軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

音を立てて崩れ去るイメージ

「ラピス!ラピス!!」

嬉しそうに満面の笑みで名前を呼ぶのは……小麦色の肌に白銀の髪をした大きな瞳の可愛らしい少年だった。

突如として出現した少年に「どちらさん?」と聞きたい。

聞きたい……が、その一方で確信にも近いモノがあった。

だって、好奇心旺盛なペリドットの瞳にめっちゃ見覚えがあるんですよね。あと……さっきまでそこにいた筈の虎さんの姿がない。

「あー……カマル、くん?」

「なぁにー?」

「いや!なぁにー?じゃねぇわっっ!!」

疑問のままに問いかければ、めっちゃ普通に返された。

思わず突っ込む!

「えっ?待って!どーいうことっ??」

「??」

大混乱の俺にカマルはきゅるんと首を傾げるだけ。

自然、視線はこの場にいるもう一人へと向かった。

「カマルは魔族だし」

「魔族っ?!カマルがっ?!」

コクリと頷いたラピスはさらに衝撃発言を投下した。

「しかも魔王」

「魔王ッッ??!」

ねぇ待って!!

色々理解が追い付かないんですけど!

衝撃に瞳をかっぴらく俺を 他所(よそ) に、ラピスはいつもの 如(ごと) く淡々としてるし、魔王ことカマルくんはなにやら腰に手をあてて「えっへん!」してるんすけど。

「ちょっと待って、一旦落ち着こう」

「落ち着いてないの貴方だけだけど」

「正論だけど、原因お前らだからな?」

息を吸って、吐いて、深呼吸。

気持ちと頭を落ち着けてから改めて目の前の二人を見る。

ラピスを指さし、

「アンジェスの血を引く皇子?」

「血はそうだけど、皇子じゃないし」

不満気な反論はこの際、斬り捨てる。

次いでカマルを指さし、

「魔族。……で、魔王?」

「そうっ!」

手を挙げての元気なお返事をいただいた。

無邪気で素直なその反応は、どこか俺の知ってるもう一人の魔王を思い起こさせた。真紅の髪の可愛い子ちゃんね。

「俺の中の魔王像がガラガラと崩れ去ってくんだけど……」

「イメージなんてそんなモンだよ」

「いや、それにしたって……」

恐怖の塊どころか、このピュアピュアっ子たちが魔王。

魔王?!

「欠片も黒くねぇじゃん!!」

「だからそれは黒竜の勝手なイメージだってば」

衝撃から立ち直るまでには少しの時間を要した。

その間もカマルはラピスにじゃれつきながら「ラピス」「ラピス!」と何度も名前を呼んでは「覚えた!ラピスのなまえ!」とご機嫌だ。

「そもそもカマルはなんであそこに居たんだ?」

「んー?ふらっと」

「ある日、急に紛れ込んできた」

「はっ?!捕まったとか飼育されてたとかじゃなく?そもそも紛れ込んでってなんだよ。仲間割れの争いが起こった最中にってことか?」

「ううん。それより何年か前に、ふらっと現れてずっと居たよ」

「ふらっと……って。大騒ぎになるだろ、普通」

カマルは大人しいとはいえ、あんな大型の猛獣が現れたらパニックだ。

そう思ったんだが手を挙げたカマルが突然叫んだ。

「にゃんこ!!」

叫びと共に現れたのは小さな仔猫だった。

虎柄ではなく、真っ白な毛並みの仔猫は「にゃ~」と鳴いた。ピンクの小っちゃな肉球と、キラキラおめめがあざといまでに可愛らしい。

「うお!可愛い!」

思わず衝動のままに抱き上げた。

片手でも抱えられそうな程の小さな仔猫はウルトラキュート。

持ち上げて愛でていると、ぐんっと突然重みが増した。脇の下を支えられた状態でカマルくんが猫ちゃんから人型に戻ったからだ。

中々の衝撃だった。

主(おも) に腕と腰に。

「ねぇ止めて。腰痛めるから、急に変化するのはお願いだから止めて」

わりと真顔でお願いした。

本当にやめて欲しい。

この年でぎっくり腰とかゴメンだから。

腰は男の命なんだぞ!

