軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

72.反省会

セレアと二人でお茶をしながら、ここまでの反省会です。

今までのイベント、ルートの総見直しですね。

例えばバカ担当ピカールですが、ピカールが「演劇部の王子様」として学園内で僕、つまり王子以上の人気者になってミスター学園になりますと、それが面白くない悪役令嬢のセレアがピカールの人気を落とそうと、学園演劇の妨害をするためにヒロインさんにいろいろとイヤガラセをするのです。

ガラガラと崩れ落ちる舞台セットから、「危ない!」ってピカールがヒロインさんを危機一髪救い出すシーンがあるそうで……。へえ――、凝ってるなあ。

しかしセレアみたいな一女生徒が、どうやったらセットを崩せるわけ? どこの仮面の怪人ですかそれ。

元々婚約者のセレアに全く興味が無かった王子も、卒業式の断罪イベントでセレアがそんなことをやっていたことを知り、愛想を尽かせて卒業後に婚約破棄してコレット家は没落だそうで。

「それもう無いでしょ。セレア、ピカールが僕より人気になったからって、別に嫉妬もしないでしょ」

「しないですね」

しないよね。どうでもいいよねピカールがモテようとどうだろうと。

脳筋担当のパウエルだと、学園武闘会で王子を負かして優勝したパウエルに逆恨みして、なぜかセレアがヒロインさんに、「次の武闘会ではわざと負けるように彼に言いなさい!」とか言ってくるんです。ヒロインさんは悩んだ末にそのことは言わず、応援してあげるんですが、セレアはそのことに激怒し、様々なイヤガラセをしてきます。

武闘会で僕に負けそうになったパウエルに、「勝って! パウエル様!」とヒロインさんが叫んで逆転優勝するシーンはこのゲーム屈指の名シーンだそうで。

あとはピカールと同じですね。僕がセレアに愛想をつかすってエンディングです。

「コレも無い。アイツ僕に勝てないし、僕もう武闘会には出ないし」

「はい!」

セレアがくすくす笑います。

顔を隠して「ニンジャマン」で出場して、ヒロインさんが叫ぶ間もなく、刀折りして一撃でブッ倒しちゃいました。盛り上がらないったらありません。

インテリ担当ハーティス君の場合は、ハーティス君とヒロインさんがいつも一緒に勉強していて仲良くなり、ハーティス君が僕の成績を抜き、ヒロインさんもセレアの成績を抜くので、それが生意気だとセレアが勉強面でいろいろ妨害、嫌がらせをしてきます。シンプルで直球だなあ……。

「……コレが一番無いよね」

セレアには言いませんが、ハーティス君、密かにセレアのことが好きですもんね。そのことは気の毒だと思います。新しい恋を見つけてほしいですね。ヒロインさんさえ相手じゃなけりゃあですが。

「だいたい僕、別にセレアが成績どんなんだろうとまったく気にしないもん。勉強ばっかりの学園生活なんてのより、成績悪くてもいいから普通に学園生活を楽しんでほしいよ、セレアには」

「ありがとうございます……。でもそこは頑張れって言ってほしいです」

「真面目だなあセレアは」

「シン様ががんばってくれるから、私もがんばれるんです。たまにはほめてください」

「いつもほめてるよ?」

「そうじゃなくてえ……」

はいはい。

抱き寄せて頭を撫でます。いつも人目がある僕ら、あんまりイチャイチャできません。こんなときぐらいはね……。

「ジャックのルートも、もうないね」

「無いですねえ。安心して見ていられます」

ジャックのルートでは、もうすでにシルファさんという婚約者がいるジャックに言い寄るヒロインさんに、「婚約者のいる貴族に平民風情が!」と、やっぱり腹を立てたセレアが様々なイヤガラセをしてくるわけで。

ジャックは、親が勝手に決めた婚約者にウンザリしていて、そこへ「貴族だって好きに恋していいはずです」みたいに言われ、その心の隙間を埋めるようにヒロインさんにのめり込んでいきます。ジャックのツンがデレに変わっていく、その変化がファンにはたまらないそうで。

これは王子、全然関係ないですからセレアのやることは完全にただのイジメですなあ。セレアが腹を立てる理由はよくわかりませんが、身近で同じクラスの貴族に「婚約破棄」なんて前例作られてはたまらない、というものなのかもしれません。

「ジャック、シルファさんの事大好きだもんね」

「ほんと、そうですよね!」って、セレアも笑います。

シルファさんがあんなに巨乳になるってのは想定外でしたし、ジャックが巨乳好きってのも意外でした。

そのことを前にからかったら、「別に俺は乳がでかいからシルファがいいってわけじゃねえよ」って赤くなってましたね。

「いいか? 俺はデカ乳好きってことでいいんだよ。シルファの乳見りゃあ、どんな女も、『あーこれは勝てないな』って思うだろ? シルファはセレアさんみたいに成績いいわけでもないし、身分が男爵で高いわけでもないし、メチャメチャ美人ってわけでもない。でも俺がデカ乳好きってことにしときゃ、誰も文句言えねえじゃねーか。だから俺はデカ乳好きでいいんだよ!」なんて言ってました。

