軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

兄として。人として。

教師や生徒たちが避難し、訪れた沈黙に冷や汗が背を流れる。

えっと……もしかしなくても、これは俺の反応待ちですかね??

相も変わらず表面上は取り繕ったまま、そんなことを考えていた。

誰も言葉を発しないし、動きもなし。本来のストーリーなら……黒竜の姿で現れたジストは暫くするとその場を飛び立ち去って行く。

なのに全く飛び立つ気配はない……。

これあれだよね??さっき「妙な行動するな」って脅した 所為(せい) だよね?

ごめん、生徒たちの避難終わったから飛び去っていいよ!

むしろ飛べ、飛んでください……。

じっと見つめて念を送ってみるも、伝わるわけもなく。タラリと汗が背を濡らす。

「……一つ問おう、敵対する意思はあるか?」

仕方ないから、苦し紛れに問いかけてみた。

「先程も言ったように、そちらがなにもしないのなら無意味に危害を加えるつもりはない。無駄な争いは望む所ではないし、穏便にすませられるのならそれに越したことはない」

斬りかかっといていう台詞でもねぇな、と自分で自分にセルフ突っ込みを入れたくなる発言だ。でも先に手ぇ出したのはそっちだし。

唯(ただ) の威嚇のつもりだったんだろうけど、実際それでウチの子怪我してるしね。

「人の言語を解するなら、なにか反応を返して欲しい」

頷け、そしてその流れで許可出すからそのまま飛び去って!

改めて想いを込めて念を送りつつ見つめていると、突如黒い巨体が揺らめきだした。

輪郭が揺らぎながら縮み、かつて見た覚えのあるその光景に頬が引き 攣(つ) る。だけどその変化は無情にも止まず、黒き竜が佇んでいた筈のその場には……跪いた一人の青年の姿があった。

「敵対の意思はない、無礼を謝罪する」

低く透明感と重厚感を兼ね備えたバリトンボイスが落ちた。

軽く下げていた顔を上げ、こちらを見上げる紫電の瞳。

長身でしっかりとした体躯は褐色の肌も相まって男らしい。硬質そうな灰色の髪に切れ長の瞳と薄い唇、どこか只者ではない雰囲気を醸し出す佇まいの男が立ち上がった。

そう、そこに居たのは……ゲームの隠しキャラ・ジスト(人型)だった。

突如として現れた青年に、リフをはじめ皆が驚きに瞳を見開く。

勿論(もちろん) 俺も。金色の瞳をかっぴらいてジストを凝視する。

だけど残念ながら、その驚きは他の皆とはっきりと違っていた。

なんで俺相手に人型露わにしてんだよっ……!?

えっ、リリー嬢たち(ヒロイン)呼んだ方がいい?

心の中でそう叫びつつ絶句した。

ひとまず校内へと移動することにした。

ハンゾー、ソラ、サスケだけ残し、他の影たちには城への連絡・生徒たちの護衛等を割り振る。生徒たちが避難したホールではなく、校舎の別室へと移動し……ソファに腰を下ろして向かい合う。

「つまり……」

室内をキョロキョロと見まわしていたアメシストの瞳がこちらを向く。

もの珍しさもあるのだろうが、話をしている間も室内の小物に目を留めては『おおっ!!』と心の声を上げたり、ソファに腰かけた時もその弾力に驚いて尻を弾ませたりと、ジストの反応は忙しなかった。

コイツ、外見強面なクールキャラなのに中身地味に子供っぽいよな……。チキンだし。

外見詐欺、そんな言葉が頭に浮かんだ。

まぁ、人のこと言えた義理じゃないケド……。

「君は魔獣の被害調査の為に、人里へ訪れたわけだね?」

「ああ」と頷くジストにこっそりと溜息を吐いた。

何故(なぜ) かジストルートの核心へと繋がる話を、ご本人様直々に聞いている俺。ヒロイン不在なのに……。

「怪我を負った魔獣によると、人間が罠を仕掛け子供たちを攫ったらしい。人間が魔獣を狩ることをとやかく言うつもりはない。魔獣とて人を喰らうのだからな。だが、最近好き放題に山や森を荒らす人間どもが多く、黙っているわけにもいかなくなった」

聞き出した話はほぼゲーム通りだった。

ジストがねぐらにする山の周囲でも被害があり、森の一部を焼き払ったり、傷つけた魔物を囮にする 悪辣(あくらつ) さに 業(ごう) を煮やして動き出したそうだ。

「その話が本当ならこちらでも対応をしよう。その行為は人間にとっても違法だし、調査をするうえで人間の方が対応しやすい部分も多々あるだろう」

「協力してくれるのかっ?!」

アメシストの瞳を輝かすジストに頷くと「少し待っていて欲しい」と声を掛け席を立つ。

向かったのは、ソファから少し離れた位置に立つソラのもとだ。

なんで離れてるかって?

