軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

教育者として存在否定

「来週から学園が大騒ぎになりそうだな」

苦笑いを浮かべながらそう切り出したのはティハルトで、

「確かに。女生徒たちの注目の的になりそうだね」

ちょっぴりげんなりしながらそれに同意する。

だけどそれとは別に、女生徒の意識が俺から逸れるかもという期待も少々あったりする。

「あら?カイザー様こそ女の子たちに追い掛け回されてるって聞いているけど?どうなのかしら、ベアトリクスちゃん」

こちらを面白そうに上目遣いで見つめたアイリーンは、あろうことかベアトリクスに問いかけた。

「はい。とても大人気でらっしゃいますわ」

そう答えるベアトリクスの声はどこか緊張している。

「人のことは言えないじゃない。色男サン」

艶やかな紅い唇を綻ばせるアイリーンは、アレクサンドラに負けぬ色気の権化だ。

「色男だなんてとんでもない。色気というならとても君には敵わないよ」

いや、マジで。

今日も今日とてゴージャスな美貌の女王様(違った、王妃様だった)は、ドレスからはみ出んばかりの魅惑の谷間も、表情も仕草もお色気満点である。

なんならベアトリクスよりも断然、悪役令嬢の風情がある。

……いや、やっぱ悪役 令(・) 嬢(・) というのには語弊があるな。彼女は学園に通ってた頃から既に女王様やら女帝といった風格があった。

そんな本心から告げた言葉は、次の瞬間にべもなくティハルトに斬り捨てられた。

「お前たちもあの王子も大差ない。充分に少年少女の教育に悪そうだ」

待って、教育に悪いってなにっ?!

俺、仮にも教師なんですけど?!

愕然(がくぜん) としつつティハルトを見ればふん、と軽く流された。

「フ……フフっ」

思わず、といった笑い声が響く。

「す、すみません、つい」

無意識に零れたであろう笑いに、視線を集めてしまったベアトリクスが真っ赤になってわたわたしている。

「ほら見ろ。ベアトリクスも認めてるぞ」

勝ち誇った顔で俺とアイリーンを見るティハルトにイラッとした。勝手に引き合いに出されたベアトリクスはアイリーンに向かってぶんぶんと両手を振って否定する。

「違いますっ!今のはっ、お兄様たちの遣り取りがあまりに楽しそうだったからでっ。別に教育に悪そうだなんて思ってないですっ!」

真っ赤な顔のベアトリクスは追い詰められた小動物みたいだ。可愛い。

「でも………」

続けられた消え入りそうな小さな声。

「……すごく色っぽくて……羨ましい……です……」

恥ずかしそうにそう言って、ぷしゅぅっっと音が出そうな様で俯く姿に胸を射抜かれた。

か、可愛いっ!!!!!

そんな気持ちを込めてアイリーンを見れば、同意を込めて大きく頷かれた。

アレクサンドラたちを残して退出した俺達は、部屋を移って現在はお茶をしている。

メンバーは俺、ベアトリクス、ティハルト、アイリーンという中々珍しい組み合わせだ。大人三人、ましては相手は陛下+王妃という組み合わせにベアトリクスはさっきから緊張しっぱなしだ。

ちらちら、と視線をやっては畏まり……必死に令嬢らしく振舞おうとしつつ緊張を隠せていない。

なにせティハルトはダイアと瓜二つだ。

大人になったダイアを連想させるティハルトは、ダイアに恋する乙女としてはハードルが高いのだろう。

あまりにも初々しい様子に、俺とアイリーンは先程からそれとなくベアトリクスを愛でている。

ティハルトも可愛らしい弟の想い人の反応に微笑まし気だ。

ベアトリクスは可愛いが、やっぱり兄としては面白くない気持ちも大いにあるので、一度ティハルトをちょっぴり睨みつけたら鼻で笑われた。

ムカつくー!

そんな反応してるけど、お前だっていつかどっかの男にシェリルちゃん奪われる日が来るんだからな!!

「ところでベアトリクス。学園生活で異変はないか?例のアンジェスの末裔の少女たちの周りで、なにか気づいたことがあれば教えて欲しい」

ティーカップをソーサへと戻し、表情を改めるティハルトに背を正す。

「リリー様やナディア様にですか?」

学園での様子を思い出そうとするように、ベアトリクスが慎重に口を開く。

「特にこれといった異変は……。ですがやはり入学当初から彼女たちに興味を抱く方は後を絶ちません。アンジェスの話を聞き出そうとする方や、親しくなろうとする方……それに……異能を持たない彼女たちを下に見る方達も……」

最後、言いづらそうに視線を逸らしたのは確実に俺の 所為(せい) ですね。

気ぃ使わしてごめんよ。

アンジェスの血に魅力を感じて取り入ろうとする者がいる一方で、半信半疑な人間にとっては彼女たちは異能を持たない、つまりは純粋な貴族以外の血が入った人間でしかないわけだ。

そもそも事実 末裔(まつえい) であろうと、とうに滅びた国の 末裔(まつえい) になど本来はさほど価値などない。

その前提が覆るのは、 偏(ひとえ) にかの国が“アンジェス”だからだ。

滅びて尚、崇高と狂信の絶えない『幻の帝国』だからこそ________。

「アンジェスの再興を夢見る、よからぬ輩も 蠢(うごめ) いている」

夢物語を現実に、そう願う奴らが未だ絶えない。

「彼女たちを狙う不届き者も出てくるだろう」

夢を見るのは自由だ。

なにを願うも、望むも。 ただ、

「不届き、者?」

不安そうな声音にちくりと棘が胸を刺す。

出来るならこんな話はベアトリクスに聞かせたくはなかった。

「“皇子”を生むための道具としてしか彼女たちを見ていない者も居る」

「……っ?!」

シトリンの瞳を見開いて息を呑む細い肩を、宥めるように抱き寄せた。

その夢物語に“誰か”を巻き込むな!

