軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヴァンパイアだっていってんだろーが!!

騒めきも、泣き声も……誰かが俺を呼ぶ声さえ、なにも耳に入ってはいなかった。

ゆらり、ゆらりと無意識に動く脚。

先程まで感じてた恐怖はもう無い。もっと強い、もっと激しい感情が俺を支配していた。

強く、激しく、熱さを通り越していっそ冷え切った程のそれは……研ぎ澄まされた“怒り”という感情だ。

歩みを止めれば、靴底でジャリっと音が鳴った。

近づいてみて改めてわかるその巨体、 獰猛(どうもう) を感じさせる牙や爪に、まるで黒曜石の小山のようなその体躯。

人とも、人型のジストとも異なる、瞳孔が縦に割れた爬虫類の瞳が近づいて来た俺を眺める。

紫の瞳には威嚇もなければ、警戒もなかった。

それは人 如(ごと) きが、己を傷つけることなど出来ぬという 驕(おご) り 故(ゆえ) か。

「あまり調子に乗るなよデカブツが」

吐き捨てるように呟いた声音は、我ながら温度を持っていなかった。

言葉より早く、一閃。

腰に下げた愛刀を閃かせる。

「動くな」

止まった刃に紅い雫が伝う。

驚愕に瞳を見開き、臨戦態勢に入ろうとした黒竜の動きが、忠告の言葉にピタリと止まる。

「次は止めない」

敢(あ) えて止めた事実を強調させるように、首元に充てたままの刃を鳴らした。硬質な鱗を裂いて、鮮血が新たに一筋伝う。

ぽつり、ぽつりと剣を伝って地へ堕ちる己の血。

それはジストに多大なる驚きを与えたようだ。

当然か、届くはずがないと思っていた刃が届いたのだから。

瞳を眇めながらそんなことを思う俺の前に、リフが静かに立ちはだかる。

「妙な真似をするなよ?たとえお前が業火を吐き出そうと無駄だ、全て防いでみせる」

リフ様がなっ!!

一番重要な部分を心の中だけで付け加えた。

「人間 如(ごと) きになにが出来ると思っているか?お望みなら試してみるか?」

薄く笑って、 傲慢(ごうまん) に紫の瞳を見下ろす。

立ち位置的に実際には見下ろされてるのこっちだけど……いいんだよそんなことは。

「貴様自身の首でな」

ひゅっっと息を呑む音が聞こえた。そして大混乱の心の声も。

『なっ、なんなのだこの者は……ただの武器で俺様の鱗を傷つけただとっ?!しかもあの攻撃、こいつの言うようにワザと止められたっ。火炎も効かぬだとっ?!嘘だ……だがこの余裕、ただのハッタリとも思えんっ!!』

よーし、いい感じに効いてるっぽい!!

傷をつけたのは実力っていうか、いうなれば金と権力によるコネの力だがな!!

ただの剣じゃなくて名匠による最高素材の伝説級の一品です。

火炎もその他攻撃防いでくださるのも、全部リフさんですがね。

だがハッタリではない!…………っていうか竜を前にしても果敢に庇ってくれるリフに、感激が止まらないんですけど。

俺の従者最高っ!そんでもって最強っ!

拝む?いっそ崇め奉るべき??

『ま、まさか……っ!?』

限界まで見開かれた瞳が、驚愕と共に俺を見つめた。

『魔王っ?!!』

そして聴こえた心の声に、思わずこっちも目を見開く。

無言で二人(?)見つめ合う。

『黒い髪、黒い服……なによりこの威圧感……。俺様相手に怯まぬどころか、この余裕。しかもよく見れば牙が……人間と思って油断したっ。人型のまま魔術も使わず、あえて人間の武器で攻撃してきたのは実力差を見せつける為だというのかっ……!』

………………脳が情報を処理するまで、 暫(しばら) くの時間を要した。

そして突っ込みが爆発した。

但(ただ) し、いつもの 如(ごと) く心の中で。

うぉーい!!ついには魔族に魔族扱いされたんですけどっ?!

しかも魔王!!

ある?こんなことってあるっ?!

牙とかただの仮装だわっ!

そして魔王じゃなくてヴァンパイアだし、なんで皆して魔王って言うの?

人型で人間の武器でとか、そもそも普通に人だしね。

そもそも俺言ったよね?!

さっき「人間 如(ごと) きが……」ってちゃんと自分のこと人間って言ってたよね?!

そ・し・て……黒い髪、黒い服ってなに?

いや、確かに魔王とか暗黒系のイメージあるよ?でも黒いっていったらお前だって黒いじゃん。

なんなの?「俺様は魔王の素質ある!」とかいう自己アピールなの??

