軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

当然のようにフルボッコ

ゆるゆると意識が覚醒する。

もぞりと動けば「んっ」と掠れた甘い声が響き、もぞもぞと胸元に擦り寄ってくる熱の塊を感じた。

また潜り込んだのか。

目覚め切らない頭でそんなことを思いつつ、その背を撫でようとしてふと感じた違和感。

「ん?」

今度は俺がそう声を上げ、ゆるりと瞼を開ける。

半分ぼんやりとした視界に、まず飛び込んできたのは鮮やかな真紅。

そして…………。

思わずばっと飛び起きた。

慌てすぎて腕がベッドの脇のナイトテーブルに当たり、水差しやらなにやらが落下して派手な音を立てた。

だけど割れた水差しにも、じわじわと絨毯に染みを広げる水にも構っている余裕なんてない。

物音にむずかるように身じろぎして、目を擦りながら身を起こす女性。

それこそ先ほど目に飛び込んできた肌色の正体。

起き上がろうとしたことで女性の胸元が見えそうになり、慌ててシーツを被せたのは条件反射だった。

パニック状態の脳で昨日の夜を思い出すも、変わった出来事はなにひとつ思いだせない。

同じベッドで眠っていた、一糸纏わぬ謎の女性。

誰、誰、誰、誰?

なんで?なんで?なんで?

そんな単語ばかりが頭を駆け巡る中、こしこしと目を擦っていた女性がとろんと眠たげな瞳で小首を傾げた。

「かい、ざーさま?」

その仕草も、金緑色の瞳の色にも非常に見覚えがあった。

見開いた瞳のまま女性を凝視する口から自然に漏れた名前は………。

「……マオ?」

名を呼べば、ふにゃりと笑みを浮かべて離れた距離を詰めるように温かな体温が再び胸元に懐いてきた。

そして同時にバンッ!!と壊れそうな音を立てて開かれた扉。

「カイザー様っ!?」

「何事かございましたか?!」

血相を変えたリフやハンゾーたちの姿がそこにあった。

朝っぱらから響いた騒音に、何事かと駆けつけてくださったその目がかっぴらかれた。

んでもって、その間にも「兄上っ?!」「お兄様!!」とか俺の名前を呼ぶ声が響き、どんどん集まってくる皆さま。

勢い込んで大集合してくださった皆さまの口は、一様にベッドの上の俺らを見て止まる。

胸元に懐いたまま、再びまどろみを貪ろうとしていた女性がその騒動に身じろぎして顔をあげた。滑るシーツに裸体が露わになりそうになり、慌ててシーツごと抱き込むようになんとか防ぐ。

その途端に聞こえた叫び声にも似たざわめきに、心の声。

大混乱なそれに、逆にちょっとだけ冷静さを取り戻した。

まだ混乱は引きずっているものの、「あれ、部屋の鍵かかってたよね?」とか「そこのメイド二人、ガン見してんじゃねぇ。おまえらだけ違う意味で目かっぴらいてんだろ」とか…………。目の前の出来事に取り乱しながらも、薄い寝衣一枚で駆けつけたベアトリクスにショールをかける姿に「ナイス、リフ!そして相変わらずどっから出したんだ?」って脳内ツッコミを入れられるぐらいは回復していた。

「カイザー様……その女性は一体…………?」

腕の中の二十代前半に見える謎の女性。

なんでこんなことになってるかわからない。

わからないけどたぶん……。

「マオだと思う。なんでこんなことになってるのかは、私もわからないけど……」

その後、本人に確認してやはりマオだということが判明。

とりあえず、ひとまず着替えることにした。

動き出そうとするマオをシーツでしっかり包み、前を押さえさせたうえで「動いちゃ駄目」と言い含める。

「服をなんとかしなくてはね。ベアトリクス、ドレスを貸してあげてくれるかい?この恰好じゃ動けないし着替えはこの部屋でするといい」

マオの着替えはメイド長のマーサに任せる。

なんでって、某メイドどもに任せるのは不安だからですがなにか?