そりゃあジストにビビッてるからですよ。でもリフたちの側に居た方が安全なのもわかってるから“少し”離れた場所。安定のソラさんです。

そして実はさっきから『怖い怖い!』だの『なんで俺までここに居るんだよ?!』だの、心の声が煩かったソラさんです。

「ソラ。経緯を簡単に手紙にするから、それも送ってくれるかい?」

「それはいいけど。なんなら俺が直接渡してくるか?」

報告の為に城へ転移させた影の元へ、聞き出した情報を送ってくれるよう頼めば、首を掻きながら提案してくるソラさん。本心は「ここに居たくない」ですね。

「駄目だよ。もし“彼”が暴れ出しでもしたらどうするんだい。君は切り札なんだから」

「いやいやいやっ!!そもそもなんで俺っ?!」

わざわざジストに聞こえないよう声を落としたのに、大きな声を上げるソラをひっぱって部屋の隅へ。しーっと指を一本立てて大声を咎める。

「念の為だよ、念の為。意外と大人しいし、暴れ出すことはなさそうだけど。相手は魔族、しかも黒竜だよ?本気で暴れられたら、人間が束になったって敵うわけないじゃないか」

「剣一本でその黒竜黙らせた奴の台詞じゃねーな……」

「よく考えて?人対黒竜だよ?いくらリフの『異能』が絶対だろうと、ハンゾー達が人間離れしてようと、圧倒的に不利だ」

そもそもいくらキレてたとはいえ、リフやソラが居なければ黒竜に立ち向かったりしなかった。

ウソじゃないよ、ホントだよ?

そんな行動に出られたのも、全て勝算があってこそだ。

「もしもの時には君の『異能』でやっちゃって」

「……まさか、前に覚えさせた経緯度って…………」

「火山地帯に深い海、絶海の孤島に南極地帯、『転移』させたら人や生物が生きていくのが難しい座標のラインナップ。少なくとも、戻ってくるのは困難だよね」

倒せないのなら、一瞬で遥か遠くへ飛ばしてしまえ。

俺の提案にソラがドン引く。

「……発想が怖っ!!っつーか、そもそも俺が触れなきゃ駄目じゃん!」

「場所は違えど、君だって以前私を飛ばそうとしたじゃないか。同じだろう?大丈夫、大丈夫。ハンゾー達もフォローしてくれるし。なにより、もしもの時はやらなきゃ死ぬよ?」

まぁ、ジストは悪い奴じゃないし平気だよきっと!!

でも万が一の時はお願いね!!

「そもそもアンタなら倒せんじゃねぇ……?」

「ソラは私をなんだと思っているのかな?」

「ちょっと魔王疑惑は抱いてる」

胡乱(うろん) な瞳を向ければ、真面目な顔で返された。心底 遺憾(いかん) である。

「その剣なら斬れるんじゃねぇの?さっきも「その首で試してみるか」とか言ってたじゃん」

「物理的には斬れるかも知れないけど、彼だって抵抗するだろうし相手は黒竜だよ?」

「いや普通は抵抗されなくても物理的に斬れないし、そもそも竜相手に立ち向かうって発想がねぇんだよ」

「……あれは不可抗力だし。だってベアトリクスを泣かせた上に、ガーネストを傷つけたんだよっ?!それは立ち向かうだろうっ、兄としてっっ!!!」

「いやいやいや、弟妹を守ろうっていう心がけは立派かも知れないけど。普通は竜相手に喧嘩は売らないし、ましてや竜ビビらせたりは出来ねぇよ。人として」

思わず拳を握って熱弁すれば、ふるふると首を振って冷静に返される。

兄としての道を説いたら、人として否定されたっ?!!

ガーンっ!?とショックを受けていると、ジストたち視線がこちらを向いていた。

俺らが小声で会話している間、リフが話題を振ってジストの気を逸らしていてくれたのだが、いつの間にかヒートアップしすぎてたらしい。いつのまにか声も普通の大きさになってたしね……。

「人として……?」