作品タイトル不明
されるのはムカつくけど、翻弄するのは楽しい
私用で出かけるのはずいぶんと久々だった。
それもこれも可愛い妹のお陰だ。
去年は 怒涛(どとう) の一年だったからな。特に夏以降。
怪我のこともあったし、そうでなくてもスタンピードやら夜会の件でいらん注目浴びまくったせいで、呑気にフラフラできる状況でもなかったし。
ほら、容姿が目立ちすぎてお忍びとか出来ないから俺ら。
地味目に装ったところで忍べてないっていうね。まぁ注目浴びすぎてるのは今も同じなんだが。
もういっそどこぞのベーカリー系ヒーローみたいに顔を変えるしかないか。
いや、新しい顔も同じじゃ意味ねぇか。そもそも物理的に無理ー。
あとアレ、飛んでったやつがどうなってんのか昔から謎。気になる。
「じゃああとは宜しく」
手本のような礼に見送られ裏口から店を後にする。
毎年恒例の『リリアーナ』のバレンタイン商戦の話し合いの帰りだ。
とはいっても、商品ラインナップなどは疾うに打ち合わせ済みだ。近頃はバタバタしてたからアランの方が屋敷に訪問してくれてた。
だから今日もわざわざ俺が出向く必要はなかったのだが……。
俺だっていい加減お外に出たい!!
城だの学園だの職場以外に行きたい!!
というわけで気分転換を兼ねた今日の外出だ。
自分がオーナーやってる店だし、結局職場じゃねーかと言われればぐぅの音も出ないが、他にも行き先あるし。
少しでも顔を隠すため、そそくさと俯き乗りこめば滑らかに馬車が動き出す。
お忍びに向かない人種なことはきっとこの先も変わらないのだろうが、だけど心持ちはずいぶん違う。
なんせ事態の全容が見えなくてずっと緊張状態を強いられていたから。
国同士を巻き込むあれだけの騒動があって、当事者の死亡により真相解明さえも進まなかったんだ。精神が張りつめるのも無理はない。
だけどベアトリクスの協力のお陰で、その憂いもだいぶ晴れた。
国として一番恐れていたのは、他にもまだ大規模な企みが進行していること。だがそれはベアトリクスの『魅了』で洗い浚い吐いたクトゥルフの証言により否定された。
元凶でもある爺さんは老衰。
そして爺さんのかつての仲間も老齢ですでに亡くなっている。
爆破事件に関与してたクレインはクトゥルフにより毒殺。
ジャウハラの協力者の 大臣(ワズィール) をはじめ牢に囚われていた奴らはサヴィアスの術により自害。そしてそのサヴィアス自身も亡くなっている。
クトゥルフが捕まったいま、ただ使われていただけの手駒のような連中以外ほぼ死に絶えた、ってわけだ。
ちなみにクトゥルフがあの日襲撃を行った理由は単純だった。
伯爵らがクトゥルフの不審な行動に気づいたっぽい。
悪事のことを知っていたわけじゃないそうだが、他国の人間とコソコソ連絡をとったり、挙動が可笑しいクトゥルフを問い詰めたらしいのだ。
両親の屋敷に呼び出されたクトゥルフは、ワインに毒を混入し両親と兄を殺害。そして机の上に置かれていた招待状を手に代理として入城し、あの後の騒動が起きた。
叱られるのが嫌だからとその場しのぎで行動し、追いつめられて 自棄(やけ) になった。
自分は悪くない。
そう責任を誰かに転嫁して。
まるで子供の 癇癪(かんしゃく) だ。
聞き出された真相はひどく苛立ちと徒労感を覚えるものだった。
だけど残党だの残された脅威が存在しないことには一同胸を撫で下ろした。
これでひとまずは一件落着、といっていいだろうか。
「着きました」の声に思考を止めて瞼を開く。
ステップを降り賑やかな通りへ歩き出す。目当ての店のドアを開けば、カランッと小さく鐘の音が鳴った。
「いらっしゃ……」
来店を告げる声がポカンと途切れる。
だけど珍しく開かれた瞳は一瞬。
すぐさま細められた瞳と上がる口角はお得意の笑みを形作る。
「なんやアンジェスの皇子サマやないですか。相も変わらずえっらい美形ですな」
「君こそ、相変わらず素を晒すのは嫌いなようだね」
にこりと微笑んで返してやれば、レモン色の髪にカラフルなピンを何本も挿した男の口元がヒクリと引き攣る。
「ホンマにえらいやりにくいお人やなぁ」
軽く天を仰いでしみじみ呟かれた。
いや、常に 飄々(ひょうひょう) としてるお前に言われたくないんだけど……。
「で?しばらくけえへんかったけど、今日はどんなご用なん?魔王サマで皇帝サマのお気に召すもんがあるかわからんけど」
「駄目だよ。“偽物”は扱わない、それが君の流儀だろう?根拠のない憶測に踊らされるなんて君らしくない」
オレンジ色の灯りが灯る薄暗い店内を見て回りながら、視線だけ向けてそう告げればライがどんっと両手で作業台を叩いた。
「マジでごっついやりにくいわ!」
「心外だな。あと今日は普通に買い物です」
さらっと流しつつ、棚に置かれた商品を手に取った。
目についたのは鳥籠型のキャンドルホルダー。
黄金の鳥籠は繊細な造りで綺麗だし、キャンドルホルダーとしてじゃなく普通にインテリアとしても使えそう。
しかも火を灯したら影を落とした、鳥籠の細工が複雑な影絵みたいで幻想的じゃないかな?