今も他の部屋で着替えをすべく立ち上がった俺の姿を、目に焼き付けるレベルでガン見してるからね。

どうせすぐ着替えるけど、寝る時に息苦しいからって外していた胸元のボタンをひとつふたつ閉めれば聞こえる舌打ち。

彼女たちは着替えを取ってきてくれたリフに追い払われた。

着替えを済ませ、さて話を聞き出そう……ってところで幼い頃と変わらぬ様子で「お腹すいたー」って声が上がったので朝食も済ませた。

うん、マオだ。

見掛けはただならぬ美貌の美女だけど、言動はまごうことなくマオ。

お腹も満たし、ようやく落ち着きを得たところで改めてまじまじとマオを見る。

腰まで届く艶やかな真紅の髪。色白の肌に均整のとれた身体つき。美しい顔立ちは魔族の血が成せる業か、ただ美人というだけでなくひどく目を惹いた。

妖艶といっても過言でないその姿と、あどけない雰囲気のアンバランスさが余計にそうさせる一因かもしれない。

「すっげぇ美人」

いつものように膝に座ろうとして断られたことに不満そうな表情を浮かべるマオを見て、ソラが思わずという感じで感想を漏らした。

「なんていうか、独特の雰囲気があるよね。魔族の血かな?」

「まぁなー。でもそれ言ったら俺的に一番そんな雰囲気と妖艶さ醸し出してんのカイザー様なんだけど?断トツ」

「…………」

そして誰も否定してくれない、っていうね。

「ところで、どうやってマオは急に大きくなったんだい?」

「??」

首を傾げられた。

本人にもわからないらしい。

「マオ、小さくなることは出来ますか?」

リフの質問になにやら難しい顔をしてうーんうーんと唸っていたマオは暫くして「できない」と首を横に振った。

「成長期でしょうか?」

前にも赤ちゃんから一夜で幼児に成長したけど、魔族の成長期急激すぎじゃね?

起きたらまっ裸の女性が隣にいるとか超ビビったんですけど。

近頃はないとはいえ、かつては目の前で服脱ぎ出そうとする使用人とかハニートラップ系結構あったから余計にね。

そういえば服はどうしたんだろう?と聞いてみれば、ビリビリとのお返事。

まさかすっぽんぽんで部屋まで移動したのか??

「カマルやジストは姿を変えても服は平気だろう?」

ガーネストが疑問を口にだせば、当のカマルは先ほどのマオのように首を傾げた。

本人もわからないようなので、自然と視線はその隣へと向く。

「特に意識してないんじゃない?一定の姿に変化するカマルたちと違って今回のマオの成長は本人もイメージできてないものだから……とか。推測だけど」

なるほど、とラピスの意見に頷いた。

そしてマオ、ドレスの胸元ひっぱって「キツイ……」とかいうのやめなさい。

それ貸してくれたベアちゃんがショック受けてるからやめたげて。

大丈夫、マオが平均より大きいだけでベアトリクスだってそれなりにあるから。まだ成長期だし。

「あのねっ、どうやっておっきくなったかわかんないけどね、マオはやくおっきくなりたかったの!」

にっこにこの笑顔のマオは爆弾発言を投下した。

「これでカイザー様と結婚できるでしょ?」

「「「…………」」」

絶句。

そして向けられる無言の視線たちが突き刺さる。

たらり、と冷たい汗が背を伝った。

最近やたらと増え始めた女性からのお誘いと婚約の申し込み。

それにやきもちを焼いて、むくれていることも多かったマオ。

マオの成長って俺が原因ですか?

待って、待って待って、お願いだから待って。

誰に言ってるのかもわからないまま心の中で待ったをかける。

「えっと、それで大人になりたかったってこと?」

「うん!」とご機嫌に頷くマオに固まるしかない。

大人になりたいと思ったからって実際にすぐなれるとか……魔族ってどうなってんの?!と動揺する俺をよそに「あのね」とマオが言葉を続ける。

「きせーじじつなの!!」

ぶっと噴き出す音と噎せる音が複数響いた。

バッと向けられた視線に慌てて首を横に振る。

一切手は出してません!

必死のアピールを込めてブンブンと首を振った。

「きせーじじつってなに?」

「わかんなーい」

わかんねーのかよ!!

「「なんのことー??」」

ピュアピュア魔王コンビの質問は黙殺させて頂きます。

「マオ、その言葉はどこで覚えてきたんですか?」

顔を覗き込むようにして尋ねるリフになんらかの圧を感じたのか、マオが目をくりくりと丸くしつつも素直に答える。

「アインがね、言ってたの。マオが「カイザー様のお嫁さんはマオなのにっ」って言ったら「じゃあとっととデカくなって一緒に寝りゃーいい」って。きせーじじつ?作ったらお嫁さんになれるって教えてくれたのっ!!」

「あんっのクソジジイッ!!」

地の底から這い出るような声が出た。

思わず口が滑ったが、誰も責めもツッコミもしなかった。

マジでなにしてくれてんのあのジジイ……。

拳を握りしめたままゆらりと顔を上げる。視線を向けた先のリフも笑顔の奥の瞳はちっとも笑ってなかった。

「至急アイツに連絡とって」

「はい。大至急で」