作品タイトル不明
雑談は目を逸らしてばっかだった
いつもならお昼寝はご飯を食べたあとなのに、お昼寝を前倒しして待っててくれたらしいマオも一緒に遅めのお昼ご飯を食べてまったり。
量……てんこ盛りだったからね。
お腹いっぱいで動きたくなーい。
若干(じゃっかん) ぽっこりなお腹を撫でつつ食休みをしていると、アイリーンたちが訪ねてきた。
「いつも通りに戻ったみたいね」
「……申し訳ない」
チラチラと気遣わし気な視線が飛び交う空間の中、腕を組んで呟いたアイリーンに神妙に詫びた。
騎士団長たちにも「気にしないでください」とへらりと笑い、不思議そうに見上げてくるマオの頭を「なんでもないよ?」とナデナデと撫でる。
「ま、いいわ。それで?改めてなにがあったの?」
先程の俺の変容を気にしてるだろうに、ざっくりと流してくれる男前な姐さんらしい対応に感謝しつつ、昨日の出来事を共有する。
大まかな流れは事情聴取の時に済んでるが、あの場で出来なかった話もあるし。
「襲撃は偶然ではないだろうな。「あの娘を連れてこい」という発言からも、狙いは恐らくリリー。誰かしらの依頼を受けてのことだろう」
「俺たちが昨日、あの村を訪れることを知っていた人物……だな」
口元に手をやり、険しい顔で告げるアレクサンドラにガーネストも頷く。
「……と、なると。怪しい人が居たわよねぇ」
「まるで事情を引き出すのを拒むように、処罰を急いでいましたからね」
だよね。
もはやゲームの粗筋を知らないアイリーンや騎士団長、あの場にいた誰でも「コイツ、怪しい!」って確信するぐらいわっかりやすかったしね。
その後も、 件(くだん) の 大臣(ワズィール) の悪評やら、その他の要注意人物やらを教わったり、病の現状、国同士の交渉の進捗など細々したことを話し合う。リリー嬢が出国前にライから仕入れてきた噂話なんかも大活躍だ。
「くれぐれも皆様、お気をつけを」
表情を引き締めた騎士団長のお言葉で真剣な話は一区切りつき、そのまま雑談モードに突入。
お茶が淹れ直され、用意されていた茶菓子にちらほらと手が伸びる中、俺はまだお腹いっぱいです。お膝の上のマオが欲しそうだったのであーん。
マオもご飯沢山食べてた筈なんだけど……食べ盛りか。
「でもまさか、全員やっつけちゃうとは思いませんでした。十数人はいたのに」
それな。
どこか乾いた笑いのリリー嬢の発言には完全同意だ。
「マオちゃんがそんなにお強いなんて」
それな。
頬に手を当て困惑を含んだカトリーナ嬢の発言にも完全同意。
そう、それだよ!!
「私も 吃驚(びっくり) なんだけど?マオがあんなに強いなんて聞いてないよ」
「えっ?そうなの?」って視線を浴びたけど心外です。
将来の為にも魔術の特訓はさせてたけど、あんな強いとか知らない。リフを見れば、「私も……あれほどとは……」と知らんかったっぽい。
「カイザー様たちが学園に行かれてる間に、ハンゾーさんたちに訓練をつけて頂いてましたから」
事情を知ってたっぽいエリーゼを見れば、しれっと答えられた。
マオもうんうん頷いてる。
「「健全な精神は、健全な肉体に宿る」とも言いますし。己を制御するのにも鍛錬は有効だと考えられたんでしょう。マオちゃんも優秀なのでメキメキ教えをモノにしてます」
「マオゆうしゅー!」
「それにしたって……」
「まぁ、彼らも手加減はしてるんでしょうけど……。基準がズレてるのはあるかと。ハンゾーさんたち、ストイックですし」
そっと目を逸らすエリーゼに色々悟った。
そうだったっ!!
影の皆は人外疑うぐらいのハイスペック集団だし、ハンゾーはストイックな鬼教官だった……!!
リフもリアンも目ぇ逸らさないでよ。気持ちはわかるけど……。
「そ、それにしても……あの洞窟はなんなんだろうな?仕掛けは見当たらないのに、自動で開閉するなど魔術かなにかか?」
あ、ガーネストが話題逸らした。
うん。可能性に気付かなかった俺らにも責任あるかもだしね。
当のマオたんが、ソラみたいにひーひー言ってなくて楽しんでるのが唯一の救いか。よし、違う話題行こう!
「どうだろうな?だが、術者らしき者は居なかったのだろう?」
「盗賊たちが逃げ込んだ自動開閉の洞窟!!やっぱり、呪文で開いたりしたんですかっ?!」
「「「「………」」」」
「エリーゼが手でぐぐぐっって」
興味津々、キラキラした瞳で訪ねてくるリリー嬢の『開け、胡麻―!!って言ってみたかったかも!』という心の声には同意しつつ黙った。
そしてガーネストたちも黙った。
だがそんな沈黙など気にしないマオの発言に、ギョッと一同の視線がエリーゼへと向いた。
エリーゼはパッと見、華奢で美人な至って普通のメイドだ。そんな彼女が大岩を素手でこじ開けたなど、とてもじゃないが想像が出来ないのだろう。
驚愕の視線を受けた当の本人はというと……にこりと実に優雅に礼をした。
「ルクセンブルク公爵家の使用人たるもの、これぐらい当然です」
視線が俺たちに飛び火した。
待って、そんな “当然” 知らないんですけどっ!!?