誰とも知れぬ相手に心の中でそう罵りながら、憤りを抑えるようにぎりっっと奥歯を噛みしめる。

「学園は彼女たちに接触する絶好の場だ。可笑しな動きを見つけたらすぐにカイザーたちに伝えて欲しい。それともう一つ、そなた自身も十分に身の回りに気をつけよ」

「私、ですか?」

細い肩を両手で抱いて揺れるシトリンを覗きこみながら、幼い子供に言い聞かせるようにティハルトの言葉の続きを引き継ぐ。

「ダイアもアレクサンドラ様も実質上位の継承権を持たない王子だ。比較的自由な立場にあって権力や繋がりの多い彼らを、彼女たちの相手として好ましく思う奴らも居る」

「だから……ダイア様の側に居る私を、邪魔に思う方が居るかも知れないのですね?」

はくり、と喉を鳴らしつつもベアトリクスは答えを導き出した。

頭のいい子だ、身勝手で残酷な危険を正しく理解したであろう妹を安心させるようにそっと頭を撫でた。

「大丈夫」

額が触れ合う程の距離で、瞳を覗きこんだままそう呟く。

「お兄様が必ず守るから、大丈夫だよ。私も、ガーネストやダイアだって学園に居る。影の皆だって直ぐに駆けつけてくれるから。だから過剰に心配する必要はないよ。可笑しなことや怖いことがあったら、必ず助けを呼びなさい」

大丈夫だと、なにも恐れることはないのだと。

そう想いを込めて微笑みかけた。

「はい。はい、お兄様。必ず」

強く頷き返してくれる姿に「いい子だ」ともう一度髪を撫でた。

「一番面倒なのは権力を望んでる小物だな」

お疲れモードで眉間に皺を寄せる我が友の言葉にうんうん頷く。

それね。なにが面倒かというと……。

ダイアたちを狙ってる奴らはまだいい。

いや、本当は良くはないけど成功率ほぼゼロなんで。

それは彼女たちと結ばれる可能性がじゃない、アンジェスの再興の可能性がだ。

何故なら二人が王子だからだ。

万が一アンジェスの血を継ぐ男児が生まれたとして、愛国心も王族の自覚もある彼らは自らの子を遠い昔に滅亡した帝国の皇帝として 擁立(ようりつ) するなどという愚行を犯すわけがない。

貴族として誇りを持ち国に忠誠を誓う者たちにも同様のことがいえる。

だから本当に用心しないといけないのは、自ら行動を起こそうとする下種だ。

下手に権力望んでる奴らが直接ヒロインたちを襲うのが一番厄介だ。元も子もない言い方をしてしまえば、彼女たちを襲って男児を生ませ、子を旗印に権力を得ようとする奴ら。

短絡的だが、行動としては手っ取り早いうえに一番防ぎにくい方法だ。

「改めて警備の強化と怪しい輩の洗い出しが必要だな」

「だね。学園の生徒については後でガーネストたちにも話を聞こう」

話が一段落したところで、空気を切り替えるように笑みを浮かべたアイリーンが腕を組んで身を乗り出した。

……アイリーンさん、その体勢は谷間がヤバいです。

「じゃ、難しい話は後で殿方たちに任せるとして…………久しぶりに会ったけれど、本当に綺麗になったわね。ベアトリクスちゃん」

「確かに。随分と大人っぽくなったな」

そんでもって、ティハルトの発言がベアトリクスにクリーンヒットです。

目元を和らげてフッと笑う姿に、ベアトリクスは見事にほっぺが林檎ちゃんに色づいている。

恋する相手の大人バージョンそのものの顔で、その言動は卑怯なり!

うぬっぅ、ウチの子を 誑(たぶら) かすなど 赦(ゆる) すまじ!

「……そ、そんなこと……ないです。私なんてまだ……全然子供っぽくて……」

わたわたと、そして段々と俯きがちになるベアトリクスの視線の先には……。

たわわな、たわわなお胸様。

うん。アレは規格外だからノーカンでいいと思う。

目の前のお人は基準にしたらアカンやつだと思います。

良い子は真似しちゃダメだぞ!なお姉様だからね、良い子なベアトリクスの見本にはならないよ。

存在を主張する二つの山からそっと視線を逸らす男二人と違い、注目された当の本人はというと……。

「あら、可愛い」

頬に手を当てて 嫣然(えんぜん) と呟いた。

そして 徐(おもむろ) に腰を上げると、ベアトリクスの両手を握りしめて蠱惑的な紫紺の瞳で微笑みかける。

「お姉さんとオハナシ、しましょう?」

もはや 如何(いかが) わしいお誘いにしか聞こえないとは、 是如何(コレいか) に?

「ちょっ」

「別にいいじゃない。どうせ貴方たちは小難しい話も、ダイア様たちの話を聞く必要もあるのでしょう?」

大事な妹を魔の手から守るべく制止を掛けようとするも、口を開いた途端に間髪入れずに叩き潰された……。つ、強い……。

「ねっ?女同士でお話ししましょ」