄とスカイファングの魔石へと視線を向け、数秒程考えてからデスサイズを地面において右手を伸ばす。