「と、当主はガーネストだし」
「兄上っ?!」
ごめんよ、しがないモブなお兄ちゃんにはここで「当然だ」って 鷹揚(おうよう) に受け入れられるだけの甲斐性はないんだ。
我が家の使用人たちのハイスペックぶりには俺も時々ひいてるしね。
弟よ、凡人な不甲斐無い兄を許しておくれ。
ザアァァァと絶え間ない水音が響く。
肌を打つ温かな雫と水音に紛れ、小さく溜息を零した。
シャワーに打たれながら、浴室の壁に両手をつく。仰向いていた顔を俯ければ、長い黒髪が水気を帯び張り付くのが煩わしい。
失敗した。
声に出さずにそう呟く。
思い出すのは昼間の記憶。
自分でも 何故(なぜ) あんなにも苛立っていたのか、何故あんな言葉を吐き出してしまったのかわからない。
最近見続けた夢の影響はあるだろう。
睡眠不足と夢見の 残滓(ざんし) は当然の 如(ごと) くリフにも気付かれており、それとなく気を払われていた。
だけど、今朝は珍しく夢も見ずに睡眠も足りていた筈なのに。
泡を含んだ湯がぐるぐると渦巻いて流れていく様を見ながら、居たたまれなさに身じろぎする。
めっちゃ気を遣われてるのが申し訳ないし、恥ずかしい。
いい歳してなにやってんだ!!
俺がみんなに心配かけてどーすんだ?
反省、のポーズで湯に打たれること数十秒、よし!と気持ちを切り替えた。
湯を止めても、立ち込めた熱気に白い蒸気が浴室を覆う。
長い髪から盛大に滴る水気をギュっと絞れば、視界に入った腕や脚にうっすらと色を残す傷痕。そこだけじゃなく、肩や腹、背中にもきっと幾つもあるだろうそれは……幼少時の無茶の名残だ。普段はほとんど目立たない傷痕だが、熱を帯びたりするとうっすらと浮かぶ。
鍛錬を止められると困るから、怪我隠したりもしてたしな…。
公爵家の地位と財力を活かした優秀な治療のお蔭で完治はしたが、時間が経った傷痕は『治癒』の『異能』を持っても完全に消せないことがある。
傷痕が見つかった時は大目玉食らったし、リフが来てからは軽い怪我でも即座にバレて治療された。ある程度強くなってからは、そもそも怪我自体そんなすることなくなったし。だから身体に残るのは全部幼少時の傷痕だ。
あの頃の自分は……食い破られそうな恐れに打ち勝とうとしていたのかもしれない。
それとも痛みや恐れを麻痺させようとしていたのだろうか……。
当時に比べれば、精神的にも肉体的にも成長したし、手にした力と立ち位置、それに信頼出来る相手が増えたことで随分と安定した。
……と、思ってたのに…………まだまだ、俺も青いな。
声を出さずに呟いて、タオルで身体を拭う。まっふまふだ。素晴らしい感触と吸水力。
さらりとした絹の夜着を羽織り、首元にタオルを引っ掛けた。タオルで髪を拭きつつ扉を開けると、部屋には人が居た。
「一緒に寝る!!」
枕を両手で抱きしめつつ力強く宣言したのはマオ。
そしてその後ろで姿勢を正して佇みながらも俺を凝視するエリーゼ。せめて瞬きはして?
「だーめ。一人で寝れるだろう?」
「リフが良いって言ったもん!!」
ほっぺを膨らますマオに「え?」と振り向けば、流れるように着席させられタオルがリフの手に。頭の位置をスイっと直され、タオルが挟み込むように髪の水分を吸収してく。
「マオは昨日、頑張りましたからね」
「マオ、頑張ったー!」
つまりはご褒美??
まぁ、リフのお許し出てるならいっかと「じゃあ、一緒に寝る?」と問いかければ、膝によじよじしたマオが「寝るー!」と両手を上げてはしゃぐ。
ちょ、あんま暴れないで。
ジャウハラの一般的な夜着って、浴衣とかバスローブみたいな腰で結ぶだけのだから、暴れられると乱れちゃう。
そして無言で凝視してくるエリーゼが怖い。
そもそもエリーゼはマオを連れて来ただけでしょ?もう帰っていいよ??凝視やめて?
「ベッドはメイキングしてありますので」
香りのいい香油を髪に塗りこまれながらリフにそう告げられるが……まだ九時前なんですけど?
お子様なマオはともかく俺はちょっと早い……と思ったけども、そんな心を読んだように苦笑いしながら「マオは今日はお昼寝が早めでしたから」と言われればしゃーない。本でもベッドに持ってって時間潰すか。
ひっつき虫となったマオに阻まれ、本は結局読めなかった……。