ひゅーひゅーです。あのおっぱいにはヒロインさんも戦意喪失でしょう。やるもんですシルファさん。

「スパルーツさんのルートも完全に潰したし」

スパルーツさん、学園の生物教師で、ヒロインと教師の禁断の恋なもんですから、それをかぎつけたセレアがヒロインにいろいろと妨害をしてくるそうです。

なぜここでセレアが出てくるのかは全く不明です。一番どうでもいいルートだと思うんですけど。

「こんなの気に入らないなら学園長に言えばいいじゃない。ヘンなことするなあ悪役令嬢……」

「そこは悪役令嬢ですから……」

スパルーツさん、学園の教師になんかならないで、今、 学院(アカデミー) の主任研究員です。奥さんのジェーンさんともラブラブですよ。もうヒロインさんと関わることなんかあるわけないです。

スパルーツさん、本来の医学研究のかたわら、せっかく結婚したんだからって「避妊術」の確立をするんだって。なんだかなあ……。

毎晩、奥さんと実験中で、今日はする、今日はしないってデータ取っているんだそうです。女性には生理の前後で妊娠する期間と妊娠しない期間があるそうで、それを立証するんだとか。学院の妻帯者にも、毎晩の営みのデータを出させて統計を取ってます。おいおいおいおいおい!

先日アカデミーを訪問しましたら、そのことをいきなりペラペラと説明しだしたもんですから、ジェーンさんもセレアも真っ赤でしたよ。

学者さんってコレだから……。そんなのどうでもいいから普通に子供作って、幸せな家庭にしてもらいたいです。

……でも研究結果が出たら、僕にもちょっと教えてほしいかも。

「しかし、どのルートでも、必ずセレア出てくるんだなあ。ご苦労様」

「なんなんでしょうね悪役令嬢って……。ゲームやってた時はホントいらいらしました。だからこそ、エンディングで断罪される悪役令嬢見て、プレイヤーはスカッとするんだと思うんですけど」

「唯一セレアと関係ないのがクール担当か」

王子の僕や婚約者のセレアとはクール担当ことフリード君は利害関係はありません。でも、いじめに遭って泣いているヒロインさんを見つけた彼は、彼女のいじめを行っている犯人捜しを始めるのです。その過程で彼女と気持ちを通わせ、彼女を守ろうと決心し、クールから内面は熱い男へと変わっていきます。フリード君ルートでは、数々の証拠を集めたクール担当がいじめを行っていたのはセレアだと証拠を固めて断定し、卒業式パーティーで、断罪リーダーとなるんですよ。

つまりクール担当攻略には、ヒロインさんは王子攻略と同じく、いろんな攻略対象に手を出して悪役令嬢であるセレアにいじめられなければいけないわけです。

「……私がヒロインさんをいじめなくても、学園の誰かがヒロインさんをいじめちゃうんですね、これ」

「そうだね。背中に中傷文を張られたり、教科書を破かれたり、ダンス服を破かれたり、水かけられたり、あと僕らの知らないところでいろんな目に遭ってるんだと思うけど、それセレアがやってるわけじゃないもんね」

「実際にやって無くても、私がやったことにされちゃうんでしょうか」

「んーそれは大丈夫だと思うよ。セレアはやってないんだし、僕といつも一緒にいる所を大勢に見られているんだからやってるヒマもないし、ゲームみたいにセレアの言うことなら何でも聞くとりまきなんていないし」

「そうだといいんですけど……」

セレアにはゲームみたいにいつもセレアに付き従ってる取り巻きなんてのはいませんから。シルファさんは親友で、文芸部の女子部員とも仲良くて、でも同じクラスでセレアに言い寄ってくる女子たちとは距離を置いています。

最初はそこ、クラスの女子にはちょっと面白くなかったようです。せっかく王子、未来の王子妃と同窓なんですから、お近づきになって、取り巻きになって威張って、いい思いの一つもしたいもんなんですよね。

でも僕らが全く威張っていないので、爵位の高い者だけでグループ作って学園でヒエラルキーのトップに立つ、なんてことができないんですよ今の学園では。

だから、「少しぐらい私たちにもいい思いさせてよ」って思ってた女子たちからは当てが外れて面白くないってのはあるかもしれません。

そのせいで、セレアは「地味」「普通すぎ」「王子と釣り合ってない」なんて陰口があるのは知ってます。

でもねえ、学園の女子たちのトップに立って悪役令嬢として 辣腕(らつわん) を振るうセレアなんて好きになるわけないじゃない。いつも普通の少女、そこがいいんですよセレアは。