「なぁ、 魔王(カマル) があの場所に現れたのって……前言ってた役目とか本能とかそういう?」

本人でなくどちらかというとラピスに問いかけたのは、単純にそっちの方が話が通じそうだったからだ。

「多分ね。カマルは興味なさそうだったけど…………あの仲間割れがなければ人や魔族も巻き込んだ争いが勃発してた恐れはあるし」

「お前は気付いてたのか?カマルのこと」

「ううん。最初は迷い猫だと思ってた。いつの間にか側に居て、言葉がわかってそうだなとは思ってたけど。魔族だって知ったのはあの日だよ。襲って来た相手を変化したカマルが 屠(ほふ) った時」

「ふぅん。なぁ、カマル。最初はやっぱ人にバレないよう擬態してたのか?」

質問に「擬態?」とこてんと首を傾げ、うーんと考えた後で返された答えは……。

「楽!」だった。

「人化してるより獣の姿の方が楽みたいよ。ちなみに、 虎(いつもの姿) が一番楽みたい。さすがに目立つから最初は猫の姿だったし、学園内散歩する時もそうだけど」

「出歩いてるのかよ?!」

「あと、僕が外の出来事を色々知ってたのはカマルの魔術」

「……マジか」

衝撃の事実の連続にどっと疲れが襲ってきた。

なら、あれか?

学園祭の日にジストが感じた魔力ってのも、ひょっとしたらアレクサンドラのじゃなくてカマルのだったりするんだろうか?どっちでもいいけど。

ずいっと身を乗り出してきたカマルがじっと俺の瞳を見て、むぅっと唇を尖らせた。

なにやら突然にご機嫌斜めだ。

「どした?」

「ずるーい」

いやなにが?とラピスを見るも、今回は彼もわからないようだ。

「カイザーの目、ラピスといっしょ!おそろい!!」

「カマルもいっしょがいい!」とか言われても……どうすりゃいいのよ?

子どもみたいに不満気なカマルの髪を宥めるように撫でる。触り慣れた毛並みとはまた違う手触りだがさらさらだ。

「瞳は違うけど……カマルもある意味、お揃いっちゃお揃いだぞ?」

「どーいう意味?」

「名前。“カマル”ていうのは“月”って意味なんだ。俺らの瞳は“満月”みたいって評されるし、ある意味お揃いだろ?」

「お月様!!」

「わーい!ラピスとカイザーとおそろい!」と無邪気にはしゃぐ目の前の存在が“魔王”とか、本当に現実が受け入れられないんですけど……。

「……っと!ヤベェ!」

ふと、時計を目にして慌てる。

もうそろそろタイムリミットだ。

なんだかんだで話し込んで、もうすぐ午後一の授業が終了間際だった。チャイムが鳴ってからだと生徒たちに囲まれる恐れが高まるから早く戻んねぇと。

「そろそろ時間だから行くわ。また来る」

立ち上がってパンパンっと尻を叩く。

「またな。ラピス、カマル」

うん、やっぱり名前を呼べるってのはいいな!

そんなことを思いながら図書室を後にして足早に廊下を歩いた。

パタン、と音を立てて閉まるドアを見つめる。

呼ばれた名前と、当然のように放たれた次を示す言葉。

「変な人」

思わずそう、呟いた。

衝撃的な事実を幾つも知ったというのに、驚きこそすれいつもと変わらない。

「ラピス?」

「どうしたの?」と覗きこんでくるカマルに「なんでもない」とそう返す。

図書室(ここ) での穏やかな生活も終わりだと思ってた。

だけど現実は……少しも変わらなかった。

好き勝手に語られる噂に 辟易(へきえき) して困ってる癖に、真実を 公(おおやけ) にするつもりもない。

兄だった人(あの人) と同じ 黄金の瞳を持つ人。

僕と同じ 満月のような瞳をした人。

いつかの問い掛けを思い出す。

『あの子が敵になったらどうするの?』

我ながら意地の悪い問い掛けをした僕に対し、迷うことなくあの人は答えた。

『殺すよ』と。

簡潔で、とても似合わない答えを。

カイザー(あの人は) ……己の血筋に 拘(こだわ) り、現実を見ようともせずにただ皇子であることに固執し、自身が皇帝だと盲信していた 兄だった人(あの人) とは違う。

現実を受け入れ、足掻く覚悟と強さを持った人。

他者を思い遣り、顧みることが出来るからこそ慕われている人。

「 カイザー(あの人) が皇子だったらよかったのにね」

「それ、カイザーたぶん嫌がると思う」

「確かに」

ポツリと漏れた本音は、カマルのキョトンとした呟きに 容易(たやす) く打ち破られた。

「勘弁してくれ」そう顔を歪める カイザー(あの人) の姿が浮かんで、小さく笑みが漏れる。

疲れたのか人化を解いたカマルが隣に寄り添いくわりと欠伸を浮かべた。丸まった背をさらりと撫でながら、 静寂(せいじゃく) を取り戻したその場所でいつものように膝の上の本を開いた。