作品タイトル不明
眼鏡をとったら美形ってよくあるよね
「よっ!」
片手を上げて部屋へと足を踏み入れる。
ちらりとこちらを見遣った顔は、すぐに本へと戻された。
一瞬、会釈のように小さく首が動いた気が……しなくもないけど、勘違いかも。
あれから…………。
彼の生い立ちを知り、ラピスと名前を付け、ある意味もっと衝撃だったカマルの真実を知ってからも特に彼らとの関係は変わらない。
ちょっとだけ前より心を開いてくれた気もするけど、相変わらず 本>>>越えられない壁>>>俺 の構造は変わらないし、カマルも基本は虎さんスタイルのままだ。別に不満はないけど。
ちらりと見下ろしたラピスの手元の本は残り数十ページだった。どうやら今日は小説っぽい。
クライマックスなら邪魔するのもなんだろう、と数歩方向転換して書架へと向かう。
特に目当てもないまま図鑑などのスペースから適当な一冊を取り出した。真剣に読む気はないし、パラパラ捲れるようなモンがいいだろう。
図鑑を手に二人の側に行きカーペットに直に腰を降ろした。
本を読むラピスと、ラピスの隣でうとうとしてるカマル。美しい花々や薬草、毒々しい食虫植物などのイラスト付きの図鑑を見るともなしにパラパラとめくる。
10分ほど静かな時間が図書室に流れ、やがてパタンと本を閉じる音が響いた。
倣(なら) うように図鑑を閉じ近くにあった椅子に載せると、代わりにカーペットに置いていた持参した品を手に取った。
「まずこっちは差し入れ」
小さめの紙箱を空ければふわりと甘い匂いが立ち昇った。
箱の中身は小さめのロールケーキ。
数口で食べられるサイズの小振りなもので、白にピンクに緑に茶色、無地のものから二色づかいでドット柄が描かれたものなど様々だ。
中身のクリームも淡く色づいているもの、フルーツが混ぜ込まれているものとカラフルで可愛らしい。
甘い匂いにつられてか、クンクンを鼻を動かしたカマルがパチリと目を覚ました。
「よっ!」
入室した時と同じような挨拶をすれば、肉球つきのお手てが同じ様に掲げられた。
「どれがいい?好きなのとって」
皿もフォークもないが、数種類のロールケーキは透明フィルムで覆われてるので手づかみでも問題ないだろう。
「カマル~、悪ぃけど人型になれるか?」
きょとん、と首を傾げたカマルだが、すぐに人型になってくれた。
ざっと味の説明をしながら二人に好きなケーキを選ばせ、まったりお菓子タイム。
おっ、結構うまい。
ただ……お茶が欲しいな。クリーム系だと特に。この世界にはペットボトルだの缶コーヒーだのはないし、この部屋にお湯はないから仕方ないけど。
「ごちそうさまでした」
相変わらず律儀にそう告げてから、カマルをちらりと見て「で、どうしたの?」とラピスが問いかけてきた。
まぁ、わざわざ人型になるようお願いしたしな。
気が向けば人型になることもあるカマルだが、こっちからお願いするのは珍しい。
お菓子だってフィルムを外してやれば虎のまま食べれるし。
「ん。今日はプレゼント持ってきたからな。虎のまんまだと喋れないし」
「「プレゼント?」」
ほい、と包みの一つをカマルへと渡す。
両手で受け取ったカマルは、紺色の包装紙に金色の星がいくつも描かれたその包みを目の高さへと掲げる。
コレなんだろう?という風にきょとりとする姿が子どもっぽくて笑ってしまった。
「プレゼント、っておみやげ??」
「お土産は旅行とかどっかいった記念に買ってくる感じか?プレゼントは誕生日とか記念日、お礼や謝罪、あとは特別な意味はなくても相手にあげたいなって贈り物をすることかな?」
「??」
「んー、友達記念ってことで」
軽く笑って「開けてみ」と言うと、パッと表情を輝かせたカマルは次いで真剣な表情で包みを開けだした。
包装紙を破かないようにひどく慎重な手つきで包みを剥がし、中の箱のふたを開ける。
「……?」
指でつまみ上げたソレは、連なった飾り。
真ん丸なペリドットの瞳がじっとそれを見つめている。
「カマルの服とかアクセサリーってどうなってんだ?やっぱ特別製なん?普通のアクセサリーだと、虎バージョンになったとき壊れちゃったりするのか?」
人型のカマルは、当然だが 真っ裸(まっぱ) なんてことはなく服をきている。
なんとなくアラビアンな雰囲気で、首や足首には金の輪っかが、耳にもシャラシャラと耳飾りが光ってる。一見ジャウハラの民っぽい感じだ。
問いかければ、カマルは腕を組み……首を傾げたあとで「多分へいき」と答えた。
その答えを聞き、カマルの指が掴むソレをそっと手に取る。取られたと思ったのか「あっ!」と声をあげたカマルの手首も掴み留め金を弄った。
