作品タイトル不明
一番苦手な奴が来た
友人に呼ばれて友人宅へお邪魔する。
言葉にすれば、そんな単純なことなのに……友人がこの国の現陛下であられて、友人宅がお城という、そんな全然フランクでないお誘い。
憂鬱な気持ちを抱えたまま馬車から降りる。
すっと手を差し出せば、はにかんだ笑みを浮かべて手袋越しの掌に指を重ねる妹は今日も可愛い。
実に可愛い、まごうことなく可憐かつ綺麗な美少女である。
会わせたくない……。
ガーネストは無理でも、せめてベアトリクスだけでもこのまま馬車から降ろさず屋敷へ帰らせてはダメだろうか?
そんな 葛藤(かっとう) も虚しく、ティハルトの従者の一人に恭しく出迎えられた。
「どのような御方なのでしょうね?」
「さぁ?でもジャウハラの国民は 概(おおむ) ねフレンドリーな気質のようだね」
「かの王族には魔人の血も混ざっているためか、自由奔放な性格の者も多いと聞きます」
「それに実力主義で、尚且つその血 故(ゆえ) か独特な美しさを纏っているとか……。妖しく美しい姿に 虜(とりこ) になってしまう者も後を絶たないようだから気を付けて」
シトリンの瞳を覗きこんで 悪戯(いたずら) っぽくそう告げた。
軽い感じで忠告してますが、実際は超切実です!!
今から会う相手はすっごい女 誑(たら) しだから気をつけて!!
そんな俺の言葉を冗談だと思ったのか、ベアトリクスは口元に手を当ててクスクスと笑う。
「あら、妖しい程に美しい殿方ならお兄様で見慣れてますわ。それに王族の美しさなら我が国も負けておりませんもの」
うーん、確かにティハルトやダイアも美しさなら負けてないんだけどね。系統が違うというか。
アイツはベアトリクスに会わせたくない系統なんだよなー。
そんなことを思いつつも、無情にも目的地はすぐそこだった。
「愛らしい。天上から舞い降りた天使の 如(ごと) く可憐なご令嬢だ。麗しき方、名をお聞かせ願えるだろうか?」
「えっ……?えっと、あのっ……」
しょっぱなから先制パーンチ。
部屋に入るなり 気障(キザ) ったらしい口説き文句を口にして、流れるように指先に口付けて来た男にベアトリクスは困惑してる。
そして俺はヒクヒクしそうな口元を抑えるのに必死だ。
「失礼、この国の女性はあまり情熱的な口説き文句に慣れておりませんので。ベアトリクス、ご挨拶なさい」
正直、紹介などしたくはないが……他国の王子に名を問われたなら名乗らない訳にはいかない。そもそも今日はそのために来たのだし。
間に入るようにして促せば、ベアトリクスはスカートを掴むと淑女らしく礼をした。
「お目に掛かれて光栄ですわ。ルクセンブルク公爵家のベアトリクス・フォン・ルクセンブルクと申します。以後お見知りおきを」
彼女に続き、俺達も挨拶をする。
相手が男の紹介を欲しているかは知ったこっちゃねぇがな。
「現在公爵代理をしておりますカイザー・フォン・ルクセンブルクと申します。エーデルシュタインでは音楽の教師をしておりますので、学園でもお目に掛かることがあるかと。我が国での殿下たちの学園生活が良きものであることを願っております」
可愛い妹を毒牙にかけんとするいけ好かない男へ、額の青筋なんてキレーに隠したまま優雅に微笑み掛ける。このぐらいの腹芸はもはやお手の物。
「教師……?公爵様が……?」
王子の隣で呆然としてる御付きの呟きはもっともだと思う。
公爵が学園の教師してるとか、あと公爵“代理”とか、俺の自己紹介はわりと突っ込みどころ満載だがスルーしてくれ。
そして「惜しい……男であるのが悔やまれる程、美しいな」とか呟いてる色ボケ。
うっせぇ、黙れ。
あといい加減ベアトリクスから離れろや。
目の前で妹を口説かれて、内面のガラが大分悪くなっております。やさぐれ。
「同じくガーネスト・フォン・ルクセンブルクです。殿下たちとは同学年になります」
「ガーネストは高等部の生徒会長でもあるんだよ」
さり気なく口を挟みながらも、ベアトリクスと王子との距離を離すダイア。ナイス!