そして黒=魔王なら、魔王なんてそこらじゅうに溢れてるし、日本なんて魔王国家じゃん!!

ふつふつと色んなものが 滾(たぎ) ってきた俺はジストを睨みつけた。

『ひっ……。この覇気っ……魔王に間違いないっ!?』

……イラッとした。

苛立ちに反応してか、掲げてた剣を持つ手がぴくりと揺れた。その振動によってジストの首元からまた一筋、鮮やかな鮮血が刃を伝い地へ堕ちた。

「……あっ、……あのっ!!」

がったがたに震えた声が背後からかかり、体勢は変えないままほんの少し顔を動かし横目でそちらを見る。

そして思いっきり肩をビクリと震わせて怯えられた……。地味にショック……。

「まっ、待って下さいっ……。あのっ……どうか……」

身体の横で震える拳を握りしめ、足をプルプルさせながら声を上げたのはリリー嬢だった。

『どどどどどどどーしよー?!こ、怖いっ!!超恐いんですけどっ?!!ガチの竜マジ恐いっ!!そしてそれ以上にカイザー様が恐すぎなんですけどっ?!!美形のキレ顔半端ない!……っていうか本当に首落とす気ですか?!お願い止めてー、殺さないでっ!!』

どうやら本当にジストを殺すと思って焦っているらしい。

大丈夫、殺さないよ?

魔王扱いされて、ちょっと手が滑っちゃっただけだってば。

リリー嬢にガチでびびられてちょっと頭が冷え、彼女へ意識を向けた黒竜を見上げてわざとらしくも呟いた。

「ほぅ。人の言語を解するか」

喋れるのも人型になれるのも、最初っからバリバリ知ってるけどね。

「動くな。妙な行動をするな。少しでも可笑しな真似をすれば、ただではおかない」

そう告げて首から剣を離した。

いやー、高さの違いもあるから掲げたままの腕が微妙に辛かったんだよね。

そんなことはおくびにも出さずちらりとリリー嬢へと視線を投げた。

「大丈夫ですよ。無意味に危害を加えるつもりはありません。あちらがなにもしなければ、ですが……」

言葉の途中で睨みつけるように視線を戻せば、頷くように黒竜の首が動く。

「ここへ」

短い呼び掛けに、校庭の至る所に幾つもの影が現れた。

突如として湧き出たとしか思えない、武器を片手に身構えるどう見ても只者じゃない黒ずくめの集団に生徒たちが騒めきだす。

『なに今の?!この人達どっから現れたのっ?』

『一体なにが起こってるの?突然竜は現れるし……もうやだっ、怖いっ!!』

『忍者、忍者じゃん!』

『『忍者……』』

『竜が怯えてんですけど……え?カイザー様って魔王なの??』

『『魔王降臨したっ!!』』

『『カイザー様恰好いいっ!!』』

『『魔王……』』

そして無視してたけど…………実はさっきから感情が高ぶった生徒たちの心の声が、洪水のように流れ込んできて煩かったんだよね。現在進行形で。

おい、忍者って言った奴ら!!

てめーら確実に転生者だろ?!しかも複数人いたぞ!人数が多すぎてどいつかわかんないけど。

つか、転生者多すぎだろ?!何人居るんだよ一体?!

忍者発言した奴ら、後で職員室まで名乗り出ろや!!

そして魔王発言した奴ら、校舎裏までこいやコラっ!!

内心ガラが悪くなってると、苛立ちが瞳に出てたのか目の前の巨体が小刻みに震え出した。ジャリっと後ずさる音が聞こえる。

止めて……お前が実はチキンなのは知ってるけど、今はその反応マジ止めて。

俺の魔王疑惑が濃くなるから、お願いだから黒竜の威厳を保って下さい。

そんな切実な想いは一切表情に出さないまま、静かに弟の名を呼んだ。

「生徒たちを連れてホールへ避難を。生徒会長として指揮をとりなさい」

黒竜と対峙したまま振り向かずに指示を続ける。

「騎士科の生徒や上級生は、下級生や動けない子たちに手を貸してあげて下さい。教頭先生、彼らは私の部下です。非常事態なので警備を兼ねて彼らが校舎内に立ち入ることをお許しください」

視線が捉える範囲内で一番上の立場の人間へと許可を取れば「も、勿論です」と震える声で振り子のように頷かれた。

「ダイア」

ガーネストやサフィアたちが声を掛け生徒たちを誘導する中、もう一人の弟分の名を呼んだ。

「ベアトリクスを頼む」

腰を抜かして泣きだしていた大切な妹を託せば、強く頷いた彼がベアトリクスを抱き上げる。

さて、と……あとはこの状況をどう収拾をつけたものやら……。

俺は内心で頭を抱えた。