中央には黄金に輝く丸い宝石があり、黒と紫紺の艶やかな紐にはラピスラズリとペリドットが編み込まれている。留め具の部分にシャラリと伸びる鎖には小さな三日月と星の飾り。どこかエキゾチックなデザインのブレスレットが小麦色の手首で揺れる。
「 “お揃い” 羨ましかったんだろう?」
そう言って黄金に輝く石を指し、次いで「こっちのこれがラピスラズリ。カマルの瞳と同じ色のこれはペリドット」と教えてやれば、キラキラした目で手元を凝視しながら「ラピス。ラピスラズリ、ペリドット」と何度も名前を復唱している。
「プレゼント!カマル嬉しい!ありがとうカイザーっ!!」
「どーいたしまして。それより試してみ。もし虎になるとき壊れちゃうなら、ブレスレットじゃなくて他の何かに加工しなおすし」
「うん!」
ボフンっ!と虎になったカマルの手にブレスレットはない。
どうやら変化した途端にブッチン!!は免れたようだ。
すぐさま人化したカマルはブレスレットを触ったり眺めたりしながらご機嫌だ。
気に入って貰えたようでなにより。
「ラピスはこっち」
もう一つの包みをラピスへ差し出せば、当人よりもカマルの方が興味津々で俺の背中にへばりつきながらラピスへと身を乗り出す。
カマルのよりも大きめの包みの中には藍色のビロード生地のケース。ストラップのようにカマルのブレスレットと同じデザインのものがついている。
「カマルのといっしょ!おそろい!!」
テンション爆上がりなカマルをよそに、どこか困惑したようにラピスがそっと箱を持ち上げた。
そろりとこちらを見ては手元に目線を戻す姿は、困惑と呼ぶのが相応しいだろう。
それはプレゼント?と不思議そうにしてた時の反応と同じだった。
彼もどうやらプレゼントは初体験のようだ。
カマルのように無邪気に喜ぶのではなく戸惑っている模様。
まぁ、そんな大層な品じゃないし、気軽に受け取ってほしいのだけど。
そろり、と箱が開かれた。
「…………眼鏡?」
そう、眼鏡です。
眼鏡ケースの中身は あ(・) の(・) 眼鏡でございます。ライの店でビビッときてすぐさま購入決意を固めた一品です。
そっと手を伸ばしてツルを掴み、それを自分の顔の前に 翳(かざ) した。
ぶふっっ!と思いっきり噴き出すカマルくん。
ジュリア嬢から貰ったコンパクトを開き、俺も自身の姿を確かめ………めっちゃ肩が震えた。
「カマルも!カマルも!!」
ご希望に応え、今度は眼鏡をカマルにかけた。
噴き出す俺、コンパクトを向ければカマルも大爆笑してくれた。
ひぃひぃ大爆笑しておいてなんだが、ラピスに対する嫌がらせの意志は微塵もない。
この真ん丸な眼鏡、実に素晴らしい一品なのです。
そう、正に漫画のキャラがかけているような眼鏡なのだ。
こうアレだ。偶に眼鏡がキラリン☆ってなって表情が隠れてるキャラとかいるじゃん?あんな感じ。
グルグル眼鏡でなくキラリン系眼鏡。
どの角度から見ても反射して鉄壁のガードを誇る謎の性能。
つまり、瞳が全く見えない。
カマルから外した眼鏡をラピスへとかける。
そっと長い前髪を指で払った。
「「…………」」
目の前の彼をじっと見る。
「……似合う、よな?」
「……うん」
ちらりと瞳を合わせてカマルと頷き合った。
なんというか……普通に似合う。
俺やカマルがかけた時は眼鏡が異常に浮きまくって「なんの面白キャラだよ?!」感爆発だったのだが、いる、普通にいるよこーいうキャラ。違和感ねぇ。
コンパクトをラピスの手に乗せた。
無言でコンパクトを眺めるラピス。
「別に無理につけろってことじゃないんだ。ウチの皆ならお前の瞳を見ても変な扱いなんてすることねぇだろうし」
いずれ 公爵邸(ウチ) に移り住むラピスとカマル。
事情を知ったいま、卒業後といわずすぐにでも来るか?と誘ったがそれには首を振られた。
このタイミングだと目立つでしょ?っていう言い分はともかく、登校面倒臭いって言い分には「いや、お前授業でてねぇじゃん!」って突っ込まずにはいれなかったが。保健室登校的な扱いらしい。
「そもそも綺麗な瞳なんだし、隠すこともねぇと思うんだけどな。でもお前が色々面倒で見られたくないならソレあると便利だろ」
それに、と長い前髪を一筋摘んだ。
「人と会う時以外でも、こんな前髪で視界塞いでたら見にくいだろ。視力だって悪くなんぞ。大好きな本が読めなくなったらそれこそ大変じゃん」
「……本」
ポツリと反応があった。
この本好きめ。
「それなら視界も悪くないし、第一鉄壁のガード率。見てみ、角度変えても完全見えねぇから」
コンパクトの位置を何度か変えて鏡を確かめた後、ラピスは眼鏡のツルへと手を掛けた。だけどそれは外されることなく、位置を調整するように動いて止まる。
「……ありがとう」
ポツリと零された声に、「どういたしまして」と笑って答えた。