……セレアがこういう性格じゃなくて、ゲーム通り悪役令嬢だったら、そりゃあ僕はセレアのことが嫌いになって、コロリとどこにでもいる普通な少女のヒロインさんにまいっていたかもしれません。ヒロインさん、どこにでもいる普通の少女と言うにはあまりに美少女だとは思うんですが、まあそこはご都合ってやつでしょうけど。

「でもね、クール担当君も、僕とセレアでいじめられている彼女を助けているところを何度も見ているわけだし、あれでセレアを疑うようなら頭がおかしいよ」

実際、僕とセレアで、ヒロインさんのいじめイベント、だいぶ潰してます。

ゲームには無い展開です。セレアがヒロインさんと全く関わってなくて、いじめていないので、そもそも始まってもいないイベントもいっぱいあるはずです。

ヒロインさんにしてみれば、「なんであの悪役令嬢、私をいじめないのよ! イベントが全然起きないじゃない! 好感度が全然上がらないよ!」って頭抱えているかもしれません。あっはっは!

「僕に至っては、まったくヒロインさんと接点ないもんね」

「シン様、かたくなにヒロインさんの名前覚えませんもんね……」

そうそう。覚えちゃったら出会いイベント成立! お知り合いになりました! なんてことになって次々とフラグが立つかもしれませんので。

つまり、ゲームがどうだか知りませんが、僕とヒロインさんはまだ「お知り合い」でさえないのです。

回避方法としてはえらく幼稚なような気がします。でも現実に僕関係の、それっぽいイベントが特に発生してないことからも、それがけっこう効いていることがわかります。

「僕のイベントって、なにかあるのかなあ」

「ありますよ? 私が取っちゃいましたけど」

「ええ! たとえばどんな!?」

「……はじめてお見舞いに来てくれた時の事、覚えてます?」

「あ――、セレアがゲーム通りだって。自分が悪役令嬢だって言ったときのこと?」

「はい、あそこで、お菓子を私に勧めて、自分でむしゃむしゃ食べたじゃないですか」

「ああ、そんなことあったような……」

「あれ、ヒロインさんが持ってきたお菓子を、遠慮なく王子様が食べるってシーンがあって、そこで私が『殿下に下賤な食べ物を毒見も無しに食べさせるとはなにごとですか!』って怒るんです。そうしたらシン様が『僕は彼女を信用している。毒見は必要ない』って言ってヒロインさんをかばうんです」

へー。

「それからは、シン様はヒロインさんが毒見したもの以外は食べないようになるんです」

うーんあいかわらずひどいなゲームの中の僕。

「うん……、まあ、僕、セレアが持ってきた食べ物だったら何でも食べてるもんね」

「あの時のお菓子を食べているときのシン様、ゲームの時にヒロインさんの手作りのお菓子を食べている時とそっくりでした」

そういえばあの時、セレア、いきなり泣き出して、「見たことあるんですこのイベント」って言ってたっけ。

「王族なのに、マナーなんておかまいなしに、お皿やフォークも無しで、その場でむしゃむしゃ食べちゃうんですもん。そんなこと、気を許した相手以外には絶対にしないのに」

「なんでセレアはあそこで泣いたの……?」

セレアが僕の横に座ったまま、きゅっと抱き着いてきます。

「ああ、この人はこうやって、ヒロインさんのお菓子を食べちゃうんだ。やっぱりここはゲームの世界で、私は悪役令嬢で、この人は私を断罪して捨てるんだって、思っちゃったんで……」

セレアが、「シン様の毒見は私がします!」って言って、ずーっとそのことに固執していたのは、そのせいだったんですね。

毒見役なんて誰でもいいのに。こんな古い風習、もうやらなくたって、誰も文句なんか言わないのに。

本当に食べ物に毒なんてのが入っていたら、セレアが先に死ぬことになります。

そんなことは百も承知で、セレアはそれをやってくれていたことになります。僕のことを命懸けで守ってくれていたんです。

子供らしい、遊びみたいなものだと思っていたんですけど、そうじゃなかったんだ。その役だけは、絶対に譲るもんかって、思っていたんですね。

「ありがとうセレア……」

「?」

「どんな時も、欠かさず、ずーっと毒見役をやってくれていたこと」

真っ赤になります、セレア。

「僕もセレアの毒見をしなくっちゃ」

そのまんま、キスしました。

この世界、ゲームかどうかなんて知りません。

少なくとも、僕はこの世界がゲームだなんて全然思っていません。

僕がゲームキャラ? あり得ないよ。バカバカしい。

ただ、ヒロインさんの周りだけは、セレアの言うゲーム通りに事が進んでいること、これだけは認めるしかありません。あそこだけがゲームなんですよ。

セレアはこの世界の人間で、転生者なんかじゃない。

ただ、十歳になったときに、前世の記憶を思い出しただけなんです。

僕はそう思います。

そのことは僕が証明してやります。

そんな運命から、セレアを救うことでね。