軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3.悪役令嬢ってなんなんですか

「私、思い出したんです。ぜんぶ」

「思い出したって?」

「ここがゲームの世界だって」

「ゲーム? トランプとかチェスとか?」

「殿下はシミュレーションゲームって知ってます?」

「知らない」

「ストーリーがあって、自分がその登場人物になりきって遊ぶゲームです」

「あー、そういうのはあったかも。すごろくみたいでストーリーが変わるやつ。本だけど。ロールプレイングゲームってやつだったかな」

「そういうゲームのひとつですね。コンピューター……。ゲーム機っていうのがありまして、その中で主人公を操作してゲーム世界の中をプレイするんです」

この子すげえ。想像力がハンパない。そんなのほんとにできたらそりゃあすごくおもしろいゲームになると思いますよ。

「その、私は、そのゲームを遊んでました。今のこの世界が、私が遊んでいたゲームの世界なんです。私は一度死んでて、生まれ変わって、この世界に来ました。私はこの世界の人間じゃないんです。」

なんかすごい設定きた――――――――!!

「どういうこと?」

「私、異世界転生して、この世界に来たんです。前は地球の、日本っていう国にいました」

「前世の記憶があるってこと?」

「はい」

「でも君この公爵家で生まれて、育って、十歳になったんだよね」

「そうです。殿下の顔を拝見したときに、そのころの記憶が急にあふれてきて、頭の中でいっぱいになって、それでぐるぐるしちゃって、たおれちゃいました」

拝啓、姉上様。僕の手に負えない事案発生です。

僕、この子、お嫁さんにして、愛して、幸せにしないといけませんか。

「そりゃあ大変だね……」

もうちょっと気のきいたこと言えないかね僕。

「で、生前の君ってのは?」

「私はちいさいころから病弱で、持病でしょっちゅう入院していまして、学校にもあまり通えず、ずっとふせっていました……」

「今は元気そうに見え……いや、倒れたばっかりだからそれもないか」

「病院に長期入院したまま、病気がどんどん悪くなって、十歳で死んだんです」

なんかどずーんと重い話、きました。

「そういう夢を見たんじゃないの?」

「夢じゃないんです。今が夢みたいなんですけど、本当なんです」

うあああああ。どうしよう僕。とりあえずこのノリで聞いてみたほうがいいんでしょうか。

「で、どうしてこの世界がゲームの世界ってわかるの?」

「なにもかも私が入院していた時よく遊んでいたゲームにそっくりだからです」

「そのゲームってどんなんだったかって覚えてる?」

「はい」

「聞きたいな」

うん、僕こういうの知ってます。小説とか、冒険物語とか読んで夢中になっちゃった子供が、現実と空想の区別がつかなくなって、自分がその主人公になっちゃったようなもうそうするようになるって話。

十四歳しょうこうぐんって言いましたかね。十四歳病とも言います。ほら急に眼を押さえて「目が、目が――――!」とか叫んだり、「ぐああああ! 鎮(しず) まれ! 俺の 黒龍紋(こくりゅうもん) !」とか言って包帯巻いた左手を押さえたりするヤツですね。魔法使える人はたまにいますけど、自分もそんな大魔法使いみたいな力が使えるって思いこんじゃった子供、僕も知ってます。

ふつう、名前の通り十四歳ぐらいからそういうもうそうに取りつかれるらしいんですけど、まだ十歳でそうなるとは、このお嬢様もおませさんですね。

こういう場合は、できるだけ話を聞いてあげて、「すごいね――!」とか、「さすがだね――!」とか話を合わせてやって、理解者になってあげるのがまず第一歩です。その上で、話のむじゅんとか、設定がおかしい所をツッコんで、現実にはそんなことありえないって少しずつわからせてやるのが一番ですね。ようしゃない方法ですけど。

「十歳で日本で死んだ私は、この世界に生まれ変わって、十歳になった今、その時の記憶を思い出しました」

「へー、じゃあ今の君は二十歳というわけかな。ずいぶんお姉さんなんだね」

「十歳までしか生きた記憶が無いですし、十歳のまんまだと思います……。記憶が重なっただけですから」

うん、設定バッチリだね。さすがです。

「あの、王子様、信じます?」

「シンって呼んで。信じるよ。おもしろいしその話」

うたがってます、彼女。信じられるわきゃねーだろこのやろうって顔してます。ごめんなさい。実は今、土下座してすぐ帰りたいって思ってます。

「そのゲームで主人公は……、十五歳の時に、成績が優秀だということで、平民としては数年ぶりに貴族学校の『フローラ学園』に転入します」

「うん。実在するねその学園。僕も入ることになってるよ。設立当時その名前にするのはだいぶ反対もあったらしいけど、皇后さまに押し切られちゃったんだって」

「貴族や大家、騎士の家系の子ばかりが学ぶその学園に入った平民の主人公は、一生懸命勉強して、トップクラスになります。でもそうすると入学していた貴族の子たちの目障りになりまして、いじめられるようになります」