様々な角度からそれを眺めリフにそれを掲げてみせる。
「どう思う、リフ?やっぱりベアトリクスについてきて貰えばよかったかな」
「いいんじゃないでしょうか?とても綺麗ですし」
ちなみにこれ、ジュリア嬢への贈り物だったりします。
あのコンパクトミラーのお陰で命拾いしたからね。
公爵家として正式にお礼の品を贈ろうとしたら断られたんだよね。
ただの偶然だしお礼は必要ない、あと家族に知られるのは面倒だって。
でもこっちとしては 是非(ぜひ) ともお礼がしたい。
なので仰々しいモノじゃなく、学園でコソッと渡せるようなプレゼントを探索中。
アクセサリーとか小振りで無難だけど、ジュリア嬢あんま装飾品興味なさそうってベアトリクスがいってたしなー。
占いからの連想でキャンドルとか安直っちゃ安直だけど……。
インテリアとしても普通に可愛いし、いいんじゃないだろうか。
店内をじっくり見渡し物色するもジュリア嬢っぽいモノも見つからず、キャンドルホルダーに決定。
キャンドルも2、3個選んで、次はリオたちのプレゼント。サスケ経由で菓子折りは持たせたけど、俺自身は直接会えてもなければ解毒のお礼も言えてないしね。
それから自分の気になるものなんかも手に取りつつ店内をうろつく。
商品を見て回る間も、ライがちょくちょく探りをいれてくんのが面倒臭かった。
客が商品選んでるんだから邪魔すんじゃねぇよ。
情報屋として色々気になるのはわかるけどな、全部デマだデマ。
是非とも情報を求めてきた奴らに発信してくれ!
お会計をするべく、おざなりに 躱(かわ) し続けたライの元へと歩み取る途中でそれを見つけた。
他の商品に埋もれるように乱雑に置かれたそれ。
手にした商品を一度棚に置き、そっと手を伸ばす。
開かれた小振りのケースに鎮座していたそれは眼鏡だ。
慎重に掴み上げたその眼鏡を、ひっくり返して、目の前に翳して、様々な角度からじっくりと見る。そして一つ頷くと、藍色のビロード生地の眼鏡ケースへと戻し、蓋を閉めてそれもお買い上げ品に追加。
手にした商品たちをライの前の作業台へと置くと、ものすっごい微妙な表情でまじまじと顔を見られた。
「……それ、あんさんがつけはるの?」
「いいや?」
軽く首を振ればほっと息を吐かれた。
ちなみに、テンプルを持って目の高さに掲げた時、リフとライがおもいっきり引き攣った顔してたのは知ってる。
あ、テンプルってのは眼鏡のあの細っこい耳にかけるまでの部分な。
そして今、斜め後ろにいるリフがあからさまに安堵してるのも。
まぁ、似合わないのはわかる。
レンズがでっかくて真ん丸で、フレームもやや太めの眼鏡はきっとこの顔には似合わないだろう。鏡見なくてもわかる。
けど、あそこまで引き攣った顔されるとちょっと興味あるわー。
鏡、見てみたい。
「こっちは可愛くラッピングしてくれるかい?これとこれはシンプルに。あっ、そっちのリボンがいいかな。こっちはリボンもいらない。他のはラッピングも特に必要ない」
指示を出しつつ金額を払い、お買い物終了。
「ホンマにただの買い物やったんかい」って……最初からそう言ってるじゃん。
今日の目的は情報入手でもなんでもなく、プレゼントの物色と気晴らしだってば。