「紹介が遅れた。余はアレクサンドラ・シルバ・ラーだ。身分はジャウハラの王子だが、何分我が国は王族の数が多いからな。継承権などあってないようなものだし、堅苦しいことは好まん。気軽にアレクと呼んでくれ。敬称敬語も構わん」
軽く手を広げ、そう鷹揚に告げる男はライオンを連想させる。
褐色の肌に金糸のような金色の髪を 靡(なび) かせ、男らしく整った顔と垂れ眼がちな瞳が目を惹く。なにより特徴的なのは色彩を変えるアレキサンドライトのような妖しい瞳だ。色気満々な、前世の長女の推しキャラ・アレクサンドラ。
さすがは女性人気の高かったお色気キャラなだけあって、醸し出す色気はとても十代半ばとは思えない。
しまえ、ベアトリクスに毒だから今すぐしまえ。
「わたくしはアレク様の側仕えのシリウス・レイナードと申します。アレク様がご覧の通りの性格なので……なにかとご迷惑もお掛けするでしょうが、どうか宜しくお願い致します」
綺麗に背筋を折って挨拶をしたシリウスもゲームでも度々登場したキャラだ。
アレクサンドラと同じく褐色の肌に、さらりと揺れる銀の髪。ムキムキとまではいかないが鍛えられたことがわかる肉体と、隙のない身のこなしは堂々とした佇まいだ。
髪色も態度もアレクサンドラとは対のように真反対の彼は、王子の護衛兼お目付け役なご学友といった立ち位置の苦労人。
「それとアレク様、いい加減にベアトリクス様から離れて下さい」
そして真面目な態度とその一言に、俺の株が急上昇!
初対面なこともあってか、まだ取り繕ってるけどシリウスはわりと毒舌だ。
アレクサンドラが問題を起こすたびに何気にしれっと毒を吐く。仲が良い証拠なんだろうけど、王子に対して普通に「このバカ」とか言うしね。まぁ普段振り回されてるから仕方ないのかもだけど……。
「何故だ、美しい女性を愛でるのは男の義務かつ生きがいだろう?」
「ここはジュエラルです。先程カイザー様が仰ったように文化が違うのです。自国と同じように振る舞って全方位に喧嘩を売るのはお止め下さい」
「喧嘩を売った覚えなどない。余はただ美しい花を美しいと讃えたまでのこと」
「だからそれを自重しろって言ってるんですよ!」
やれやれ、と言いたげなアレクサンドラに苛立つシリウス。
頑張れ、シリウス!!
今この部屋に居る男たちは君の味方だ!!
「本当に情熱的ですこと。ですがアレクサンドラ様?シリウス様の仰ることもごもっともですわ」
「 是非(ぜひ) アレクと。麗しきアイリーン王妃」
ころころと笑うアイリーンへと、シリウスとの言い合いなど止めてすぐさま振り向くアレクサンドラ。
だからそーいう物言いを止めろって言われてるんだろうが。
直す気皆無だな、コイツ。
「ではアレク様。ジュエラルのお姫様たちはとても繊細で可憐でらっしゃるの。恥じらう姿も可愛らしいけれど、過度な口説き文句はきっと戸惑われてしまいますわ。あまり可憐な花たちを、惑わせないで頂けると嬉しいのだけど」
悠然と微笑むアイリーンはさすがだ。
……というかこの二人の組み合わせ、お色気過多過ぎて目に毒だな。
「むぅ、美しい貴女の言葉なら心に留めるよう善処しよう」
これ駄目だな、絶対改善はされないやつ。
「なにはともあれ、アレクサンドラ殿・シリウス殿。我が国への訪問を心より歓迎しよう。滞在中お困りのことがあれば弟を通じてなんなりと申し付けてくれ。貴殿らの留学が価値あるものになることを願っている」
パン、パンと手を叩いてティハルトが締めて、一先ず顔合わせは終了した。
少しの雑談の後、同じ学年(まだ正式発表はされてないけどクラスも同じ)になる者同士で交流を深めるといい、ということでダイアとガーネストを置いて俺達は退出。
退出の際、特にベアトリクスとアイリーンが色ボケ王子に延々と引き留められたけど、軽くスルーして退出した。
アレクサンドラたちの留学。
これで 漸(ようや) く、隠しキャラ以外の全ての攻略対象者が揃った。