「……感心しないなあ。僕だったらそんないじめ全力で止めるけど。っていうかそんな悲劇の小説みたいな主人公のゲームやってておもしろいかなあ?」

「その主人公を陰ながらいじめから助けてあげる人たちが次々と現れまして、主人公はその人たちと恋に落ちて、恋愛関係になるんです」

「都合いいなあ。でもそれって次々現れるなら二股以上になるんじゃない?」

「攻略対象は最大七人でしたか」

「七股かいっ!」

なんですかそのアバズレ主人公。そんな不健全なゲーム、少年少女にやらせるわけにいきませんね。成人してからにしてほしいです。

「股をかけてるわけじゃないんです。誰からも嫌われないようにしないといけないんです。そうでないと、そのうちどの攻略対象からも嫌われてしまいますから」

攻略対象ってなんですか攻略対象って。異性を人間扱いしてますかそれ。もうちょっと呼び方工夫してほしいですね僕は。

「……その『攻略対象』って呼び方やめません? 男として悲しくなります」

「申し訳ありません……。そうですよね。現実にいるんですから」

「……男ってそんなに女の子嫌いになったりしませんよ。そんな何股もかけてる八方美人、実際にいたら、嫌いになる前にまずかかわりたくありません」

「そこはゲームですから」

現実受け入れてほしいです。それが十四歳病からの更生の第一歩だと思います。

「で、主人公はどうなるの?」

「最後、学園卒業後にその殿方と結ばれて結婚できたらグッドエンド」

「『ハッピーエンド』の間違いじゃ」

「すみません。そうですね」

「グッドがあるならバッドもあると。ベストとかもあるんですかね」

「ありますよ。バッドエンドはキャラ全員に嫌われて学園から追放される」

「ひどいなそれ」

「ベストエンドは、王子様と結婚してお姫様になる」

「それがベストですか……。ってことは主人公は王子とも恋愛する?」

「はい」

「そりゃ無理だと思いますねえ。だって王子ともなれば普通、婚約者ぐらいいますから」

「主人公は王子様とちいさなきっかけから学園で知り合って、いろいろな『イベント』から愛を育んで、恋愛関係になるんです」

「『イベント』ってなに。そんな行事みたいな…‥。だいたい婚約者のいる王子がそんな女の子と恋愛関係になるかなあ……」

「そして、卒業式のパーティーで、その王子様は婚約者を断罪して、婚約破棄を言い渡して、主人公と結ばれるんです」

「ひどいなその王子! 浮気だよね! どう考えてもただの浮気だよね!」

「そうなんですけど、主人公からしたらそれがハッピーエンドですから」

「……王子と結ばれるって、僕は必ずしもハッピーエンドだと思いませんよ。いや王子の僕が自分で言うのも何ですけどね。国を治めるって覚悟と、民を幸せにするっていう責任がともないます。だからこそ、それは貴族である令嬢にしか頼めないんです。平民を巻き込んでいいことじゃありませんよ」

姉上と同じです。

大国の顔も知らない王子の元にたった一人で嫁いでゆく姉上の覚悟、決心がその主人公にあるんでしょうか。僕はそこ、むじゅんしてると思いますね。

「……もしかして君がその主人公なの? いやいやいやいや、君、平民じゃないから。公爵令嬢でしょセレアさんは」

「違うんです」

「違う?」

「私は、主人公じゃないんです」

「ないの?」

「私はその断罪され、婚約破棄を言い渡され、追放される王子様の婚約者なんです」

「えええええ―――――――――!!!」

じゃ、なに?

その浮気者でひどい王子が僕なわけ?

僕そんなふうになるの?

って僕そんなふうに彼女に思われているの?

「悪役なんです私。『悪役令嬢』ってやつなんです」

「貴族の御令嬢をそんな呼び方したら不敬罪でそれこそ断罪ですよ……。ちなみにその王子の名前は?」

「シン・ミッドランド様、ラステール王国第一王子、つまり、殿下です」

「僕ってそんなひどい男に見えますかね……」

なんかガッカリです。

「いえ、王子様は優しくて、誰にでも分け隔てなく接し、平民にも親切にしてくださいます。全校生徒のあこがれの的ですよ」

「……まあ、それが学園に在籍している時の義務だから。学園内では一応、身分差別なく公平ってのがたてまえだから」

そうなんですよね。学園の門には「この門をくぐる者は全ての身分を捨てよ」と書いてあります。学問の前に全ての者は平等という考えです。

国王である父上の提唱です。有能な人材を得るためには身分の差なく公平に受け入れるべきである。それが国の発展につながると言う考えです。僕もそれは賛成できる良策だと思っていますよ。だから公爵子息であろうと男爵子息であろうと、男子だろうと女子だろうと、平民であろうと、学園の中では身分の差はなしです。対等に口きいていいんです。

「その殿下が婚約者である私をさしおいて、その主人公と恋に落ち、私がじゃまになるんですよね」

「ひどいな僕」

「私はそのことにしっとして、いろんないじわるや、いやがらせを主人公にするようになり、そのことでますます殿下に嫌われる。そして追放されるんです……」

追放かあ。この国で追放というと学園を退学、身分の剥奪、他国への所払い、屋敷牢へ軟禁、最悪死刑、いろいろありますけど、まだ未成年の学生にそんなひどいことしませんよ、いくらなんでも。

「……そんなことしなきゃいいじゃない」

「え?」

「いや、だから君がそんなことしなきゃいいじゃない」

「でも、シン様が主人公と恋に落ちるのはわたしにはとめられません」

「僕がその子に近づかなきゃいいんじゃない?」

「わかりません。それは、私にもわからないんです。ゲームの通りになるか、それを止められるのか、もし無理だったら私は追放、このコレット家も没落、ひさんな結果におわります……。悪役令嬢にはハッピーエンドはないんです」

そりゃ僕の婚約者になりたくないよね。

でもなんかくやしい。僕がやってもいないことをやるって今から決めつけられて、それで婚約を断られるってなんか理不尽すぎませんか。

そんなゲームをずっと病院に入院して、たった十歳で死ぬまでやってたってことなんですかね。

思えばこの子も不幸です。その不幸をこの世界でもくりかえすんですか。

なんだか気の毒になってきました。